鶴田法男監督の作品に多く出演する女優でイベントでは質問コーナーのアシスタント役をつとめた嶋﨑亜美さん、高橋洋さん、鶴田法男監督、伴大介さん(左より)
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国産ホラーの歴史に残る三部作の完結編『リング0 ~バースデイ~』の神保町シアターでの上映にあたり、2月2日に鶴田法男監督、脚本の高橋洋さん、出演者の伴大介さんが出演してのトークイベントが開催されました。
2000年に公開された『リング0 ~バースデイ~』は、中田秀夫監督がメガホンをとった『リング』(1998年)『リング2』(1999年)では恐怖の存在として登場した“貞子”の過去を仲間由紀恵さんを主演に描いてヒットを記録した作品。今回は、神保町シアターの特集上映「こわいはおもしろい ホラー!サスペンス!ミステリー! 恐怖と幻想のトラウマ劇場」のラインナップの1作品として上映されました。
この日のトークイベントは、1月に特集上映で上映された『リング』1作目を鑑賞しに鶴田法男監督が神保町シアターを訪れたのがきっかけとなり実現したもので、急遽決定し告知期間が短かったにもかかわらず満席の盛況となりました。
トークは上映後におこなわれ、鶴田監督、高橋洋さん、伴大介さんも客席で作品を鑑賞した上でトークはスタート。
スクリーンでの鑑賞は「何年ぶりに観たのかぼくも思い出せない」という高橋さんは、映画の舞台が1960年代のため1999年の撮影にもかかわらず「昔の邦画を観ているみたいな気になる」と話し「なんか変な感覚ですよね」「これが19年という歳月なんだなと思いましたね」と、現代から見るとふたつの過去が映しだされている作品について感想を。
“貞子の父親”伊熊平八郎博士を演じた伴さんは「伊熊ってほんとに悪いやつだなあって。今日よく観て、こいつが一番悪いんだってよーくわかりました(笑)。伊熊がいなきゃすごくいいラブストーリーだったのにと思って、反省しております(笑)」と話して場内の笑いを誘いました。
鶴田監督は、高橋さんによる脚本が「いろいろな側面でとらえることができるので」撮影の際には悩んだとコメント。具体的な例として映画の終盤での伊熊博士と貞子のシーンを挙げ「娘(=貞子)のことがかわいい、愛しているように見せかけて、違うわけじゃないですか。ひとつの芝居の中に次の(行動の)ことを考えていかなくてはいけない脚本なんですよ、高橋さんの脚本って。だからすごい難しい」と振り返りました。
また、伴さんは「これは悲劇なんですかね? どのジャンルに入るんだろう」と『リング0』のストーリーについて問いかけ、高橋さんは「ぼくの感覚では昔は悲劇というものがありましたけど、それが廃れてしまって、それを代わりにやっているのがホラーだとよく思うんですよね」と回答。伴さんはその答えを受けて「ホラーというジャンル自体が悲劇だよね。悲劇性があるんだよね。そこにつながるんでしょうね、やっぱり」。
鶴田監督は「久々にこうやって観ると、我ながらいい映画だなって(笑)」と冗談めかしながら作品への自信を見せる一方で、貞子の悲恋に主眼をおいた内容は『リング』シリーズ3作目として恐怖を期待する観客にはギャップがあったのではと話し、公開当時は「怖くない」という感想が多いことに気落ちしていたことを告白。その監督の告白に伴さんは「監督ってやっぱり優しいんだよね。性格がそのまま映画に出てくるんだっていつも思うんだけど、これが俺が鶴田監督の好きなところというか、やっぱり人間性が出てくるというか、やるたびにいつも思うんだけど、だから観るとホッとするのよね。俺は救われるんだけど、やっていてね」と、鶴田監督作品常連としての視点で語りました。
トーク中の高橋洋さん、鶴田法男監督、伴大介さん(左より)
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トークイベントでは、この日のために鶴田監督が持参した『リング0』の絵コンテや海外向けフライヤーなど、監督秘蔵の『リング0』の「懐かしグッズ」(鶴田監督談)や、伴さんが初めて鶴田監督の作品に出演したオリジナルビデオ作品「ほんとにあった怖い話 第二夜」(1992年)のフライヤーなど関連する品々も紹介されました。
現在もテレビで継続中のシリーズのルーツとなるオリジナルビデオ版「ほんとにあった怖い話」は、同名の実話投稿コミックをオムニバス形式で映像化した鶴田監督の監督デビュー作。シリーズ第2作となる「~第二夜」の一編「霊のうごめく家」で、曰くつきの家に越してきた一家の父親を演じた伴さんは、同作での演技について「伴大介いい芝居してるなと思いましたね。自分を褒めてますよ。それくらいね、自分では自信ありますよ。ぜひ機会があったら観てください」と自信を見せました。
また「霊のうごめく家」は“Jホラーの原点”と呼ばれるビデオ版「ほんとにあった怖い話」の中でも特に言及されることの多い作品で、鶴田監督が持参した品々の中には1992年にアテネ・フランセ文化センターで同作が上映された際の告知物なども。
篠崎誠監督の企画により開催されたそのイベントでは「霊のうごめく家」のほか、鶴田監督が“Jホラーの起源”と呼ぶビデオ作品「邪眼霊」(1988年/石井てるよし監督)も上映されており、当時イベントに出演していた高橋さんは「このときにぼくや黒沢清さんがゲストで出ていて、ぼくたちはみんな『邪眼霊』や『霊のうごめく家』は観ていてというか研究しつくしていて、なんか“絶対にこの作品とこれを作った人たちをリスペクトする場を作らなくちゃダメだよね”みたいな話から、篠崎さんが仕切ってやってくれたんですよね」と当時を回想し「『霊のうごめく家』と、もう1本『夏の体育館』(同じく「ほんとにあった怖い話 第二夜」の一編)は赤いドレスを着た女がゆっくりゆっくり迫ってくるというやつで、いまだに黒沢さんはこれに取り憑かれていますよね。いまだに赤いドレスの女の幽霊しかやらないっていう。やっぱりそれは目に焼き付いちゃったんでしょう」と、いかに鶴田監督の作品が後年のホラー作品、ホラー作家に大きな影響を与えているかを紹介しました。
そして、伴さんが『リング』シリーズ三部作にキャスティングされるきっかけでもあり、現在はDVD廃盤のため鑑賞が困難となっている(※)「霊のうごめく家」が、来場した方々へのサプライズなプレゼントとして上映されました。
秘蔵の「懐かしグッズ」を見せる鶴田法男監督と、高橋洋さん、伴大介さん
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イベント後半には質問コーナーも設けられ、仲間由紀恵さんが『リング0』の貞子役で主演に抜擢されたいきさつが質問されると、鶴田監督はバラエティ番組「DAISUKI!」のアイキャッチ映像を見てから仲間さんに注目しており貞子のキャスティングにあたり鶴田監督からプロデューサー陣に提案したという経緯を明かし、まだ知名度の高くなかった仲間さんの起用に「この子はスターになるのか」と尋ねる角川歴彦角川書店社長(当時)に小川真司プロデューサーが「なります」と言い切ったという逸話が披露されました。
伴さんからは、鶴田監督が仲間さんを現場で泣くほど怒ったことがあるという撮影中の様子が紹介され、伴さんは「(仲間さんが泣いて)地顔をさらけ出したから、この子は大丈夫だなっていうふうに感じたんだね。そんなことをちょっと思い出しました」と当時を懐かしみ、鶴田監督は昨年の仲間さんご出産の際にお祝いを送ったところ数枚に及ぶ直筆の御礼の手紙が届いたという、仲間さんの人柄を感じさせる最近のエピソードも付け加えました。
約1時間にわたり繰り広げられたトークは、劇中に出てくる貞子の履歴書の生年月日の日付を「『リング』の1作目のアメリカのリメイクがちょうど決まったころだったので、たしかアメリカへの嫌がらせで」決めたという高橋さんの告白と、伴さんの「今日はほんとに楽しかったです」というあいさつで締めくくられました。
東京・神保町シアターで開催中の特集上映「こわいがおもしろい」での『リング0 ~バースデイ~』の上映は、2月2日(土)より8日(金)までの1週間(※上映時間は日によって異なります。公式サイトなどでご確認ください)。この1週間はほかに『一寸法師』(1955年/内川清一郎監督)『怪談累が淵』(1960年/安田公義監督)『八つ墓村』(1977年/野村芳太郎監督)の3作品も上映されています。
続く2月9日(土)より15日(金)までは、『女の中にいる他人』(1966年/成瀬巳喜男監督)『怪談蛇女』(1968年/中川信夫監督)『回路』(2001年/黒沢清監督)『黄泉がえり』(2003年/塩田明彦監督)の4作品が上映され、2月11日(月)には『黄泉がえり』塩田明彦監督が来場しトークイベントをおこないます。
※「ほんとにあった怖い話」シリーズは、ネット動画配信サービス「ビデオマーケット」で現在鑑賞することができます。