舞台あいさつをおこなった片山慎三監督、和田光沙(わだ・みさ)さん、松浦祐也さん(左より)
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社会の陰の部分を描いた内容ながら昨年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で二冠を獲得し話題となった『岬の兄妹』が3月1日に初日を迎え、イオンシネマ板橋で主演の松浦祐也さんと和田光沙さん、片山慎三監督が舞台あいさつをおこないました。
『岬の兄妹』は、脚の不自由な兄と自閉症の妹の兄妹が生活の困窮のため妹の売春で金を稼ぐようになっていく姿を通して、地方都市の暗部や家族の本質を描いた作品。ポン・ジュノ監督や山下敦弘監督などの作品で助監督をつとめてきた片山慎三監督の初長編監督作で、2018年7月に開催されたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018の国内コンペディションで長編部門の優秀作品賞と観客賞をダブル受賞しています。
片山監督は自ら製作費を捻出し数ヶ月おきに数日ずつ撮影するというスタイルで1年間かけて『岬の兄妹』を撮影しており、初日を迎えての心境を「これは全部自分の自費で、死に物狂いで1年間かけて撮影した映画です。今日、こういう初日を迎えられて、ほんとに幸せです」と語りました。
兄・道原良夫役の松浦祐也さんは脚本段階から作品に関わっており「カメラマンの池田(直矢)さんと片山監督に新宿のサムギョプサル屋さんに呼び出されまして、3人でなんとなく飯を食って“じゃ、よろしく”みたいな感じで、ザックリしたままやることになったというのが実情でして」と出演が決まった経緯を冗談めかしてコメント。
妹・道原真理子を演じた和田光沙さんは共演経験のある松浦さんからの連絡でオーディションを受けたそうで「プロット(あらすじ)を読んで、エッジの効いた尖ったことをやるなと思ったんですけど、(兄役が)松浦さんという安心感もありましたし、やりたいなという気持ちが一番大きかったですね」と当時の作品への印象を語り、障碍を持つ役について「最初に、何本か参考資料にDVDを観たり本を読んだりっていうことをして、撮影期間は1年間あったので、けっこう徐々にいろいろ自分でやりながら掴んでいくという感じでしたね」と振り返りました。
片山監督は、松浦さんについては「山下(敦弘監督)組からずっと一緒に何本かやらせていただいていて、お芝居が上手なのもわかっていましたし、同い年でわりと話しやすかったので、松浦さんでやろうとカメラマンと話をして、松浦さんに声をかけました」と、和田さんについては「明るい人ですし、こういう役をやっても明るさというか、あっけらかんとしたところがにじみ出るなと思いまして、ちょっと笑えるシーンとかも和田さんだったら作れるんじゃないかなということで和田さんに決めました」と、それぞれ起用した理由を説明。
そして片山監督がふたりを「息がすごいあっているので、ほんとに兄弟に見えるなっていう。普段のふたりを見ていても兄弟っぽいところってやっぱりあるので」と評すると、和田さんも「たしかに、ほんとに松浦さんはお兄さんみたいな感じ(笑)。それはお芝居の中ですごい重要だなと思って、なにをやってもたぶん返してくれるだろうという安心感はものすごくって」と、撮影中の印象を語りました。
片山監督は、かつて助監督をつとめたポン・ジュノ監督からの影響について、『岬の兄妹』で真理子と関係する男性がワンカットの中で変わっていくカットがあることを挙げ、そのカットがポン・ジュノ監督作品『TOKYO!』(2008年/オムニバスの一編「シェイキング東京」)の宅配ピザが出てくるカットの「フレーム外で人を入れ替えてとかっていうようなことをやっていて、それを応用したような感じ」だと明かしたほか「最後、水がジョボジョボと出てたりとか、ちょっとホラーっぽいシーンが入っていたりするんですけど、あそこは意識的にホラーの要素みたいなものを取り入れようとして、ひとつの映画の中にいろいろなジャンルのシーンとかカットが入るというのはポン監督から学びましたね」と、具体的な例を挙げて話しました。
また『岬の兄妹』は、若い世代に強く支持されているシンガーソングライターのあいみょんさんや、人気バンド・クリープハイプでボーカルとギターを担当する尾崎世界観さんがSNSで作品を高く評価するコメントをしており、片山監督は「おふたりともお会いしたことがないので、なんの利害もなく単純に映画を観て“いい”と思ってくれて、そういうコメントをくれたということが励みになりますし、嬉しかったですね」と、和田さんは「自分たちがこの作品を撮っているときは、実際を言うとほんとにできあがるのかというのもわからないくらいの感じだったんですよ、1年間かけて撮ってたんで。これが埼玉県のSKIPシティ映画祭でかけていただいてからいろんな方の支援があって全国公開というところまで来て、どうなっちゃってるんだろう? って信じられない感じなんですけど、そうやって著名な、若い方々から支持のある方にも観ていただいてコメントをいただけるというのは、ほんとに嬉しいと思います」とそれぞれ感想を。
さらに片山監督は『岬の兄妹』がSKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ開設15周年を記念した「“最速・最短”全国劇場公開プロジェクト」選出作品として全国公開を迎えたことについて「撮影しているときはどこまで反響があるかというのは予測しないでやっていたものですから、すごく嬉しいですね、単純に。やっぱり、ひとりでも多くの方に見ていただきたい内容でもあるし、ちょっといまの日本映画にはないような要素がたくさん入っているので、こういう映画もちゃんとお客さんが入るんだなというのを、ちゃんと示せればいいかなというふうに思いますね」と、喜びとともに日本映画界にポジティブな影響を与えることへの期待を述べました。
舞台あいさつでは、劇中で真理子が好物のチョコパイを食べ過ぎて肌荒れするという場面があるのにちなんで「チョコパイ投げ」がおこなわれました。和田さんの見事な投チョコに松浦さんは「和田さんすごい肩がいいよ。西武ライオンズからこれドラフトかかるんじゃないの?」
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舞台あいさつは、3人それぞれのコメントで締めくくられました。
「もう公開が始まったらたぶん映画というのは観ていただいたお客さんのものになって、ぼくら俳優部だったり監督というのはあまり関与できないものになっていくと思います。観ていただいた方に育てていただくような映画になっていると思うので、ぜひ、(映画が)よかったら知り合いとか友達とかに言ってもらったり、悪かったらそれはちょっと内緒にしていただいたり(笑)、うまいことなんか生きていきたいと思います(笑)」(松浦祐也さん)
「松浦さん“内緒にして”って言ってましたけど、どんなご意見も作ったからには覚悟の上でやってまいりましたので、ぜひどんなご意見でもいただけたら嬉しいです。SNSとか周りの方に評判を伝えていたけたら嬉しいです。どうぞよろしくお願いします」(和田光沙さん)
「この映画のラストは、このあとふたりがどうなっていくのかとかというはっきりしたことは描かれてはいないんですけど、たぶんみなさんがそれぞれ思い思いに心の中に“こういうふうになるんじゃないか”というふうに思っていらっしゃることが答えだと思っています。もちろん自分としては“こういうことだよ”という明確な答えは提示したつもりですが、それよりもみなさんが思ったことのほうが大事だなというふうに思っていますので、観たみなさんと一緒にお話されたりとか、そういう、観たあとも話題になるようなことになればいいなと思っています。どうも今日はありがとうございました」(片山慎三監督)
松浦祐也さん、和田光沙さんのほか、北山雅康さんや、特別出演の風祭ゆきさんらが共演し、インディーズ映画でしかできないであろう表現で兄妹ふたりが生きる姿を鮮烈に描き出す『岬の兄妹』は、3月1日(金)よりイオンシネマ板橋、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9ほか、全国順次ロードショーされます。