舞台あいさつをおこなった監督とキャスト。後列左より、日向寺太郎(ひゅうがじ・たろう)監督、吉岡秀隆さん、常盤貴子さん、藤本哉汰(ふじもと・かなた)さん、鈴木梨央(すずき・りお)さん、浅川蓮さん。前列左より古川凛さん、田中千空(たなか・ちひろ)さん
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子どもの貧困など現在の日本社会のひずみを子どもの視点から描いた『こどもしょくどう』が3月23日に岩波ホールで初日を迎え、ダブル主演の藤本哉汰さんと鈴木梨央さん、共演の常盤貴子さん、吉岡秀隆さん、メガホンをとった日向寺太郎監督らが舞台あいさつをおこないました。
『こどもしょくどう』は、無料や安価で子どもに食事を提供し、貧困対策としてだけでなく新たな地域のコミュニティとして全国に広まっている“こども食堂”を題材とした作品。食堂を営む両親を持つ小学5年生の少年・高野ユウトと、親と車で寝泊まりしている少女・木下ミチルを主人公に、貧困、イジメ、育児放棄など、子どもを取り巻くさまざまな問題が、ユウトとミチルの周囲の人々とのドラマの中で描かれていきます。
ユウトを演じた藤本哉汰さん、ミチルを演じた鈴木梨央さんは、子役としてすでに多くのドラマや映画に出演していますが、映画の主演をつとめるのはふたりとも初めて。
藤本さんは「初主演なので緊張がありました、最初は。本番で何回も間違ったりしないかなとか思って、そのためにいろいろとそのシーンを練習したりをしていました」と、初主演の感想をコメント。
また、鈴木さんが「クランクインした当初はちょっとつらかったりしました。現場が……」と笑顔で話すと、藤本さんが「若干ピリピリ」と言葉を補い、藤本さんは「ベテランさんのカメラマンさんとかメイクさんとかいて、けっこう引っ張ってくれたので」と続け、緊張感のある現場でもベテランスタッフの優しい指導が助けになったと振り返りました。
そして、演技を細かく指示して作りこむのではなく俳優から出てくるものを重視するという日向寺太郎監督の演出について、藤本さんは「テストがあまりなくて、すぐに本番というのが多かったです。なのでけっこう自然な感じで演じることができました」と、鈴木さんも「自分が思うがままに、自然と自分が出た感情で演じてほしいというアドバイスをいただきました」と印象を語りました。
日向寺太郎監督は「ちょうど企画がスタートしたのは2015年だったんですよ。そのときはまだ(こども食堂が)いまほど知られていなくて、マスコミが報道しはじめたというくらいのときだったんですけど」と話し、映画が完成し公開を迎えたのが当時より“こども食堂”が認知されている現在となったことへの想いを覗かせました。
ユウトの友人でイジメに遭っている大山タカシ役の浅川蓮さんは「とても勉強になりました。スタッフさんもキャストさんもすごい人たちで、ぼくからしたら目指せないくらい高い人なので、とても勉強になったし」と、作品に参加して得たものをコメント。
ミチルの妹・ヒカル役の古川凛さんは「監督が優しく教えてくれるので、しかもたくさん褒めてくれるのでとても嬉しいです」、ユウトの妹・ミサ役の田中千空さんは「監督はていねいに優しくお芝居を教えてくれたり、共演者のみなさんは優しく注意してくれたり話したりしてくれて、嬉しかったです」と、それぞれ撮影の感想を述べました。
ユウト兄妹の父・作郎を演じた吉岡秀隆さんは、司会者から言葉は少ないが佇まいで語る父親だったと言われると「年取ったんだなと思いますね、佇まいだけでっていうのなら。ぼくは彼らくらいのときは毎日泣いてばっかりいるような子どもでしたからね」と答えて場内の笑いを誘いつつ、主演をつとめた藤本さんと鈴木さんについて「ほんとにしっかりしていて、なんてすごいんだろうって。ぼくが中学のころはこうだったなあって、毎日反省の日々です。素晴らしいですよね、彼らは。できあがった映画を観ても、彼らが見つめる無言の目線の先には大人たちが作ったこういう時代があるとするのならば、やっぱり子どもは親だけが育てるんではなくて、大人全員で育てていかなければというのが、つくづく彼らの見つめる目線の先にあったので、ユウトくんにしても、梨央ちゃんにしても、素晴らしいなと思って毎日過ごしていました」と絶賛。
また吉岡さんは食堂を営むという役だけに調理シーンも多く「ほんとにぼく料理が好きなので」ロケで借りた食堂の方と一緒に実際に料理を作ったり「カメラマンの鈴木(達夫)さんがリクエストで“ちょっと煙(湯気)がほしい”とかってときはお味噌汁作ったり」していたそうで「楽しかったですよ」と、調理シーンも楽しんだ様子でした。
ユウト兄妹の母・佳子役の常盤貴子さんは、長崎の被爆の歴史について学んでいたころに『こどもしょくどう』にも参加しているヘアメイクの小堺ななさんを通じて日向寺監督の作品『爆心 長崎の空』(2013年)を知り、日向寺監督に直接連絡をとって上映日程を尋ね京都での最後の上映に駆けつけた経験があるとのことで「その日向寺監督がまた新たな映画を撮られるということで、それはぜひ参加させていただきたいという想いが」あったと明かし、今回の“こども食堂”という題材について「いまの現代社会が抱えている大きな問題のひとつをいま捉えてくださるというのはすごく意味のあることだなと思ったので、いまみなさんに観ていただくタイミングでもあると思うし、いまやるべき映画だなと思って参加させていただきました」と作品への想いを語りました。
また、映画に出演して感じたことについて、常盤さんは自身が小学4年から高校1年まで暮らした関西の「とりあえず人の心の中にまで踏み込むという精神」を思い出したと語り「それはもしかしたら迷惑かもしれないんですけど、踏み込んでみてから引くということもひとつの人間関係としてありだなと思うんですね。今回の映画は、傍観しているより静観しているより、まずは入っていってみるのもいいんじゃない? というメッセージもあると思うので、そのことをすごく思い出しました」とコメント。
同じ質問に吉岡さんは「たぶんみなさんと一緒だと思いますけど、もう平成の世も終わろうとしているときにこういう映画ができあがるというのは、やっぱり意味があることだとも思うし、次の時代は少しでも子どもたちの笑顔がもっとあふれているような時代になれば、大人たちにも心の余裕がもう少し生まれて、子どもたちやおじいちゃんおばあちゃんたちもそうですけど、弱者と言われているような人たちにもっともっと目を向けていけるようになるんではないのかなと。とにかくこの映画と同じように、次に来る時代は少しでもいい時代になればいいなと、祈るような気持ちではいます」と心境を語りました。
舞台あいさつは、藤本さん、鈴木さん、日向寺監督のメッセージで締めくくられました。
「この映画はとても考えさせられる映画だと思うので、そういうことがあっても見て見ぬふりをせず、勇気を持って関わっていってほしいなと思います。それ以外にも、相手も自分もそのような変化を持って、いろいろな人たちに投げかける映画なので、ぜひこの映画を観て、いろいろな人に広まっていったら嬉しいなと思います」(藤本哉汰さん)
「みなさんがこの映画を観たあとに、なにか家族でも考えたりとか話し合ったりとか、かわいそうというだけで終わるのではなくて、自分がなにか考えて行動に移してくれたら嬉しいなと思います。あとは“こども食堂”というふうに検索すると“こども食堂ネットワーク”というサイトがあって、そこでどこの食堂でなにが必要なのかというのもわかるので、みなさんが子どもたちのために、なにか少しでも力になっていただけたらほんとに嬉しいです」(鈴木梨央さん)
「私は先ほど(冒頭のあいさつで)映画館が好きだという話をしたんですけども、それはなぜかなと言いますと、知らない人同士が集まって泣いたり笑ったり感情を共有することができる場だと思うんですね。ちょっと考えてみましたら、それはこども食堂という場もそうなんだなと。いま私はなんでも強引にこども食堂に結びつけるところがあるんですけど(笑)、そういうふうに思いまして、こども食堂も知らない人同士が、子どもたちも大人も含めて集まって食事をともにするという、人間が共感する力を持っているということだなと思っているんです。この新しくゆるやかな共同体ができたことが、とても素晴らしいことなんじゃないかと思っておりまして、この映画を観てくださった方が、またこども食堂を含めて、想いを共有していただくことが嬉しく思います」(日向寺太郎監督)
数々の映画賞に輝いた『百円の恋』の脚本などを手がける足立紳さんが脚本を担当し、現在の“こども食堂”の活動を描くのではなく、どのように“こども食堂”の活動が始まっていくのかを描いていく『こどもしょくどう』は、舞台あいさつ登壇者のほか降谷建志さん、石田ひかりさんらが出演。歌人の俵万智さんが古川凛さんと田中千空さんが歌う主題歌の作詞を担当しているのも話題です。3月23日(土)より岩波ホールほか全国順次公開されます。