舞台あいさつをおこなった根岸憲一撮影監督、大橋彰さん、井浦新さん、車谷浩司さん、横尾初喜(よこお・はつき)監督(左より)
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井浦新さんとアキラ100%こと大橋彰さんが兄弟を演じる『こはく』が7月6日に初日を迎え、シネマート新宿で井浦さんと大橋さん、主題歌・音楽を担当した車谷浩司さん、根岸憲一撮影監督、横尾初喜監督が舞台あいさつをおこないました。
『こはく』は、横尾初喜監督が自らの半生をベースに原案も手がけた半自伝的作品。長崎を舞台に、幼いころに別れた父のことをほとんど覚えていない亮太が、兄の章一とともに父を探す中で見出すものが描かれていきます。
父のことをほとんど覚えていないという亮太の設定は横尾初喜監督自身をもとにしたもので、横尾監督は「自分が父のことを覚えていないながら、この撮影の旅をさせてもらって、ほんとに彰さん、新さん、根岸さんと一緒に、自分も父親を捜していく旅ができたのかなというのは、作り終えて1年経って、いますごく実感しています」と、映画作りを“旅”にたとえて初日を迎えた心境を語りました。
横尾監督の分身ともいえる亮太を演じた井浦新さんは、兄を演じた大橋彰さんとは同い年で「育ってきた環境の中で見てきたもの、感じたものとか時代とかって、なんか同い年って妙な信頼感というのが」あったとコメント。
また、井浦さん自身は長男で弟や妹への羨ましさを感じたこともあったため「今回は役を通して、自分が叶えられなかった弟だからこその甘え方とか、長男、兄貴へのつっかかり方とか、監督の脚本・演出のもとで、自分がやりたかったことというのを、けっこう彰さんにぶつけていくということをさせてもらいました」と役について話し、大橋さんとは細かく打ち合わせるのではなく「無言の間合いでお互い楽しめるような、そんな関係性がワンシーンワンシーンやっていきながら自然に作れていったんじゃないかなと思います」と振り返りました。
“アキラ100%”としてお笑いで活躍し、映画で大きな役を演じるのは初となる兄・章一役の大橋彰さんは「台本をもらってセリフを覚えていたときよりも、やっぱり現場に行ってみなさんといろんなお話していく中で、ちょっとずつ役が肉付けされていったというか、そういう感じはすごくありますね」と話すとともに「監督と新さんの人柄だと思うんですけど、現場がものすごくいい雰囲気で」と現場の様子を紹介し、その雰囲気の中で「ぼくなんかはほんとに自分のことだけ考えていたというか、集中させてもらっていたなという感じはありますね」と感想を述べ、現場の雰囲気を作る横尾監督と井浦さんの存在の大きさを感じさせました。
大橋さんのその発言を受けて井浦さんは「彰さんはギュっと自分の世界に入っていって、それが一気にパンって弾けるように表現される。芝居もそうですし、そういうやり方というのが絶対にこの章一には活きてくるというふうには思っていました」と大橋さんの役へのアプローチを評し、さらに「横尾監督がほんとに底が見えないくらい愛情深くて優しくてあたたかい方で、それが横尾組の色となっていて、そこで芝居する俳優部もそうですし、技術チームもみんな、監督の組の中にみんなが染まっていってこの作品を作っていく、それが一体感になるはずなんですよね。監督がそういう方だから、ぼくはそれにただただ染まっていただけで、いまからみなさんが観ていただく映画の世界観や味わうであろうものは、ほんとにすべて横尾監督そのものというか、そこからにじみ出ているものだと思います」と、横尾監督の存在こそが大きいと強調しました。
俳優陣が参加する前から作品に携わり、横尾監督曰く「ずっと隣にいて、たくさん話をして」いたという撮影監督の根岸憲一さんは、横尾監督とロケハンで長崎県の各地を回っている段階で、横尾監督が自身の家族や過去について「言いたくないこと」を抱えているのを感じていたと明かし「撮影監督としてはそこまで入っちゃいけないんだけど、これはもう中に入りたいなと思って、みんなと一緒にひとつのものを作っていくには自分がまず入っていかなきゃいけないなと思って、でもあるとき限界を感じて、これ以上は行っちゃいけないなと思ったら新さんが来てくれて、それで助かって、そしたらなんとなくチームワークができてきて、彰さんが来たときにはもうお兄ちゃんにしか見えなくて、あっという間に“家族”になったなって思いましたね」と、作品のキーワードである“家族”という言葉を使いながら、撮影監督としては異例ともいえる作品への関わり方を語りました。
井浦さんも、横尾監督が決意を持って自身の半生を綴った作品だからこそ「全開で監督やってもらわないと、ぼくらも中途半端なことはしたくない」という想いがあった中で「根岸さんが、いまおっしゃったように監督のまだ開けない扉を開けている」のを感じ、井浦さんも根岸さんとともに「普通は監督が役者を追い込むんですけど、ほんとぼくも初めての経験なんですけど、ぼくたちが監督を追い込んで」いったと語り、それによって当初の脚本に書かれた以上のことが「どんどん現場で生まれていったりしていましたもんね」と話しました。
主題歌・音楽を担当した車谷浩司さんは、ソロプロジェクト・Laika Came Backとして担当した主題歌「こはく」は、もともと久しぶりに帰省した際に「普段はそんなことを絶対に言わない」車谷さんのお父さんから「父さんに曲を書いてくれないか?」と言われて作った曲で、その数日後に横尾監督から主題歌の依頼があり「映画は父と子の話であるということもあって、これはなにか絶対に意味のあることなんだろうなと思って、喜んでOKさせてもらいつつ、この曲を主題歌に」したという、不思議な偶然が重なった主題歌制作の裏側を紹介。
劇伴音楽については「普段作っている音楽と世界観が近い作品だったものですから、クライマックスのシーンでは自分もスクリーンに飛び込んで一緒に演じているような気分で」リズムも一定に揃えるのではなく「演者さんたちの気持ちに寄り添いながら、速くなったり、ゆっくりになったり、即興で」ギターを弾いて録音したと制作過程を説明し、そのクライマックスシーンは「息が止まるような感じでした」と感想を述べました。
そして根岸さんが「ロケハン中に監督がずうっと車谷さんの音楽を流しているんですよ。1日中ずっと音楽流れているから、どんどん音楽が身体の中に入ってきて、(その場には)いないのに、車谷さんは“家族”になっていましたね」と話すと、車谷さんは「嬉しいですね」と笑顔で答えました。
トーク中の根岸憲一撮影監督、大橋彰さん、井浦新さん、車谷浩司さん、横尾初喜監督(左より)
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車谷さんも『息が止まるような感じ」だったというクライマックスのシーンは、演じる俳優陣やスタッフにとっても特別なものだったようで、大橋さんは毎日そのシーンのイメージトレーニングを重ね、当日は「パンパンのバケツを水をこぼさないようにゆっくり現場に持っていったみたいな感じでしたね。あまり喋ったりなんかするとその水がなくなっちゃう気がしたので、誰とも喋らないようにして」臨んだったと話しました。
横尾監督は、そのシーンは「普段は段取りをやってテストをやって本番なんですけど、全部やめて、1回で」撮影したと明かし、根岸さんもドキュメンタリーのようにワンカットで撮っているとコメント。
井浦さんは、そのシーンに向けてずっと積み重ねてきた上でのクライマックスシーンは「どんなことがあっても根岸さんは絶対に撮り続けてくれるだろうな」「どうなってもそれを監督は受け止めてくれるだろうなという安心感」があったと話し、また撮影の数時間前からスタッフやキャストとは離れて集中していた大橋さんが「爆発」したことがクライマックスシーンを生んだと、大橋さんの演技を賞賛しました。
大橋さんが「こんないい役で映画に出させていただくっていうことがもうほんとにあるかないかのことなので、運がよかったっていう言い方をするとアレかもしれないんですけど、ほんとによかったなと思います」と笑うと、井浦さんは今後も大橋さんの俳優としての活躍が「見たいですよ、ほんとに」とエールを送り「みなさん、裸のほう(=お笑い芸人・アキラ100%としての姿)しかイメージがないかもしれないですけど、すごいですからね、ほんとに。(俳優としての大橋さんを)味わってください」と客席にも呼びかけました。
最後に横尾監督は「こんなにほんとにたくさんの方が来てくださって、ほんとに今日はありがとうございます。ぼくはこの作品で、テーマとしては優しさ、人の優しさ、家族の優しさというものをテーマにチームのみなさんで“家族”とともに旅をしたんですけども、優しさの多様性というものをすごく学ばせていただきました、自分も。優しさの中には弱い優しさもあり、強さを持つ優しさもあって、それが一体となって家族というものがいろんなかたちを作っているんだなということを、自分も学ばせていただきました。なにかこの映画で家族の大切さだったり、そういったところを感じていただければすごく嬉しいです。そしてこれを全国に、そして世界にこれから届けていけるように自分もがんばりますので、これからも応援よろしくお願いします。今日はありがとうございました」と舞台あいさつを締めくくりました。
舞台あいさつ登壇者のほか、横尾初喜監督の妻である遠藤久美子さんや、嶋田久作さん、鶴田真由さん、石倉三郎さん、鶴見辰吾さん、木内みどりさんらが共演する『こはく』は、横尾監督の故郷であり映画のロケ地・舞台となっている長崎では6月21日(金)より先行上映中。7月6日(土)よりユーロスペース、シネマート新宿ほか全国順次ロードショーされています。