舞台あいさつをおこなったスタッフとキャスト。前列左より、半田美樹さん、青木柚(あおき・ゆず)さん、藤田晃輔さん。後列左より、櫻井保幸さん、三坂知絵子さん、下村花さん、柗下仁美(まつした・ひとみ)さん、壷井濯(つぼい・たく)監督
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新鋭・壷井濯監督が主演の青木柚さんら若手キャストを迎えて東日本大震災をモチーフに描く『サクリファイス』が3月6日にアップリンク吉祥寺で初日を迎え、青木さん、半田美樹さんら出演者と壷井監督が舞台あいさつをおこないました。
日本映画学校と立教大学現代心理学部映像身体学科で学んだ壷井濯監督の初長編となる『サクリファイス』は、快活な面の陰に別の顔を持つ沖田、平凡な日常を嫌う塔子、少女時代に新興宗教団体で震災を予知した翠という同じ大学に通う3人の学生を中心に、女子学生の死や大学周辺で起きる猫殺害事件、カルト団体の暗躍などを通して、震災後の世界を生きる若者たちの姿を描いた作品。立教大学映像身体学科のスカラシップ作品として制作され、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019国内コンペティション長編部門優秀作品賞受賞や第32回東京国際映画祭への出品を経て劇場公開を迎えました。
初日はチケット完売となる満席でのスタートとなり、壷井濯監督は「こういう状況の中でぼくらも宣伝で“来てください”とか“待ってます”となかなか言えない中で、それでもこの作品はここにありますということだけ言っていて、今日、来てくださったみなさまにほんとに感謝の気持ちでいっぱいです」とあいさつし、舞台あいさつに参加したキャストや参加を断念せざるを得なかったキャストにも感謝を示しました。
また壷井監督は『サクリファイス』が立教大学の授業の「東日本大震災をテーマに脚本を書いてくる」という課題からスタートしたことを説明した上で「この日を迎えて思うことは、なんでこの作品を作ったかと聞かれるたびに“ゼミの課題だったから”と言ってきたんですけど、ほんとは自分の中にずっとあって、課題というのはどこか言い訳のように言ってしまっていたところがあって、ずっと作りたかったんだなと思っています」と公開を迎えて改めて感じる作品への想いを述べ、3月7日という公開日は3月11日に近い日を「宣伝に利用しているような気持ちもあって迷ったりもしたんですけど」選んだことを明かしました。
主人公の大学生・沖田を演じた青木柚さんは約2年前におこなわれた撮影の現場について「キャストだけではなくスタッフさん、監督さんとも距離感が絶妙に近すぎず遠すぎずみたいな感じ」だったと話し、役柄に合わせて距離を取っていたのではなく「自然と距離感がそういうふうになっていったのが、この作品にもよい影響を与えていたんじゃないかなといま振り返って思います」と感想を。
塔子を演じた半田美樹さんは「撮影のときとかは自分とすごく向き合うというか、役を通して自分という人と闘うみたいな、そういう気持ちで挑んでいたので」と当時の心境を語り「私はこの作品は映画館で観るのがすごく大事な映画だなと思っていて」「こうやってたくさんの人に観てもらえて、観ることによって完成するような作品だと思うので、嬉しいなと思います」と話しました。
キャストは「たぶん、みんななにか正解かもわからない中で画面の中で生きている姿があって、作品自体の価値とかそれ自体にあるものというのは、どんな状況でも変わらないものだと思いますし、それをこうやって観に来てくれた方がいてほんとに嬉しく思っています」(正哉役・藤田晃輔さん)、「純粋にぼくはいい作品だと思っていますので、楽しんでいただいて、上映後にいろいろな人と話をしたりして、こんな状況の中でも観に来てよかったなと思われたらいいなと思っています」(狭山役・櫻井保幸さん)、「この作品は約2年前に撮影したんですけども、そのときはどこで上映されるかも上映できるかもわからない状況でした。私は制作スタッフとしてもこの映画を参加させていただいていたんですけども、こうやって多くの方に観ていただける日が来るのは思っていませんでした。そしていま、あまり外に出るなと言われてるそんな時期なのに、こうやって多くの方が観に来てくださったことをほんとに嬉しく思っています」(神埼ソラ役・今村花さん)、「劇場で公開するというのは本当になかなか大変な中、監督はじめスタッフみなさん、今日この日を目指してがんばってきた中で、初日を選んできてくださったことがほんとにありがたいなと思っています」(葉子役・三坂知絵子さん)と、それぞれ作品への想いや観客のみなさんへの感謝をコメント。
女優として活躍しつつ、映像制作ユニット・Récolte&Co.で壷井監督とともに映像制作をおこない『サクリファイス』では出演のほか撮影と副プロデューサーをつとめている柗下仁美さんは「監督の壷井濯さんと私は長い間ふたりで映像作品を作り続けてきました。そういう中で素敵なキャストさんに出会って、いつか自分たちの映画に出てもらいたい、そしてみんなに観てもらいたいという夢が、今日こうしてひとつ叶ったこと、そしてその先でみなさんにお会いできたことがほんと嬉しく思っています。これからご覧いただく『サクリファイス』の中にはたくさんの若者が登場して、それぞれが生きていると起こるたくさんの理不尽な出来事を前にそれでも生きようとする姿を、ぜひみなさん観てください」と公開を迎えての心境を述べました。
最後に壷井監督は「国っていうものがあるじゃないですか。それってひとつの“大きな物語”だなと思っていて、でもその“大きな物語”というのはなにかと言うと、いまのところ一部の力のある人とかそういう人たちのためだけにある“大きいけど借り物の物語”だなと思っていて、そういうものが誰かの心に寄り添ったり声なき声を聞いたりすることはないということは、もうこの9年間で痛いほどわかったし、もっと言うと9年前に人の命だったり土地だったりいろいろなものを犠牲にして痛いほどわかっていたはずなのに、何度も同じような間違いを繰り返していっている」と世の中の現状に触れ「その対極にある、もっとも小さなところから、もっとも小さな手で、この方たちと一緒にこの“もっとも小さな物語”をほんとに手作りで作ってここまで来たということをぼくは誇りに思っていますし、みなさんにも感謝していますし、その“小さな物語”をこうして観に来てくれる方々がいることが希望だとぼくは思っています。ほんとにありがとうございました」と舞台あいさつを締めくくりました。
舞台あいさつ登壇者のほか、翠役の五味未知子さんや、草野康太さん、三浦貴大さんが出演する『サクリファイス』は3月6日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。アップリンク吉祥寺では上映2日目にも舞台あいさつがおこなわれるほか、上映期間中にイベントが予定されています。