舞台あいさつをおこなった大塚信一監督、川瀬陽太さん、しじみさん、湯舟すぴかさん、長屋和彰さん(左より)
※画像をクリックすると大きく表示します
横須賀の街を舞台にした不思議な物語『横須賀綺譚』が7月11日に新宿K's cinemaで初日を迎え、出演者のしじみさん、川瀬陽太さん、湯舟すぴかさん、長屋和彰さんと、大塚信一監督が舞台あいさつをおこないました。
『横須賀綺譚』は、震災で亡くなったはずの元・恋人と横須賀で再会した青年・春樹が主人公。元・恋人の知華子や周囲の人々が震災の記憶を持っていないことに戸惑いつつ知華子たちと過ごす春樹がやがて知る事実が描かれていきます。
当初は5月に公開予定でしたが新型コロナウイルス感染症拡大による延期を経て公開を迎えました。
約5年をかけて初監督作となる『横須賀綺譚』を完成させた大塚信一監督は、故郷である長崎を舞台に主人公だけが原爆の記憶を持っているという設定の、フィリップ・K・ディックの小説をもとにしたSF短編を作ろうとしたのがスタートだったと企画の経緯を説明。「いま『地図にない町』はどこかと言えば福島かなと思い、福島(に設定を変更)。長崎の原爆だと遠い過去なので突き放してフィクションにできたんですけど、福島は近しい過去なんで、SFなのか社会派なのかリアリティドラマなのか、すごくフワフワとした映画になったと思います。それをどう受け止められるかというのは、いま楽しみに待っているところです」と、作品が完成し公開を迎えた心境を語りました。
ヒロインの知華子を演じたしじみさんは、本編ではカットされ予告編だけで見られる「幽霊みたい」という知華子のセリフに触れ「私は普段、幽霊役とかすごく多くて、なのでそういう自分の雰囲気とか“幽霊感”を活かしてもらえたかなと思ってます」と約についてコメント。
この作品以前から大塚監督と面識があり、知華子が働く施設の経営者・川島を演じた川瀬陽太さんは、役を「書き割り(背景画)みたいにならないように」という想いから「セリフとかも“こう言わせてほしい”とか、普段より踏み込んだかたちで大塚くんに要求して、衝突みたいなこともありました。だけど最終的にはいい感じになったのかな?(笑)」と撮影を振り返りました。
主人公・戸田春樹役の小林竜樹(こばやし・りゅうじゅ)さんは舞台あいさつは欠席となりましたが事前にメッセージを寄せ「大塚監督よりこの映画の企画書をいただいたときに、企画テーマに“人は過去の辛い出来事を忘れたい、でも忘れられない。でも、忘れられないと生きていけない。だから、記憶を改ざんする。昨今のフェイクニュースなどは、人間の本質に根ざしたものではないか”と書いてありました。ぼくは当時、日常における物事や事件の風化の早さについて、なぜ人は、痛みや辛さを次々と忘れていけるのか、そんなことでよいのか、と強烈な違和感を感じながら、生きていた時期で、そのテーマを読んだときに、ぜひ挑戦してみたい! と思い、大塚監督にお会いしたことをはっきりと覚えています。記憶を改ざんしてでも、忘れなくては生きていけないこと、決して忘れてはいけないこと。『横須賀綺譚』が我々誰もが持っているそれらを、改めて考えるきっかけとなれていたら、幸いです」(※抜粋)というメッセージが大塚監督により代読されました。
舞台あいさつの最後には、登壇者がひとりずつメッセージを述べました。
「本日はありがとうございました。こういうご時世でありますが、どうにかこの映画をもっとたくさんの人に観ていただきたいので、どうかみなさんの力をお貸しください。言葉で伝えていってもいいし、SNSでもいいので、ひとりでも多くの方に観ていただけるようによろしくお願いします」(長屋和彰さん)
「(劇場に)かかるのが当初の5月からこの7月に延期になって、本日を迎えたわけですが、たぶんこの映画はいま観ると、こうなる前に観るのとちょっと違ったのかなと。なので(公開が)いまであってもよかったのかなと初日を迎えて思いました。監督が長年あたためていた作品で、いろいろご感想あるかと思うのですが、初日を観てくださったみなさんが率直なご感想をSNSでもなんでもいいので、語っていただけたら嬉しいです」(湯舟すぴかさん)
「私はこの映画を自分の中で噛み砕ききれていないというか、だからみなさんが観てどういうふうに感じたとか思ったというのをすごく知りたいので、感想などつぶやいたりしてもらえたら嬉しいです。何回も観てもらえたら嬉しいです。今日はありがとうございました」(しじみさん)
「いま湯舟さんから出た話ですが、震災もそうだったんですけど、ぼくらはもうかつてとは変わってしまった世界に生きていると、ぼくは大げさではなく思っています。そういう意味では、(この映画のテーマは現在にも)通底したテーマだなといまも思っています。なので、いまも有効な映画だなと思っています。もしなにか心に引っかかることがあったら、SNSなりなんなりで書いていただけるとありがたいです」(川瀬陽太さん)
「この映画というのは、たぶんひとりで観てひとりで反芻して終わるような映画ではなくて、観たあとにいろいろみなさんで話したほうが面白い映画かなと思っています。ぼくはここ10年くらいこの国がちょっとおかしな国になっているなと思ってまして、なんでこんなことになったんだろうと思ったら、記憶の問題というのが重要であると思ったんですね。みんな忘れるのが早過ぎる。いま皮肉なことに“SNSに(感想を)書いて”ってぼくも言おうとしていますけど、ほんとはそういうの(=忘れること)を促進してきたのはSNSで、記憶とかを次々に忘却していって新しい話題がやってきて、うしろのほうにあったのはすべて幻のように消えていってしまって。だからぼくは慰霊じゃないですけど“幽霊を大事にしましょう”みたいな気持ちで幽霊とか記憶とか、いろいろ考えながら撮った映画なので、ぼくもみなさんの気持ちが知りたいのでSNSに書いてください。今日はありがとうございました」(大塚信一監督)
大塚監督は現在もラーメン店で働きながら映画制作をおこなっており、川瀬さんは「純然たる自主映画なんですよ。そういう意味でもぼくは個人的に好感を持っているんです」とエールを贈って舞台あいさつを締めくくりました。
『横須賀綺譚』は、小林竜樹さんや舞台あいさつ登壇者のほか、ベテランの長内美那子さんや烏丸せつこさんらが出演。新宿K's cinemaで7月11日(土)より3週間上映され、公開期間中には劇場でゲストを迎えたイベントも開催されます。
また実は『横須賀綺譚』の現在のラストシーンは撮影が一旦終了後に監督がスタッフを説得して再撮影して変更したもので、幻となった“もうひとつのラストシーン”が劇場で販売されているパンフレットを購入すると視聴可能。
さらに『横濱綺譚』には『カメラを止めるな!』監督の上田慎一郎さんが監督補として参加しており、大塚監督とはともに映画監督・脚本家・小説家の榎本憲男さんの脚本指導を受けた仲間であり大塚監督曰く「(現場で)唯一ぼくに優しかった(笑)」という上田さんがエキストラとして出演している2シーンを当てるという企画も実施されています。