舞台あいさつをおこなった森田和樹監督、笠松将さん、祷(いのり)キララさん(左より)
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高校生ふたりの血まみれの逃避行を描いた『ファンファーレが鳴り響く』が10月17日に新宿K's cinemaで初日を迎え、主演の笠松将さんとヒロインを演じた祷キララさん、森田和樹監督が舞台あいさつをおこないました。
初長編『されど青春の端くれ』でゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019のグランプリとシネガーアワード(批評家賞)の2冠を獲得した森田和樹監督の商業映画デビュー作となる『ファンファーレが鳴り響く』は、クラスでイジメに遭っている吃音症の男子高校生・神戸明彦と、明彦と同じクラスで「血を見る」ことに興味を持つ女子生徒・七尾光莉(ななお・ひかり)が、あるきっかけから行動をともにする姿を描いた“スプラッター青春群像激”。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2020オープニング作品としてのプレミア上映を経て公開を迎えました。
森田監督は4年前に大きな病気を患っており、就職活動で病気を理由に断られるという経験から、自分が「社会的な弱者のほうになったなという気持ちがあって」、映画を作るにあたって「題材として、その自分の気持ちを吃音症の方に重ねて作りました」と、監督自身が抱えていたものが作品に込められていると話しました。
鬱屈した設定のキャラクターに「(この役は)ぼくじゃないほうがいいんじゃないか」という気持ちもあったという明彦役の笠松将さんは、病気のため毎日多量の薬を服用しながら撮影に臨んでいる森田監督の作品への想いを知る中で、笠松さんにとっては出演作の1本であっても監督にとっては大切な1本であることを実感し「原点回帰できたような気もして」と振り返り「ぼくはけっこうどんな監督でも“こっちのほうが絶対に面白い”って自分の意見を通しちゃうんですけど、今回は監督の意見を聞きながらやったような印象ですね」と、ほかの作品とは違った取り組み方をしたとコメント。
森田監督は笠松さんのコメントを受けて「(笠松さんは)自分の意見というか立ち位置というのを見ながら周りの人と合わせてやっていて、祷さんもそうなんですけど、1回やってくれたことに関しては、こっちがなにか言うことってあんまりないんですよね。ふたりだからできた映画ですね」と、笠松さん、祷キララさんに賛辞を送りました。
ヒロインの光莉を演じた祷キララさんは、予告編やポスターのイメージでは「激しい快楽殺人みたいな狂気をスプラッタで描いた映画というふうに受け取る方もきっとたくさんいらっしゃるんだろうとな思うし、それも悪いことではないと思うんですけど」と話した上で「この映画では、かたちとか見た目じゃなくて、たとえば犯罪を犯したのであればその裏にある気持ちだったりとか、ふたり(※明彦と光莉)が選んでいく選択とか道筋の内側にあるものを監督は映像に映したいのかなっていふうに思ったし、私は映像にそういうものが残るような作品になればいいと思っていて、そういう部分を自分では考えていました」と、特異な設定の役を演じての想いを。また、撮影ではあまりテストやテイクを重ねなかったそうで、祷さんは「監督が“その場で生まれたものが見たい”と思って、あえて本番に委ねようとしてくださっているような印象を私は受けました」と、森田監督の演出の印象を述べました。
森田監督は「さっき話したぼくの気持ち的な部分も含んで脚本を書いているので、ものすごく現場で一生懸命だったし、あのときのおふたりと一緒にやれたことが幸せだったので、ありがたいですね」と祷さん、笠松さんと仕事をしての感想を語りました。
最後に笠松さんは「この映画は正直、全然粗いんですよ。完璧じゃないし、総合芸術かというとまったくそうではないんだけど、でも監督の想いがすごく詰まっていて、ぼくらは台本でそれを字にされたものを読んで、演じて、(舞台あいさつの)最初にぼくが話したようなことが起きて、自分がやって来た仕事とか価値観もちょっと変わるというか。いまは粗探しする時代じゃないですか。でもぼくはそれをしだしたら粗なんて誰でもあると思っていて、この作品では宝探しをしたほうが面白いっていうか。“ここは(粗いな)”っていうところもあります。ただ“ここはいいな!”ってところもあるし、っていう感じで、ぼくが“やってよかったな”って思った作品なので、みなさんとそれを共有できたら嬉しいし、共有できてもできなくても、観に来てくれたことが嬉しいから、SNSで感想とか呟いてくれたら、自分もそれを見て一喜一憂、喜んだりもしますし、反省もしますし、今後のみんなの参考にもなると思うので、よかったらそういうお力もお借りできればと思います」と、作品に出演して得たものの大きさを感じさせるメッセージを。
森田監督も「ぼくが言うより笠松くんが(メッセージを)言ったほうが説得力があるし(笑)」と笑いつつ「ほんと(ご覧になった方の)意見とかすごく大事なんで、あのときの撮影を思い出すと、つらかったし、でも楽しい瞬間もあったし、いろいろなことが詰まった映画なので、どんな意見でも言っていただけたらありがたいですね」と、舞台あいさつを締めくくりました。
笠松さん、祷さんのほか、川瀬陽太さん、黒沢あすかさん、大西信満さん、日高七海さん、上西雄大さん、木下ほうかさんら、近年の日本映画界を支える俳優陣が共演し、笠松さんが「時代を読んでいる感じがして、メチャクチャ高度なことをやっている」と評する感覚を表現した『ファンファーレが鳴り響く』は、10月17日(土)より新宿K's cinemaほか全国順次ロードショーされます。