監督作の国内外での受賞が相次ぐ松本動(まつもと・ゆるぐ)監督が、12人の俳優とともに「いま、このときにしかできない映画創り」に挑む新作長編『2020年 東京。12人の役者たち』が始動しました。
新型コロナウイルス感染症の拡大とそれに伴う緊急事態宣言の発令により、映画館の休業や新作公開の延期、さらに新作制作の休止など映画界にもさまざまな影響が及ぶ状況下で、スタッフ・キャストがオンラインサービスを利用して離れたままで制作する映画の企画が複数立ち上がったり、ミニシアター支援のための活動が話題になるなど、映画に関わる新たなムーブメントも生まれています。
松本動監督は、俳優向けワークショップ・CiNEASTの参加者とのコラボレーションによる長編映画を準備中でしたが2020年春に予定されていた撮影は状況を鑑み中止に。プロジェクト自体が中止も検討される中、松本監督とCiNEASTは「いまだからこそ伝えるべきテーマを、いまだからこそできる方法で」描くべく、当初の予定を変更してオンライン制作による映画制作を決定しました。
制作される『2020年 東京。12人の役者たち』は、自粛を余儀なくされた中でも表現することを止めない映画作家や俳優たちの、焦燥や葛藤、魂の叫びを記録したドキュメンタリーテイストの作品で、出演する俳優が与えられたテーマに沿ってスマートフォンで自ら撮影をおこない、その映像を松本監督が編集するスタイルで進行し、2020年7月中旬の完成が予定されています。
【本企画の趣旨と所信表明】
本企画は、演技ワークショップから派生したものであり、当初は別のテーマで製作する予定でしたが、世界中を襲う新型コロナウイルス の影響を受け、⻑期化が予想されるこの難局を逆手に取り、今この時にしか出来ない作品創りへとシフトチェンジし、混乱する情勢の中で、12人の役者はどう生きるのかを、役者全員が出演者としてだけでなく、撮影者にもなって様々な世界を切り取り、自撮りや独白という表現方法も用いながら構成し、各々のリアルな生活をベースに、人生観、役者論、未来への展望などなど、内に秘めたあらゆる思考や感情を浮き彫りにする作品創りへの移行を、決断しました。
今の自分の環境や境遇は、人生の岐路に於いて、どう自分自身と向き合ったのかによって形成された面が多く、これからの未来も、自分自身とどう向き合って行くかで、自ずと方向性が決まって行きます。
自分という存在は、他の何者でもなければ、自分以外の何者にも成り得ない。
それが人間への天命であるが、それを逸脱しようと藻掻く人種が『役者』という輩たちです。
成れもしない他者に成りきる為には、先ずは自分自身を分析し、追求してゆく事が重要であり、天賦の才を信じ、世の中がどう変化しようとも、その全てを学びとする事で、自身の才能に磨きが掛かり、自分の内に秘めた未知の能力を引き出す事によって、はじめて役者は他者に成り得る事が出来るのです。
役者という生き物には、境界線がありません。役者にとって日々の生活全てが人生であって仕事でもあります。役者という職業は、『自分自身』に他ならないのです。
「僕の職業は寺山修司です」歌人、詩人、劇作家、映画監督、作詞家、評論家など、ジャンルを越えマルチに活躍し、後の表現者たちに多大な影響を与えた“寺山修司”が、本業を問われた際に放った言葉です。
本企画は、「私の職業は自分です」をテーマに掲げ、出演者である役者が自分自身を演じ、現実と虚構の間であるイマジナリーラインを往来する事により、ドキュメンタリーで『事実』を捉え、それをフィクションへと昇華し『真実』をあぶり出す。そんな『ドキュフィクション』(ドキュメンタリー的要素の入ったフィクション)作品を構築いたします。
12人の役者が、この状況下で如何に自分の魅力を表現するか、ご期待下さい。