会見をおこなったアンシュル・チョウハン(Anshul Chauhan)監督、円井わんさん、間瀬英正さん(左より)
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国内外の映画祭で多くの賞を受賞している『コントラ KONTORA』(3月20日公開)の公開を前に、主演の円井わんさんと間瀬英正さん、アンシュル・チョウハン監督が日本外国特派員協会(FCCJ)で会見をおこないました。
『コントラ KONTORA』は、父親とふたり暮らしの高校生・ソラが主人公。祖父が遺した第二次大戦中の日記に記された“宝”を探そうとするソラと、ソラの住む町に突然現れたなにも喋らず後ろ向きにしか歩かない男の出会いにより起こる出来事が、モノクロームの映像で綴られていきます。
インド出身でアニメーターの経歴を持ち、日本で映画制作をおこなうアンシュル・チョウハン(Anshul Chauhan)監督の『東京不穏詩』(2018年)に続く長編第2作で、エストニアで開催された第23回タリンブラックナイト映画祭(Black Nights Film Festival)でグランプリと最優秀音楽賞を受賞、アメリカで開催されたジャパン・カッツ(JAPAN CUTS)で大林賞を受賞するなど、すでに国内外の映画祭で高い評価を得ています。
FCCJでの会見は試写終了後におこなわれ、試写を鑑賞した記者たちから多くの質問が寄せられました。
作品の中で大きな存在である「後ろ歩きの男」のアイディアはどのように生まれたのかという質問に対しアンシュル・チョウハン監督は、交通事故で家族を失ってから後ろ向きに歩くようになった実在するインドの男性の映像を数年前にインターネットで見たのがきっかけだと話し、別の映画にそのアイディアを盛り込もうとしていたところその映画は実現に至らず、のちに『コントラ KONTORA』を制作するにあたってアイディアを思い出し使うことにしたと説明しました。
「後ろ歩きの男」を演じた間瀬英正さんは、役を「戦争から蘇ってきたような男」と表現し「蘇ってきた時点では少し記憶がおぼろげな状態から、だんだん(ソラと父親の)家族に馴染んできて、自分が蘇ってきた使命を思い出すという部分を少しずつ出していくという部分を意識的に演じていました」と、役への向き合い方を話しました。
『コントラ KONTORA』を作る上でどんな映画から影響を受けているのかと質問をされると、監督はハンガリーの映画監督タル・ベーラ監督の『サタンタンゴ』(1994年)『ニーチェの馬』(2011年)などを挙げた上で『コントラ KONTORA』は「自分自身のために作ろうと決めていました」と話し、後ろ向きに歩く男というほかに例を見ない設定にどんな反応があっても、監督自身が好きだと思える映画にしたいと思っていたと振り返りました。
また、長回しのカットが多いことへの質問に対して監督は、撮影当時はアニメーターとして働いていた監督自身を含め撮影スタッフはみなほかに仕事を持っていたため休暇をとった10日間で撮影を終わらせなければなかったという時間的制約が長回しを多用する理由になっていると説明。
ソラを演じた円井わんさんは、長回しが多い撮影は「役者としては素晴らしい経験だと思いました」と話し「14分の長回しがあったんですけど、その中でちゃんと生きられますので、アンシュルの撮り方はいい方法だなと思っておりました。ただ、逆に別の現場とかに行くと“そこでカットするの?”みたいなくらい(ひとつのカットが)短いので、ちょっと大変です(笑)」と演じる立場からコメント。
同様に間瀬さんも、監督がなかなかカットをかけずマックス・ゴロミドフ撮影監督もずっとカメラを回しながら動いていく撮影現場で「俳優としては目の前の相手にとにかく集中して、目の前の人とその場所に存在するということを気をつけておりました」と話し、さらに「私に関しては、なにが起きようと後ろ向きで歩き走ることはやめてはいけませんので、逃げたくなっても絶対に後ろ向きなんだということは意識的にやっておりましたし、川に突き落とされても間違って日本語で“冷たい!”と言ってしまわないことを気をつけておりました(笑)」と、なにも喋らず後ろ向きに歩くという特異な設定の役を演じる苦労も付け加え、会場の笑いを誘いました。
会見中の間瀬英正さん、円井わんさん、アンシュル・チョウハン監督(左より)
会見では質問だけでなく、FCCJでおこなわれた試写会で観たすべての映画の中で最高の作品だという賛辞も寄せられました。
会見の最後に、今後作品を鑑賞する方々になにを持ち帰っていただきたいかという質問がされ、監督はもともとはパーソナルな動機で作りはじめた作品であるが作ったからには多くの人に観てもらいたいと話し、国内外の映画祭で上映され多くの感想やレビューが寄せられていることを嬉しく思っているとコメント。戦争が題材なこともありこれまでは年配の世代からの反応が多かったため、日本の公開にあたっては若い世代に観てほしい気持ちがあると述べ「若い世代の方々が自分たちの知らない歴史にどう向き合うのか、自分たちが知らないということをどう思うのかと考えるきっかけになればと思いますので、いろいろな方に観ていただけたらいいなと思います」と、劇場公開を前にしての想いを語りました。
同じ質問に円井さんは「自戒を込めてですけど、やっぱり私たち世代というのは知らないことが多すぎると思っていますし、戦争というものを題材にしていますけど、祖父たちが体験してきたものを私たちは絶対にあと(の世代)にも伝えていかなくてはならないと思っています。そういう体験ができるのは、いまなにかを知ることができるのは、映画であったりとか表現をする場かなと思っていますので、ぜひ。今後も残っていく映画になればいいなと思っています」と、間瀬さんは「私も含めて、日本は戦争経験者がとても少なくなり、私は俳優として戦争の時代を演じたりしていますが、この映画を通して、過去の日本や過去の日本人に対しての弔いの気持ちですね。いまの時代に生きるソラと一緒に物語を進んでいただくことで、そういった弔いの気持ちを感じていただけたらと思っています」と、それぞれの想いを述べて会見を締めくくりました。
インド出身のアンシュル・チョウハン監督やエストニア出身のマックス・ゴロミドフ撮影監督ら、さまざまな国から集まったスタッフが、円井わんさん、間瀬英正さんをはじめとする気鋭の日本の俳優陣と作り上げた異色の日本映画『コントラ KONTORA』は、3月20日(土)より新宿K's cinemaほか、全国順次公開されます。
また、劇場公開にあたっってのより幅広い展開を支援するためのクラウドファンディングが3月26日までおこなわれています。