海外の映画祭での上映を経て2022年1月に劇場公開を迎える梅村和史監督初長編『静謐と夕暮』(せいひつとゆうぐれ)の新ヴィジュアルとイラストヴィジュアルが解禁されました。
『静謐と夕暮』は、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)映画学科の2019年度卒業制作として制作された梅村 和史監督の初長編作。
川辺を歩く老人がひとりの女性から渡された原稿に記された内容を読み進むように進行する映画となっており、2020年にはブラジルで開催された第44回サンパウロ国際映画祭新人監督コンペティション部門にノミネートされ正式上映されました。
主人公のカゲを梅村監督と同じく京都造形芸術大学出身の新人・山本真莉さんが演じ、カゲが出会うキーパーソンである川辺の老人をインディーズ作品も含め多くの作品に出演する入江崇史さんが演じています。
このほど解禁された新ヴィジュアルは、主人公・カゲの写真と散文詩のようなテキストが組み合わされたもの。イラストヴィジュアルは白い服を着たカゲとカメラを構える写真家、予告編や場面写真でも印象を残す自転車がイラスト化されて組み合わされたもので、新ヴィジュアル、イラストヴィジュアルともに映画の世界の象徴するかのようなヴィジュアルとなっています。
また『静謐と夕暮』は『凶悪』(2013年)『止められるか、俺たちを』(2018年)などで知られる白石和彌監督が「長期熟成されたウイスキーを味わうように、深く記憶の余韻が広がる映画だ。」と評しているのをはじめ、矢崎仁司監督(『風たちの午後』1980年、『無伴奏』2015年など)や大崎章監督(『お盆の弟』2015年、『無限ファンデーション』2018年など)ら、多くの映画人から称賛するコメントが寄せられており、今回、さらに新たなコメントが寄せられました。
今回は、社会現象となった『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)や近作『劇場』(2020年)など数々のヒット作を送り出す行定勲監督、『夢みるように眠りたい』(1986年)や『探偵事務所5』シリーズなどで知られ京都芸術造形大学で後進の指導にもあたる林海象監督、脚本担当作も多い『VIDEOPHOBIA』(2019年)の宮崎大祐監督、新作『リング・ワンダリング』(2021年)の公開も控える金子雅和監督、Gucchi's Free Schoolを主宰し日本未公開映画の紹介・上映のために活動する降矢聡さんという、幅広いフィールドで活動する映画人がコメントを寄せています。
行定勲監督コメント
この映画で描かれた停滞した時間に、どっぷりと浸かって漂った。ただ風が吹き緑が無駄に輝き、人々は生きて同時に死んでいるような時のはざま。主役の山本真莉に宿る虚無を見て、何者でもなかった頃の自分と重なっていった。彼女は原稿用紙に何を記し、何を葬ったのだろうか。あのどこでもない河原にある孤独な魂を見届けながら、過去でも現在でもない時が流れ出し、いつか帰結するところを想像していた。
林海象監督コメント
映画には、見せる映画と見せない映画の二種類がある。殆どの映画は見せる映画であるが、稀に見せない映画が存在する。見せない映画とは、普通は見せてしまう部分を隠し、観客に想像させ感じてもらう映画である。この映画はその稀な映画である。人は森や川を見たとき、その感じようは人それぞれの感受性の中にある。この映画が伝えたい静寂は映像で撮ることができない。だから感じてもらう。
この映画を観てあなたがどう感じるのかを、この映画は問うているのだ。
宮崎大祐監督コメント
何という天才!『静謐と夕暮』は光と影と、二度とはない時間だけがつめこまれた宝石箱のような映画だ。
金子雅和監督コメント
2時間超えの長尺を、するすると水を飲むように快く観た。
同時に、選び抜かれた光と色と音により緻密に作られた逢魔が時の世界に浸食され、神隠しにあうかも知れないスリルを覚えた。最後まで観終えると、もう一度どこかから観始めたくなる本作の不可思議な魅力は、初めて行った異国でひとり、知らない人たちの日常をぼんやり眺めている時の浮遊感に近い。
私はいま、『静謐と夕暮』の時空から、現世に戻って来れているのだろうか。
映画配給(Gucchi's Free School主宰)降矢聡さんコメント
唯一無二の物語、完全無欠の明確なイメージこそが自らを発展させると信じる数多の映画をよそに、鮮明さなどには背を向けて、曖昧に溶け合う色と音にその身を任せる梅村監督が見ている景色は、映画が朽ちた数百年後の未来のようだ。
かつて栄華を誇った都市の遺跡に生い茂る草木のように、『静謐と夕暮』に横溢する緑は恐ろしくも美しい。
音楽担当としてほかの監督の作品に参加することもある梅村監督が脚本・監督に加えて撮影と音楽も担当、主演の山本さんも制作と美術を担当しており、その才能の多彩さを感じさせる『静謐と夕暮』は、2022年1月8日(土)より14日(金)まで池袋シネマ・ロサにて1週間限定レイトショーされます。
『静謐と夕暮』あらすじ
写真家の男が川辺を歩いていると、川のほとりで衰弱している老人に、何やら原稿の束を渡す女がいた。
翌日、再び男がその場所に行ってみると、その原稿を読む人々がいた。
その原稿には、渡した女の書いたものと思しき、この川辺の街での日常がしたためられている。
――――――ある日、いつものように川辺にやってきた女は、見知らぬ黄色の自転車と川辺に座る男を見た。
数日後、女が住むアパートの隣室にその川辺の男が越してきた。
夜な夜な隣室から聞こえる、男が弾くらしきピアノを漏れ聞くうちに、その男の生態が気になり、
毎朝、黄色の自転車に乗って出ていく彼の後ろを追いかけることにした。
そんなある日、隣室の男が失踪する。―――――