会見をおこなった村山和也監督、西村虎男さん、加藤才紀子(かとう・さきこ)さん(左より)
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約30年前に起きた未解決事件を実際にその事件を担当した元刑事の主演で映画化した異色のミステリー『とら男』(とらお・8月6日公開)の会見が5月26日に都内でおこなわれ、主演の元刑事・西村虎男さんとダブル主演の加藤才紀子さん、村山和也監督が出席しました。
『とら男』は、1992年9月に石川県金沢市でスイミングスクールの女性コーチが殺害され未解決のまま時効を迎えた事件を、石川県出身の村山和也監督が自らプロデューサー・脚本などもつとめて映画化した作品。刑事時代に担当した未解決事件を忘れられない孤独な元刑事・とら男が、植物調査のため金沢を訪れた大学生・かや子とともに再び事件の「捜査」をおこなっていく様子をセミドキュメンタリータッチで描き、事件の真相に迫っていきます。
村山監督は、題材となった事件の犯行現場が監督が小学生時代に野球をして遊んだ公園という身近な場所だったことから事件が「ずっと記憶に」あったと話し、事件について調べる過程で名前を知った西村虎男さんに2017年にコンタクトを取り、映画化について考える中で「やっぱり本物を使うのがいいんじゃないか」と西村さん主演で2019年に撮影を始めたと経緯を説明。
西村さんは、撮影が台本なしでおこなわれ「どちらかといえば、かや子役の加藤さんに引きずられるように撮影をしていったようなのが本音で」と振り返り、撮影初日は現場でいきなりとら男が電子レンジでインスタントカレーを温める食事シーンを撮影すると言われ「(劇中でとら男宅として使われている)知らん家へ行って、いきなり知らん家の電子レンジを触ってですね、見る間に(レトルトの)パックが爆発するようになるという状況で、カメラは回っているはなんやで、ここまで吹き出しそうになって、笑いを我慢して撮影に応じていたというような、すべてがそういう状態での撮影でした」と、初めての映画出演体験について話しました。
『とら男』では、ロケ地の地元の方々も大勢出演し「俳優さんと地元の人がゴチャ混ぜ」(村山監督談)なのも特色のひとつとなっています。
とら男とともに事件を調べる大学生・かや子がホテルで働くオバちゃんと会話して涙を流すシーンで話し相手のオバちゃんを演じたのも、監督がロケハンで出会って出演を依頼した地元の方だそう。かや子を演じた加藤才紀子さんはそのシーンについて「すごい不思議な感覚だったんですけど、私は台本はないですけど役として捜査がうまくいかない話とかをラブホのおばちゃんにするんですよ。すごく真剣に聞いてくれて、アドバイスをくれて、あたたかすぎて、勝手に(涙が)出ました」と、独特の撮影方法によって生まれたものを話しました。
会見中の西村虎男さん(中央)と村山和也監督(左)、加藤才紀子さん
『とら男』は、西村さんが退職後に事件について書いた書籍「千穂ちゃんごめん!」を村山監督が読んで興味を持ったことが制作のきっかけとなっており、西村さんはその書籍を書いた動機が捜査初期での警察の動きが元となり地元で広まった噂を「なんとかして消したい」という想いからだったとコメント。
そして西村さんは、犯罪捜査は「現場を見て推理をして、その推理が正しいかどうかを検証して、もしその検証が間違っていれば元に戻って推理する。もし検証で正しければさらにその検証で出た結果から推理して、また検証する。推理検証のくり返し」であると経験から得た自説を述べ、警察が「階級社会」であり大きな事件を捜査する捜査本部が設置される際に「捜査本部事件を仕切る幹部というのは、すべてベストな幹部ではないんですよ」と指摘。「自分の経験不足を棚に上げて、階級のそれだけをとって指示をすると捜査が変な方向に行ってしまう」と「警察の組織そのものが歪な形になっているというところから」未解決事件が生まれているのではないかと会見を締めくくりました。
映画史上で異例と言える元担当刑事の主演により実在の未解決事件を描き、第22回TAMA NEW WAVEで主演の西村さんがベスト男優賞を受賞している『とら男』は、8月6日土曜日より渋谷ヨーロスペースほか全国順次公開されます。