会場ロビーにて、鶴田法男監督(右)と岩槻映画祭審査員長の山崎利彦さん
埼玉県のさいたま市民会館いわつきで開催されている第6回岩槻映画祭で6月4日に“Jホラーの父”と呼ばれる鶴田法男監督の作品上映とトークショーがおこなわれました。
1991年にオリジナルビデオ作品『ほんとにあった怖い話』で監督デビューして以降、数々のホラー作品を送り出している鶴田監督は、トークショーでまず1990年代終盤から日本のホラー作品が国内にとどまらず海外からも注目を集め“Jホラー”として確立していく“Jホラー史”を簡単に解説。黒沢清監督や脚本家の高橋洋さん、中田秀夫監督、清水崇監督という“Jホラー”の代表的作品の作り手が揃って鶴田監督の影響を公言しており、鶴田監督が“Jホラーの先駆者・Jホラーの父”と呼ばれていることを紹介しました。
そして、オリジナルビデオ作品から現在まで続くテレビシリーズへと発展した『ほんとにあった怖い話』シリーズごく初期の作品で、のちのホラーに多大な影響を与えている1992年の短編『霊のうごめく家』が上映されました。
『霊のうごめく家』上映後は、岩槻映画祭審査員長の山崎利彦さんとの対談形式でトークが進行し、鶴田監督はビデオ版『ほんとにあった怖い話』を企画した理由について、小学3年生のときに自宅で幽霊らしきものを見た体験があり幽霊や心霊現象に興味を持っていたことと、高校時代に公開されたスティーブン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』(1977年)が、当時はまた「いかがわしいもの」という見方が強かったUFOや宇宙人を題材としつつ世界中で感動を呼ぶ作品になっていたことから「いかがわしいものでもちゃんと作品を作って多くの人々を感動させることができるのであれば、心霊現象とか幽霊をモチーフに映画を作ってスピルバーグと同じようなことができるのではないか」と思ったことが発端になっていると話しました。
トークはその後、映画祭には今後映画界や映像業界で活躍していくであろう若い方々も多数参加していることから「成功体験というのはいっぱい聞けると思うんですけど、失敗体験って意外と聞けなくて、むしろそっちのほうが勉強になるというか。励みになるのでは」(鶴田監督談)という趣旨のもと「岩槻映画祭のみなさんだけに贈る Jホラーの父版しくじり先生」と題して、鶴田監督自身の失敗談を披露するコーナーへ。オリジナルビデオ作品を中心に監督してきた時期から『リング0』(2000年)などメジャー作品に進出した時期、海外作品や児童向け小説にも活躍の場を広げている現在までと、監督のフィルモグラフィを追うかたちでユーモアを交えながら貴重な経験談が語られ、最後は「若さや感覚だけでは続かない。仕事の基礎を身につけろ。」「自分の資質が『職人』か『作家』か見極めろ」「映画監督(作家)は、1%の閃きと9%の努力、90%の運。」「今、評価されなくても自分の仕事はどこかで誰かが必ず見ている。」「仕事の依頼が来たら引き受けてから悩め。」という、映画界・映像業界の方々だけでなく広く参考になる教訓で締めくくられました。
トークの最後に鶴田監督は、最新監督作となる中国映画『戦慄のリンク』(2020年)が、新宿シネマカリテで開催される「カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2022」 オープニング作品として7月15日に1回限定上映されることを紹介。岩槻映画祭のために作られた特別な予告編で鶴田監督のトークショーは幕を閉じました。
会場ロビーに設置された短編コンペティション部門の観客投票所
岩槻映画祭は、さいたま市の歴史と伝統の街・岩槻で市民に寄る映像の祭典としておこなわれる市民映画祭。短編コンペティションが特色のひとつで、過去には『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督も作品を出品、グランプリを獲得しています。
第6回となる今年の岩槻映画祭は、6月4日と5日の2日間にわたってさいたま市岩槻区のさいたま市民会館いわつきで開催。5日には、短編コンペティション部門入選の13作品が上映され審査と観客投票により各賞が決定されるほか、お笑いライブや音楽ライブなど、多彩なイベントが用意されています。