舞台あいさつをおこなった豊田記央さん、間瀬永実子さん、渡邉安悟(わたなべ・あさと)監督、吉見茉莉奈さん、山岸佑哉プロデューサー(左より)
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大阪芸術大学と東京藝術大学大学院で学んだ新鋭・渡邉安悟監督による中編サスペンスホラー『啄む嘴』(ついばむくちばし)が12月10日に池袋シネマ・ロサで初日を迎え、出演者の吉見茉莉奈さん、間瀬永実子さん、豊田記央さんと山岸佑哉プロデューサー、渡邉監督が舞台あいさつをおこないました。
『啄む嘴』は、大阪芸術大学映像学科と東京藝術大学大学院映像研究科で学び『ドブ川番外地』(2018年)『獰猛』(2020年)など在学中の作品が映画祭などで高く評価されてきた渡邉安悟(わたなべ・あさと)監督が、初めて大学のサポートを受けずに製作した中編作品。
なにかから逃げる主人公・中島栞と、中島と出会った工場作業員の矢崎舞衣が、謎の男の影を感じつつ行動をともにしていく姿が、独特のタッチで描かれていきます。
マスコミ向け試写では「難解」との声も多く寄せられたという『啄む嘴』。その脚本を読んだときの感想を尋ねられると、主人公の中島を演じた吉見茉莉奈さんは「(中島は)人によっては“なにを言っているんだろうこの人は?”って思うような、ちょっと支離滅裂なことを喋っているんですけど、私は不思議と最初読んだとき“この人の言っていること、なんかわかるな”って思ったんですね」と振り返り、むしろ矢崎の感情がわからず「中島に関してはすごく筋が通っている気がするって思ったのが最初の印象ですね」と語りました。
一方で矢崎を演じた間瀬永実子さんは「私は逆で、中島のセリフを読んだんですけど支離滅裂で“なにを言っているんだ”って全然わからなくて、矢崎のほうがすごくわかりました。中島っておとぎ話みたいだとオーディションのときから感じていました」と、対象的な感想を抱いていたことを明かしました。
中島と矢崎に迫る「謎男」を演じた豊田記央さんは、オーディションで渡された台本で「謎男」という役名を見て「撮影に入ったら役名貰えるのかなって思って、そしたら(本番の台本も)“謎男”で(笑)」と笑いも交えつつ「これから何回も観て、渡邉ワールドを突き詰めたいなと思っています」と、渡邉監督の描く世界の奥深さに触れたいとコメント。
また豊田さんは、劇中で謎男が着ている服が、豊田さんがオーディションのときに着ていた「私の私物なんですよ」と告白し、渡邉監督は「衣裳も含めてぼくの中でイメージにぴったり」だったと話しました。
「ぼくの中では難解な映画を作ったつもりはないんですけど」という渡邉監督は「たぶん、起こった出来事をそのまま撮っている。ただ、その撮り方、どういう距離感で被写体に対してカメラを置くかとか、そういう距離感で不思議な世界に見えてるのかもなと思います」と話すとともに「東京藝大を出て、ある程度許されるんじゃないかと(笑)。けっこう自由なことをやっても解釈してくれるんじゃないかというのもあって、けっこう自由にやったところはあると思います」と、新たな挑戦もあったと説明。
さらに監督はこだわった点として「ワンショットワンショット自分なりにこだわって撮ったんですけど、全体ですかね。全体の映画を撮ろうと心がけて、というのも、その前にぼくが撮っていた映画というのが、ワンシーンごとに“これがどういう方向に進んでいってもいいや”と、現場でけっこうアドリブを入れたりしていたんですけど、今回は全体でコントロールしようというところで、事前にカット表とかも自分なりに整理して撮ったというところはあります」と話しました。
また監督は「まだ1回も話していないことがあって」と、アイドルグループ・日向坂46の齊藤京子さんとお笑いタレントのヒコロヒーさんが出演するトーク番組「キョコロヒー」が「自分の中で元になっている」と、意外な発想のルーツを紹介。「矢崎はヒコロヒーさんで、中島は齊藤京子さんという感じで、脚本家と話し合いながら」脚本を作っていったと話しました。
山岸佑哉プロデューサーは普段は俳優として活動しており「渡邉監督の作品を観て、この人と一緒に仕事がしたいなと思って」初めてプロデューサーとして映画製作を手がけたもので、裏方に徹して『啄む嘴』を完成させましたが「“無理に(自分を)主演にしなくていいです、一緒に映画を作りたいです”って言ったんですけど、まさかほんとに1ミリもキャスティングされないとは思わなかったです(笑)」と、裏話も披露。
監督は「逆に脇役だと申し訳ないなということで」と理由を説明し、吉見さんらキャストは、冬で過酷な撮影も多かった現場で、出演者への気配りを見せた山岸プロデューサーへの現場での働きぶりを労いました。
舞台あいさつの最後には、東京以外での劇場公開も決まったことが告知され、山岸プロデューサーが「とっかかりにくい作品にはなるかもしれないんですけれども、これからいろいろな劇場で公開して、どんどん大きくなっていく作品、大きくしていける作品ではないかと、ぼくは確信しています。なにとぞみなさん応援のほど、よろしくお願いします」と舞台あいさつを締めくくりました。
高い密度で観る者の感覚を静かに刺激する52分の中編『啄む嘴』は、12月10日(土)より連日21時より池袋シネマ・ロサにてレイトショー。
12日(月)には「ホラー対談:帝王vs新米」と題してジャパニーズ・ホラーを代表する監督のひとり・清水崇さんと渡邉監督が、14日(水)には「吉見茉莉奈という女優をめぐる鼎談」と題し吉見さんの主演作『ナナメのろうか』監督の深田隆之さんをゲストに吉見さんと渡邉監督が、それぞれ上映後にトークイベントをおこないます。
また、大阪のシアターセブン、愛知のシネマスコーレ、広島の横川シネマで2023年に劇場公開されることも決定しています。