小沢和義さん、片岡礼子さん、洞口依子さんとベテラン俳優が出演する2作の小編映画『Kay』『終点は海』が4月9日より下北沢トリウッドで併映公開され、3月18日には渋谷で入場無料の先行上映イベントも開催されます。
2作品はいずれも「ブラックスキャンダル」「文豪少年!」などのテレビドラマを監督し自主制作の短編映画が映画祭で高評価を得ている鯨岡弘識(くじらおか・ひろのり)監督がメガホンをとり、『見えないほどの遠くの空を』(2011年/榎本憲男監督)『ハルをさがして』(2015年/尾関玄監督)などでプロデューサーをつとめた内藤諭さんがプロデューサーを、さまざまな作品に携わる映像プロデューサーで「雷文」の名前で物語作家としても活動する中嶋雷太さんがエグゼクティブ・プロデューサーをつとめて製作された作品。
『Kay』は、大学生・ケイが、離れて暮らしていた父・太一の死から49日を経て、父の遺品であるエレキギターを背負い父と訪れた居酒屋やライブハウスを再訪する中で父の存在を改めてたしかめていくストーリーで、中嶋エグゼクティブ・プロデューサーの著作が原作・原案。2020年6月にアメリカで開催されたニューヨーク・シネマトグラフィー賞(New York Cinematography AWARDS)で最優秀作品賞ほか5つの賞を獲得するなど、世界各国の映画祭で30を超えるアワードに輝いていており、待望の国内劇場初公開となります。
CMなどで活躍しこれが映画初出演となる七瀬可梨(ななせ・かりん)さんがケイを演じ、父親・太一役で強面の役からコミカルな役まで幅広くこなし監督作も多い小沢和義さん、母の貴子役で数多くの作品に出演する片岡礼子さんが出演しています。
『終点は海』は、ひとり暮らしの女性・明子のもとに5年前に縁を切って出ていった息子のレンが現れ、母を海へと誘うという物語。
母の明子を長いキャリアを持つ洞口依子さんが演じ、息子のレンを演じるのは『独裁者、古賀』(2011年/飯塚俊光監督)『死んだ目をした少年』(2015年/加納隼監督)『ある女工記』(2016年/児玉公弘監督)で主演をつとめた清水尚弥さん。全編がふたりの登場人物だけで描かれていきます。
両作品ともに親子の関係を心象風景の描写により表現した、互いに鏡像関係にあるような作品で、23分という短い上映時間ながら綿密なリハーサルを経た俳優陣の演技により、観客の感情に深く訴える作品となっています。『終点は海』では近年の作品には珍しく4:3の画面サイズが採用されている点も注目です。
両作品の公開決定にあたり、両作の主要キャストと鯨岡監督、中嶋エグゼクティブ・プロデューサーは次のようにコメントを発表しています。
『Kay』父・太一役:小沢和義さんコメント
コロナ禍の中、劇場公開に導いたスタッフの努力と情熱を称賛したく思います。僕も映像の長短を問わず、映画の力を信じて疑わない一人です。 この小編映画の魅力が観客の皆様に届くことを願っています。
『Kay』母・貴子役:片岡礼子さんコメント
喪失の物語。夏の暑い日に亡き人の荷物と娘と共演した。デビュー当時から共演をたくさんさせていただいたこともあり記憶の沢山ある小沢和義さんの姿を思いその“父”を間に七瀬可梨さん演ずる娘のKayと対峙した。エネルギーのある彼女の眼差しとぶつかる面白さ。熱さ。Kayの眼差しの先をもっと観たい。現場で側に居てそんな思いに駆られました。
中嶋雷太エグゼクティブプロデューサーコメント
小編映画『Kay』の原作・原案の拙書「春は菜の花」を発行したのが2018年夏。開発・制作を終え0号試写を開催したのが2019年12月。新型コロナ禍など想定できぬ、予定調和の明日を夢見る呑気な私がいた。そして約2年余り我慢した。この映画を観て頂く観客の皆さんの心情を考えると、こちらの理屈で劇場公開することは憚られた。2022年4月。未だ新型コロナ禍の収束は見えない。けれど、今こそ皆さんに観て頂きたいと考えた。小編映画『Kay』と『終点は海』にはカッコ良いヒーローもダーク・ヒーローもいない。心優しくも繊細でもない。説明言葉盛りだくさんの台詞もない。多くの方が囚人となり喘いでいる「良い家庭」でもない。仄かな生が揺らぎ、物語が淡々と織り成されていくだけだ。孤独や不安に押し潰されそうな日々が続くが、孤独や不安が「悪いことだ」と決めつけたくはない。押し潰されそうな自分の、そのひ弱な手をじっと見つめ、ひと呼吸ついたとき、仄かなるたいまつがきっと道を照らしだしてくれると思う。小編映画『Kay』と『終点は海』が小さく仄かでもたいまつになればと、心から願っている。
鯨岡弘識監督コメント
過去を振り返ることで、はじめてその人を理解する……そういった経験をされたことはないでしょうか。「あの時こう言えていれば……理解できていれば」と後悔することは、少なからず誰にでもあるはずです。
今回上映する『Kay』と『終点は海』では、主人公が初めて、 近かった人の“死”と向き合うことで、心を整理する姿を描いて います。しかし、それは決して紋切り型の感動的なものではなく、自分を捨てた父親や息子との邂逅なのです。そして、彼らは“悲しい”“嬉しい”などと安易に形容できるほど簡単ではない感情と向き合うことで、期せずして自らへ「生きる」という意味を突きつけます。
監督として、生死を題材に取り込むことはとても難しく、悩ましいことでした。 しかし、コロナ禍において、そのテーマが際立ったことも実感しました。 実際、『Kay』の完成直後に訪れたコロナ禍で鏡像的に作り上げた『終点は海』は一層、 題材を深めるものになりましたし、まさに、この時代に語られるべき“シンプルな力強さ” を持ったものになったと感じています。
また、私自身が知らない親の世代を描くにあたり、『Kay』では小沢和義さん、片岡礼 子さん、『終点は海』では洞口依子さんと話し込みました。時代に翻弄された親という難 しい役を成すことができたのは、間違いなくキャスト陣のおかげです。同様に、台本を読 み出演を快諾してくれた全てのキャスト陣と、深くまで感情を共有できたことが、映像に も表れていることと思います。
結果として、2020年は『Kay』が海外映画祭で、2021年は『終点は海』が国内映画祭を 中心に、多くのアワードを賜ることができました。それは、コロナ禍にこそ、これらの メッセージがシンプルに強く響いたからだと信じています。未だその状況は続くからこそ、 今回の上映で多くの観客の皆様へ届くことを祈っております。
『Kay』『終点は海』は、4月9日(金)より下北沢トリウッドにて2作品同時ロードショー。
また、公開に先駆けた3月18日(金)には、渋谷のイベントスペース・100BANCH 3F LOFTにて先行上映イベントが開催されます。イベントは二部制で一部が作品上映、二部がゲストを招いてのクロストークイベントとなっており、二部のイベントには鯨岡監督、内藤プロデューサー、中嶋エグゼクティブ・プロデューサーと、両作品の主要キャストが出演予定となっています。
今回のトリウッドでの上映は「映画は仄かなる、たいまつ」と題されており、これは中嶋エグゼクティブ・プロデューサーの“映画は私たちの生きる〈たいまつ〉”であり“時代ごとの観客の喜怒哀楽を受け止め、そして仄かであったとしても〈たいまつ〉を掲げてきたと考えています”という想いが込められたもの。
小沢和義さん・片岡礼子さんと七瀬可梨さん、洞口依子さんと清水尚弥さんという二組のベテランと若手の顔合わせで観客のたいまつとなるべく上映される2作品に注目です。
『Kay』『終点は海』フライヤー フライヤー中面はこちら