SF・ファンタジーの名手・小中和哉監督の自伝的青春映画で、上村侑さんが主演、髙石あかりさんがヒロイン役をつとめる『Single8』の全国公開に向けたクラウドファンディングがスタートしました。
『Single8』は、世界を熱狂させた『スターウォーズ』(1977年・米/ジョージ・ルーカス監督)が日本公開された1978年を舞台にした青春グラフィティ。友人たちと8ミリ映画作りに熱中する高校生・広志を主人公にした物語が描かれていきます。
監督に加え脚本も担当した小中和哉監督は、1985年に『星空のむこうの国』で商業デビュー以降、数々のSF・ファンタジー作品を送り出すとともに、テレビシリーズ「ウルトラマンダイナ」「ウルトラマンネクサス」やリアル志向ウルトラマンの先駆的劇場作品『ULTRAMAN』(2004年)などを手がけ「平成ウルトラマンシリーズ」を支えてきた存在。
小学生時代に実兄でのちに〈特殊脚本家〉として映像業界で活躍する小中千昭さんとともに8ミリカメラで映画作りを始めた生粋の映画少年だった小中監督が、念願であった“自らの原点を映画化したい”という企画を実現させたのが『Single8』で、『スターウォーズ』の視覚効果・特殊効果に衝撃を受けて8ミリで特撮に挑んだ自らの高校時代をもとに脚本を執筆し、自伝的青春映画が完成しました。
『Single8』より。上村侑さん演じる主人公・広志(左から2人目)、福澤希空さん演じる喜男(一番左)、桑山隆太さん演じる佐々木(左から3人目)、髙石あかりさん演じる夏美
主人公の高校生・広志を演じるのは、主演映画『許された子どもたち』(2020年/内藤瑛亮監督)で第75回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞を受賞し今後も出演作公開が続く上村侑さん。
広志をサポートし映画作りに奔走する同級生の喜男と佐々木には、芸能プロダクション・ホリプロ初の男性ダンス&ボーカルグループ・WATWING(ワトウィン)で活動する福澤希空(ふくざわ・のあ)さんと桑山隆太さん。
広志がひそかに想いを寄せる同級生で広志の映画でヒロインを演じることになる夏美役には、主演作『ベイビーわるきゅーれ』(2021年/阪元裕吾監督)が大きな話題となった髙石あかりさん。
現在のエンターテイメント界で期待を集める若手俳優が顔を揃えました。
また、広志たちの映画作りを後押しする担任教師の丸山先生役に「ウルトラマンネクサス」主演の川久保拓司さん、広志たちが行きつけのカレー屋の寡黙な店主にスーツアクター・俳優として平成ウルトラマンシリーズの多くに出演した北岡龍貴さん、広志たちに親身にアドバイスをくれるカメラ屋店員・寺尾役に男女混合パフォーマンスグループ・lol -エルオーエル-のメンバーでリメイク版『星空のむこうの国』(2021年)に出演した佐藤友祐さん、広志の母親役にオリジナル版『星空のむこうの国』ヒロインの有森也実さんと、小中監督がそのキャリアの中で関係を築いてきたゆかりの深いキャストも参加しています。
スタッフには、撮影監督の藍河兼一さん、助監督の小原直樹さん、編集の松木朗さんら、過去の小中監督作品にも参加しているスタッフが集まっているのに加え、小中監督と同時期に自主映画界で活躍し高校時代の小中監督を知る先輩的な存在の映画監督・今関あきよしさんがBカメラ担当で参加しているのも注目です。
すでに完成し、2023年3月に東京・渋谷のユーロスペースで公開されることが決定している『Single8』を、より多くの方々に届けたいと、全国公開を目指してクラウドファンディングがスタートしました。
クラウドファンディングの期間は10月17日月曜日から12月12日月曜日までの8週間。300万円が目標額に設定されており、集まった資金は追加の宣伝費として使われます。
リターンには、全国共通前売券のほか、小中監督の書き込み入り撮影台本のデータや、今関あきよし監督によるメイキングドキュメントDVD、さらに撮影に使われた小中監督自作のミニチュア宇宙船など、この作品ならではのユニークなものが用意されています。
そしてクラウドファンディング開始にあたり、多くの映画監督からの応援コメントが寄せられています。コメントを寄せているのは、立教大学の映画サークル・SPPで小中監督の先輩にあたる黒沢清さん、小中監督が成蹊高校映画研究部に入部したときの部長だった手塚眞さんら、小中監督と同時代を生きてきた錚々たるメンバーとなっています。
映画監督:犬童一心さんコメント
私も、78年の夏、初めての映画を作っていました。8ミリカメラを握りしめたときの熱い気持ち暑い夏を思い出し、もうどうして良いやら胸が張り裂けそうです。 10代の終わり、二度と戻れない夏をフィルムに閉じ込めることができた幸福な野郎どもに心から拍手。8ミリカメラは強く握りしめることができたから祈りを込めて作れたんだな。
映画監督:河崎実さんコメント
学生時代8ミリ映画を同時期に作っていた同志である小中監督は、わたし同様40年以上同じことをやり続けている。
お互いプロになって映画の規模は大きくなっても、この初期衝動の熱さはなにも変わらないのだ。
改めてフィルムっていい、青春ていい。
わたしも自伝的映画作りたくなったよ。だってフィルムがたくさんあるんだもん。
映画監督:黒沢清さんコメント
ああ、懐かしい。撮ってるときは何が写っているのかさっぱりわからないのが8㎜自主映画だった。
だから、出来上がった作品はいつも予想もしないものになる。あれがスタートだった。
映画監督:是枝裕和さんコメント
なんだかとても幸せな気持ちになりました。
僕のように8ミリにはあまり触れてこなかった人間にとっても記憶の中にあるはずのない映画作りを追体験していくような、不思議なワクワク感に満ちていました。そこに感じたのが単純なノスタルジーではなかったのは、小中さんの中に自らの原点をもう一度確かめたいという強い前向きな動機があったからではないかと勝手に想像して嬉しくなりました。
ヴィジュアリスト・映画監督:手塚眞さんコメント
シングル8は魔法のランプだった。それに触ればなんでもできると思っていた高校時代。学校は文字通り、映画作りの宇宙だった。
映画研究部のあの狭く汚い部室で、後輩だった小中監督やヒロインたちと過ごしたあの日々。等身大の8ミリ少年たちの青春群像は、甘く酸っぱく、ちょっと照れ臭く、しかし現代の映画少年たちも同じような夢を持ってくれればいいと、この優しい映画が未来を繋いでくれることを期待します。
映画監督:樋口真嗣さんコメント
忘れていた匂い。
現像したフィルムの入った紙箱を開ける瞬間に溢れ出る——
中で緩まないようにリールに詰め込まれたウレタンのブロック——
電源を入れると沸き上がる、コンデンサに負荷がかかり材質が気化して、
ハロゲン球に積もった埃の焦げるような——。
波のようにどんどん押し寄せてくる匂いたちよ。
あの日々を生きていた何者でもなかった自分たち。
そんなもの作ったところで何か変わるなんて保証もなく、
それでも説明出来ない何かに突き動かされていたあの日々。
そいつは甘いけれど、とても苦い。
ちくしょう。還暦前なのに。
あの日々の思い出に浸れる甘美な幸せなんかまだ知りたくなかったのに。
クラウドファンディング開始にあわせて公開された予告編は、どこかあたたかさを感じさせる映像に8ミリフィルム撮影の映像も織り交ぜながら、試行錯誤で8ミリでのアナログ特撮に挑む広志たちの姿が映し出されていきます。主演の上村さんはじめ、2000年代生まれで撮影時には10代だったキャストが見せる「1970年代の少年少女らしさ」にも注目です。
近年は、デビュー作『星空のむこうの国』のセルフリメイクや、大きな影響を受けてきた大林宣彦監督の『海辺の映画館-キネマの玉手箱-』(2019年)への脚本参加など、自身のルーツを確認するような活動を見せてきた小中和哉監督が、自らの青春時代をもとに描く『Single8』は、ノスタルジィだけではなく、幅広い層の心に響く普遍的な「ものを作るスピリット」を伝えることでしょう。
『Single8』は2023年3月ユーロスペースで公開。全国公開に向けたクラウドファンディングは12月12日まで実施されています。