詩人・萩原朔太郎の没後80年記念事業として今年秋より開催される大回顧展「萩原朔太郎大全２０２２」の記念映画で、朔太郎に師事した詩人・三好達治が主人公の『天上の花』が12月９日に公開されることが決定し、予告編、場面写真が解禁されました。

　映画『天上の花』は、萩原朔太郎の実娘である萩原葉子さんが自身も交流のあった三好達治を描き芥川賞候補にもなった小説「天上の花―三好達治抄―」の映画化。
　三好達治と萩原朔太郎の末妹である慶子との激しい恋愛を軸に、戦争の時代に翻弄された人々の姿が描かれていきます。

　第25回新人シナリオコンクール 特別賞大伴昌司賞を受賞した五藤さや香さんと数多くの作品の脚本を手掛け『火口のふたり』（２０１９年）など監督としても活躍する荒井晴彦さんが脚本を担当し、監督作『アジアの純真』（２００９年）『いぬむこいり』（２０１６年）などのほかプロデューサーとしてもエッジの効いた作品を送り出す片嶋一貴監督がメガホンをとっています。

　三好達治役に挑み主演をつとめたのは今後も出演作も続く東出昌大さん。そして、萩原朔太郎の末妹であるヒロイン・慶子を演じるのは『共に歩く』（２０１３年／宮本正樹監督）などの入山法子さん。
　さらに、独特の佇まいを持つ個性派・吹越満さんが萩原朔太郎を演じ、朔太郎の妻・稲子役には『子どもたちによろしく』（２０１９年／隅田靖監督）主演で鮮烈な演技を見せた鎌滝恵利（旧名・鎌滝えり）さん。そのほか、映画化もされた「YAWARA!」「20世紀少年」などのヒット作で世界的にファンを持つマンガ家・浦沢直樹さんが詩人・作家の佐藤春夫を演じ、萩原朔太郎の孫で原作者を母に持つ萩原朔美さんが三好達治が就職する出版社・アルス社の社長役で出演、舞台でも活躍し『いぬむこいり』に主演するなど片嶋一貴監督作品ではおなじみの有森也実さんが闇市の女で出演するなど、充実のキャストが揃いました。

　公開日発表と合わせて解禁された待望の予告編は、東出昌大さん演じる三好達治の「僕は、あなたを十六年四ヶ月、思い続けてきた……」という台詞で幕を開け、達治と慶子のふたりの姿を中心に、人の心を翻弄する時代の空気を感じさせるものになっています。

　また場面写真は、駅に立つ達治と慶子のシルエットと、室内に達治・慶子と朔太郎・稲子の４人が集まった２種類のメインカットを始め、登場人物たちのさまざまな表情をとらえ、登場人物の関係を予感させます。

　公開に向けて公式サイトも本格的に始動し、作品の情報を発信していきます。
　激動の時代を生きた人々の姿から、現代の人々へのメッセージを伝える『天上の花』は、12月９日金曜日より、新宿武蔵野館、渋谷ユーロスペース、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか順次公開されます。

『天上の花』ストーリー

僕は、あなたを十六年四ヶ月、思い続けてきた・・・
昭和になってすぐのこと、萩原朔太郎を師と仰ぐ三好達治は、朔太郎家に同居する美貌の末妹・慶子と運命的に出会う。たちまち恋に落ちた達治は、結婚を認めてもらうため北原白秋の弟が経営する出版社に就職するが、僅か二ヶ月であえなく倒産。再び寄る辺なき身となった達治は慶子の母に貧乏書生と侮られて拒絶され、失意の中、佐藤春夫の姪と見合い結婚をする。
時は過ぎ、日本が戦争へとひた走る頃、達治の戦争を賛美する詩は多くの反響を呼び、時代は彼を国民的詩人へと押し上げてゆく。しかし、朔太郎とはその戦争詩をめぐって関係が悪化してしまう。昭和一七年、朔太郎は病死。そして四日後には慶子が夫・佐藤惣之助と死別する。昭和一九年、朔太郎三回忌で再会した達治は、慶子に一六年四ヶ月の思いを伝え、妻子と離縁し、慶子を家に迎える。東京に空襲が迫りくる中で、身を隠すように越前三国にひっそり新居を構えた二人には、雪深い冬の過酷な生活が待ち受けていた。純粋な文学的志向と潔癖な人生観の持ち主である達治は、奔放な慶子に対する一途な愛とその裏返しの憎しみが次第に心を蝕んでゆき、二人の愛憎劇は思いもよらぬ結末を迎える……。

「天上の花」とは、一般的に仏教用語で曼珠沙華、彼岸花のことをさすが、三好達治は、その詩のなかで、辛夷の花にその名をつけている。