福井を舞台に、夢を諦めざるを得なかった男の姿を描いた『いっちょらい』が６月17日池袋シネマ・ロサで初日を迎え、主演の松林慎司さんや共演の太田美恵さん、安楽涼さんら出演者と片山享監督が舞台あいさつをおこないました。

　福井の方言で「一張羅、自分にとって一番いいもの」を表す言葉をタイトルにした『いっちょらい』は、父の病気のために上京を諦めて実家の中華料理店を継いだ主人公・テツヤの姿を通して「幸せのあり方」を問いかける作品。
　撮影されたのは３年前で、テツヤ役で長編初主演をつとめた松林慎司さんは「ようやく公開ということで、待ちわびていた気持ちと、ついにこの日が来てしまったかという、大変に入り混じった気持ちですけれども、たくさんのお客様に観ていただけて、ほんとに嬉しいです」とあいさつしました。

　もともと２０１７年に福井の街で映画を作る企画「ふくいムービーハッカソン」に片山監督が参加し、初監督作として松林さん主演で同タイトルの短編『いっちょらい』を監督しており、今回の長編はそのセルフリメイクにあたります。
　福井が故郷である片山監督は、２０１６年から続いていた「ふくいムービーハッカソン」が新型コロナウイルス感染症の影響で中止となる中で「せっかく根付いた映画の火というものを途絶えさせたくなくて、松林さんもずっと『いっちょらい』を長編にしたいという想いがあったので、ぼくもこの火を消さないために長編をやりましょうと」と制作の経緯を明かし、作品への深い想いを感じさせました。
（※「ふくいムービーハッカソン」は２０２１年に再開）

　映画は、中華料理屋を営むテツヤと同じ商店街で生きる人々が紡ぐドラマが中心に描かれており、松林さんは「（テツヤが）すごく自分の中で閉じこもっていたものが、商店街の方々のひとりひとりのプッシュが背中を押してくれたのではないかな、という作品になっていると思います」と感想を。

　商店街で下着店を営むカオリを演じた太田美恵さんは、テツヤのかつての恋人で現在は別の男の妻という役柄で「撮影中はずっと苦しかったです」とコメント。くすぶっている現在のテツヤに対して「どうにかしたいけど、でも（夫に過去のテツヤとの関係を）バレたくないから」というカオリの複雑な心境が苦しかったと振り返りました。

　カオリの夫でテツヤとも親しい竹内役の安楽涼さんは映画のラストに触れ、ラストシーンの撮影の前に片山監督と話し合った内容と劇中での竹内のテツヤに対する感情とが重なって「“大丈夫”ってずっと思っていて“大丈夫”と思って入っていったのは、３年前だけど明確に覚えていますね」と、撮影時の心境を語りました。

　そのラストシーンについて片山監督は「いろいろな想いが入っているから」と話し「ああいう状況でもテツヤは前に進んだんだなという。ぼくは“忘れる”とか“乗り越える”という言葉があまり好きではなくて、それはぼくが忘れられないからで、忘れられないからつらいんですけど、あえて前に踏み出す、それを結局みんなが支えているという、それぞれもそれぞれの想いがあるというのはいいなと、いつも思います」と、そこに込めたものを述べました。

　最後に松林さんは「ぼくの人生で初の長編主演作品で、初日ということで、たくさんの方に観ていただいて、ほんとに嬉しいです」と話し、作品への応援を呼びかけて舞台あいさつを締めくくりました。

　初長編監督作『轟音』（２０１９年）が海外でも高く評価され、２０２２年には５本の監督作が公開されるなど注目を集めている片山監督の最新公開作となる『いっちょらい』は、６月17日土曜日より東京の池袋シネマ・ロサにて公開中。撮影地であり舞台である福井県の福井メトロ劇場で７月１日土曜日より公開されるほか、全国順次公開されます。