トークセッションをおこなった手塚眞監督と小中和哉監督、トークの聞き手をつとめた東京学生映画祭企画委員会の藤﨑諄(ふじさき・いたる)さん(左より)。手塚監督の手には上映された『MOMENT』のロールが
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東京・渋谷のユーロライブで開催されている第34回東京学生映画祭で、8月18日に小中和哉監督と手塚眞監督の学生時代の8ミリ作品がフィルム上映され、小中監督と手塚監督のトークセッションもおこなわれました。
今回で34回目となる東京学生映画祭は、日本で最も長い歴史を持つ日本最大規模の学生映画祭で、全国公募で集められた学生による映像作品からコンペティション形式でグランプリを選出しており、青山真治監督や熊澤尚人監督ら、現在の日本映画界の第一線で活躍する多くの監督が学生時代に参加しています
入選作の上映にとどまらずさまざまな企画による上映とトークなどもおこなわれており、18日には「『大林宣彦と学生映画=いつか見た夢たち』-8ミリ・16ミリ映画特集」と題して往年の自主映画の上映企画を開催。そのひとつとして小中監督の高校時代の作品『TURN POINT10:40』(1979年)『いつでも夢を』(1980年)と手塚監督大学時代の作品『MOMENT』(1981年)の上映と両監督によるトークセッションがおこなわれました。
手塚監督は「学生映画祭に呼ばれたことをすごく嬉しく思っています」、小中監督は「上映を観て、気分はすっかり(学生に)戻っています」と、それぞれあいさつ。現在の学生には馴染みの薄い8ミリフィルムの解説も織り交ぜつつ、上映作品制作時の思い出などが語られました。
8ミリフィルムに馴染みの薄い学生に向け、上映したばかりの『MOMENT』のフィルムを見せる手塚眞監督(左)。小中和哉監督は「現像するまで3日くらいかかるので、ドキドキしながら待っていましたよね」と当時を振り返ってコメント
小中監督と手塚監督は、ともに成蹊高校映画研究部の出身で手塚監督が1年先輩。成蹊高校映画研究部では小中監督と手塚監督の作品以外にも、当時の学生映画コンテストなどで受賞する作品が数多く生み出されており、手塚監督は「ぼくらが入る何代も前から、きちんとした映画作りというのをやっていて、みんなで脚本を書き、それをみんなで検討し、1作を選び、みんなで手伝って作るというシステムが確立されていたんですね」と、同部から数々の傑作が生まれた理由を説明しました。
また小中監督は「真面目な映画が多かったんですよね」と、同部がSFやホラーなどエンターテイメント性の高い作品を作るようになったのは手塚監督や小中監督が入学してからだったと回想。
それを受けて手塚監督は、ヌーヴェル・ヴァーグやアメリカン・ニューシネマといった世界的な映画のムーヴメントを簡単に解説した上で、自主映画もそれらのムーヴメントの影響を受けており、手塚監督や小中監督はそれらのムーブメント後のハリウッド・ルネッサンスと呼ばれたジョージ・ルーカスやスティーヴン・スピルバーグに代表されるエンターテイメント作品を観ていたと説明。「それを観たあとにぼくらは作りはじめているから、そこまでの経緯が全部混ざって出てくるんですよね。それが上の世代との時代の違いなんです」「ぼくも(ヌーヴェル・ヴァーグの代表的監督である)ゴダールの影響は受けていますけど、間接的なんですよね。上の世代を経た上でのゴダールだから」と、世代の違いが作品に反映されていたと話しました。
小中監督も「手塚さんが先輩たちから“最近の奴はエンタメで軟派な映画を作るなあ”みたいに言われる感じだったのが、輪をかけてぼくはこうだった(=エンターテイメント性が強かった)から。ぼくは(手塚監督が1学年上にいたので)楽だったけど」と振り返りました。
そして現在の映画を作る学生たちをどう見ているかと尋ねられると、手塚監督は「全員がそうではないと思いますけど」と断った上で「いまの学生さんって、映画をやりたいって言う人でも、そんなにたくさん一生懸命観ていないんじゃないかという気はするんです」とコメント。ハル・アシュビー、ロバート・アルトマン、リチャード・レスター、ブライアン・デ・パルマといった監督たちの名前を「ぼくらとって教科書みたいな監督」と挙げ、インターネットもなく情報が乏しい時代にそれらの監督の作品を必死で探し回って観たことが自分の力になっていると話し「そこまで必死に探しに行くということをあまりしていないんじゃないかなって思うと、それはネットという環境のせいかもしれないし、もしかしたら個人のモチベーションかもしれないけど、ちょっともったいない時間を過ごしているのかなという気はしていますね」と、意見を述べました。
トーク中の手塚眞監督、小中和哉監督、東京学生映画祭企画委員会の藤﨑諄さん(左より)
トークセッションは、小中監督と手塚監督それぞれの、映画を作る現在の学生たちへのメッセージで締めくくられました。
小中監督は、フィルムの面積の問題から大きな劇場で上映するのが物理的に困難だった8ミリフィルムの時代と異なり、スマートフォンでも大劇場で上映できる映像が撮影できる現在は「フォーマットの上では、自主映画と商業映画の差がなくなってしまったようなもので、しっかり自主映画で作ればプロの映画として映画館でかけられる時代」になっており、それを証明したのがワークショップ映画として製作されつつ全国公開された『カメラを止めるな!』(2017年/上田慎一郎監督)だと指摘。今年3月に公開された小中監督の新作『Single8』も「自主映画に戻って劇場でかかる映画を作るみたいな気持ち」で作った作品だったと話し「自分の力さえあればプロにならなくてもプロのように映画を発信できる時代で、そういう意味では映画を作る人の気持ちって報われる時代だと思うので、そういう中から傑作が生まれることをぼくはすごく期待しています」と、現在の映画制作環境が持つ可能性に期待のエールを送りました。
手塚監督は「商業映画の監督とインディーズ映画の監督ってなにが違うかというと、商業映画の監督は“映画というのはこういうものだ”と決まっているところで映画を作っています。インディーズ映画の監督は“映画ってなんだろう?”っていつも思いながら作っているんですよ」と話し「どちらを選ぶというのはやりたいもの次第だとは思うんですけれども“映画ってなんだろう?”という疑問を感じるためには映画を知っていなくてはいけないし、もっと知りたいというときに、やっぱりいろいろな映画、昔の映画も全部観ないとわからないよなって。やっぱりそれは一番自分の中のモチベーションとして大きいのではないかと思います。だから映画を志す人には、なるべく映画を観てほしい」とメッセージを。
手塚監督はさらに「もうひとつ、具体的なアドバイス」として「観客ということを意識してほしいんです。観客のいない映画というのは世の中になくて、どんな小さい8ミリでも、どんな大作でも、絶対に観客がいる。お客がひとりしかいなかっといても、それが自分の家族だったとしても、友達ひとりだったとしても、その人が観客で“この人に見せるためにはどうしたらいいんだ?”ということをいつも頭の片隅に置いておく。ただ自分のやりたいことをやって終わりというのではなくて、どうしたら観ている人を楽しませることができるか、感動させることができるか、考えさせることができるか、それをつねに考えるのが映画作家だと思っていますので、そういう気持ちもぜひ持ってほしいと思います」と呼びかけました。
第34回東京学生映画祭は、8月18日金曜日より20日日曜日まで、東京・渋谷のユーロライブで開催中。全国の学生監督による入選作品の上映に加え入選作監督と石井岳龍監督、清水崇監督ら審査員によるトークが連日おこなわれ、19日には俳優・映画監督として活躍するオダギリジョーさんの作品上映とリモートトークイベント(※ミーティングアプリでの登壇)も開催されます。