舞台あいさつをおこなった髙橋栄一監督、福永煌(ふくなが・あきら)さん、小沢まゆさん、ミネオショウさん、木村知貴さん、河屋秀俊さん(左より)
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妻への疑念を募らせる男の姿を独特のタッチで描いた『ホゾを咬む』が12月2日に東京・新宿のK's cinemaで初日を迎え、主演のミネオショウさん、ヒロインを演じた小沢まゆさんら出演者と髙橋栄一監督が舞台あいさつをおこないました。
『ホゾを咬む』は、数々の作品に出演する女優・小沢まゆさんがプロデューサーをつとめ、現在33歳の新鋭・髙橋栄一監督がメガホンをとったオリジナル脚本の長編。主人公の会社員・茂木ハジメが、見慣れない格好の妻らしき女性を街で見かけたのをきっかけに、自宅に隠しカメラを仕掛けるなどして妻を監視していくストーリーが、モノクロームの映像で綴られていきます。
初回の上映は満席となり、上映後に登壇した髙橋監督は「特殊な映画をいっぱいの方に観ていただいたことが、すごく嬉しいです」とあいさつ。作品のテーマについて、監督自身が29歳のときにASD(自閉スペクトラム症)のグレーゾーンと診断されたのをきっかけに他人とのコミュニケーションや人との接し方について考え「コミュニケーションの一番強いのが“愛”というかたちだと思うので“愛することとはどういうことか?”をテーマにこの作品を作りました」と、話しました。
主人公の茂木ハジメを演じたミネオショウさんは、ハジメが隠しカメラで妻を監視する劇中の行動については「なかなか共感できるところではないと思うんですけど」と話す一方で、ミネオさんが20歳くらいのとき当時交際していた女性が別の男性と歩いているのをたまたま見かけて追いかけたという体験談を披露し、劇中でハジメが妻を追いかけるシーンは「ある意味、共感はできました(笑)」と話して場内の笑いを誘いました。
トーク中の小沢まゆさん、福永煌さん、ミネオショウさん、木村知貴さん、河屋秀俊さん、髙橋栄一監督。小沢まゆさんが舞台あいさつの司会進行も担当
ミネオさんは、予定では20分程度のはずだった映画冒頭のシーンの撮影が1時間半かかり「この映画は終わらないんじゃないかと思いました(笑)」というエピソードも紹介。
そのシーンについて髙橋監督は「特に意図があったわけではなく、気がついたら1時間半かかっていたという(笑)」と笑いつつ、そこで時間をかけたことで「やりたいトーンを一緒にトライしながら探していけた」と話し、ミネオさんも「間(ま)を空けたほうがいいんだなというトーンがわかった」と、その撮影で監督の狙いがわかりやすくなったと振り返りました。
ミネオさんが触れた「間(ま)」は『ホゾを咬む』のひとつの特色となっており、髙橋監督は「音を振動として耳で捉えて、脳でそれを言葉として認識して意味を理解して、自分がなにをリアクションするかを考えて、口を動かす」という、会話するときの行動のプロセスひとつひとつ意識して、一瞬でやらずに演じてほしいと出演者に伝えていたと話し、独自の演出の一端をうかがわせました。
主人公の同僚・月見里(やまなし)を演じた木村知貴さんは「独特な間合いの映画はすごく好きで、余白のある映画とかが好きなので、そういう映画をみなさんと共有できて嬉しいです」と話し、髙橋監督の間の演出についても「そういうのが好きなほうなので、嬉しかったです」と、演じての感想を述べました。
主人公の妻・ミツを演じプロデューサーもつとめた小沢まゆさんは、ミツの衣裳は実はカラフルで「スタイリストさんとか監督とかと一緒に、すごいこだわって撮影に臨んだんですけど」と、完成した映像ではわからない意外な事実を明かしました。
髙橋監督は、撮影した映像をつなげて観たときに「なんか違うな」と感じ、撮影監督の西村博光さんの助言もありモノクロで見てみたところ「色という情報が全部抜けて、人の目線がちょっと動くだけだったりとか、ちょっと角度が変わるだけとか、現場で作っていたものにフォーカスできるようになったので」色にもこだわっていたため悩みつつもモノクロに決めたと説明。
ミネオさんはモノクロになったと知らされないまま初号の試写を鑑賞し「いつカラーが出てくるんだろう」と思いながら観ていいたという裏話を披露しました。
主人公が出会う男・野老(ところ)を演じた河屋秀俊さんは、野老について「暴力的な男なんですけど、愛情も深い人間」だと表現し、その二面性を表現するため、脚本には書かれていない野老のバックボーンを自分で考えて演じていたと役への取り組み方についてコメント。
主人公の前に現れる、木の棒を持った少年・コゾウを演じた福永煌さんは「長い道を歩くシーンで3回くらいぼくが持っていた木の棒が折れちゃって、監督が“テープで巻いとけばいいよ”って言ってくれて、優しいなって思ったのを覚えています」と撮影の思い出を披露。髙橋監督は「なかなかあのサイズの棒を探すのが難しくて、ぼくは(優しく話しながらも)ドキドキしながらやっていました(笑)」と、当時の心境を明かしました。
髙橋監督は「この作品は、お話を追うものではなく、映画館で流れている時間だったりを感じて、なにかムードを味わうという作品として作ったので」と話し「いろいろな方に観ていただきたいですし、ぜひ、この作品がみなさんに届くようにお力を貸していただければと思っております。どんな感想でも寄せてもらえますと嬉しいです」と呼びかけて舞台あいさつを締めくくりました。
小沢まゆさんが主演する短編『サッドカラー』がPFFアワード2023に入選するなど注目を集めている髙橋栄一監督が、独特のタッチで観客を世界へと誘う新感覚の日本映画『ホゾを咬む』は、12月2日土曜日より8日金曜日まで東京・新宿のK's cinemaで上映され、上映期間中は髙橋栄一監督と小沢まゆさんほか出演者やゲストによるトークイベントが連日開催。12月15日金曜日より21日木曜日までは東京の池袋HUMAXシネマズで上映されるほか、全国順次公開されます。