“Jホラーの発火点”と呼ばれる伝説的作品でありながら映画史的に無視されがちな石井てるよし監督『邪願霊』と鶴田法男監督『ほんとにあった怖い話』が、東京・池袋の新文芸坐で4月15日と29日に特別上映され、29日には石井監督と鶴田監督のトークもおこなわれます。
“Jホラーの発火点”! 伝説的作品『邪願霊』『ほんとにあった怖い話』が4月に新文芸坐で特別上映
『邪願霊』『ほんとにあった怖い話』は、いずれもレンタルビデオ店でのレンタル向けに製作されたオリジナルビデオ作品。
1988年製作の石井てるよし監督『邪願霊』は、女性アイドル歌手のプロモーションを密着取材するテレビクルーが遭遇する怪異を「お蔵入りしたテレビ番組の取材テープ」というスタイルで描いた、現在も作られているフェイクドキュメンタリー・ホラーの先駆けと言える作品です。
注目すべきは劇中で使われている恐怖描写で、当時主流だった特殊メイクによるショッキングな表現も用いる一方で「ただ俳優が立っているだけなのに普通の人間ではないものに見える」という、のちに多くのホラー作品で使われる心霊表現がこの作品で生み出されています。
『ほんとにあった怖い話』は、読者投稿の恐怖体験をもとにした同名コミックを映像化した、短編オムニバス形式の作品。
鶴田法男監督自身が映像化を企画し1991年に第1作『ほんとにあった怖い話』が発表され、好評により翌1992年に続編となる『ほんとにあった怖い話 第二夜』、さらに『新・ほんとにあった怖い話 幽幻界』と、計3作が製作されました。
オリジナルビデオ版『ほんとにあった怖い話』3作がのちのホラー映像作品に与えた影響は計りしれず、『第二夜』収録の「夏の体育館」には、のちに黒沢清監督の『回路』(2001年)『叫』(2005年)など多くのホラー作品に登場し“Jホラー”のひとつの象徴と言える「赤い服の女」のルーツが登場。同じく『第二夜』収録の「霊のうごめく家」は、黒沢監督や『リング』シリーズ脚本の高橋洋さんをはじめ、多くのクリエイターが同作の衝撃の大きさを語っています。
また、このオリジナルビデオ版がきっかけとなって1999年にテレビ版『ほんとにあった怖い話』がスタートし20年以上続く長寿シリーズとなっており、日本にホラーを定着させたテレビ版につながったという点でもビデオ版はホラー史において重要な作品となってます。
黒沢清監督や高橋洋さん、さらに『リング』(1999年)の中田秀夫監督や『呪怨』(ビデオ版2000年・劇場版2003年)の清水崇監督ら、日本発ホラーを世界に広めてきたクリエイターたちが“Jホラーの発火点”と口を揃える重要な作品でありながら、劇場公開作品ではないこともあり広く知られているとは言い難い『邪願霊』『ほんとにあった怖い話』が、長い歴史を持つ名画座・新文芸坐で特別上映されます。
現在、『邪願霊』は動画配信サービスで、『ほんとにあった怖い話』は2022年にリリースされた新装版DVDなどで鑑賞自体は可能ですが、劇場のスクリーンで2作品揃って上映されるのは史上初の機会となります。
特別上映は、4月15日土曜日と29日土曜日(祝日)の2回開催。
15日は『邪願霊』と『ほんとにあった怖い話』全3作を3時間以上の上映時間をかけて一挙上映。
29日は『邪願霊』と『ほんとにあった怖い話 第二夜』『新・ほんとにあった怖い話 幽幻界』の上映と、石井てるよし監督、鶴田法男監督に篠崎誠監督が加わってのトークを開催。
黒沢清監督と共著で「恐怖の映画史」を著すなどホラー映画への造詣が深く、自身も『怪談新耳袋 怪奇』(2010年)など優れたホラー作品を手がける篠崎誠監督は、1990年代にいち早く『邪願霊』『ほんとにあった怖い話』に注目したひとりであり、篠崎監督も参加してのトークは充実した内容になること必至です。
特別上映実施にあたり、鶴田監督、石井監督、特別上映を企画した新文芸坐の番組編成・花俟良王(はなまつ・りょお)さんは、次のようにコメントしています。
『邪願霊』石井てるよし監督コメント
『邪願霊』はレンタルビデオ勃興期に全く新しいホラーを作ろうと考え制作した作品で、レンタルビデオ店の棚に埋もれていく筈のものでした、、、それが30年以上の時を経ても評価されているのは有難い限りです。Jホラーの端緒を切った『邪願霊』と、Jホラーを真の意味で確立した『ほんとにあった怖い話』が、初めて同時に新文芸坐のスクリーンに掛かるのは本当に光栄な事です。劇場においで下さり、ご覧頂ければ幸いです。
『ほんとにあった怖い話』鶴田法男監督コメント
TVドラマ『ほんとにあった怖い話』(略称『ほん怖』)の基になったオリジナルビデオ版『ほん怖』が昨年DVD発売されて大変に感激でした。実は、映画版の企画をしていたのが諸事情で形を変えたのがTVドラマ版なのです。それだけに、オリジナルビデオ版を新文芸坐さんで上映をしていただけるのは映画化の夢に少し近づけるようで本当に嬉しいです。しかも、『邪願霊』との2本立てで光栄です。是非、ご来場ださい。
新文芸坐・番組編成:花俟良王さんコメント
4/29のトークでは石井・鶴田両監督はもちろん、篠崎誠監督にも登壇いただきます。かつての自主上映会でこの作品を見た若き黒沢清監督らがショックと感銘を受けた話は有名ですが、その上映会を開催したのが篠崎監督なのです!
鶴田監督が“Jホラー”の手法を用いて中国で監督した『戦慄のリンク』(2020年・中国)の日本公開、清水崇監督の新作『忌怪島(きかいじま)』(6月16日公開)、中田秀夫監督の新作『禁じられた遊び』(9月8日公開)と、Jホラーを代表する監督たちの新作劇場公開が続く中、発表から30数年の年月を経ておこなわれる『邪願霊』『ほんとにあった怖い話』特別上映。ホラーの歴史で重要な位置を占める作品を昨年改装された新文芸坐の素晴らしい上映環境で鑑賞できるまさに特別な機会であると同時に、ひとつの表現が発展していく過程を確認できる興味深い機会でもあります。
この特別上映は観逃せない!!
なお、当サイトでは2012年に鶴田法男監督の『POV~呪われたフィルム~』公開に合わせて鶴田監督と石井てるよし監督の対談を掲載しています。こちらの記事もぜひご覧ください。
※4月10日にタイトルと本文の一部を変更しました
ここがJホラーの発火点『邪願霊』&『ほんとにあった怖い話』恐怖の銀幕特別上映
- 会場:新文芸坐 〒170-0013 東京都豊島区東池袋1-43-5 マルハン池袋ビル3F
- 開催日時:2023年4月15日(土) 18時40分~・4月29日(土・祝日) 18時00分~
- ※DVD上映
4月15日(土) 18時40分~
- 『邪願霊』+『ほんとにあった怖い話』全10話上映 (187分)
- 上映作品:『邪願霊』(49分) 『ほんとにあった怖い話』(全3話:43分) 『ほんとにあった怖い話 第二夜』(全3話:49分) 『新・ほんとにあった怖い話 幽幻界』(全4話:46分)
4月29日(土) 18時00分~
- 上映(144分)+トーク
- 上映作品:『邪願霊』(49分) 『ほんとにあった怖い話 第二夜』(全3話:49分) 『新・ほんとにあった怖い話 幽幻界』(全4話:46分)〉
- トーク登壇者:石井てるよし監督 鶴田法男監督 篠崎誠監督 (予定)
邪願霊
- 石山一枝 梅原正樹 竹中直人 佐藤恵美 KURO 吉田照美 水野晴郎 本田修一
- 監督:石井てるよし
- 製作:石浜竜三
- プロデューサー:藤田進/高橋廣行/木村智生
- 構成・サウンド・ビジュアルデザイン:小中千昭
- 編集:深沢佳文
- 音楽:うさうさ
- ヘアメイク・フェイスデザイン:トニー・タナカ
- メイクアップ・イリュージョン:若狭新一
- 1988年/49分
- ※画像は2005年リリースのDVDジャケット(現在廃盤) ちなみにジャケットに登場している竹中直人さんは本編ではほとんど後ろ姿だけでしか登場しない
ほんとにあった怖い話
- 浅沼順子 久野博美 森口舞 後藤宙美 石川しのぶ / ナレーター:玄田哲章
- 監督:鶴田法男
- 脚本:小中千昭/鶴田法男
- プロデューサー:伊藤直克/小椋悟
- 原作:「ほんとにあった怖い話」(朝日新聞出版刊)
- 1991年/43分
ほんとにあった怖い話 第二夜
- 寺田恵美 小笠原亜里沙 伴直弥(伴大介) 相沢朱音 / ナレーター:玄田哲章
- 監督:鶴田法男
- 脚本:小中千昭
- プロデューサー:伊藤直克/植村康忠
- 原作:「ほんとにあった怖い話」(朝日新聞出版刊)
- 1992年/49分
新・ほんとにあった怖い話 幽幻界
- 山中ひとみ 小堺忍 白石玲子 相沢朱音 山田寿子 江口秀太郎 水上竜士 / ナレーター:相見陽子
- 監督:鶴田法男
- 脚本:小中千昭
- プロデューサー:伊藤直克/植村康忠
- 原作:「ほんとにあった怖い話」(朝日新聞出版刊)
- 1992年/46分
- ※画像は2022年にマクザムよりリリースされた全3作と特典映像を収録した新装版DVDジャケット。現在も入手可能