出演する俳優自身が企画立案し、古澤健監督がメガホンをとった2作品『いずれあなたが知る話』『見たものの記録』が、東京の下北沢トリウッドで「なんてこった異次元映画セレクション」として5月13日より3週間にわたり同時期上映されます。
『一礼して、キス』(2017年)『青夏 きみに恋した30日』(2018年)などの劇場用作品や「鉄オタ道子、2万キロ」(2022年)などテレビドラマの監督をつとめ、近年は『たわわな気持ち』(2019年)でピンク映画にも進出。また映画美学校アクターズ・コースの授業から生まれた『ゾンからメッセージ』(2018年/鈴木卓爾監督)のプロデュースと脚本をつとめるなど、ひとつのジャンルに留まらず意欲的な活動を見せてきた古澤健監督。
その最新作となる「なんてこった異次元映画セレクション」の2作品は、映画制作における俳優と監督の関係の新たなあり方を提示するものになっています。
2作品のひとつは、大山大(おおやま・ひろし)さんと小原徳子(こはら・のりこ)さん、ふたりの俳優がダブル主演をつとめ、それぞれプロデューサーと脚本も担当した『いずれあなたが知る話』。風俗で働くシングルマザーと彼女の秘密を見つめるストーカー男のノワール・サスペンスです。
プロデューサーをつとめストーカー男を演じた大山大さんは、話題となった金曜ナイトドラマ「漂着者」(2021年)やSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021ノミネート作『アリスの住人』(2021年/澤佳一郎監督)などテレビドラマや映画で俳優として活躍しつつ、監督作の短編『点滅する希望』『令和賭博伝アキモト』が映画祭で上映されるなど活躍の場を広げています。
脚本を手がけシングルマザーを演じる小原徳子さんは、デビュー以来着実に俳優としての実績を重ね、近年は『窮鼠はチーズの夢を見る』(2019年/行定勲監督)などの映画や舞台での活躍に留まらず、ネット配信のコント番組「インシデンツ」(2023年/佐久間宣行プロデュース)への出演も話題で、今回が初脚本作品。
小原さんが数年前から構想していたオリジナル企画が、俳優自身が演じる場をプロデュースすることに意義を見出していた大山さんとタッグを組むことにより映画化が実現。大山さんと小原さんふたりの俳優としてのキャリアに基づく感覚でキャスティング、スタッフィングが進められ、出演俳優陣の推薦により古澤監督が決定するという、俳優主導で作品作りが進められました。
狂気をはらむ役を多く演じてきた大山さんと、現代社会で生きづらさを抱える女性を演じてきた小原さん、ダブル主演のふたりはもちろん、ふたりが信頼を置く俳優陣の演技に注目です。
『見たものの記録』メインヴィジュアル(※クリックで拡大します)
2作品のもうひとつは、菊地敦子さん、深澤しほさん、雪深山福子(ゆきみやま・ふくこ)さんらが出演し、4年をかけて制作された『見たものの記録』。タイムスリップ実験と俳優たちの自主映画作りが交錯していく、新感覚のタイムリープ映画です。
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022国内コンペ部門優秀作品賞受賞作『ダブル・ライフ』(2022年/余園園監督)で主演をつとめた菊地敦子さん、演劇カンパニー・ヌトミックに所属し舞台を中心に活動しつつ『春原さんのうた』(2022年/杉田協士監督)など映像作品にも出演する深澤しほさん、2016年より放送のテレビアニメ「ぼのぼの」でメインキャラクター・ぼのぼのの声を演じるなど声優として活躍中の雪見山福子さん、そして秋本ふせんさん、フチノミユさん、的場裕美さんの『見たものの記録』出演者は、映画美学校アクターズ・コースの第5期修了生。
『見たものの記録』は、ともに学んだ俳優たちが自ら映像での演技の場を作ろうと、同コースの講師をつとめていた古澤監督に声をかけてスタートしました。
2019年の夏に始まった、出演者のスケジュールに合わせてその日その日に撮れる内容を古澤監督が台本を作り撮影するという実験的なスタイルで進められ、断続的に4年がかりで完成に至りました。
『いずれあなたが知る話』と『見たものの記録』は、それぞれ独立して制作された作品でありながら、古澤監督がメガホンをとっているのに加え、いずれも俳優自身が企画立案して生まれたという共通点があり「なんてこった異次元映画セレクション」として同時公開が実現しました。
両作品とも、準備段階から仕上げに至るまで、従来の多くの作品がそうであったようなトップダウン式ではない水平的な関係の中で、キャストとスタッフが互いのアイディアを持ち寄りながら作られた作品。
2作品を鑑賞することで、映画作りの新しいあり方に触れ、そこにある喜びを作り手である俳優陣やスタッフとともに見出すことができるでしょう。
2作品の公開を前に、古澤監督は以下のようにコメントを発表しています。
古澤健監督コメント
『いずれあなたが知る話』『見たものの記録』、2本の映画に共通するのは俳優たちが主導で始まった企画であるということです。
『いずれ〜』に関わることになったのは、出演者のひとりでもあるはぎの一さんからのお誘いでした。
プロデューサーの大山大さん、脚本家の小原徳子さん、おふたりだけではなく、関わる俳優たちみんなが力を合わせて作品を作ろうとしている思いの一端を、はぎのさんからの電話で感じていました。
『見たものの記録』は、私が講師をしていた映画美学校アクターズ・コース5期の修了生たちが、「一緒に映画を作りましょう」とLINEグループを作ってくれたことがきっかけで始まった企画です。演劇を中心として活躍する俳優たちが、自分たち自身で映画での表現の場を作ろうとしている、そのことに面白さを感じました。
俳優たちが積極的に「作者」として振る舞うことが、これからの映画には必要なのではないか。
そんな思い持つようになって10年くらいが経ち、そのタイミングでこの2本に関わることができたことは映画の作り手として本当に幸運なことです。
私自身にとっても新しい挑戦であると同時に、8ミリ映画を撮っていた高校大学時代の平等で自由な現場に還ったような感覚です。
観客のみなさんにとっても、この2本から新しい鑑賞体験が始まることを願っています。
『いずれあなたが知る話』『見たものの記録』は、下北沢トリウッドにて、5月13日土曜日より3週間にわたり、休館日の火曜を除く連日各作品1回ずつ上映。
1作品ごとに別料金での上映ですが、どちらか1作品の鑑賞済み半券提示で割引となる「2作品割」が実施されます。「2作品割」は別日でも有効で、1日で2作を鑑賞する場合も、1日に1作品ずつ複数日で2作品を鑑賞する場合にも適用されます。
また「なんてこった異次元映画セレクション」開催期間中の毎週末には「古澤健監督関連作品上映」として、古澤監督が関わった過去の3作品が上映されます。
映画美学校アクターズ・コース第2期受講生が出演するSF青春群像劇で、古澤監督はプロデュースと脚本をつとめた『ゾンからのメッセージ』。
古澤監督の商業作品監督デビュー作となるスローライブPUNKムービー『ロスト★マイ・ウェイ』(2004年)。
ピンク映画のR-15版となるエロティックホラー・コメディ『キラー・テナント』(2020年)。
公開期間中の土曜日・日曜日には「なんてこった異次元映画セレクション」2作品と古澤監督関連作品1作品の計3作品を1日で鑑賞することも可能で、つねに古澤監督の意欲的な取り組みを体感できる3週間となります。
さらに、「なんてこった異次元映画セレクション」開幕に先駆けた5月10日水曜日には、東京・東中野のSpace & Cafeポレポレ坐で古澤監督の最新作『STALKERS』(2023年)が上映されます。
この上映は、同会場で開催されている連続自主映画上映イベント「KANGEKI 間隙」の23回目として「なんてこった異次元セレクション#0」と題されておこなわれるもので、上映のほか古澤監督によるトークもおこなわれます。
映画における俳優の役割の新たなかたちを提示し、同時に古澤監督の意欲的な活動に触れられる「なんてこった異次元映画セレクション」とその関連企画は、日本映画の現在と未来の可能性を体感できる機会にもなることでしょう。イベント公式サイトや『いずれあなたが知る話』公式ツイッターアカウントで発信される最新情報に注目です。