ある宗教2世の遺書をきっかけに、新興宗教入信経験を持つ新人・平田うらら監督が「宗教虐待」の実態を描いた衝撃作『ゆるし』が、2024年3月22日よりアップリンク吉祥寺で公開されることが決定。メインヴィジュアルとメイン写真が解禁され、主演もつとめた平田監督とダブル主演の安藤奈々子さんのコメントが公開されました。
『ゆるし』は、立教大学現代心理学部映像身体学科で映画を学び、在学中からテレビドラマ「カカフカカ-こじらせ大人のシェアハウス-」(2019年)や映画『怪物の木こり』(2023年/三池崇史監督)などの制作部として経験を積んできた平田うらら監督が、同大学教授である映画監督の篠崎誠さんの指導のもと、在学中に制作した初監督作品。
宗教を信仰する親のもとで育った宗教2世が信仰を背景に受ける虐待「宗教虐待」がテーマとなっています。
映画制作のきっかけとなったのは、平田監督の友人であった宗教2世が、この世を去る前に遺した、その苦しみを綴った遺書。
自身も大学在学中に新興宗教に入信しつつ周囲の支えで退会した経験を持つ平田監督は、友人の遺書の内容に触れ、その痛みと想いを伝えたいと映画制作を決意し、数百人にのぼる宗教2世への取材を重ねて映画化に臨みました。
映画は、家では親に虐待され学校ではイジメに遭う宗教2世の少女とその母親を主人公に、娘、母、祖母たち三世代の視点から多面的に宗教虐待の実態が描かれていきます。
信仰に疑問を抱きはじめながらも母親への愛を捨てきれない主人公・松田すずを演じるのは、平田うらら監督自身。
そして『八月は逃げて走る』(2022年/井上優斗監督)『A SIBLINGS』(2023年/中岡祐太監督)などに出演する新進女優の安藤奈々子さんが、オーディションで見せた圧巻の演技から、撮影当時24歳ながら、すずの母親・恵役に起用され、実年齢を大幅に上回る37歳の役に挑んで平田監督とともにダブル主演をつとめています。
公開決定にあたり、平田監督と安藤さんは、次のようにコメントを発表しています。
脚本・監督・主演(松田すず役):平田うらら監督コメント
本作は、宗教二世である、私の友人が残した遺書に感化されて生まれました。
彼女とは、私が入信していた新興宗教で出会いました。私は元々、自ら入信した宗教一世です。
私が入信したきっかけは、就職活動のOB訪問で出会った方が新興宗教の信者だったことです。
当時、就職活動で落ち続け、自信を無くしていた私にとって、不安を取り除き自信を与えてくれるその方が救いでした。彼女が信者だった新興宗教の集会に参加するようになり、やがて、私を必要としてくれて、愛してくれるその団体が居場所になっていきました。
ただ、しばらくするとその団体は、彼氏や友達と別れることを強要してきました。私がそれを嫌がると集会に参加させないなど仲間外れにしました。私は一度信じてそこが居場所になっていたので、違和感があっても、居場所を失うことが怖くて脱会できませんでした。
さらに家族が新興宗教にはまっておかしくなっていく私を諦めずに支えてくれました。また、家族に説得され、プロテスタントの牧師の話を聞くようになりました。私の信じていた新興宗教は、信者以外を皆サタン側とみなす。しかしプロテスタントは信者以外を隣人と見なして愛を注いでいました。牧師さんと会話を重ねるうちに、洗脳が徐々に覚めて、新興宗教から脱会できました。脱会後は、プロテスタントの信者となり、自由で楽しい生活を送っておりました。
そんなある日、当時私と同じ団体にいた宗教二世の友達が自ら命を絶ったことを知りました。その子が遺書を残していて、私は人づてにその遺書の内容を聞きました。そこには、信仰ではなく、ありのままの自分を親に愛して欲しかったと書いてあったそうです。
彼女の死を知った時、耐えられない弱い想いにかられ、救えなかったことに言い訳をしました。脱会後、団体のおかしさに気づいても連絡を取らなかったのは、立場的に取れなかったからだ。脱会した私は、その団体にとってはサタン。そんな私が連絡したら、彼女に迷惑がかかる。だからできなかった。私は自分だけ脱会して、のうのうと生きていたことを必死に肯定しました。
彼女を救えたかもしれない。その後悔が消えることはなく、やがて、どんなことも彼女を救えなかった理由にはならないと思い知りました。団体の教えがどうであれ、命より尊いものは無い。私が彼女を救えなかったことに、何の言い訳もできない。そう考えた時、私にできることは、彼女の想いを伝えていくことだと思いました。
いつか宗教二世の問題が形骸化する時がくる。当事者がどれだけ辛い思いをしたのかは忘れられ、「2022年には宗教二世問題が露呈した」とだけ教科書に書かれる時代が来るでしょう。でも、絶対に風化させてはいけないのは、その問題の中で生きてきた、人の痛みと想いです。彼女の遺書に綴られた想いこそ、忘れられてはいけないと思いました。
この痛みと想いだけは後世に伝えて、二度と彼女のような想いをする人が生まれないようにする。これが、脱会できて、今生きられている私にできることだと思いました。そして、大学で映画を学んでいた私は、彼女の想いを映画にして伝えていくと決めました。
「ゆるし」はフィクションであり、決して彼女の遺書をそのまま物語にしているわけではありません。ご親族の気持ちも考え、彼女とはまったく関係ない主人公像にしています。それでも彼女の痛みと想いを届けること。この軸だけは曲げず、物語を作りました。
この映画で宗教二世の方の想いが伝わることを、そして宗教二世の方が苦しまない世になることを、切に願っております。
主演(松田恵役):安藤奈々子さんコメント
「恵を任せたいです」その言葉を監督から受けた瞬間、色々な感情が駆け巡ったことを覚えています。あらゆるメディアで宗教二世の実情が取り立たされている中、それをテーマとした作品であること、実年齢と大きく離れた役柄、大きな覚悟が必要でした。
撮影に入る前から撮影期間が終わるまで何度も壁にぶつかりましたが、「今、この作品を創り上げて世に残さなければならない」という監督の強い想いと、当事者の方々の声、スタッフや関係者の方々の大きな支えがあり最後まで役を全うすることができたと思っています。
劇中には苦しさが募る場面もありますが、どうかこの作品に目を向けて頂けたら幸いです。
近年、宗教2世や宗教虐待がメディアで取り上げられる機会も多い中、制作前から『ゆるし』には大きな期待が寄せられており、クランクインに先立って実施されたクラウドファンディングは目標額を上回る金額を達成し、制作費用はすべてクラウドファンディングで賄われました。
また、当たり前の自由を謳歌したい、その一方で親への愛を断ち切ることもできないという主人公・すずの想いをはじめ、実際に数百人の宗教2世に取材することで得られたリアリティには、多くの驚きと称賛の声が寄せられています。
2001年生まれの若き監督が、映画によって伝える、後世に残すという映画の力を信じて作り上げた『ゆるし』は、2024年3月22日金曜日より東京のアップリンク吉祥寺にて公開、ほか全国順次公開されます。