舞台あいさつをおこなった平田うらら監督、安藤奈々子さん、進藤沙也佳さん(左より)
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特定の宗教を信仰する親のもとで生まれ育った「宗教2世」や信仰を背景とした虐待「宗教虐待」を題材とした劇映画『ゆるし』が3月22日に東京のアップリンク吉祥寺で初日を迎え、主演もつとめた平田うらら監督とダブル主演の安藤奈々子さん、共演の進藤沙也佳さんが舞台あいさつをおこないました。
『ゆるし』は、宗教2世で学校でイジメに遭っている高校生・松田すずと、すずの母親で新興宗教の熱心な信者である松田恵を主人公に、宗教2世や宗教虐待の実態を、娘、母、祖母たち三世代の視点から描いた作品。
立教大学現代心理学部映像身体学科で映画を学んだ平田うらら監督が、宗教2世であった友人の死をきっかけに、友人が手紙に遺した痛みと想いを伝えたいと在学中に制作した初監督作品で、数百名におよぶ宗教2世の方々へ取材を重ね、リアルな宗教虐待の実態が描かれています。
公開前からSNSなどで注目を集めており、初日は数日前にチケット完売となる盛況のスタートとなりました。
自ら主人公のすずを演じている平田監督は「センシティブな内容なので、オーディション後に(主演予定だった俳優が)降板してしまって、致し方なく、演技経験がないけれどすべてのセリフが入っている私が主演がつとめました」と主演と監督を兼任した経緯を説明。撮影中は監督としてカメラや照明など技術面を確認してすぐ気持ちを作って演技するなど「気持ちの切り替えが大変」で監督と主演の両立に苦労もあったようですが、取材で会った数百名の宗教2世の方々の「手の動きや目の動き」を記憶しており「その経験が活かされて、このような演技になったのかなと思います」と、演技について振り返りました。
すずの母親・恵を演じて平田監督とともにダブル主演をつとめた安藤奈々子さんは、元々すず役でオーディションを受けており、その際に代役で恵を演じたのがきっかけで監督から恵役を依頼されたそうで、実年齢より10歳以上も年齢が上の役に「最初は戸惑いが大きかったですし、私につとまるかなというところも」あったものの、ヘアメイクの助けもあり、声色や仕草で年齢を意識しつつ、年齢以上に「芯の純朴さだったり、そういう信念は忘れないようにしようと思いながら」演じていたと回想。
すずへのイジメを主導する同級生・安藤美香を演じた進藤沙也佳さんは、プロの俳優ではなく撮影当時は平田監督と同じゼミの学生で、出演にあたっては「平田監督の信念であったりとかお話を聞いて、中途半端にやったら伝えたいものは伝わらないなと思ったので、自分でも止められないくらい、やりすぎなくらい」で演じたと話しました。
撮影で印象に残っていることを質問されると、進藤さんはイジメに関わる激しいシーンが多い中で、スタッフが事前に細かくカット割を説明したり入念にリハーサルをおこなったり「演者を身体的にも精神的にも守ってくれようとしている」のを感じたのが印象に残っていると回答。
同じ質問に安藤さんは、重い内容の上に室内での撮影が続いてキャストもスタッフもピリピリしていた時期に、海での恵と幼いすずと夫の回想シーンの撮影があり「私としてはちょっとした心のリフレッシュみたいな感じで、恵としても幸せな時間だったなと思います」と答え、撮影全般を通して、すずの幼少期を演じた子役の青山心夏(あおやま・ここな)さんの存在に助けられたと話しました。
また『ゆるし』は制作費を全額クラウドファンディングの支援で賄った低予算作品で、平田監督は低予算のために予告編やポスター写真にも使われている雪のシーンも撮影用の雪を降らすことはできず「たまたま雪が降ってくださって、そのおかげであのシーンができて」と明かし、映画制作が多くの方々の支援に加えて「天候にも支えられました」と話しました。
平田監督の友人で司会をつとめた俳優・歌手の石川鈴菜(いしかわ・りんな)さんも交えて。左より、平田うらら監督、石川鈴菜さん、安藤奈々子さん、進藤沙也佳さん
舞台あいさつの最後に、進藤さんは「この映画を観て、宗教2世の問題に関心があった方も、いままで考える機会がなかった方も、なにかしら考えるきっかけになるような、そんな映画になればいいなと思っております」と、安藤さんは「本作はフィクションにはなるんですけど、実際にこういった事実が存在しているので、当事者の方々には、寄り添えるというか、なにか行動のきっかけのひとつになればいいなと思いますし、当事者でない方々には、この問題に目を向けていただくきっかけになればいいなと思います」と、それぞれメッセージを。
そして平田監督は、現在は宗教2世の問題が社会で大きな関心を集めているものの「これからは風化と闘っていかなくてはなりません」と考えを述べ「この映画を観て、宗教2世の苦しみの実態というものを、まずは知っていただきたいという想いがありました」と映画制作の動機となった想いを改めてコメント。
監督はさらに、劇中での描写は取材で知った宗教2世の方々の実体験に基づいており「フィクションではあるんですけど、すべてのシーンに嘘はないんです」と話し「メディアでは(宗教2世について)献金とかの問題を取り上げますけど、その裏にある、親への愛と自由を葛藤する、この苦しみをまずみなさまにお伝えしたいと思って、そこは大事にして作りました。本作は親子の問題を中心に描いておりますが、学校の対応であったり、祖父母の対応というものも入れております。これは、宗教2世の問題を、家庭の問題にしてはいけない、社会の問題としてどうしたら解決できるか、多角的な視点から語られるようになっていただきたいとい意図がありました。それを語れるような方が増えることが、社会で宗教2世の問題を風化させずに減らしていくことにつながると思っております」と作品に込めた想いを述べ「風化させないためにも、みなさまのお力が必要です」と強調しました。
そして、公開前にSNSで話題となったことが『ゆるし』の満席でのスタートにつながったことから「全国に届けていくためにも #映画ゆるし を付けての投稿をお願いします」と、SNSでのさらなる作品の後押しを呼びかけて舞台あいさつを締めくくりました。
2001年生まれの若い監督が映画の伝える力に想いを託した『ゆるし』は、3月22日金曜日より東京のアップリンク吉祥寺にて上映中。上映期間中には「宗教2世の問題を知っていただく機会を」という監督の意向により、ジャーナリストの鈴木エイトさん(3月23日)や宗教2世であることを公表している元・お笑い芸人で西東京市議会議員の長井秀和さん(3月24日)ら、宗教2世・3世当事者も含め宗教2世問題に詳しい方々を招いての平田監督とのトークショーが上映後に連日おこなわれます。