舞台あいさつをおこなった小林春世さん、小原徳子さん、有田あん監督、山岡竜弘さん、瑞生桜子(みずき・さくらこ)さん、二條正士さん(左より)
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有田あん監督の初長編監督作で、妊娠や出産をめぐる群像劇『渇愛の果て、』が5月18日に東京の新宿K's cinemaで初日を迎え、主演もつとめた有田あん監督と共演の山岡竜弘さん、小原徳子さんらが舞台あいさつをおこないました。
劇団・野生児童を主宰する有田あん監督の長編映画初監督作となる『渇愛の果て、』は、生まれてきた子どもが難病を持っていた女性・眞希を主人公に、眞希の夫や友人、家族たちの姿を通して、妊娠中に胎児の障害の有無を調べる出生前診断や妊娠・出産・障害などについてのさまざまな考え方を提示していく群像劇。
有田監督の友人の実際の体験をもとに医師や助産師、障害を持つ子の親などに取材を重ねて作られた実話ベースの内容で、2020年に舞台劇として上演予定だったものが新型コロナウイルス感染症の影響で上演中止となったことを受けて映画化が始動し、4年を経て公開を迎えました。
上映は満席でのスタートとなり、終映後に舞台あいさつに登壇した有田監督は「不安な毎日だったんですけれども、無事に満席になってとにかくありがたい気持ちでいっぱいです。ありがとうございます」と感謝を述べました。
有田監督は「もう少し、出産とか妊娠に関して前もっての予備知識があるだけで未来の可能性が広がったり、隣りにいる友人がどんなことを考えているのかという想像ができるようになったら、少しだけ優しい世界になるんじゃないかなと思って、想いを込めて」映画を作ったと説明。また取材を進める中での「もっと医療従事者側のお話も知ってもらえたら」という想いや、台本を読んだ男性キャストの反応から「より多角的な目線を入れられたらいいなと」考えから、女性を主人公にしつつも医療従事者や男性の視点も含んだストーリーになったと話しました。
主人公・眞希の夫・良樹を演じた山岡竜弘さんは、有田監督が「ほんとに(企画のスタートから数えて)5年間、命がけでこの作品を届けようとがんばり続けて」いたと話し、満席でのスタートが「ほんとによかったと思います」と初日を迎えての心境を。
また山岡さんは、劇中で眞希と良樹が難病の子どもをどう育てていくかを話し合うシーンの撮影では、直前に実際に難病の子を持つ方の話を聞いた上で撮影に臨み「お芝居が終わったあとに、(話をきかせてくださった)その方と目配せをして“いまのはお互いに持ち合えた感覚だよね”と確認しながらながらやったということがありましたね」と、撮影を振り返りました。
眞希の高校時代からの友人・里美を演じた小原徳子さんは、有田監督の初映像監督作である短編『光の中で、』(2019年)をプロデュース・主演しており、また『渇愛の果て、』でも舞台中止決定後に長編映画化を有田監督に勧めたという、出演だけでなく有田監督が初の長編を手がける上でのキーパーソン。
有田監督を「とにかく諦めない女、前に突き進み続ける女」と評した小原さんは、有田監督の舞台を観たときに「ありちゃん(有田監督)の描く家族の絆がすごく純粋にストレートであったかくて、それがすごく素敵だった」と振り返り、プロデュース作の監督を依頼した際も『渇愛の果て、』映画を勧めた際も「ありちゃんだったら、自分の心の内をさらけ出すのがすごく上手で、それが素直にみなさまの心に届くのじゃないかなという想い」があったと話しました。
里美と同じく眞希と高校時代からの友人・桜を演じた瑞生桜子さんは、眞希・里美・桜・小林春世さんが演じた美紀の4人の親友グループを演じる上で、初対面の共演者もいる中で「親友の空気感」をどうしたら出せるか心配もしていたそうですが、実際に現場に入ると、親友役の4人が「あれ、10年来の仲だったっけ? みたいな空気感(笑)」になるほどお互いすぐに馴染んでいったと話し「その空気感がそのまま映画にも映っているなって思いました」と感想を。
同じく眞希の親友・美紀を演じた小林春世さんは、妊娠を先延ばしにして仕事に打ち込んでいるという役の設定が周囲の友人たちに近く「私には一番リアルだなと感じられました」とコメント。また外国人の夫を持つという設定については「ふたりはただフィーリングがあったから(結婚して)、それが外国の人だったというだけ」と、あえて意識しないことを意識していたと役について語りました。
映画の中では、眞希、里美、桜、美紀それぞれのパートナーである男性たちの交流も描かれており、桜の彼氏・隆を演じた二條正士さんは、瑞生さんのコメントと同様、男性陣も初共演のキャストもいて緊張もあった中「楽しい人達が集まっていたんですよ(笑)」と、男性側キャストも撮影では緊張なく打ち解けていたと撮影の様子を明かし、完成した作品を観て「みんな次に進もうとしている希望みたいなのがちょっと見えて、自分も力をもらえたな」と感じたと話しました。
舞台あいさつの最後に有田監督は「私はまだ映画の経歴もないのに、信じて観に来てくださったことが一番嬉しいです。ありがとうございます」と改めて客席を埋めた観客のみなさんの感謝。
そして「観てもらって、いま、どう考えているかは人によってまったく違うと思いますし、逆に私から“こう思ってほしい”という言葉はなにもなくて、みなさんがいま感じたままで、このあと友人とお話したり、大切な人と話したりしてほしいなというのが一番の願いです」と話し、感想をSNSなどで広めてほしいと呼びかけて舞台あいさつを締めくくりました。
舞台あいさつ登壇者のほか、輝有子さん、大山大さん、辻凪子さん、大木亜希子さんらが出演し、軽妙な登場人物の会話がシリアスなテーマを重くなることなく「知ること」の大事さを描く『渇愛の果て、』は、5月18日土曜日より24日金曜日まで1週間、新宿K's cinemaで上映ほか全国順次公開。K's cinemaでは、監督と出演者やゲストによるトークイベントが連日おこなわれます。