舞台あいさつをおこなった千勝一凜(せんしょう・いちか)さん、長谷川朝晴さん、矢柴俊博さん、宮本真希さん、篠原哲雄監督(左より)
※画像をクリックすると大きく表示します
「本」を巡る旅を描いたハートウォーミングなロードムービー『本を綴る』が10月5日に初日を迎え、新宿K's cinemaで主演の矢柴俊博さんと共演の宮本真希さん、篠原哲雄監督らが舞台あいさつをおこないました。
『本を綴る』は、街の本屋や図書館といった「本の居場所」と作家を応援しようと企画された作品。小説が書けなくなった作家・一ノ関哲弘を主人公に、日本各地の個性豊かな「本の居場所」を巡る旅の中で哲弘が見つけ出していくものが、那須、京都、高松と舞台を変えていくロードムービーのかたちで描かれていきます。
篠原哲雄監督が総合プロデュースもつとめ、自主レーベル・ストラーユを設立して制作した作品で、脚本とプロデューサー、キャスティングをつとめた千勝一凜さん曰く「手作り感満載で、みなさんと一緒に作るというかたちで」作られた映画。
主人公の一ノ関哲弘を演じた矢柴俊博さんは、那須の図書館での宮本真希さんとの共演シーンが、直前まで宮本さんや篠原監督、千勝さんたちと「どうしたら成立するんだろう」と話し合いながら作ったと振り返り「こんなに現場で“どうする? ああしよう、こうしよう”って話し合って作る映画というのは、ぼく自身初めてだし、もうない気がします。みなさまに見えるかわからないんですが、そういう熱がこもった映画で、ぼくにとっては、まだもう少し冷静に見られない映画になっております」と、キャストとスタッフがみんなで作る「手作り感」ゆえの作品への思い入れの深さをうかがわせました。
哲弘が訪れる那須の図書館の司書・石野沙夜を演じた宮本真希さんは、演じるにあたりあまりキャラクターを誇張せず「那須に住んでいる人」の感じを出したかったと話し「徹底して空気感を重視して、芝居をしないこと、気持ちを大事にやることというのを念頭に作った役ですね」とコメント。
哲弘の大学時代からの友人で京都の書店店長をつとめる小笠原功二を演じた長谷川朝晴さんは、矢柴さんと共演するある屋外ロケのシーンが、撮影許可が取れなかったため急遽当日に別の場所を探し、演技も場所に合わせて変えながら撮影したというエピソードを紹介し「“さあ、このシーンどうしよう?”みたいな、みんなでその場でその場で作って撮ったなというのが、手作り感があってよかったですよね。なんだか楽しかったなあって思います」と、撮影の感想を述べました。
篠原監督は「自主制作みたいな感じだった」と作品について話し、那須、京都、高松、関東周辺と撮影場所ごとに期間が開けて「断続的」に撮影するかたちだったため「ぼくの昔の映画で『草の上の仕事』というのがあるんですけど、それも断続的に撮っていったので、ちょっとにているかもしれないなと思い出したり」と、自主制作のかたちで作られた1993年の初期監督作のタイトルを出してコメント。
さらに監督は「気分としては、俳優さんが自由にできた現場作りができたから、よかったなというふうには思いますね」と話し、その実例として、高松での矢柴さんと加藤久雅さんのふたりでのシーンは「リハーサルを繰り返して、そこから再構築していったのがあのシーンだったんですよね」と紹介しました。
篠原監督のその話を受けて矢柴さんは「篠原監督が役者の自主性みたいなものをすごく尊重していただけるので、テイクごとに違う芝居がどんどん生まれてくるんです。それを監督が拾って“じゃあこうしよう”みたいな、そういう篠原映画の真髄みたいなものがすごい詰め込まれていて、面白かったですね」と篠原監督の演出の印象を。また、長谷川朝晴さんと加藤久雅さんとでは一緒に演技をするときの感触がまったく違ってそれぞれのよさがあったと話し「それはたぶん、シーンの雰囲気にも出ているんじゃないかなって」と話しました。
『本を綴る』は、東京の書店を応援する企画として制作された2022年配信のウェブドラマ「本を贈る」の評判を受けて制作された続編にあたる作品で、前作「本を贈る」にも同じ作家・一ノ関哲弘役で出演している矢柴さんは「同じ労力で作っているので、映画とウェブドラマという媒体の違いはあまり感じていなかったんですけど、こういう日を迎えると“映画を作ったんだな”っていうことの重さと大きさをすごく感じるんですね。いい話に持っていくわけじゃないですけど、ほんとにありがたいですし、すごく晴れがましい気持ちですし、やっぱり映画を観て育ったので、映画館で、お客さんの前であいさつすることができるというのはほんとにありがたくて、ふざけているように見えますが(笑)、すごく喜んでいます。ありがとうございます」と、照れたような笑いも見せながらあいさつ。
千勝さんは、劇中に登場する本屋や図書館が、各地の実際の本屋や図書館で撮影されていることに触れ「みなさまのご厚意で使わせていただいています」「那須であったり京都であったり香川であったり東京、千葉、いろいろなところのみなさんが協力してくださったと、すごく感謝しています」と、作品が制作されるのに欠かせなかった各地の方々の協力への感謝を述べました。
トーク中の千勝一凜さん、長谷川朝晴さん、矢柴俊博さん、宮本真希さん、篠原哲雄監督(左より)
舞台あいさつは、キャストと監督のコメントで締めくくられました。
矢柴俊博さん「とても小さな映画です。そして、扱っているモチーフもひじょうに小さいモチーフです。こういう作品というのは昨今、作られることがひじょうに難しいという現状がありますけど、もしよかったら、少しでも気に入っていただけたら、一緒にこの映画を育てていくような気持ちを持っていただけたら嬉しいと思います。つまりは、面白かったと友達にラインをしたり、メールをしたり、文を書いたりしていただけたら幸いです(笑)。私たちだけでは、こういう映画を作り続けていろいろなところに残していくことはできないので、力を貸していただければ幸いです」
宮本真希さん「私も矢柴さんと同じくですね、最近の映画は派手派手しいものが多い中で、映画って情感をゆっくりゆったりと観ることができる唯一のものだと私は小さいころから思っていて、映画に出たくてこの業界を目指したんですけど、こういう穏やかさとか情感たっぷりでゆったりした日だまりのような映画は、昨今めっきり少なくなっちゃったなあと思うので、たまにこうしてこういう映画を観に来ていただいて、映画館でぜひ観ていただきたいって思いますので、一度と言わず、二度三度、足をお運びいただけたらなと思います。よろしくお願いします」
長谷川朝晴さん「ほぼ、おふたりが言ったのと同じ気持ちでございます(笑)。とにかく、本屋もそうですけど、映画館もなくなったりしていますし、体験することって、やっぱり楽しいじゃないですか。みんなで大人数でひとつのものを一緒に体験するというのが特別な時間だと思うんですよね。本屋もそうだし映画館もそうですし、みなさんが今日来ていただいたことが、先々の映画であったり本であったり、そういうものにつながっていくと思うので、おふたりが言ったように、広めていただけるとありがたいです。本日はありがとうございました」
篠原哲雄監督「この映画は、みなさんが観終わって、ちょっとでも本屋さんにもう一度足を踏み入れていただければと、本屋さんがどんどん少なくなっているという現状はあるんですけど、人にとって本屋はとても大事なものだと思いますので、足を踏み入れたい気分になっていただけたら嬉しいなと思って作りました。やっぱり、映画はお客さんによって育てられると。お客さんが観ることによって初めて“この映画はこういう意味のある映画だったのか”というふうにも育っていくものだと思うので、今日、東京の初日の1回目にいらしたみなさん、東京から徐々に広めて全国展開していきたいなと思っていますので、ぜひこの映画を応援して、また来ていただいても嬉しいですし、広めていただけたらほんとに幸いです。今日はありがとうございました」
舞台あいさつ登壇者のほか、加藤久雅さん、遠藤久美子さん、川岡大次郎さん、石川恋さん、丈さん、米野真織さんらが出演する『本を綴る』は、10月5日土曜日より東京の新宿K's cinema、千葉の京成ローザ⑩で公開されるほか、全国順次公開。
そして新宿K's cinemaでは、5日土曜日より11日金曜日までの1週間「『本を綴る』公開記念 篠原哲雄監督傑作選」と題し、前作にあたるウェブドラマ「本を贈る」(2022年)が貴重なスクリーン上映されるほか、篠原監督の初期の代表作といえる『月とキャベツ』(1996年)『洗濯機は俺にまかせろ』(1999年)が上映されます(※「本を贈る」10月6日上映 『月とキャベツ』5日・8日・10日上映 『洗濯機は俺にまかせろ』7日・9日・11日上映)。
また『本を綴る』の劇場公開や海外映画祭出品を支援するクラウドファンディングが10月31日までおこなわれています。