精力的に新作を発表し続ける今関あきよし監督の新作ドキュメンタリー『顔さんの仕事』と、猫を擬人化した新作ファンタジー『しまねこ』が、東京の新宿K's cinemaで8月から9月にかけて連続公開されることが発表され、両作品の予告映像とポスター、場面写真などが解禁されました。
8mm映画『ORANGING'79』(1979年)がぴあフィルムフェスティバルの前身であるOFF THEATER FILM FESTIVAL '79に入選するなど当時の自主映画界を代表する映画作家であり、商業映画のフィールドでも『アイコ十六歳(1983年)『タイム・リープ』(1997年)など多くの作品を送り出してきた今関あきよし監督。
2000年代以降は東欧や台湾など海外での映画作りに積極的に取り組み、近年は『釜石ラーメン物語』『青すぎる、青』(2023年)と日本各地の魅力を作品の中で描き出してきた今関監督の、内容もジャンルも異なる2本の新作が連続公開されます。
8月31日に公開されるのは、今関監督が『恋恋豆花』(2019年)を撮影した地・台湾を再び訪れ、映画看板師を追ったドキュメンタリー『顔(イェン)さんの仕事』。
かつては日本でもポピュラーな存在であった、映画館に飾られる大きな手描きの絵看板。『顔さんの仕事』は、台湾で50年以上にわたり映画館の看板絵を描き続ける顔振発(イェン・ヂェンファ)さんの姿とその仕事を捉えていきます。
いまや台湾でも数少なくなった看板絵師であり、現在も台南の映画館・全美戯院の前の路上をアトリエ代わりに看板を描いていく顔さんは、台湾でもその活動が注目され、今年2024年の台北映画祭(台北電影節/TAIPEI FILM FESTIVAL)で卓越貢献賞を受賞。『顔さんの仕事』は台湾の「国宝級看板絵師」の貴重なドキュメンタリーとなっています。
インタビュアーとして作品をナビゲートするのは、イラストと文による映画紹介で知られる映画イラストライターの三留まゆみさん。『ORANGING'79』で主演をつとめた元祖・今関ヒロインともいうべき三留さんが久々に出演者として今関作品に参加、同じ「絵を描く」という立場から顔さんを見つめます。
さらに、台湾の俳優・柏豪(Po Hao)さんが通訳として参加。
撮影は、今関監督の多くの作品で撮影を担当するほか大林宣彦監督の後期作品を支えたカメラマン・三本木久城(さんぼんぎ・ひさき)さんが担当しています。
予告編や場面写真は、看板絵に取り組む顔さんとともに、どこか懐かしさの漂う台湾の町並みが映し出されていきます。
今関監督と三留さんは、次のようにコメントを発表しています。
今関あきよし監督コメント
台湾にハマり何度も通ううちに、多くの人に台湾の魅力を伝えたくて『恋恋豆花』という台湾の《食の魅力》にスポットを当てた映画を撮り、今度は人間《顔振発》の存在と技を伝えたくてこの映画を作った。そして誰よりも僕自身が顔(イェン)さんのことを知りたかったし、仲良くなりたかった。言い換えると「顔さんの仕事」は僕の今のアイドル映画だったりもする(笑)。
三留まゆみさんコメント
その映画館=全美戯院は地続きの映画館、すなわち地面を歩いてそのまま入れるむかしながらの劇場で、道を挟んだ向かいの歩道が顔さんのアトリエだ。私たちはそこで一枚の巨大な看板絵が出来上がるまでを見た。それはなんて素晴らしい時間だったろう。たくさんの奇跡の瞬間(顔さんの筆はまるで「魔法の杖」だった)を焼きつけた映画『顔(イェン)さんの仕事』はさらなる奇跡を起こした。6月末、舞台になった全美戯院でプレミア上映が決まり、顔さんは自分の映画の看板絵を描いたのだ。そして、私はこの映画を満員の映画館で顔さんの隣で観た。子どもみたいな笑顔でスクリーンを見上げる顔さんの横顔を決して忘れないだろう。そう、映画はいつも看板絵と共にあったんだ。
解禁された『顔さんの仕事』場面写真。顔振発さん(中央)と三留まゆみさん(右)、柏豪さん
解禁された『顔さんの仕事』場面写真。顔振発さん(中央)と三留まゆみさん(左)、柏豪さん
続いて9月7日より公開されるのは、瀬戸内海にある岡山県の北木島を舞台に、3人の若手女優が演じる「捨て猫」たちのファンタジー『しまねこ』。
猫を人間の姿で描くという、大島弓子さんの名作漫画「綿の国星」を彷彿とさせる手法を用い、セリフも猫語(日本語字幕付き)で、3匹が語り合い、ときに人間と触れ合いながら、気ままに、それでも必死に生きていく姿を描いていきます。
ヒロインである猫のチョコを演じるのは『幼な子われらに生まれ』(2017年/三島有紀子監督)『かそけきサンカヨウ』(2021年/今泉力哉監督)などの映画やテレビドラマで活躍する鎌田らい樹(かまた・らいじゅ)さん。
同じく猫のココア役には、映画『違国日記』(2024年/瀬田なつき監督)やテレビドラマ「エルピス -希望、あるいは災い-」(2022年・関西テレビ)などに出演する増井湖々(ますい・ここ)さん。
同じく猫のミント役には、参加者1000人を越えるオーディションで主演を掴んだ『春の香り』(2025年公開予定/丹野雅仁監督)も控えている新人・美咲姫(みさき)さん。
若手女優の魅力を引き出すことに定評のある今関監督のもと、猫を演じる3人がどんな輝きを見せているのか注目です。
また、猫と関わりを持つ人間たち役で、今関監督とは自主映画時代からの仲である映画監督・俳優の利重剛さん、今関監督作品『恋恋豆花』でモトーラ世理奈さんとともにダブル主演をつとめた大島葉子(おおしま・はこ)さん、10代から活躍し多くの監督たちの作品に出演する佐伯日菜子さんと、近年の今関作品の常連俳優も出演。
脚本は自主映画時代からたびたび今関作品に参加している小林弘利さんが手がけ、撮影は『顔さんの仕事』と同じく三本木久城さんが担当しています。
解禁された『しまねこ』場面写真。鎌田らい樹さん演じるチョコ
解禁された『しまねこ』場面写真。増井湖々さん演じるココア
解禁された『しまねこ』場面写真。美咲姫さん演じるミント
解禁された『しまねこ』場面写真。利重剛さん演じるアナタ
解禁された『しまねこ』場面写真。大島葉子さん演じるアサヒ
解禁された『しまねこ』場面写真。佐伯日菜子さん演じるトキワ
解禁された場面写真と予告映像は、美しい北木島の風景の中、のどかに過ごすような猫たちの姿とともに、どこか陰も予感させるものとなっています。
今関監督と、猫を演じた鎌田さん、増井さん、美咲姫さんは、次のようにコメントを発表しています。
今関あきよし監督コメント
《少女という存在》はずっと小動物的と思っていて、僕の映画の少女はそんな風に描いてきたけれど、照れなのか多少オブラートに包んで表現してきたような気がしている。今回はストレートに少女を猫という小動物として描いてみようと思った。それは美しい瀬戸内の小さな島との出会いがあり、この地ならファンタジーとリアルが混在する世界を、躊躇なく映像化出来ると確信したからだ。
チョコ役:鎌田らい樹さんコメント
猫役は初挑戦です!(笑)
猫語だと知った時にはかなり困惑していたのにやっていくうちになんの違和感もなく猫語を喋っている私達がいました。完成した作品を観た時には、人間が猫をやるからこその表情がみえたりして面白いんです。正解がないので全てが自由、それがまた猫っぽくて。たくさんの挑戦をした作品です。是非ご覧ください!
ココア役:増井湖々さんコメント
猫のココア役として出演させて頂きました、増井湖々です。 お話をいただいた時、台詞が猫語と聞いて不安や心配があったのですが、今関監督をはじめ共演者の方々と話し合い、一緒に演じていく中で完成することができました。 北木島の美しい景色や猫同士のやり取り、人間との関係に注目して見ていただきたいです。
ミント役:美咲姫さんコメント
全編「猫語」で外国語とも違う言語を扱うことに不安も覚えました。ですが、頼もしいスタッフやキャストに支えられ素敵な作品ができました。
初めは恥ずかしさもありましたが、今ではチョコとココアと猫語で会話するほどには成長でき、貴重な経験になりました。
解禁された『しまねこ』場面写真。左より、鎌田らい樹さん演じるチョコ、増井湖々さん演じるココア、美咲姫さん演じるミント
解禁された『しまねこ』場面写真。船の中のチョコ、ココア、ミント
今関監督が魅了された台湾を舞台に「映画」に携わる人に迫った『顔さんの仕事』と、瀬戸内の島を舞台に猫=少女の煌めきを焼き付けた『しまねこ』。ドキュメンタリーとファンタジー劇映画と、異なるジャンルでありながらいずれも今関監督のいままでの道のりを感じさせる2作品は、『顔さんの仕事』が8月31日土曜日より、『しまねこ』が9月7日土曜日より、東京の新宿K's cinemaほか、全国順次公開されます。