吉田浩太監督が西原亜希さんを主演に迎え、実話を元に「生活保護」について描く社会派作品『スノードロップ』が、11月13日より開催される第45回カイロ国際映画祭インターナショナルコンペティション部門に選出されたことが発表されました。
『スノードロップ』は、年老いた両親を持ち生活保護の申請をおこなうことになる女性を主人公にした物語。2016年に起きた、生活保護受給を申請していたある一家の事件がモデルとなっています。
監督は、実在の事件を元にした『愛の病』(2018年)や、人間の欲望を連作短編でユニークに描いた『Sexual Drive』(2021年)などで知られる吉田浩太監督。
吉田監督は2008年に若年性脳梗塞を発症した影響で一時期仕事ができず、生活保護を受給した経験を持っています。映画のモデルとなった2016年の事件を知った吉田監督は、その一家の根本的に矛盾した選択に衝撃を受け、自ら熱望して映画化に挑みました。
キャストは、演技力のみで評価をする厳正なオーディションを実施し、主人公の女性・葉波直子には10代からドラマや映画で活躍し今回が映画初主演となる西原亜希さん、ケースワーカーの宗村幸恵役には映画や舞台で注目される若手女優のイトウハルヒさんが、それぞれ起用されています。
『スノードロップ』より。西原亜希さん演じる主人公・葉波直子
このほど『スノードロップ』が選出されたカイロ国際映画祭は、エジプトで開催される歴史ある映画祭で、カンヌ、ベルリン、ヴェネチア、モントリオールなどの国際映画祭と並ぶ世界12大国際映画祭のひとつ。これまでも多くの日本映画が出品されており、昨年開催の第44回では『ある男』(2022年/石川慶監督)がインターナショナルコンペティション部門最優秀脚本賞を受賞し話題となりました。
『スノードロップ』が選出されたインターナショナルコンペティション部門は、世界各国から集まった選りすぐりの作品が最高賞を競う同映画祭のメインとなるコンペティション部門で、同部門への選出は快挙。
11月13日より22日まで開催される映画祭には吉田監督や主演の西原さんも参加予定。グランプリにあたるゴールデンピラミッド賞をはじめとする各賞はクロージングの22日に発表されることになっており『スノードロップ』の受賞も期待されます。
カイロ国際映画祭選出にあたり、主演の西原さん、助演のイトウさん、吉田監督が次のようにコメントを発表しています。
主演(葉波直子役):西原亜希さんコメント
カイロ国際映画祭に入選したことを吉田監督から聞いた時、その報告を湧き上がる嬉しさと共に、しっかりと噛み締めました。
今年の 3 月に大阪アジアン映画祭へ参加した際、「まだまだこの映画で旅を続けたいね」と皆で話していたことが実現できるとは!
私にとって特別、思い入れのある作品でもあります。
それは自分の人生の一部を、想いを、この作品に乗せ、預けたからです。
『スノードロップ』との旅が、行先が楽しみでなりません。
助演(宗村幸恵役):イトウハルヒさんコメント
カイロ国際映画祭という大きな場にこの作品と参加できること、とても嬉しいです。
この映画は、生活保護という制度を通して、家族の在り方を描いています。監督とスタッフと俳優とが同じ想いを持って作り上げた作品だと思っています。
この機会が多くの方に観ていただけるきっかけになり、観ていただいた方に少しでも何か届けられるものがあれば嬉しいなと思っています。
監督・脚本:吉田浩太監督コメント
映画「スノードロップ」がカイロ国際映画祭インターナショナルコンペティション部門に選出され大変光栄に思います。映画は自身の生活保護受給経験を契機に、とある生活保護にまつわる実際に起きた事件を元にしています。素晴らしい俳優とスタッフの多大な尽力により、この映画が描くべきものに辿り着けたと思っております。映画がエジプトでどのように受け入れられるか真摯に見届けたいと思います。
『スノードロップ』より。イトウハルヒさん演じるケースワーカーの宗村幸恵
『スノードロップ』より。西原亜希さん演じる葉波直子(右)と、イトウハルヒさん演じる宗村幸恵
ティザーポスターは、上段に西原さん演じる直子、下段にイトウさん演じる宗村の写真が配され、ふたりの真っ直ぐでありつつ交わらない視線が印象的な構図。
予告編も、直子と宗村のやりとりを中心に構成され、緊張感あふれる生活保護申請の手続きが西原さんとイトウさんの繊細な演技で表現され、キャストやスタッフの題材に対する真摯な姿勢をうかがわせます。
「貧困」が、決して特殊ではなく誰にとっても身近な問題となっている現代の日本。一家の矛盾した選択が観客の固定概念を覆し、現代日本の貧困意識を問いただす『スノードロップ』が、国際映画祭の舞台でどのような反応を得るか注目です。
『スノードロップ』ストーリー
母・キヨと同居している葉波直子の元、長年蒸発していた父・栄治が帰宅してくる。突然の父の帰宅に困惑する娘の直子だったが、母の迎えいれたい要望を聞き、同居するようになる。10年ほど経ったある日。キヨが認知症を患う中、栄治の持病の悪化により仕事が出来なくなり、一家は生活保護の申請を考え始める。娘の直子が生活保護を申請するため市役所に出向き、ケースワーカー・宗村とのやり取りを重ねて申請作業を進めていく。母が重度の認知症であり父も病気の悪化により仕事が出来ない状態で預貯金もほとんどない状態の一家は生活保護を受けるには十分な資格があった。宗村の親切な対応により生活保護申請はスムーズに進められていき、葉波家の訪問審査を受けて生活保護の受託はほぼ決まった。訪問審査を無事終えた夜。栄治は直子にある一言を告げた......。