東日本大震災に被災した少年を主人公にした家族の物語『彼方の家族』が、2025年3月22日より東京の新宿K's cinemaほか全国公開されることが発表され、ポスターヴィジュアルと場面写真、予告編が解禁。また、メガホンをとった川崎たろう監督と坂内映介監督のコメント、映画監督の林海象さん、諏訪敦彦さんの応援コメントも公開されました。
2024年開催の第19回大阪アジアン映画祭で招待作品として上映された『彼方の家族』は、東日本大震災で父親を亡くし喪失感を抱えたままの高校生・奏多(かなた)が主人公。新たな学校に転校した奏多と、担任教師の息子である同級生・陸との交流を通して、いまも続く震災の記憶と、再生が描かれていきます。
東北芸術工科大学を卒業後、同大学に研究生として在籍していた坂内映介監督が、自らの被災経験をもとに脚本を執筆し、同大学の卒業生である川崎たろう監督と共同で監督。
『お盆の弟』(2016年)『無限ファンデーション』(2018年)などの監督作で知られる大崎章さんがプロデューサーをつとめています。
主人公の奏多を演じた相澤幸優(あいざわ・ゆきひろ)さんや、陸を演じた山内大翔(やまうち・まさと)さんら、キャストは東北地方でのオーディションによって決定。『室井慎次 敗れざる者』(2024年/本広克行監督)などメジャー作からインディーズまで数多くの作品に出演し映画ファンからの支持も高い名バイプレイヤーで秋田県出身の木村知貴さんも陸の父親役で出演しています。
解禁されたポスターヴィジュアルは、雪に覆われた風景の中に雪と同じ白で書かれたタイトルと「覚え続けていたい あの時のことを」というコピーが印象的なデザイン。
予告編は、転校したきた奏多と陸の出会いから始まり、それぞれ「父親」への複雑な想いを抱えるふたりが次第に距離を縮めていく過程が描かれ、震災を回想するシーンも混じえられた、やはり雪に覆われた風景が印象に残る映像となっています。
さらに、作品を鑑賞した映画監督・林海象さん、諏訪敦彦さんの応援コメントと、坂内監督、川崎監督のコメントも公開されました。
林さんは「亡くなり別れた人たちはそれぞれの心の中で「存在」し続ける。この映画のラストはそれを見事に表現している。」と、諏訪さんは「これほど痛切な喪失の肌触りを映画で感じることは稀である。いや映画だからこそそれが可能だったのだ。」と、作品に賛辞を贈っています。
映画監督:林海象さんコメント
この映画は「不在と存在」についての映画だ。人は生きていくなかで多くの出会いと別れがある。別れにはいろんな理由があり、天災などの抗えない運命もある。別れた人たちは「不在」という実在の中で「存在」していく。亡くなり別れた人たちはそれぞれの心の中で「存在」し続ける。この映画のラストはそれを見事に表現している。東北の寒風の風景のなかでこそ、その「不在の存在」は立ち上がる。美しい映画だと思う。
映画監督:諏訪敦彦さんコメント
教室でリクが父に殴られたことを告白する時、彼は奇妙な所作でカナタとの距離を不規則に変化させる。表情はいつも笑っているのに、リクの体は何か得体の知れないものに出会って戸惑っているかのようだ。それは何だろうか?この時カナタはリクの秘密を知っただけではなく、リクという「存在」を経験している。リクが直面する得体の知れないもの、それは「私が存在している」という事態である。しかし、ある日プツリと出会ったはずの存在が消える。父や友が存在した世界と、いなくなってしまった世界には実は大きな違いはないのかも知れない。雪の積もった広場、誰もいない路地に降り注ぐ弱い陽の光、カメラは何も変わらない世界を捉えるが、その変わらなさに私は味わったことのない痛みを感じる。カナタの視点から決して離れないカメラは、常に地上に留まり、神のように世界を見渡すことはできないから、大切な人に何が起きたのかカナタには見えない。彼らは理由もなくただ世界から消えてしまう。『彼方の家族』の奇跡的な出来事とは、そんな死者がふと蘇ってしまうことではなく、「いない」というカメラには映らないはずの「不在」が何気ない風景の中にハッキリ写っているということである。これほど痛切な喪失の肌触りを映画で感じることは稀である。いや映画だからこそそれが可能だったのだ。
川崎たろう監督コメント
苦しい気持ちなんて、葬ろうとするのが正解なのか。
日常を根本的に変えられてしまった脚本家の坂内君はなぜこれを今撮ろうと思ったのか。
震災を体験していない東北出身の自分は何を語れるのか。このような混沌とした想いがこの映画を生みました。
奏多、陸と彼らの家族がこれからも居続けられる場所があることを願って。
坂内映介監督コメント
震災や事故、様々なきっかけで人との別れは突然訪れてしまいます。その時に僕たちが出来ることは彼らとの思い出を覚えている事だと思います。一緒にご飯を食べた事、遊んだこと、怒られたことどんな些細な思い出も僕たちが覚えていれば彼らは心の中で生きていると僕は思います。覚えている事、誰かを想う事は人と人を繋げてくれる尊い行為です。この映画を観た人が誰かを思い出すきっかけになれたら嬉しいです。
大阪アジアン映画祭での上映を経た『彼方の家族』は、2025年3月22日土曜日より東京の新宿K's cinema、4月5日土曜日より神奈川の横浜シネマリン、4月11日金曜日より山形のムービーオンやんまがたと鶴岡まちなかキネマでロードショーされます。