東京・大久保にあるアイヌ料理店とその店主を軸に、受け継がれていく文化を描く大宮浩一監督の新作ドキュメンタリー『そして、アイヌ』が3月15日に公開されるのを前に、予告編が解禁。また、俳優・劇作家の宇梶剛士さん、小説家の中島京子さん、ブロードキャスターのピーター・バラカンさんら、各界の著名人が作品に寄せたコメントが公開されました。
『ただいま それぞれの居場所』(2010年)や『ケアを紡いで』(2022年)など、日本社会の多様なコミュニティのあり方に目を向けてきた大宮浩一監督の最新作となる『そして、アイヌ』は、東京・大久保のアイヌ料理店・ハルコロ(※)とその店主でアイヌ文化アドバイザーの宇佐照代さんを中心に、アイヌの文化と出会った人々のメッセージなどを通して、アイヌのみならず在日コリアンや被差別部落といった差別・偏見の問題、そして世代などを越えて引き継がれていく文化や想いを映し出していくドキュメンタリーとなっています。
※店名「ハルコロ」の「ロ」は、本来はほかの文字より小さな文字となりますが、表示の制約上、本記事ではほかの文字と同じ大きさで表記しています。
『そして、アイヌ』場面写真。アイヌ文化アドバイザー・ハルコロ店主:宇佐照代さん
『そして、アイヌ』には、美術作家の奈良美智さん、評論家の太田昌国さん、写真家の宇井眞紀子さん、朝鮮・韓国民謡奏者の黄秀彦(ファン・スオン)さん、カムイノミ祭司で縄文造形作家の平田篤史さんらも出演。
このほど解禁された予告編は「東京にアイヌの方が住んでいるって想像したこともなかったですよ」という言葉で幕を開け、東京・大久保でアイヌ料理店を営む宇佐照代さん、そして写真家・宇井眞紀子さん、美術作家の奈良美智さんらの言葉が続き、宇佐照代さんが演奏するムックリ(口琴)の音色ととも観る者に強く訴えかけます。そして宇佐さんの「『アイヌ』は『人間』という意味です」という言葉が、印象深く響きます。
『そして、アイヌ』場面写真。アイヌ文化アドバイザー・ハルコロ店主:宇佐照代さん
『そして、アイヌ』場面写真。写真家の宇井眞紀子さん
『そして、アイヌ』場面写真。カムイノミ祭司/縄文造形作家:平田篤史さん
『そして、アイヌ』場面写真。美術作家:奈良美智さん
『そして、アイヌ』場面写真。評論家:太田昌国さん
『そして、アイヌ』場面写真。朝鮮/韓国民謡奏者:黄秀彦さん
また、各界著名人が作品に寄せた推薦コメントも解禁されました。
数々の作品に出演する俳優・劇作家でアイヌをルーツに持つ宇梶剛士さん、直木賞作家で『小さいおうち』(2013年/山田洋次監督)『長いお別れ』(2019年/中野量太監督)と映画化作品もある小説家の中島京子さん、テレビ番組で若い世代のアイヌに取材した経験もあるブロードキャスターのピーター・バラカンさん、『A』(1998年)などのドキュメンタリー作品で知られ初の劇映画『福田村事件』(2023年)も話題となった映画監督の森達也さんらが、それぞれの視点で『そして、アイヌ』について言葉を紡いでいます。
俳優・劇作家:宇梶剛士さんコメント
悲しみを見つめたことのある人が、優しさを知る人となる。アイヌ語で「アイヌ」は「人間」という意味。この言葉に自分 を問われながら生きてきた。アイヌ(人間)とは?「そして、アイヌ」に登場する人たちの穏やかな顔、顔、顔につられ て、僕も微笑んだ。
小説家:中島京子さんコメント
オープニングの口琴の調べに、まず心をつかまれる。縄文文化につながるアイヌの伝承、ニュージーランドの先住民 マオリとの類似性、朝鮮音楽継承者たちとの連帯など、時間も空間も縦横につないでいくアイヌの存在が圧倒的。偏 見の中、力強く文化を守ってきた女性たちの歴史にも魅了された。「ハルコㇿ」で、奈良美智さんが食べる鮭チャーハ ンがなんともおいしそうだった。
メディア NPO Dialogue for People 副代表/フォトジャーナリスト:安田菜津紀さんコメント
「痛みに時効はない」――照代さんが語った言葉が、心の中を巡り続ける。「差別なんて過去でしょ」と決め込む前に、 人の姿に、声に、この映画を通して触れてほしい。
文筆家・音楽家:寺尾紗穂さんコメント
白い服をきて日本語のおかしな
祖母を恨んだと
在日の音楽家が語る。
軽んじられる側の苦しみを、
世代間にいつの間にか生まれる断絶の悲しみを
同化を強いる側は想像できない。
アイヌと銘打たれるも
アイヌばかりの話ではない。
帝国日本統治下のあちこちの植民地で、
アイデンティティの苦悩は生まれた。
その一つ一つ、等しく
耳を傾けられるべきものだが
せめて最も近しい隣人たちの悲しみを想像する人間性を保てよと、映画は伝える。
ブロードキャスター:ピーター・バラカンさんコメント
アイヌ語で言うアイヌは「人間」という意味です。
この映画はアイヌに関するものであると同時に、植民地主義、同化政策、文化の抑制など、普遍的に響く負の歴史 に触れるところが多いです。それでも、差別を受けながらも今尚力強く生き延びるアイヌの儀式、文様、歌などの文 化はここにあります。
翻訳者・ラジオパーソナリティ:キニマンス塚本ニキさんコメント
ムックリの音色やトンコリの旋律、照代さんのヤイサマがすーっと身体に染み込む感覚がたまらなく心地よい。 奪われた物語を取り戻し、かき消された声を響かせる人々の祝いと抵抗に胸が震える。
先祖から受け継いだものを偽らずに語り、愛せることが「特権」であってはならないと気付かされた。
映画監督:森達也さんコメント
差別の根源は何か。多数者が少数者を標的にする。それは群れることを DNA に刷り込んだ人の性サガ。ある意味でなく ならない。でも減らすことはできる。どんな人たちなのか、どのような文化でどれほどの差別や迫害を受けてきたのか、 それを知ること。見ること。聴くこと。
大宮浩一監督はアイヌを軸に、被差別部落や在日コリアンなど、多くの被差別者たちにフォーカスする。ムックリの音 色がずっと消えない。多くの人に観てほしい。
セカイめし愛好家:じょいっこさんコメント
難しいことじゃない。
料理を食べて文化を知る、それだけで民族間の垣根は消える。
その先にあるのはきっと差別や争いのない優しい世界。
文筆家・イラストレーター:金井真紀さんコメント
舞台は東京の片隅にある小さなアイヌ料理屋さん。そこからどんどん広がって「ないもの」にされてきた人たちがつな がっていく。被差別部落の人、旧植民地の人、世界の先住民…。あぁ、みんな笑顔で歌っているのに、観ているこち らはなんだか涙が出る。
映画評論家:三浦哲哉さんコメント
アイヌは「人間」という意味だ。私たちのすぐそばで暮らし、自文化の風を今も吹かせている。その風は、ムックリの音 となり、踊りとなり、郷土料理の匂いとなり、いくつもの他民族文化と反響し合いながら、この国のさまざまな街をカラフ ルに彩っている。この事実に気付かせてくれる本作の貴重さは計り知れない。
北海道大学 アイヌ・先住民研究センター 准教授:石原真衣さんコメント
1997 年のアイヌ文化振興法以来、「アイヌ文化」は脱政治化され、多数派(和人)のエンターテイメントを担わされた。 国や社会がアイヌ文化伝承を称揚する裏側には、「抵抗運動はさせねーぞ」という根性がすけてみえる。集団として の人権の回復と、先祖から引き継いできた文化を大事にすること。断絶されたふたつを、照代さんがつなぎ、文化は 集団としての権利回復の糧になる。「痛みに時効はない」と照代さんはいった。問われているのは京都大学だけでは ない。日本の社会で今日までずっと収奪と差別を傍観してきた一人ひとりの日本人でもある。照代さんのまなざしと 言葉に、あなたはこたえる言葉をもっているか。
より多様さを増していくであろう「これからの未来」へのヒントを提示する作品となっている『そして、アイヌ』は、3月15日土曜日より、東京のポレポレ東中野、神奈川の横浜 シネマ・ジャック&ベティ、大阪の第七藝術劇場、[京都の京都シネマほか、全国順次公開されます。