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『素敵な夜、ボクにください』中原俊監督インタビュー

中原俊監督写真 トリノ冬季オリンピックでの“チーム青森”の活躍が多くの人を惹きつけたウィンタースポーツ、カーリング。映画『素敵な夜、ボクにください』は、一躍ポピュラーとなったこのスポーツを題材にしたスポーツ&ラブコメディです。
 有名になりたいけどパッとしない仕事ばかりの女優、いづみは、ある夜、来日していた韓流スターのカン・スヒョンと偶然めぐり合い、一夜をともに過ごします。これで有名になれると有頂天になるいづみでしたが、実はその相手はカン・スヒョンに瓜ふたつのカーリング選手、イ・ジンイルだったのです! 夢破れて激怒するいづみですが、なぜか幼なじみや妹も巻き込み、ジンイルをコーチ役にカーリングチームを結成してオリンピックを目指すことに。果たして即席チームの行方は? そしていづみとジンイルの関係は?
 話題作への出演が続く吹石一恵さん、人気韓流スターのキム・スンウさんを主演に迎えてメガホンをとったのは、ベテラン、中原俊監督。映画の公開を前に、中原監督にお話をうかがいました。

中原俊(なかはら・しゅん)監督プロフィール

1951年生まれ。1976年に日活に入社し、助監督を経て1982年に日活ロマンポルノ『犯され志願』で監督デビュー。同作品で第25回ヨコハマ映画祭新人監督賞を受賞する。その後も数本のロマンポルノを監督し、1985年に日活退社。以降『ボクの女に手を出すな』(1986年)を皮切りに幅広いジャンルの作品を手掛ける。少女マンガを映画化した1990年の『櫻の園』で日本アカデミー賞優秀作品賞・優秀監督賞をはじめ多数の賞を受賞。その後も『12人の優しい日本人』(1992年)、『コキーユ』(1999年)、『コンセント』(2002年)、『DV』(2004年)など、多数の話題作を送り出している。

三題噺だったんだよね

―― 『素敵な夜、ボクにください』は、企画がある程度できた段階で監督にお話があったんですか?

中原:そう、韓国・青森・カーリングの三題噺だったんだよね。つまり「三つの題材を入れるという制約がある話なんですがいかがですか?」というところから始まったんです。まず最初に「これはいいな」と思ったのは、ぼくは鹿児島生まれなんですけど青森には15年くらい前からよく行っていて、青森は得意なんですよ。カーリングも長野オリンピックでやっているのを見ていて好きだったので「カーリングならわかるよ」と。実際はちょっと知っているくらいのことだったんですけどね(笑)。そして、ちょうどお話があった直前に『櫻の園』を持って韓国の映画祭(2005年11月開催の第2回メガボックス日本映画祭)に行ってきたばかりだったので、これもなにかのご縁でしょうというところで「三つ全部OKです」ということになったんですね。

―― カーリングや韓流など、ブームのものが題材となっているところは、かつてのプログラム・ピクチャーみたいな印象を受けました。

中原:実は、話を受けた段階ではカーリングはさしてブームではなかったんです。ところが準備をしている最中にトリノオリンピックがあって、大ブームになってきちゃったんですね。それで最初に作ったホン(=台本 以下同)をもう一度検討し直して、全部作り直したんです。だから、もともとはカーリングブームに合わせたんじゃなくて、青森というのが先にあって、青森がカーリングの街としてチームを作ってオリンピックへ行くという地元の盛り上がりも含めての企画だと思うんですよね。韓国というのは、この映画は「国際共同製作モデル事業」ということがありまして、一番近い国である韓国と作ろうということだったんです。もちろん企画意図としては韓流ブームを意識したところもあるでしょうし、たしかにプログラム・ピクチャーみたいなところはあるよね。ぼくはそういうふうに題材を与えられると「やってやろうじゃないか」と燃えるところがあるんですよ(笑)。もう30年くらいこの業界でやっていますから「これをやらなくちゃならない」という制約があると、それをうまいことこなして、その中でちょっと変わったことを試みてみようとか、そういうところを刺激されちゃうんです。

―― 脚本作りで監督がアイディアを出した部分はあるのでしょうか?

中原俊監督写真

中原:たくさん出しているし、ほとんど共同で書いたようなところはあります。やっぱり、主人公だけの話ではなくて、チームの話というのをぼく自身が好きなんですよね。だから、主人公のいづみだけの話というより、カーリングをやる4人の話という傾向になっていますね。それからさっきも言ったように、最初のホンではあまりカーリングについては詳しく書いていなかったのが、作っている最中にトリノがあって「カーリングファンも増えただろうからカーリングもちゃんとやらなきゃいかんぞ」みたいなことになったので、最初にあった構想からはだいぶ変わっていると思います。ただ、最初から一本通っているのは「かなりワガママな男とかなりワガママな女の出会いから起こるヘンなラブストーリー」ということですね。

―― キム・スンウさんが演じたジンイルとスヒョンがそっくりさんだという設定は、娯楽作品の黄金パターンみたいなところがありますね。

中原:よくある話だよね(笑)。決まった枠組みがあるとこういうことがやれちゃうんだよね。なにも制約がなくて、ただ「いい話を考えてください」となると「そっくりさんなんていうのは安易じゃないかな?」と思ってやめちゃうんだけど、枠組みがあるとそれをポンッと入れられちゃうんです。ゴチャゴチャ考えないで気軽に観てもらえるものを作ろうと思っていたので、私のやることですから弾けるにも限度がありますが、弾けて楽しく作ろうという考えでやっていたんです。

―― スポーツを映画にする上では表現が難しいこともあると思いますが、カーリングを映画にするというのはいかがでしたか?

中原:現場的に言えば、氷の上という足場の悪いところで、しかも足元からガンガン冷えてくる中でやっていたから、大変は大変ですよね。でも、ストーンがスーッと動いていくのを撮っていると、あれだけの距離だから普通は長いって感じるはずなのが、なぜかもつんだよねえ。「なんか面白いなこれ」っていうのは現場ではありましたね。もうひとつは、投げる人間も手前に滑ってくるわけだけど、遠くをじっと見据えている目でしょ? しかも下が白くてきれいな氷で天然のレフ板になるんで、一段ときれいになるわけだな(笑)。カーリングをやると女性はきれいに見えますね。さらにユニフォームをミニスカートにしたから男性も楽しめるしね(笑)。

お互いがお互いを必要とすることで、現場の結束が固まっていく

―― 先ほど「かなりワガママな男と女のラブストーリー」というお話がありましたが、主人公のいづみはたしかにワガママで、主人公としては異色のキャラクターになっていますね。

中原:ホンは女性脚本家ふたり(黒沢久子さんと祢寝彩木さん)と女性プロデューサーで作ったんだけど、最初にできてきたときは「おいおい、こんな性格の悪い女が主人公でいいのかよ」って思いましたね(笑)。でも「それが面白いんじゃないですか」って言われると、なるほどと思ってね。昔はやっぱり主人公って心のきれいな人で、ワガママに見えてもなんか理由があって、ほんとはいい人だったとかやらなきゃならなかったわけでしょ? それがそのまま受け入れられるというのは進歩だと思うし、実際は女性でも腹黒いところがあるわけだから、女性がそれを見て自分たちで笑えるというのも進歩だよね。実際に周りにこんな人がいたら困るけどさ(笑)。

―― すごく変な女の子に見えちゃう可能性もありますよね。実際に演じる吹石一恵さんは難しかったのではないでしょうか?

中原:吹石さんにとってはある種の冒険だよね。今までの彼女はお嬢さん役とか可愛い子の役だとかが多かったし、今回は年齢の設定も実際の彼女より上だしね。ただ、彼女自身にこういう役をやってみようという勇気もあったし、映画を観るお客さんが吹石さんに対して持っているイメージというのも使ってはいるわけね。吹石さんだったらこんなセリフを言ってもそんなにトゲトゲしくなくて、可愛いところをチラッと見せれば全体として「可愛い子だな」ってところにまで行けちゃうんだよね。もちろん人によって演出の仕方は違ってくるから、吹石さんがやることでお話自体が少し変わっていっただろうとは思いますね。吹石さんは占部(房子=裕子役)くんや枝元(萌=聡子役)くんより若いんだけど、現場ではちゃんと役に合わせて姉貴格になっていたんですよ。それは大したものだと思いますね。まあふたりも合わせてフォローしたところはあるんだろうけどね(笑)。

―― チーム4人の群像劇的な部分は中原監督のお得意な部分だと思いますが、吹石さん以外の3人の印象はいかがでしたか?

劇中スチール

『素敵な夜、ボクにください』より。左から、関めぐみさん、吹石一恵さん、枝元萌さん、占部房子さん

中原:関(めぐみ=ひかり役)さんはパッと見たときはあまりにも美しすぎると思ったんだけど、ちょっと話をすると全然違うんだよ(笑)。オヤジっぽいところがあるよね。天然っていうか、本人もホンを読んでそう思ったんだろうけど、ひかりちゃんに相通ずるところがありますね。だから「今回はなにも考えないで、気を抜いて楽にやっていい」って言ったら「やったー! 嬉しい! 素のままでいいのね!」って(笑)。現場でも一番面白い子でね、撮影が終わると彼女が中心になって騒いでいたらしい(笑)。
 占部くんは昔から芝居を観ていて、裕子という役は韓国語とカーリングを両方やんなきゃいけなくて、その中で少しいい子ブリッ子的なところもあるので、そんなことをこなせるのは彼女しかいないかなというところでキャスティングしています。
 枝元くんはオーディションで決めた子なんですよね。最初はもっと太った子を探していたんだよね。まあ、枝元くんも結構太ってはいるけど(笑)。だから最初のイメージどおりではないんですが、可愛いオバサンくささがあるよね、オバサン可愛いっていうか(笑)。
 今度のキャスティングは割と自分の思いどおりに組ませてもらってるんで、みんなキャラクターにはめたキャスティングができましたね。もちろん、それはいづみに吹石さんあってのことですね。ぼくは背の高い姉妹が好きなんですよね。やっぱり自分が背が小さくてコンプレックスがあるから、背の高い人にはなにか魔法があるような気がするんですよね。吹石くんと関くんが並んでいるとなんかいいかなって(笑)。

―― キム・スンウさんの出演はどのように決まったのでしょうか?

中原:最初に話があった時点では、韓国といっても誰が出るのか決まっていないみたいなことだったんだよね(笑)。そこから「キム・スンウさんがやってくれそうな感じなんですが」という話になって、「ホテリアー」(TVドラマ・2001年)と『新装開店』(1999年/キム・ソンホン監督)というのを観せてもらって「この方はいいじゃないですか」ということで、お話しして決めていった次第です。演技の幅の広い、フレキシビリティのある方なんでね、キム・スンウさんに決まったのはラッキーでしたね。

―― 韓国の俳優さんとのお仕事ということで、特に意識されたことはありましたか?

中原:もちろん、役者さんとはコミュニケーションが一番大事だから、言葉が通じないという不安はありましたよ。でも、そんなことを言っていたら始まらないんでね、とりあえず現場でやってみたらわかるだろうと。現場では映画での役と同じように飛坂(光輝=パク・ファンソク役)くんが接着剤だったんです。飛坂くんは日本で韓国語ができる人ということで探したんですよ。一緒に演技しているとニュアンスもわかるじゃない? それでキム・スンウさんが違う解釈をしているようだったら「ちょっと違うことを考えているみたいですよ」とか教えてくれるわけですよ。そこで通訳なしに話ができる。そのためにぼくが用意した作戦ですね。監督の一番重要な仕事は環境を用意することなんですよ。飛坂くんがいることでキムさんは撮影が終わってからもみんなと一緒になって話ができるし、もうひとり現場を盛り上げる役として枝元くんがいて、枝元くんは青森弁をやらなきゃならないんだけど、それは青森出身の八戸(亮=浩太役)くんがフォローしてくれるわけです。占部くんは韓国語についてはキム・スンウさんに聞けばいいし、飛坂くんもいる。役者さん同士で練習する相手がいるんですよね。そうしてお互いがお互いを必要とすることで、現場の結束が固まっていくわけです。それを用意するのが私の演出ということですね。

―― では、言葉の問題での苦労はあまりなかったのですか?

中原:なにも苦労がなかったとは言えませんね。現場は生き物だから気合でわかっていっちゃうんだけど、ほんとは現場に入る前が重要でね、より深いところで理解するための材料としてホンを訳さなくちゃならない。でも、訳す人も「これはどっちの意味なんだろう」って悩むところもあるし、それをどう訳したかがぼくにはわからないわけです。しかもぼくは状況に合わせてホンを書き直す人間だから、それがうまく届いていないんじゃないかなっていうのはたしかにあったね。翻訳という仕事はとても大変で、それが十全にできたとは言い難い。今後の課題ですね。これを解決するにはぼくが韓国語を覚えるしかないので、間に合わないですね(笑)。キム・スンウさんは「若輩のぼくが日本語を覚えます」と言っていましたけど、短い期間でしたからそんなに覚えられませんよね。「ありがとうございました」「本番行こう」くらいで、それくらいなら韓国語で言ったってわかるよって(笑)。
 字幕を作るのにもえらい苦労をしましたし、言葉の違いの苦しみはあるんですよ。でも、苦労するからこそ面白いってこともあるよね。言葉の問題は、映画を作る中でいろいろやりとりをしていって、お互いの気持ちがわかるようになることが一番重要なんですよ。これからこういうことが増えていけば、うまく訳せる人たちがどんどん増えてくるだろうし、その人たちが映画作りにおいて、とても大きな役割を果たすんですね。

―― そういう苦労もされた作品の公開を前にして、お気持ちはいかがでしょうか?

中原:割と大胆な割り切り方をして作った話なんでね、細かい話のゴチャゴチャは気になさらず、流れに乗って観ていただいて、「カーリングを1回やってみたいな」と思っていただければ幸いですね。「こんなワガママな奴でもうまくいくこともあるんだし」みたいなお話ですから(笑)、なんとなく元気が出るというか「前向きは悪くないっすよ」と思っていただければいいですね。

(2007年1月25日/エスピーオー本社にて収録)

作品スチール

素敵な夜、ボクにください

  • 監督:中原俊
  • 出演:吹石一恵 キム・スンウ 占部房子 関めぐみ 枝元萌 ほか

2月24日(土)よりシネマート新宿、シネマート六本木、シネマート心斎橋ほかにて全国順次ロードショー

『素敵な夜、ボクにください』の詳しい作品情報はこちら!

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