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『未来予想図 〜ア・イ・シ・テ・ルのサイン〜』蝶野博監督インタビュー

蝶野博監督写真 日本を代表するポップスグループであるDREAMS COME TRUE。その楽曲の中でも、珠玉のラブソングとして幅広い層に人気の高い「未来予想図」「未来予想図II」をもとにした映画が生まれました。
 大学時代に知り合ったさやかと慶太。さやかは雑誌編集者、慶太は建築家というそれぞれの目標に向かう中で、次第にふたりの未来は違う方向へと進んでいく――。
 映画『未来予想図 〜ア・イ・シ・テ・ルのサイン〜』は、1997年から現在まで、ひと組の男女の10年間にわたる恋愛を、誰もが直面する仕事や家族の問題も交えつつ描く、ハートウォーミングなラブストーリー。
 メガホンをとったのは、本作が初の劇場長編作となる蝶野博監督。楽曲の印象そのままのピュアで優しい世界をスクリーンに描き出した蝶野監督にお話をうかがいました。

蝶野博(ちょうの・ひろし)監督プロフィール

1960年滋賀県生まれ。大学卒業後に映画の世界を目指し、京都で原田隆司監督に師事。その後、鈴木清順監督、伊丹十三監督作品など多くの作品に助監督として参加。特に平山秀幸監督の信頼は厚く、近年のほとんどの作品に参加している。『未来予想図 〜ア・イ・シ・テ・ルのサイン〜』が劇場用初監督作となる。
助監督として参加した主な作品に『夢二』(1991年/鈴木清順監督)、『静かな生活』(1995年/伊丹十三監督)、『精霊流し』(2003年/田中光敏監督)、『学校の怪談』シリーズ1・2・4(1995〜99年)『ターン』(2001年)『OUT』(2002年)『レディ・ジョーカー』(2004年)【以上、平山秀幸監督作品】など。2007年11月10日公開の平山監督作品『やじきた道中 てれすこ』では監督補をつとめる。

曲の純粋なイメージを壊さないようにしたかった

―― この映画はDREAMS COME TRUEの曲を題材としていますが、監督はこの曲にはどんな印象を持っていらっしゃいましたか?

蝶野:正直に言うと、そんなにじっくりと聴いたことはなかったんですよ。映画の話があってから改めて聴いてみたら、歌詞がすごい純粋なんですよね。こんなに純粋な曲があるのかとすごく驚いたんです。そのときの感じがこの映画を作るときに大きなウェイトを占めていて、そういう純粋な曲が多くの人に支持されているわけですから、その純粋なイメージは壊さないようにしなくちゃならないと思いましたね。

―― 10年間というのは映画で描くのには比較的長い時間だと思いますが、10年にわたる物語にした理由はなんだったんでしょうか?

蝶野:ぼくがこの作品に参加した時点で、成長物語にしようという方向があったんですね。そうすると、10年くらいのスパンがないといけないかなということだったんです。映画でそれだけの時間を描くというのはけっこう大変なことですし、実際に難しかったのは事実ですね。

―― 映画だと、登場人物の見た目がガラッと変わったりして、時間の変化を極端に表現することが少なくないと思うんですけど、この作品はすごく自然に作品の中で時間が経過していて、登場人物も自然に年齢を重ねていっているように見えました。

蝶野:この映画でも衣裳とか髪型なんかは時代によって変えていますし、小道具とかでもその時代にあったであろう古いものを用意したりはしているんです。ただ、それが押し付けがましくならないようには気をつけていました。「いかにも」というかたちで見せるよりは、さりげないほうがいいかなと思ったんですよね。最初のころは、もっとその時代に流行していたものをどんどん入れていこうとしていたんですけど、それよりも役者さんの芝居で成長していく過程を見せることにウェイトを置いていったんです。そういう選択をしていくと、流行のものとかは減っていったというのはありました。

―― 10年間を演じるというのは俳優さんにとっても難しいことだったのではと思うんですけど、さやか役の松下奈緒さんと慶太役の竹財輝之助さんには、どのようなアドバイスをされていたんでしょうか?

蝶野:ぼくは細かいことは言わなくて、30歳の設定のシーンであれば「30歳ですよ」としか言っていないんですよ。当然、メイクとか衣裳は変わっているんですけど、そのあとは役者さんに任せた状況ですね。「ああしてほしい、こうしてほしい」とは言わないで、背景の説明だけをして芝居をしてもらうんです。その芝居を見せてもらって、問題がなければそのまま行っていますし、やっぱりときどき20代に戻ってしまっているときもあるんです。そういうときは、ぼくから言って、もう1度やってみると。現場的にはそんな感じでやっていった感じです。10年間を順を追っていくように撮影ができればいいんですけど、実際の現場のこととかを考えると、なかなかそれはできないんですよね。だから、午前中は30歳で、午後から20歳であるということもけっこうありました。そこはこちらも注意しながらやっていた感じですね。

作品スチール

『未来予想図 〜ア・イ・シ・テ・ルのサイン〜』劇中より、サグラダ・ファミリアを訪れるさやか(松下奈緒=右)と慶太(竹財輝之助=左)

―― スペインでのロケシーンもこの映画の大きな魅力となっていますが、海外のロケということで難しかった部分はありましたか?

蝶野:スペインでは現地スタッフの力を借りながらやっていたわけですけど、労働時間についての決まりが日本とは全然違うんですよね。だから、日本みたいに朝から始まって夜中までというのはできないんです。12時間労働で、朝8時に始まったら夜の8時には終わらせなきゃならない。それを5分でも越えると問題になっちゃうんですよね。それから食事の時間もちゃんと決まっていて、朝8時くらいに食事をしたら、11時くらいにまた食事をして、3時くらいにまた食べるんです。その時間もきちんととらなければいけないし、そういうことがけっこう大変でしたね。あと、サグラダ・ファミリアはやはり観光客がすごいんですよね。世界中からやってきていますから、早朝から撮影を始めても、朝の8時くらいになるともう観光のバスとかがたくさんやってくるので、交通整理をしなければならなかったんです。それはスペインのクルーとか、制作のスタッフさんが大変でしたね。

―― サグラダ・ファミリアでかなり多くのシーンを撮影されていますが、撮影の制限などはなかったのでしょうか?

蝶野:実はけっこうありまして、建物の中は一切ダメなんですよ。だから、加藤雅也さん(彫刻家・中島良郎役)の工房というのが出てきますよね。あれも本来はサグラダ・ファミリアの中にあるという設定だったんです。でも、中の撮影はできないので、どういうふうにするかをギリギリまで考えて、サグラダ・ファミリアの外に工房があるという設定にしたんですね。
 加藤さんの役のように、日本人で唯一サグラダ・ファミリアの建築に参加されている彫刻家の方というのはほんとにいらっしゃるんですよ。それで、ぼくらが撮影の1週間くらい前にロケハンをしにいったときに、日本の建築学科の大学院生とたまたま知り合いになったんですけど、彼は実際にその方と出会ってサインをもらっているんです。その出会った場所というのが、まさに映画の中でさやかと慶太が中島を見つけるところなんです。そういう映画みたいなことが実際にもあるんだと、その話を聞いて面白かったですね。

この映画はいい人ばっかりの映画でいいと思っている

―― 横浜のベイクォーターでロケされた花火のシーンは、後半の見所ですね。

蝶野:正直に言うと、ほんとにあそこで撮影ができるのかなと思っていたんですよね。すごく人出の多いところですし、実際にあそこを訪れている方たちを止めて撮影することはできませんから。だから、周りの人たちはエキストラだけじゃなくて、実際に遊びに来ている方たちも入っているんです。その交通整理は大変でしたけど、ベイクォーターの方々もこの映画にすごく協力してくださって、4日間くらい営業が終わってからずっと朝まで使わせていただいたんです。それはすごく助かったところですね。打ち上がる花火は合成ですけど、原田泰造さん(花火職人・井上拓己役)が花火をセッティングする場所と建物の距離感もすごく良かったですし、ロケ場所的にはすごく良かったです。

―― ベイクォーターでの撮影で特に印象に残ったことは?

蝶野:夜のシーンだから朝になって陽が昇るともう撮れないので、時間切れは良くありましたね(笑)。実は、最後にさやかと慶太が出会うところは、バックは全部合成なんですよ。本来はベイクォーターの中でやる予定だったんですけど、朝になって陽が出てきてしまったので、急遽、セットに持っていって撮影したんです。

―― 終盤のクライマックスシーンに続いて、ラストのエンドロールのあとにも見逃せない趣向がありますが?

蝶野博監督写真

蝶野:あれは発想としてはわりとシンプルで、ふたり(さやかと慶太)が大学生のときに「未来予想図」を使っていて、そのあとで「未来予想図II」を使っていますから、1、2ときたら、みたいなことですね(笑)。ぼくたちがこれがベストだと思うかたちにしてあるんですけど、あのラストがゴールではなくて、そのあともふたりの人生は続いていくんですよね。だから、お客さんがご覧になって「ふたりの将来はこれからどうなっていくんだろう?」と思ったときに「ふたりは幸せになっていけるんだなあ」というニュアンスが、素敵な音楽と一緒になって、あのラストで表現できていればいいなあと思うんです。

―― 映画の冒頭が2002年の友人の結婚式のシーンですよね。そして1997年でのふたりの出会いも映画の中の結婚式で、そしてラストのシーンもそれと対応しているようになっていて、節目節目に結婚式が出てきますね。

蝶野:なんか結婚式がありすぎだという話もあるんですけどね(笑)。でも、やっぱり結婚式は人生の門出ですからね、そこは照れずにやったつもりです。実は、2002年の結婚式と1997年の結婚式は入れ替えることもできるんじゃないかと思いましてね、編集の時点でいろいろ試してみたんですよ。でも、最終的にいまのかたちが一番いいということになったんです。話がすごくシンプルなので、年代を追ってそのまま行くよりは、ちょっと前後があったほうがいいんですよね。

―― そして映画を観終わると、主人公のふたりをはじめ、登場人物がみんなすごく気持ちのいい人物だというのが強く印象に残りました。

蝶野:はっきり言うと、それは映画的には基本的にやらないやり方なんですよ。普通はいい人ばかりだと、どうしても「なんや、いい人ばっかりのいいだけの話か」って思われちゃったりするので、そこに悪役とかを持ってきて、悪い部分を強調するんです。でも、この映画に関しては、いい人ばっかりで全然いいと思っているんですよね。素敵な人たちの映画でいいだろうと。実際に役者さんもみんな素敵な人ですし、その方たちに素敵な役をやってもらったんで、それは「あざとい」と言われればあざといんです。だけど、そこは堂々とね、あえて意図して、いい人を集めたということですね。

―― では最後に、映画をご覧になるみなさんへのメッセージをお願いします。

蝶野:ごくごく普通の、どこにでもいるような男女の恋愛を描いたつもりなので、肩肘張らずに軽く観てもらえばいいのかな。それで、ご覧になったあとに温かい気持ちになってもらえればいいと思っています。

(2007年9月7日/松竹本社にて収録)

作品スチール

未来予想図 〜ア・イ・シ・テ・ルのサイン〜

  • 監督:蝶野博
  • 出演:松下奈緒 竹財輝之助 ほか

2007年10月6日(土)より、丸の内ピカデリー2ほか全国ロードショー

『未来予想図 〜ア・イ・シ・テ・ルのサイン〜』の詳しい作品情報はこちら!

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