いまやアクション映画の１ジャンルとして世界に定着したブレイド（剣）・アクション。そのルーツといえる“チャンバラ”を生んだ日本から、オムニバス形式の本格的ブレイド・アクション映画『斬〜KILL〜』が登場します。
　世界が注目するクリエイター・押井守監督総監修のもと、押井監督を含めた４人の監督が集結して誕生したのは、いずれも個性あふれる４本のアクション・ムービー。
　その１編、辻本貴則監督による『キリコ』は、たったひとりの肉親を奪われた少女の復讐譚。セーラー服に日本刀を携えた美少女が単身、仇敵のアジトへと潜入し、激しい闘いを繰り広げます。
　息つく暇がないほどアクション満載の『キリコ』で、主人公のキリコを演じたのは森田彩華さん。これまでの作品で見せてきたイメージからは一転、初挑戦とは思えない華麗で激しいアクションを披露しています。
　水野美紀さん、山口祥行さんというアクション巧者に囲まれての初アクションはどんな体験だったのか？　森田さんにお話をうかがいました。

［スタイリスト：日置彩／スタイリング：ショートパーカー、プリントタンクトップ　スカーティッシュ（トリプルアイ）03-6434-3870／ヘアメイク：山岸直樹］

「こんなに動けるのかな？　とちょっと不安もありました」

――　『キリコ』では本格的なアクションに挑戦されていますが、出演が決まったときはどう思いましたか？

森田：すごく嬉しかったです！　このお仕事をしたいと思ったきっかけに、普段は絶対できないような人生が歩めることへの憧れがあったんです。私は小さなころからアニメとかマンガでもファンタジックな世界が好きですし、魔法が使えたりとかアクションが多かったりする作品が好きだったので「私もそんなふうにカッコよくなりたいな」という単純な憧れからアクションに興味を持っていたんです。こんなに早くアクション映画と出会えるとは思っていなかったので、すごく嬉しかったです。

――　アクション映画をご覧になるのも好きですか？

森田：けっこう観ますね。昔はおばあちゃんとおじいちゃんと一緒に住んでいたので時代劇も観ていましたし、父親が洋画をよく観るのでけっこうアクション物はよく観ていて、特に印象に残っているのは『ブレイド』（１９９８年・米／スティーヴン・ノリントン監督）ですね。『ブレイド』は、日本人以外でこんなに刀をカッコよく使えるんだというイメージが強かったですね。

――　『ブレイド』のアクションは『キリコ』と似ているところがありますね。

森田：そうですね、『斬〜KILL〜』のプロデューサーの方々も「『ブレイド』はカッコいいよね」というお話をしていらしたので、やっぱりそうなんだって思いました。

――　撮影に入る前に辻本貴則監督の以前の作品はご覧になったんでしょうか？

森田：水野美紀さんが主演をやっている『バーボンのミキ』（２００７年）というガン・アクションの作品を観させていただきました（押井守監督総監修のオムニバス映画『真・女立喰師列伝』の１編）。すごいカッコいい作品だと思ったんですけど、今回のお話をいただいてから観たので「自分でこんなに動けるのかな？」ってちょっと不安になりました(笑)。

――　アクション初挑戦ということで、事前に練習はどれくらいされたんでしょうか？

森田：実際に練習したのは２日間だけですね。

――　ええっ、そんなに短かったんですか？

森田：そうなんですよ。しかも１日に４時間か５時間くらいだったので、短かったですね。あとは、お手本として先生方が私の代わりにアクションの型をやっているのを撮ったＤＶＤをいただいて、家で繰り返し見ていました。

――　それであれだけのアクションができてしまうのはすごいですね。

森田：もう、みなさんのおかげです(笑)。先生からは「一番大事なのはイメージとシミュレーションだから」と言われたんです。やっぱり、こういう映像でのアクションって、ほんとに強さを競ったり勝ちに行くわけではなくて、相手との呼吸だったり、いかに自分がカッコよく見えるかという見え方じゃないですか。ほんとに数センチ足の位置が違うだけですごく変わるんです。練習のときも自分で鏡で見て「うわ、カッコ悪いなあ」と思ったり(笑)。その修正というのは、体を動かすのではなくて、頭の中でシミュレーションでやるしかなかったんです。練習場以外だと、部屋の中で練習しようとしても天井とかに刀が当たってしまいますし、部屋の小さな鏡だと、ちょっと動いたらもう自分が鏡からはみ出てしまうんですね。外で練習しても、自分の動きが見えない状態で練習して変な癖がついてしまってもいけないと思ったので、一番の練習法はＤＶＤを観てのシミュレーションでした。

「現場に入るとほとんど焦りはなくできたんです」

――　もともと体を動かすのはお好きなんですね。

森田：すごく好きです。小さいころはおてんばで落ち着きのない子だったんですけど、けっこうドンくさかったりしていて、スポーツは運動会の競争とかでもほんとにビリッケツばっかりだったんです。でも、このお仕事をさせてもらってから、スポーツ物との出会いがものすごく多くて、ドラマをはじめ映画でもテニス、バレーボール、バスケットボール、ダンスとか、いろいろなことをやらせていただいたので(※１)、それにつれて徐々に体を動かしていくことは楽しいなと感じるようになってきたんです。小学校のころからやっていて得意なのはバレーボールですけど、ほかにもいろいろなことをちょくちょくやらせてもらっています。

――　いままでのお仕事でダンスをやられていて、見せる動きという点でダンスとアクションは共通する部分があると思うのですが、実際にやってみていかがでしたか？

森田：ものすごく共通しているなと思いましたね。ダンスが役に立ったというのはすごく実感しています。まず、体が柔らかくないと動きの見せ方のバラエティが乏しくなってしまうんです。動きのレパートリーが豊かになるという部分で、ダンスで体を柔らかくしておいてよかったなと思いましたし、ダンスのようにリズムで覚えることが多かったです。

――　２日間の練習は、具体的にはどんなことをやっていったんでしょうか？

森田：監督は私がそんなにアクションができないとは思ってなかったらしくて、ストレッチが終わったら「もう最初っから動きに入っちゃおうか」ということで、木製の刀を持たせてもらって振ったんですけど、あまりにも下手というかカッコがつかなくって(笑)。だから、まず最初は先生と鏡の前に並んで、自分の姿と先生と見比べながら、剣道の練習みたいに刀を前に振る練習を何回もやったりだとか、切り上げる練習も何回もやったりだとか、体で基本的なものを覚えていったんです。

――　その基本的な練習というのはどれくらい？

森田：最初の１日はほとんどそれで終わりました(笑)。「あとは家でＤＶＤを見て動きを覚えておいて」みたいなことを言われたので「どうしよう、私大丈夫かな？」と思ったんですけど、やっぱり先生がよかったのと、楽しい現場だったんでプレッシャーがなかったんですよ。２日目の練習から実際にアクションを付けていったんですけど、ひとりで考えているとすごく不安でプレッシャーを感じていたのが、いざ練習場に入るとみなさんが私が焦る気持ちを察してくださったのか、ものすごくいい雰囲気で練習させてもらったので、現場に入ると焦りというものはほとんどなくできたんです。

――　練習から実際の撮影まではどれくらい時間があったんですか？

森田：日数的にはそんなに空いてなくて、練習のあと４、５日で撮影だったんです。今回はスケジュールをすごく考えてくださっていて、まず１回目の練習のあとは、普段使ってない筋肉を使ったので腕の普段と違うところが痛くなったりとか、今までに経験したことがない筋肉痛になったんですね(笑)。それが取れたころに２日目の練習が入っていて、その２回目の練習の筋肉痛が取れたころに撮影に入るってかたちだったんです。

――　やっぱり、普段から体を動かすことに慣れていても筋肉痛って来ちゃいます？

森田：来ましたね(笑)。一番最初の練習は、私が変なところに力が入っていたせいもあって、首と肩がすごい筋肉痛になったんです。日常からスポーツをしているのでそんなにひどくはなかったんですけど、やっぱり使うところが違うんだなって実感しました。あと、指と指の間とかが筋肉痛になるんですよ。なんか不思議な感覚で、ペンを握るとか、物を持つとか、日常生活の小さな動きをやるのがすごくつらかったです(笑)。

• ※１：森田さんはこれまで、テレビドラマ「エースをねらえ！」（２００４年）でテニス、「アタックNo.1」（２００５年）でバレーボール、映画『青空のゆくえ』（２００５年）とドラマ「さよなら小津先生｣（２００４年）でバスケットボール、「ダンドリ。〜Dance☆Drill〜」（２００６年）でダンスドリルと、多くのスポーツ部員役を演じている

「お仕事で自分の意外な面が広がっていきますね」

――　今回『キリコ』でやったのは、誰かと闘うという、相手のいるアクションですよね。その難しさというのはありましたか？

森田：すごくありました。刀という自分の体と違うものを常に身に付けて動くということで、いつもより気にしなくてはいけない範囲が増えるというのをすごく意識していたんです。刀は本物ではないですけど、硬いですし、ほんとに切れてしまうこともあるので、やっぱり怖いんですね。共演した水野美紀さんからも「自分が役に入りすぎて、まっすぐになっちゃっているときほど怪我をしやすい」とアドバイスをいただいたんです。もちろん周りの方にケガをさせてはいけないですし、そういうところはものすごく気をつけました。あと、私以外の周りの方々はみなさんアクション経験者で、ものすごい先輩だったので、みなさんに気を遣っていただいたおかげで、私が自由に動けたっていうのは大きかったです。

――　山口祥行さんが演じるクモタニとの対決シーンが見せ場となっていますが、山口さんとアクションをやってみていかがでした？

森田：練習からずっと一緒にやらせていただいたんですけど、１回山口さんの手に思いっきり当てちゃったことがあったんです。そこから、ケガをさせてはいけないという気持ちが自分の中のどこかで大きくなっていって、怖くなってしまったんです。「当てちゃいけない」とか「ここまでいっても大丈夫かな？」とか、いろいろな心配要素が出てきて、そうなると動きもどんどん小さくなっちゃって、悪循環で悪い方向に流れていたんです。そのときに山口さんが「自分は男だし多少当たっても大丈夫だから、思いっきりやってもらったほうがこっちもやりやすい」って言ってくださって、そこからアクションも雰囲気も山口さんに引っ張っていただくかたちで、ほんとにお世話になりました。

――　それから、この作品は冒頭に水野美紀さんが演じる姉のキリナのアクションがあって、それを踏まえての中盤でのキリコのアクションですよね。アクションの得意な水野さんの動きを意識しなくてはならなくて、大変だったのでは？

森田：練習では私は最初にクモタニとのふたりのアクションを付けていただいていたんですけど、そのときに水野さんは同じ練習場で別のチームと冒頭のアクションを練習していたんです。それで先生から「あとでああいう感じのアクションもあるからね」ということで、１回自分の練習を止めて見させていただいたら、もうなにをやっているのかさっぱりわからなくて「ええっ！」って思いました(笑)。ほんとに、どんどん切りかかってくる相手をひとりひとり倒していって、その中を前へ進んでいくアクションなので、「うわ、こんなのできないよ」って思ったんですけど、実際にそうやって「見る」ことの大事さを感じました。ＤＶＤで見本の動きを見るだけではなくて、練習のときに水野さんの型を見られたのと、撮影自体も水野さんのアクションシーンが先だったんですよ。なので「このくらいのスペースで同じような動きをやるんだ」というシミュレーションができたんです。実際に動きを見ることで、プレッシャーを感じるだけでなくて「私もあんなふうにカッコよくやりたい」という好奇心が大きくなっていったので、水野さんのアクションを見られたのはよかったですね。

――　アクション以外でも、叫んだり怒鳴ったりと、いままでの森田さんのイメージと違ったお芝居も多いですね。

森田：多いですね(笑)。喋るのが好きなので日常生活でもはしゃいだりすることは多いんですけど、あれだけ怒りを放ったり、感情を相手にぶつけるということはほんとに少ないんですよ。だから最初は叫んでいる自分がしっくり来なくって、自分で「なんかおかしいな」とか思ったりすることもあったんです。でも、撮影の日数が短かくてすごい凝縮されていて、自然と気持ちも途切れずに集中していたので、本番に入ったらそういう違和感もなくなっていました。撮影が終わったあとには案外スッキリしていました。発散になったんですね(笑)。

――　今年公開された『三本木農業高校、馬術部』（佐々部清監督）では乗馬に挑戦されていて、今回はアクションと、映画での新しいことへのチャレンジが続いていますね。

森田：ありがたいことに、お仕事で毎回違った貴重な経験をさせていただいているので、自分の意外な面というか「自分はこういうことも好きかな」ということが広がっていきますね。『三本木農業高校、馬術部』でやった乗馬も初めてで、馬自体見る機会ってほとんどないじゃないですか。もう、一番最初は「馬って大きいなあ」って思って、乗った瞬間に「うわ、高いなあ」って思ったり、ほんとにど素人のところから入ったので、四季を追って１年かけて撮影したんですけど、その１年間は毎日が試練というか、新しいことをどんどん頭でも体でも覚える日々で、あっという間でした。

――　これから映画でこういうことにチャレンジしたいことはありますか？

森田：アクションはまたやりたいです。今回『キリコ』でやったのは刀のアクションですけど、自分の体を使った素手のアクションもありますし、水野さんが以前にやられたガン・アクションもありますし、まだいろいろなアクションがありますよね。『斬〜KILL〜』のほかの作品も見せていただいたんですけど、『妖刀射程』（田原実監督）に出てくる、刀と銃が融合した武器は使ってみたいなと思いました(笑)。今後も、アクションはすごいやってみたいですね。

――　では、今後はアクション派の森田さんがもっと観られるかもしれませんね。

森田：そうですね、アクション派になれるように頑張ります(笑)。

（２００８年11月11日／デイズにて収録）