『携帯彼氏』船曳真珠監督インタビュー
携帯電話に理想の彼氏をダウンロードする恋愛シミュレーションゲーム“携帯彼氏”が少女たちの間で大流行していた。だが“携帯彼氏”で遊んでいた少女たちが、ひとり、またひとりと謎の死を遂げる。まさか“携帯彼氏”が犯人なのか!? 同級生の死を前にして、女子高生の里美は“携帯彼氏”の謎に迫っていく……。
女子中高生から絶大な支持を集めたケータイ小説を映画化した『携帯彼氏』で監督をつとめたのは、本作が劇場長編デビュー作となる船曳真珠監督。多くの映画人を輩出してきた映画美学校と黒沢清監督や北野武監督が教鞭をとる東京藝術大学大学院映像研究科で学んだ経歴を持つ、注目の女流監督です。
川島海荷さん、朝倉あきさん、石黒英雄さんという映画やテレビで人気の若手キャストを迎えて完成したのは、ホラーの恐怖と謎解きのサスペンス、そしてラブストーリーの要素が絡みあった、まさに新感覚のエンターテイメントムービー。これからの日本映画界を牽引していく新たな才能の登場を感じさせます。
鮮烈なデビューを飾った期待の新鋭監督にお話をうかがいました。
船曳真珠(ふなびき・しんじゅ)監督プロフィール
1982年生まれ、東京都出身。2000年に東京大学に入学、映画サークルで自主映画製作を開始。また、大学と並行して映画美学校で映画制作を学ぶ。大学在学中にインディーズのオムニバス映画『夢十夜 海賊版』の1編を監督し、同作品は2007年に一般公開を果たした。大学卒業後の2006年に東京藝術大学大学院映像研究科に二期生として入学し、黒沢清監督、北野武監督らに師事する。東京藝大とジェネオン エンタテインメント(現・ジェネオン・ユニバーサル・エンタテインメント)が共同製作した川端康成原作のオムニバス映画『夕映え少女』(2007年製作/2008年公開)では表題作「夕映え少女」の監督をつとめた。現在は雑誌「映画芸術」での執筆活動もおこなう。
「女子中高生を対象に、彼女たちに共感してもらえる映画を作りたい」
ケータイ小説を原作に、サスペンスやホラーの要素をあわせ持ったジャンルムービーと呼ぶべき作品となっている『携帯彼氏』は、船曳監督にとって以前から「すごくやりたかった」タイプの作品だったそうです。
「自主映画の枠でジャンルムービーをやろうとすると、どうしても安っぽく見えちゃったりするんですよね(笑)。だからなかなか挑戦できなかったんですけど、やりたくて仕方がないものだったんです」
学生時代にもオムニバス映画『夢十夜 海賊版』の1編「第五夜」を監督してSFサスペンス的な作品を手がけた経験もあり、今回の『携帯彼氏』では、商業作品という舞台でのジャンルムービーの挑戦に「やらせてもらってすごく楽しかったです」といいます。
『携帯彼氏』はケータイのゲームを介して死の恐怖が訪れるという特異な設定のストーリーのため、それを映画の中でリアルなものとして感じさせることが重要だったといいます。
「この映画では白昼堂々と恐怖の出来事が起きるので、その“白昼堂々感”ですね。それをリアリスティックに風景の中で起こっているという見せ方をするよりも、人物の動きにあわせて見せていくことで、観客が納得できるような感じにしていたというのはあります。基本的に“この人物の気持ちに沿って観ていけば映画の中の出来事を信じられる”ということを狙って、恐怖を体感させるようにしたつもりなんです」
同時に、日常的な描写の中にリアリティを持たせることも大事にしていたそうです。
「主人公の里美に“携帯彼氏”を押し付けてくる昔の友達が出てくるんですけど、そういうときの人間の嫌らしさとか、里美と親友の由香がケンカしてしまうところとかは、なるべくリアルな感情を出してもらって場面を作るというのを意識していました」
『携帯彼氏』のプロデュースと脚本を担当している柴田一成さんとは、船曳監督が大学院時代に監督したオムニバス映画『夕映え少女』にエグゼクティブ・プロデューサーとして柴田さんが参加して以来の縁。これまでアクションやホラー系の作品のプロデュースを多く手がけ、大ヒット作となった『リアル鬼ごっこ』では監督もつとめている柴田プロデューサーから、今回の作品作りにあたって影響を受けた部分はあったのかという質問に対しては、
「柴田さんはすごくスピーディーな映画を作られる方なので、脚本の時点でもかなりスピーディーなアクションを作っていくという構想ができあがっていて、そこで勉強もありましたし、影響を受けました。撮影に入る前にも“恐怖シーンはこういう見せ方をしようと思っているんですけど”というように、どういうふうに撮っていくかをかなり詰めてお話をしたという覚えがありますね」といいます。
『携帯彼氏』より、川島海荷さんが演じる主人公・里美(右)と、石黒英雄さんが演じる直人
『携帯彼氏』の大きなコンセプトとなっていたのが「女子中高生を対象に、彼女たちに共感してもらえる映画」であるということ。そのために重要だったのが、川島海荷さんが演じる主人公・里美と石黒英雄さん演じる先輩・直人の恋愛映画として成立させることだったといいます。
「まず、サスペンスと恋愛のバランスをとるのがけっこう大変だったんです。恋愛の部分がサスペンスの中に埋もれちゃったり取ってつけたようにならずに、そこでグッと観客が入りこめる感じにしたかったので、撮り方も変えているんです。里美と直人が初めて出会うところや学校の中でふたりが会うところでは、カメラを手持ちにしていたり、照明とか画の感じも変えているんです」
映像面だけではなく、川島さんと石黒さんの演技自体もほかの場面とは違った空気を生むように気を配られたとのこと。
「恋愛のところはお芝居もけっこうアドリブをやってもらって自然な感じを狙いました。ほかのところはけっこうカッチリと決めて撮っていたので、アドリブ的なのはほんとに恋愛のところだけなんですよ。川島さんと石黒さんは現場でも仲がよくって、でも年齢が違うのでちょっと距離感もあって、その自然な関係を画面に定着できるようにと思っていたんです」
現場では「思いっきり女の子がキュンとするような恋愛をやりましょう!」と「ちょっと自分の昔のこととかも入れてみたり(笑)」しながら撮影していったという恋愛パート。撮影も女性の橋本彩子カメラマンだということもあって「そこらへんは女子の乙女心で撮っていった感じですね(笑)」。
好きな監督としてスティーブン・スピルバーグ監督の名前を挙げ、アメリカ映画が大好きだという船曳監督。『携帯彼氏』はその影響を感じさせるエンターテイメント作品に仕上がっており、ターゲットである女子中高生はもちろん、幅広い層の観客を魅了するに違いありません。そんな長編デビュー作に続き、今後はどんな作品作りを目指していくのか訊いてみました。
「これからもジャンルムービーも撮っていきたいですし、いつか撮りたいと思っているのは、社会性もあって、かつエンターテイメントであるような作品ですね。アメリカ映画だとそういう映画も多いと思うんですけど、社会派映画として堅苦しくなってしまうのではなく、楽しめる映画を作っていけたらなと思っています」
すでに『夕映え少女』と『携帯彼氏』というタイプの異なる2本でその作風の幅広さを示した船曳監督ですが、これから手がける映画も1作ごとにガラッと作風を変えた作品になっていくのでしょうか?
「そうですね、なんでもやりたがりで欲張りなところがあるので(笑)。できる限りいろいろなジャンルの映画を撮りたくて、いまはラブコメが撮りたいなと思っていたりとか、ほんとにジャンルを限定せずに撮りたいなと思っています」
期待の新鋭監督の活動からは、今後も目が離せなさそうです。
(2009年10月8日/GONZOにて収録)