『ランブリングハート』村松亮太郎監督インタビュー
徹底した現実主義者で恋愛にも夢を持たないOLの翠は、会社の先輩・克也と結婚の準備を進めているが、ある夜、ラブホテルで知らない女性と一緒にいる克也の姿をみて大ショック! そんな折、双子の妹の葵が突然田舎からやってきた。翠と対照的に恋愛に奔放な葵は、恋した相手を追いかけてきたのだという。果たしてふたりの恋の行方は?
村松亮太郎監督の新作『ランブリングハート』は、とびきりキュートでロマンティックなラブコメディ。待望の映画初主演となる臼田あさ美さんがヒロインの双子の姉妹・翠と葵を一人二役で演じるのをはじめ、葵がバイト先で出会う青年・南真智に桐山漣さん、翠の彼氏・克也に大口兼悟さんと、いま注目度急上昇中のフレッシュなキャストを起用。姉妹が繰り広げる恋愛模様をキラキラとしたポップなタッチで描いていきます。
独特の映像センスで海外の映画祭でも高く評価されている村松監督は、『ランブリングハート』でも村松ワールドと呼ぶべき魅力あふれる世界を作り出しています。各方面から期待を集める俊英の世界作りの秘密に迫ってみました。
村松亮太郎(むらまつ・りょうたろう)監督プロフィール
1971年生まれ、大阪府出身。俳優としてキャリアを重ねつつ、1997年に“NAKED INC.”を設立し、ビデオクリップやCMやドラマなどのディレクションを手がける。2003年からショートフィルムの制作を開始し、2006年に『BLUE』でワールドフェストヒューストン国際映画祭でレミアワードグランプリを受賞。その後も監督作品が数多くの国際映画祭にノミネート・受賞を重ね、その総数はこれまでに40を越える。劇場公開作品に『LOVEHOTELS ―ラヴホテルズ―』(2006年)、『ヘイジャパ!』(2008年)、『アリア』(2008年)。『アリア』では俳優として出演もしている。
「集まったものをどうまとめるかというアプローチをしていった」
―― 『ランブリングハート』はすごくポップな作品となっていて、監督の以前の作品では『LOVEHOTELS ―ラヴホテルズ―』(2006年/以下『ラヴホテルズ』)でサエコさんが主演したエピソードに近い雰囲気かなと感じました。
村松:おっしゃるとおりで、まさに『ラヴホテルズ』がスタートになっているんです。ありがたいことに『ラヴホテルズ』は当時スマッシュヒットしまして、特にオムニバス4編の中でサエコさんが主演した「ANTI SEX」の評判がすごくよかったんです。「あの話がよかった」という方が、ほんとにご覧になった方の9割以上くらいだったんですよ。実は、自分としては「ANTI SEX」はいい意味で軽い気持ちで作っていたんです。ほかの3作品のあとの特上のデザートみたいに、いい意味での遊びでできないかなと思って作った作品なので、ホン(脚本)も4時間くらいで書いていたんですよ。だけど、それが「一番力が入ってますね」と言われたりするんですね(笑)。やっぱり、ミュージシャンでも自分の好きな曲とシングルカットしてヒットする曲は別みたいな話はありますよね。そういうものなのかなと思ったのと、周りからも「ああいうポップさやキャッチーさをもっと使わないのはもったいないんじゃないか」というような声をいただきまして「じゃあ、ああいう作品をひとつの完成形として長編で作ってみよう」というところから『ランブリングハート』がスタートしたんです。
―― 今回は脚本を桑原裕子さんが書かれていて、監督の作品でほかの方が脚本を書かれるのは初めてですね。
村松:ええ、いままではぼくが脚本も書いていましたし、キャストもほとんどぼくが決めていて、ぼくがすべてを主導して進めてきたところがあったんです。そうやってぼくの中にある世界観をどうやって作っていこうかという作り方をしていたんですけど、今回は「こういう作品をやろうよ」と周りから勧められてスタートしていたので、脚本はほかの方に書いていいただいて、キャストもまずプロデューサーから勧めてもらうというかたちで、いろいろと集まってきたものを、ぼくがどうまとめあげるかというアプローチをしていったんです。
―― ほかの方の脚本で映画を撮るというのはいかがでした?
村松:変な感じではありましたね(笑)。ただ、桑原さんは舞台を見せていただいて「この人とは“だよね”“そうだね”で通じるな」と思っていたんです。お互いに「わかるわかる」って感じで感覚が通ずるところがあったので、すごくやりやすかったですね。
―― 最初に脚本を読まれたときの印象はいかがでしたか?
『ランブリングハート』より。臼田あさ美さんが演じる主人公・翠
村松:単純に読み物として面白かったんですよ。でも、やっぱり桑原さんは舞台をやられている方なので、舞台のホンだったんですね。読んでいて面白いなあと思っても、実際に撮ることを想定していくと「ん? どうしようかなあ」というのはあったんです。舞台だと動きがなくてもセリフだけでガーッと運べるところがあるんですけど、映像では画がもたないので、それは無理なんです。だから、そういうところをどう映像に変換していくのかという苦労はありました。それでシチュエーションもいろいろ変えていったりとか。桑原さんのホンだと、オープニングは翠が部屋の中でいろいろ思っているところから始まっていたんです。でもぼくはそれを外にして、公園に持っていったんです。桑原さんはそれは「すごく映像的なアプローチだ」とおっしゃっていましたね。
―― 作品全体が、悪い意味ではなくスイーツな感じというか、流行に敏感な女性の方に受け入れやすいような雰囲気になっていると感じました。その中で、主人公の翠と葵の姉妹の父親が漁師という設定なのが面白いと思ったんです。たとえば、父親がレストランのシェフとかであれば、もっとオシャレ一辺倒になるのかなと思うんですけど、そこで漁師というのを持ってくる“外し”みたいな感覚がこの映画の独特なところかなと思ったんです。
村松:結果的に“外し”にはなっているんでしょうね。あれは桑原さんが最初からホンに書いていて、桑原さんはそんなに深くは考えてはいなかったみたいなんですけど、ぼくはそれがすごく好きだったんで、ホンを直していくときに「このマグロの一本釣りは絶対に残してくれ」とオーダーしたんです。やっぱり、そういうことを書いてきてくれるのが感覚が通じている部分なんですよ(笑)。ただ、あそこは“外し”とは言えどもただの“外し”ではなくて、マグロというのにいろいろな意味あいがあるじゃないですか。翠のマグロ女的な部分もそうだし、葵と翠の性格が姉妹だけどまったく違う背景として、お父さんがマグロ漁師だという設定は説得力があると思ったので、核を押さえた上での“外し”だと思ったんです。たしかに、最初は「え?」と思うけど、筋が通っていてすごく面白いなって。それと、スイーツな感じにするとしても、いまはスポンジの上に生クリームを乗せればいいというものではないと思うんですよね。そこにちょっと意外なものを組みあわせたほうがよかったり、ぜんざいに塩昆布のほうが甘さが引き立つみたいなもんですね(笑)。そういうバランスとしていいなと思ったんです。
「キャストを誰も知らなくて、真っ白なところから始まったんです」
―― 先ほどのお話ですと、今回はキャストも周りから勧められた方々を起用されているんですね。
村松:最初は誰も知りませんでしたからね (笑)。脇の方は違いますけど、正直なところ臼田(あさ美)さんも桐山(漣)くんも大口(兼悟)くんもまったく知らなくて、真っ白なところから始まったんです。それで実際にご本人にお会いして、その印象でぼくの中で「いけるんじゃないか」という感覚があって決まったというところですね。
―― 葵と翠を演じた臼田あさ美さんは初主演で一人二役に挑戦されていますが、監督が臼田さんでいけると思った決め手となったのはどんなところだったんでしょうか?
村松:『ランブリングハート』は、要はラブコメディ、ロマンティックコメディで、それは日本ではひじょうに弱いジャンルなんですよね。海外では圧倒的なコメディエンヌがいて、メグ・ライアンから始まって、ドリュー・バリモアやキャメロン・ディアスもそうですし、そのカラーと作品がすごく結びついていると思うんです。だから、コメディエンヌがやれるかどうかという感覚が大事だったんです。その意味では、臼田さんはファニーフェイスなところもあるし、表情も含めてコメディエンヌとしてやれると思ったんです。それから、いい意味での曖昧さがあると思ったんですね。女優さんによっては、どう撮っても同じカラーになってしまって、二役をやろうとしてもその人にしか見えない方もいると思うんです。でも、臼田さんはその曖昧さが一人二役をやるのにすごくいいと思ったんです。
―― 一人二役の演じ分けで、臼田さんは苦労なさった部分も多かったのではないでしょうか?
『ランブリングハート』より。臼田あさ美さんは双子の姉妹・翠(右)と葵(左)の一人二役に挑戦
村松:臼田さんにとっては、葵はやりやすかったらしくて「葵のテンションにはポーンと行けるけど、翠はわかりやすい特徴があるわけではないので難しい」という話をしていたんです。でも、たぶん臼田さん本人はどちらかと言ったら翠に近いんですね。だから「翠はそんなに作らなくて自然体でいいんじゃないの」という話をしているうちに翠もしっくりくるようになって、そのしっくり感でシンプルにやったほうがいいんじゃないかってことでやっていきました。
―― 南真智役の桐山漣さんの印象はいかがでしたか?
村松:桐山さんは、時間が経つほどに評価が上がった人ですね。彼は主張の強い人ではないので、考えていることがわかりにくいところもあって、最初にお会いしたときは「これが流行の草食系か?」とか思っていたんです(笑)。そのときに彼は「ぼくは役者という職業に巡り会えてよかった。なんでもっと早く巡り会えなかったと思っているんです」という話をしていたんですけど、実際にその言葉が説得力を持つようになってくるんですよね。それはリハーサルのときの姿勢であったり、映画のために練習してもらったことにすごく一生懸命取り組んだりするところで、決定的なのは初日に「今日からよろしくね」と言ったときに、彼の台本がすでにボロボロだったんです。それを見て、この人はほんとにちゃんとやろうとしている、役者でありたいと思っているんだって思いましたね。ある種、南くんという役のままというか、あんまり言葉では言わないんですけど漢気があってまっすぐなんで、どんどん見直しました。最初に偏見を持っていたのが申し訳ないくらいです。
―― 桐山さんの役というのは、あまり感情を出さないところがあって難しい役かなと思いました。
村松:難しかったと思いますね。リハのときに桐山くんと「南くんは、出てきた瞬間に南くんじゃなきゃいけないキャラクターだよね」という話をしたんです。あり方とか佇まいとか、一言喋っただけでも「南くんだ」って感じがしないといけないので、ずっと「南くんっぽさってなんだろうね」という話をしていたんです。それはあくまで感覚的なものなんですけど、ぼくがもともと役者だったということもあったので、ふたりで話をしながら、セリフの言い方ひとつにしても「南くんだったらこういう言い方になりそうだよね」というところから感覚的にアプローチした感じです。
―― 翠の彼氏の克也役の大口兼悟さんについてはいかがでしょう?
村松:克也は、最初はヒュー・グラントみたいな、なんか憎めない優男というイメージをしていたんです。だから大口くんはヴィジュアル的には最初のイメージとはまったく逆だったんですよ。なので、克也は大口くんに合わせて、しっかりしているキャラクターに変えていったんです。大口くんと会ってヒュー・グラントのイメージじゃなくなったときに、ぼくの中では最初とは違う克也のキャラクターが成立したんですね。大口くんはワルっぽい役を演じることも多いですから、今回で別のイメージを作ってくれると面白いなというのがありました。メガネもかけてもらって、真面目な感じ、スクエアな感じにしたかったんです。最初のイメージが違っていたのは南くんも同じで、最初は強面とまではいかないけど無愛想なイメージだったので、桐山くんに合わせて見た目は柔らかいキャラクターにしているんです。
―― 大口さんは、メインキャスト3人の中では三枚目的な役ですね。
村松:大口くんは真面目にやると面白いんですよね(笑)。克也は一生懸命なほど笑えていくキャラクターかなと思いましたし、大口くんで観ている方を笑わせようとしたらどうすればいいかなというのがあって、大口くんのストレートさを出してもらって、克也の真面目さがやればやるほど空回りしていくのが笑えるかなと思ったんです。
―― これは『ランブリングハート』に限らず、監督の作品ではたとえば『ラヴホテルズ』で高校の憧れの先輩をマイケル富岡さんがやっていたりとか「この役をこの人が?」という意外なキャスティングが多いと思うのですけど、そういうキャスティングはどんな発想でなさっているのでしょうか?
村松:単純に言えば、世間のイメージがどうあれど、ぼくにはそう見えているということですね(笑)。『ランブリングハート』で言えば、(ダイヤモンド☆)ユカイさん(『ランブリングハート』では“永遠のアイドル”伊月航役)はぼくにはああ見えているし、(鈴木)砂羽さん(葵のバイト仲間・夏目耀子役)もそうなんですけど、世間が作ったイメージがその人のほんとに面白いところかといったら違うと思うんですよ。それはぼくがあまのじゃくなのかもしれないですけど、ぼくはハマり役だと思ってやっていますね(笑)。『ラヴホテルズ』のマイケル富岡さんにしても、運動神経抜群で頭脳明晰でハンサムで生徒会長という役だったらマイケル富岡さんしか出てこないじゃないですか(笑)。あと、ぼくはMTVでマイケル富岡さんが司会をやっているのを小学校のときに観ていたし、80年代的な二枚目さを持っているのをあそこにはめるとハマるかなということろもあったんです。やっぱり、ぼくにとっては「生徒会長はマイケル富岡さん」というのは自然のことに近かったんです(笑)。
「ひとつの世界を作りあげる舞台装置としてラブホテルはすごく面白い」
―― これは今回、一番お尋ねしたかったことなんですが、以前の『ラヴホテルズ』はタイトルからしてそうですし、その後も『ヘイジャパ!』『アリア』(ともに2008年公開)、そして『ランブリングハート』と、どの作品でもラブホテルが舞台となったり重要な役割を果たしていますよね。監督にとってラブホテルってなんなのでしょうか?
村松:なんか、ぼくがラブホテル大好きな人みたいですよねえ(笑)。正直な話をしてしまうと、似た時期に始まった企画だということがあるんです。『ランブリングハート』は『ラヴホテルズ』のパート2的な作品ですから違うんですけど、『ラヴホテルズ』と『ヘイジャパ!』『アリア』に関しては企画のタイミングが似ているんです。それで、ぼくがそのころラブホテルという空間に面白さを感じていたんです。ぼくは、人の生々しいなにかがないと嫌なんですね。『ランブリングハート』の中でも言っていますけど、やっぱりラブホテルというのは人が一番素の状態になる場所なんですよ。単にセックスする場所ということではないと思うんです。いろいろな組み合わせのカップルがいるだろうし、いろいろな事情もあるだろうし、場合によっては、ふたりになってセックスがどうではなくて、ほんとにケンカすることもあるだろうし、ふたりきりで相手に見せられる顔がどんななのかとか、あの密室の中に見たくないものも含めてある種の真実がある気がしたんです。オフィシャルな場所だとみんな建て前で生きているんだけど、オフィシャルじゃないゆえに建て前のない場所なんですよね。そこが面白かったのかなと思うんです。『ヘイジャパ!』にしても建て前が壊れていく話ですから、そういうところが好きなんでしょうね。
―― ラブホテルを舞台にして映画を作る上でやりにくい部分というのはありますか?
村松:現場の話をすると、撮影ではワンフロアをお借りすることが多いので、別のフロアには普通にお客さんが入ってくるんです。それが一番やりにくいというのはありますね(笑)。あと、現場の話ではないんですけど、ラブホテルという場所は、人によってはすごく淫靡なイメージを持っている一方で、同時に普通のタウン誌で特集されてコンビニで売っていたりするわけですよね。淫靡でクローズなものなのか、ポップでオープンなものなのか、どっちにも転がる感じが面白いと思っているんですけど、人によっては「え、ラブホテル?」という淫靡なイメージだけで受け取られてしまうことがあるんです。ぼくが思わないような固定観念がまだあって、それが思った以上に強かったりするんです。そうすると「なぜラブホテルか」というところを観てもらえないので、そこは苦しいところなんです。現場と違う意味でのやりにくさはそこですね。
―― 『ランブリングハート』を含めて、これまでの作品がラブホテルという点では共通していつつも雰囲気がそれぞれ違う雰囲気なのは、ラブホテルがいろいろなイメージで見られるのを反映しているところがあるのでしょうか?
村松:そうですね。それにラブホテルっていろいろな部屋があるから面白いわけじゃないですか。ぼくにとって映画を作るというのはひとつの世界を作りあげる行為だと思うんですね。その舞台装置としてすごく面白かったっていうのはあるでしょうね。「こういう部屋で」と舞台が揃っていて、そこに作りこんでいくとちょうど世界ができあがるという感覚は面白かったですね。
―― ロケに使うラブホテルは相当探されるんですか?
村松:もう、ぼくはいま相当ラブホテルには詳しいですよ、任せてください(笑)。やっぱり、ロケ場所を探すにはひたすら調べるしかないんですね。そして足を運ぶんです。ネットで調べたりもしますけど、やっぱり写真だけだとわからないところがあるので、関東圏に関しては相当の場所に足を運びましたね。実際お借りできるかどうか決まっていなくても「下見だけでもさせてもらっていいですか」というかたちで見せてもらいました。
―― ラブホテル自体は世の中にたくさんあるわけですけど、撮影に使える画になるラブホテルっていうのはどれくらいあるんですか?
村松:滅多にないですね。昔に比べればオシャレになったといっても、そうそうないです。ひとつには、当然ですけど撮影のためにはある程度の広さが必要になるので、狭いとダメなんです。それから、やっぱりラブホテルって効率を重視して建てられているところが多いので、大体のところは部屋が真四角なんですよ。いい空間というのは空間を贅沢に使っているんですけど、そういう作りにしたがらないわけですよ。だからパッと見た感じはよくても、実はそれは壁紙とかで誤魔化してあるだけなので、映像にすると平面的にしか見えなかったりして、見た目ほどよくないってことはあるんです。今回は、特に空間を感じさせる部屋をチョイスしていることが多いですね。
―― 今回の撮影は1ヶ所のラブホテルでやられているわけではないですよね?
村松:もちろんバラバラです。外観でひとつで、中でみっつとか、事務所はまた別だったり、全部で5、6館は使っていますね。外観もただ見た目がいいというだけではなくて、位置関係の問題とか脚本の都合で屋上が使えるところとかいろいろ条件があったので、外観をどうするかが一番苦労したところですね。映画の中では翠のアパートからラブホテルが見えているんですけど、当然そんな場所はないので全部合成なんです。実際にあのアパートから見えているのは弁当屋と車の販売店ですからね(笑)。そういうのはすごい苦労しました。実はこの作品はすごくCGを駆使した作品なんです。
―― CGに関しては、画面をキラキラさせる効果を加えたり、CGだとわかるような使い方もかなりされていますね。
村松:そうですね。ぼくは、この映画ではああやってキラキラするのに違和感はないと思うんですよ。その世界でのリアリティってありますよね。ロビン・ウィリアムスがどんなに仰々しい芝居をしても『ミセス・ダウト』(1993年・米/クリス・コロンバス監督)の中では成立するわけですよ。それと同じで『ランブリングハート』の世界ではキラキラが成立すると思ったんです。それは、ある意味『ラヴホテルズ』の中でマイケル富岡さんが成立するのと同じかもしれませんね。
―― そういう独特の世界を持った『ランブリングハート』をご覧になる方へのメッセージをお願いします。
村松:今回、一番重視していたのがいい意味での“サービス精神”だったんですね。だから、観終わったときに「ああ面白かった」でもいいですし、女の子だったら「恋がしたくなったなあ」とか、単純に恋愛映画を観終わったよさというのがあってほしいです。お客さんに対してはそういう想いを持っています。それから、ぼく自身もある種の軽さを持ったライトな映画だと思っているんですけれど、観終わったときに軽いノリだけではないなにかがそこに残っていてくれれば、ぼくとしては嬉しいですね。
―― 『ランブリングハート』は、叙情的だった『アリア』や、毒の強かった『ヘイジャパ!』とはガラッと違ったポップな作品でしたが、今後の作品はまた別の方向性になったりするのでしょうか?
村松:『ヘイジャパ!』は、毒が強かったというか毒しかなかったですからね(笑)。ぼくは作品ごとにカラーが変わっちゃうんですけど、最終的にはほんとに力のあるものを作れればマニアックな方にもメジャー志向の方にも面白いと感じていただけるはずだと思っているんです。老若男女、海外の人も日本の人もみんなが面白いと思うものがあると思うんですね。いまもいろいろと動いている企画があるんですけど、そういう意味では『ヘイジャパ!』みたいな作品をやったり『ランブリングハート』をやったりして、自分の中でなにかを探っていっているところかなと思います。ビートルズはマニアックな方とそうじゃない方のどっちにも受けるじゃないですか。そこまで行ければいいなと思っているんです。
(2009年12月18日/ネイキッドにて収録)
ランブリングハート
- 監督:村松亮太郎
- 出演:臼田あさ美 桐山漣 大口兼悟 斎藤洋介 阿部亮平 ほか
2010年1月16日(土)よりシネマート新宿ほか全国順次公開