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『明日泣く』汐見ゆかりさんインタビュー

汐見ゆかりさん写真 小説が書けずにギャンブルに溺れる作家の武は、高校時代の同級生・キッコと偶然の再会を遂げる。ジャズピアニストとして成功することを夢見ながら、一見奔放で、しかし不器用に生きているキッコに、武は興味を惹かれていく……。
 かつて東映プログラムピクチャーで「不良番長」シリーズや『番格ロック』など、現在もカルト的な支持を集める作品を送り出してきた内藤誠監督の25年ぶりの新作として話題を集めているのが『明日泣く』(あすなく)。昭和の無頼派作家・色川武大さんの同名小説を原作に、武とキッコ、ジャズミュージシャンの島田たち、刹那的にも見える生き方をする若者たちの姿が、ジャズの響きに乗せて綴られていきます。
 この注目作で、内藤監督直々の指名によりヒロインのキッコ役に抜擢されたのが、『ナチュラル・ウーマン2010』の主演で注目された汐見ゆかりさん。武を演じた斎藤工さんや島田役の武藤昭平さん(ジャズ・パンクバンド“勝手にしやがれ”リーダー)を相手に抜群の存在感を発揮し、キッコというひとりの女性をリアルに作品に息づかせています。
 酒、煙草、ジャズ――往年の日本映画が持っていた“不良の匂い”が漂う『明日泣く』の世界で華やかに舞った汐見さんに、お話をうかがいました。

汐見ゆかり(しおみ・ゆかり)さんプロフィール

1981年生まれ、岡山県出身。2001年からモデルとしての活動を開始。カネボウ化粧品「free plus」、日産自動車「MOCO」、TDK企業広告など、多数のCMに出演する。その後は女優業を中心に活動し、映画のほかテレビドラマや舞台にも出演。2010年に公開された写真家・野村誠一氏の第1回監督作品『ナチュラル・ウーマン2010』で主演をつとめ話題となった。そのほかの出演作品に『THE CODE/暗号』(2008年/林海象監督)『パーマネント野ばら』(2010年/吉田大八監督)『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』(2010年/豊島圭介監督)などがある。

「女性のダメな部分をかき集めて、ガサツに演じてみようと」

―― 『明日泣く』のキッコ役は、内藤誠監督からのご指名で決まったそうですね。

汐見:はい、以前に私が出演させていただいた作品で『ナチュラル・ウーマン2010』(2010年/野村誠一監督)という作品があるんですが、試写会に内藤監督がいらっしゃっていて、キッコ役を探されてもいて、「あ、キッコだ!」と、私にお話をいただいたんです。私も台本を読ませていただいて「ぜひやらせてください」と。

―― どんなところがキッコっぽかったのか、内藤監督から具体的にお聞きにはなりましたか?

汐見:『ナチュラル・ウーマン2010』のショートヘアのウィッグを被っているシーンの私が、イメージが強そうというか、キッコにピッタリだった、とおっしゃっていました。『明日泣く』でも、学生時代でショートのウィッグを使用させていただきました(笑)。

―― 今回の『明日泣く』は昭和が舞台ですし、キッコはいまの映画やドラマに出てくるようなヒロイン像とは違ったタイプの女性だと思うのですが、演じるにあたって、どのように役柄を掴んでいかれたのでしょうか?

汐見ゆかりさん写真

汐見:“昭和”ということについては、そんなに強く意識してはなかったです。役を掴む点では、撮影の1ヶ月前に電子ピアノをお借りしてピアノの練習を始めました。それからキッコの役作りに段々とはいれて、台本のキッコのセリフであったり、行動であったり、原作などを読んで“女性のダメな部分”だと思いました。友達、知り合い、私も含めてですけど(笑)、女性のダメな部分をかき集めて、ガサツに演じてみよう、と。

―― そういうキッコ的な部分というのは、汐見さんの中にもあるものなんでしょうか? それとも、全然異質のものですか?

汐見:「憧れ」ではあります。「自分のやりたいことのためなら周りをどれだけ引っかき回しても私はやっていくんだ」という意志を持った女の子の話なんです。私も本当はそうありたいんですけど、許されない部分いろいろありますし……。持ってると言えば持ってるけど、踏み出せない、みたいなところですかね。キッコは、ちょっと行き過ぎてしまった。

―― キッコをどう演じるかについて、監督とはどのようなお話をされたのでしょうか?

汐見:衣裳合わせやメイクをご覧になって、監督の中ではなにか決まっていたのかな、と思うんです。前の作品もご覧になっていたので私がどんな演技をするのかわかっていた。もしくは今回の撮影に入ってから芝居を見ていく上で「これでいい」って思われたのか。監督か具体的な指摘を受けたことはなかったです。ただ、違う点については、濁さずに「そこは違う」とはっきり伝えてくれました。

―― 監督から「違う」と言われるところで、具体的に挙げられるところがあればお願いします。

汐見:セリフで、問いかけるのか、問いかけずに、なのか、解釈が変わる部分ですね。私から「どっちにしますか?」と、お聞きしたこともあります。するとすぐに「こっちだよ」と。「キッコがピアノを弾いていたジャズ喫茶でクビになって、代わりの女の子が来る」というシーンがありますが、そこでは長い時間コミュニケーションをとりました。

「楽しいシーンは楽しくやればいい、思いっきりやればいい」

―― 先ほど衣裳合わせやメイクのお話も少し出ましたが、今回は衣裳やメイクも今風ではない感じですよね。役に入る上で、衣裳やメイクが助けになるということはあるのでしょうか?

汐見:ありますし、大きいです。特に今回はすごく大きかったです。赤いリップは普段付けないもので「付けたらキッコ」というのは入りやすかったです。

―― 普段なさらないメイクをしたところをご自分でご覧になるのって、どんな感じなんでしょうか? 他人みたいな感じがあったりもしますか?

汐見:学生時代ではそうでした。制服を着ていますし、ウィッグも被っていますので、自分で見て「あ、キッコだ」みたいな。

―― なるほど。では、汐見さんご自身が演技をなさる上で、学生時代を演じる際に、数年経ったあとのキッコとの違いを意識した部分はあったのでしょうか?

汐見:初々しさは意識していましたね。キッコは学生時代に自殺未遂をして学校を辞めているんですが、その前なので、まだ夢に前向きで純粋にまっすぐ向いていたと思うので。かわいらしさはちょっと意識していました。「プリティ」じゃなくて「キュート」のほうのかわいらしさですね。

―― 今回の映画は音楽が大きく扱われていて、キッコは学生時代からピアノを弾くシーンがたくさんありますね。先ほど撮影の1ヶ月前からピアノの練習を始めたというお話がありましたが、いままでピアノや楽器のご経験はあったのですか?

『明日泣く』スチール

『明日泣く』より。ジャズピアニストとして成功することを夢見るキッコ

汐見:ないです。鍵盤ハーモニカ以来ですね(笑)。

―― すると、練習にはご苦労もあったのではないでしょうか?

汐見:大変でしたね、ドの位置がどこにあるのかわからないところから始めまして(笑)。全部弾きたかったというのはありましたし、せめて1曲だけでもちゃんと弾けたらと思ってましたが、ジャズは難しいものですから、最終的には「この音が流れているときは指がこのあたり」と指を置けるように練習をしていったんです。「強い音のはこう弾いている、その動きを覚えて」、そういう練習に徹しました。

―― 「動きを覚える」ということですと、実際のピアニストの方の演奏を参考になさったりもしたのですか?

汐見:そうですね、ライブも行きましたし、有名なピアニストの上原ひろみさんのライブ映像集を見て勉強させていただいたりしました。監督からは「ダイナミックな動きをするピアニストであってほしい」と言われていました。動きが大きい方の演奏を意識していました。

―― 今回、バンドのメンバーを演じられたのは実際のミュージシャンの方々なんですよね。そういう方たちと一緒に演奏シーンを演じられていかがでしたか?

汐見:いいなあって思いました(笑)。撮影は録音した音に合わせる方法だったので、みなさんも大変そうでした。実際に演奏できる方でも、音に合わせて動くというのは難しかったみたいです。

―― いままで音楽のご経験がないというのが意外なくらい、ミュージシャンっぽく見える演奏シーンでした。

汐見:渋谷さん(『明日泣く』音楽担当:渋谷毅さん)も「それっぽく見えるよ、大丈夫大丈夫」と言ってくださって、すごく安心になりました。演じることが楽しかったので、もう「楽しいシーンは楽しくやればいい、思いっきりやればいい」とふっきれていました。

―― ほかに楽しかったシーンで印象に残っているところはありますか? 逆につらかったシーンとか(笑)。

汐見:つらかったのは、武の自宅シーンですね(笑)。去年の8月に撮影で、猛暑日だったんですね。民家をお借りして撮影したのですが、クーラーもない昭和の民家をお借りしたので、汗だくで撮影に入りまして、暑さとの闘いでした。たぶん、クルーで熱中症になった方もいて。つらかったですね(笑)。  楽しかったシーンは、島田カルテット(※劇中でミュージシャンの島田が率いるバンド)のシーンは、見ていてゾクゾクしました。島田カルテットは実際に生で演奏されていて、ほんとにカッコよかったですね。なので、島田に弄ばれる女という役は、はまっているなと思いましたね。武藤さん(島田役:武藤昭平さん)からも「だろ?」って言われて「ハイ」って(笑)。「これくらいカッコつける男なんだよ」というようなお話をされていました(笑)。

「キッコと武は、友情と言うのはおかしいですけど、距離感が面白いですね」

―― 今回の映画で面白いと思うのが、斎藤工さんが演じた主人公の武とキッコの関係なんですけど、少なくとも恋愛ではないだろうし、不思議な間柄ですよね。

汐見:ですよねえ(笑)。

―― 汐見さんは、キッコと武の関係をどのようにとらえていらっしゃいましたか?

汐見:うーん……私は役者として、変わった人に興味を持って目で追いかけてしまうことがあるんです。武も同じように、小説家としてキッコのことを取材対象のような感じで興味を持っているのかなと思いました。キッコの側からしてみれば、武は付いてきてくれる人、振り返ったらそこにいる人、見てくれている人ということで、そういう意味では信頼しているのかなという気もします。なんだろう……友情と言うのはおかしいですけど、距離感が面白いですね。

―― 斎藤さんとは、ふたりの関係についてどのようなお話をされたのでしょうか?

汐見ゆかりさん写真

汐見:特にお話してはいないんです。やっぱり、ふたりの距離感を出すには、あまりお話しないほうがいいかなと思っていたので。でも仲が悪いわけではないので(笑)、監督が面白いことをおっしゃったりしたときに一緒に笑ったりはしていました。

―― 斎藤さんは現場ではどのような雰囲気なのでしょうか?

汐見:カメラが回っていないと、すごくさわやかな方なのでスッとしている感じなんですけど、演じているときは重さがありましたね。武というのはギャンブラーだったり、グレイブラックな部分をたくさん持っている役なので、役に入ると色が変わりますね。さすがですよね。

―― もうひとり、キッコと関わる男性として島田が登場しますが、島田役の武藤昭平さんとは役についてのお話などは?

汐見:武藤さんとは、私から話しかけていろいろお話もしました。というのも、密接なシーンがあるということもあって、できる限りコミュニケーションをとるようにしていました。

―― 先ほど、監督が現場で面白いことをおっしゃるというお話もありましたが、監督は現場ではどんな感じなのでしょうか?

汐見:ものすっごく元気ですよ(笑)。現場で誰より一番元気でしたね。あとは、現場の進め方が早かったです。スピード感のある現場でした。

―― 今回はスタッフは若手の方が多かったそうですが、監督がベテランの方だからということでの緊張感みたいなものはあったのでしょうか?

汐見:そういう感じでは全然なかったですね。今回はクルーの方々はほとんど冨永組(冨永昌敬監督作品に参加するスタッフ)の方なんです。冨永監督も編集で入ってらっしゃいますし、チームワークがすごかったです。みんながみんなお互いのことをわかっていて、とても頼もしかったです。歪みがなくきれいに回った現場でした。楽しかったです。

―― では最後になりますが、汐見さんから見た『明日泣く』の見どころをお願いします。

汐見:まず、劇中のジャズは、ぜひ多くの人に聴いていただきたいと思います。いろいろな音楽のルーツでもあるので、音楽が好きな人には興味ある作品になっているのではないかと思います。人間劇の面では「こんな自由な女がいて、こんな自由なことをして生きていたんだ」というところを見ていただいて、キッコまではいかなくても「もっと自由に生きてもいいんだよ」と感じてもらえたらいいですね。そして、斎藤工さんのさわやかさをファンの方には観ていただきたいと思います。

(2011年10月24日/シネグリーオにて収録)

作品スチール

明日泣く

  • 監督:内藤誠
  • 出演:斎藤工 汐見ゆかり ほか

2011年11月19日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

『明日泣く』の詳しい作品情報はこちら!

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