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『R-18文学賞 vol.1 自縄自縛の私』平田薫さんインタビュー

平田薫さん写真 広告代理店に勤める27歳のOL・百合亜(ゆりあ)。頼りない上司やアクの強い部下に囲まれてストレスを溜める百合亜が自分を解放する密やかな愉しみ。それは、自分自身の身体を縄で縛る「自縛」だった……。
 『R-18文学賞 vol.1 自縄自縛の私』は、第7回女による女のためのR-18文芸賞大賞受賞作である蛭田亜沙子さんの小説「自縄自縛の私」を原作に、竹中直人監督がメガホンをとって映画化した作品。「自縛」という題材を扱いつつも、決して扇情的になることなく、都会で生きる女性の姿を等身大に描いていきます。
 百合亜役で主演をつとめたのは、デビュー以来多くの作品に出演してきた平田薫さん。平田さんの存在が、この映画を貫くどこかあたたかな空気を生み出す大きな力になっているのは間違いありません。
 常に透明なナチュラルさを身にまといながら「自縛」するヒロインを演じた平田さんは『自縄自縛の私』という作品をつうじて、なにを見て、なにを感じたのでしょうか?

平田薫(ひらた・かおる)さんプロフィール

1989年生まれ、宮城県出身。2003年にティーン向けファッション誌「CANDy」専属モデルとして芸能活動を開始、2004年にはヤングジャンプ“制コレ”準グランプリに輝く。2005年にテレビドラマ「魔法戦隊マジレンジャー」に出演して注目を集め、以降、ドラマや映画、舞台で活躍を続ける。
出演作に、劇場用映画『アヒルと鴨のコインロッカー』(2007年/中村義洋監督)『マリア様がみてる』(2010年/寺内康太郎監督)『るろうに剣心』(2012年/大友啓史監督)、テレビドラマ「深夜食堂2」(2011年・TBS)「守護神・ボディーガード 進藤輝」(2012年・TBS)、舞台「遥かなる時空の中で2」(主演/2011年初演・2012年再演)など多数。

「チャレンジさせてもらえる機会をいただけたのはすごく運がよかったと思います」

―― まず『自縄自縛の私』の主演が決まったときのお気持ちを聞かせてください。

平田:私がこの役をやらせていただけるとは夢にも思っていませんでした。決まったときはこれまで自分がチャレンジしたことのないことに女優として挑戦できるということに喜びを感じましたし、好奇心もありました。

―― 自縛という題材ですし、肌を露出するような場面もありますが、そういうところで戸惑いのようなものはありませんでしたか?

平田:私は、女優というお仕事をする上で「自分で自分のチャンスを狭めるのは嫌だな」と思っています。いつごろからそう思うようになったのかは忘れてしまいましたが(笑)。戸惑いのようなものはなかったです。プロデューサーの方と初めてお会いしたときから、新しいことに挑戦できるという楽しみとか「自分がどこまでできるんだろう?」という気持ちが大きかったです。

―― では、ひとつのステップになるみたいな感じですか?

平田:そうですね、そういうシーンがあることが必ずしもステップになるわけではないと思うんですけど、自分の中ではまったく新しい挑戦でした。そこにチャレンジさせてもらえる機会を与えていただけたのはすごく運がよかったと思います。撮影している間はすごく幸せでした(笑)。

―― 百合亜は、現在の平田さんより年齢が上で、部下もいるOLという役ですね。そういう設定に関してはすんなりなじめましたか?

『自縄自縛の私』スチール

『R-18文学賞 vol.1 自縄自縛の私』より。平田さん演じる百合亜(左)は、安藤正信さん演じる上司の矢村たちとの仕事の中でストレスを溜めていく……

平田:やはり、年上の部下がいることなどは想像できませんでしたし、部長との関係も自分の経験からはわからなかったので、そういう職場で働いている知り合いの方にお話をうかがったりしました。最初に台本を読んだときには「こういうことって実際にあるのかなあ?」と理解できないことや納得できないことがいっぱいありましたが、実際にお話をうかがってみると、現実によくあることが多いんだってわかったり、私が知らない社会人のみなさんの葛藤を聞かせていただけたんですね。そういう経験ができたので、撮影に入ってからは、自分の中ではなじんだというか、納得して挑めました。

―― そして、この映画の大きな要素として自縛があるわけですが、やはり自縛の練習もされたのでしょうか?

平田:そうですね。自分を縛るのは百合亜として自然にできるようにならないといけなかったので、撮影に入る前からその練習はひたすらやりました(笑)。

―― 映画の中の自縛のシーンでは、実際に平田さんがご自分で縛っていらっしゃるんですか?

平田:百合亜が自分を縛るのを一連で撮っているところが何度かあるんですけど、そこは全部自分でやっています。一連ではないところも、自分でできるところはやらせていただいたんですけど、現場に緊縛師という縛りのお仕事をされている方が来てくださっていて、縛ってもらったところもあります。撮影に入る前にもその方から縛りを教えていただいたんですが、今回この作品と出会わなければそういうお仕事があるということも知らなかったと思うので、面白い出会いだったと思います(笑)。

―― 実際に自縛というものを体験されていかがでしたか?

平田:初めて縛ったときには、正直「これはどうしたらいいんだろう?」という気持ちでした。それに、練習をするのも大変なんです。一生懸命縛っても、完成したらそれを自分でほどかないといけないっていう(笑)。でも、撮影の中では、百合亜の感情と一緒に縛りができたので、自分の記憶がないくらい入り込めたシーンもありました。ただ、平田薫的には、自縛に快感を覚えるのは難しかったです(笑)。

「みなさんが影響を与えてくださっているのを素直に感じながら演じていました」

―― 竹中直人監督とお仕事をされるのは初めてですよね。

平田:はい、初めてです。最初はほんとに緊張しました(笑)。役者としても大先輩ですし、緊張しきりだったんですけど、監督は初めて会ったときから壁を作らずに接してくださいました。普段、キャストはロケハンに行かないんですが、今回は監督が私をロケハンに連れて行ってくださったんです。撮影の前の段階で監督やスタッフさんと打ち解けることができて、私は「先輩方に囲まれているのにこんなにリラックスしていいのかな?」というくらいリラックスできたんです(笑)。監督は、いつも「あのシーンをこうしたら面白いよね!」とか「百合亜のこの縛りはこうなるとカッコいいよね!」とか、常に想いを語ってくださっていて、そうやって映画のことを話しているときの監督がとっても素敵でした。

―― 平田さんはいままでにいろいろな監督さんとお仕事をされていますが、竹中監督とお仕事されて特に印象に残ったことはありましたか?

平田:監督が言ってくださった言葉で「役って、演じるわけでも、なるわけでもなくて、体に入ってくるものだから」という言葉があって、それはやっぱり演じたことがある人じゃないとわからないことだと思うんです。今回、スタッフのみなさんや監督や、ほかのキャストのみなさんが百合亜という役にいろいろな影響を与えてくださっているのを素直に全部感じながら演じていました。「役が入ってくる」というのが自分ではよくわからないところもあったんですけど、監督に「あ、百合亜入ってきたね、百合亜の顔になったね」と言っていただいたときはすごくホッとしました。

―― なるほど。では監督とは「百合亜はこういうふうに演じて」というように具体的に話すのではなくて、もっと抽象的な感じでお話をされた感じですか?

『自縄自縛の私』スチール

『R-18文学賞 vol.1 自縄自縛の私』より。“自縛”が百合亜を解放していく……

平田:監督は「百合亜はこうだ」と具体的に提示することはありませんでした。「演じる側はなにも気にしないでやっていいんだよ。それを守るのがスタッフや監督の仕事だから」と言ってくださって、スタッフのみなさんも「百合亜という役はこうだろうな」という想いでセットを組んでくださったり、衣裳を用意してくださっているというのがすごく伝わってきて、自然と現場の空気やスタッフさんの想いを感じて演じていました。

―― じゃあ、現場全体で百合亜を作っていくような?

平田:まさにそのとおりだったと思います。共演者の方からもお芝居で影響を与えていただいて、そのおかげで百合亜としていられるということも多かったです。本当にみなさんに支えられていました。

―― 今回の作品では長回しのカットがいくつかありますよね。そこは演じていらしていかがでしたか?

平田:長回しは、細かくカットを割るより自分の気持ちもつながりやすくなるんです。ひとつでも失敗したらやり直さないといけないという緊張感もありますが、すごく楽しく演じることができました。一連の気持ちでやれるように、監督が常に演じる側のことを考えていてくださっていたと思います。

―― 長回しのほかにも、普通だったら相手役の方とふたりを映すようなところも百合亜しか映さないみたいな、変わった撮り方をした部分がありますよね。完成した作品をご覧になってそういうところはどう思われましたか?

平田:そのシーンは、現場で監督が「ここは百合亜だけ映すほうがいい」とおっしゃって、百合亜の感情がとても伝わるシーンになっていました。普通では思いつかない撮り方で、竹中監督らしいなと思いました。

―― ほかに、平田さんご自身で印象に残っているシーンがあれば教えてください。

平田:映画のラスト近くにある縛りのシーンです。自分の撮影の前に津田(寛治:広瀬常務役)さんのお芝居を見せていただいたのですが、そこから出てくるパワーや哀しみにすごく心を動かされたんです。その影響を受けてから撮影に挑めたのはとても恵まれていたと思います。そのシーンはいつ撮影が終わったかわからないくらい縛りに集中していました。気がついたらメイクさんたちが布団をかけに来てくれていて「あれ?」みたいな(笑)。それくらい集中したシーンなので、すごく好きですね。あと、あやとりをしているシーンもかわいくて好きです。

「前向きな気持ちにしてくれる映画です。働く女性の方にはぜひ観ていただきたいです」

―― 百合亜って、ストレスが溜まってもそれをはっきり表には出さないタイプの女性ですよね。平田さんご自身は、ストレスは表に出すタイプですか? それとも溜め込んじゃうタイプですか?

平田:私は、出せるときは出しますし(笑)、それでも溜まっちゃったときは、1回とことんふさぎ込みますね(笑)。1回ドーンって落ちちゃうと、自分でそういう状況に飽きて気持ちが浮上してくるんです。そういう解消の仕方かもしれないです、私は(笑)。

―― 百合亜は自縛という「ひみつ」を抱えて日々を送っていますけど、平田さんはその「ひみつ」を抱える心理というのに共感する部分はありますか?

平田薫さん写真

平田:私は、いまのところ百合亜のようになにか「これだ」というものがあるわけではないんですけど、そういうものがあったら素敵だと思いますし、誰にあってもおかしくないものだと思うんです。いま自分が気がついていないだけかもしれませんし。この映画の百合亜の縛りって、全然うしろめたいものでもなんでもなくて、とても前向きな気持ちで自分を肯定していくことで強くなっていくという、ひとりの女性が成長していくお話なので、この映画を観ることで、観てくださった方が自分のことを肯定できたり、明るい前向きな気持ちになってもらえれば嬉しいなと思います。

―― この映画は、百合亜と同じくらいの年代でお仕事をされている女性の方々がご覧になると、すごく共感していただける作品だと思うんです。そういう女性のみなさんへ向けたメッセージをお願いできますか?

平田:え、そんな、人生の先輩方に私から言うのはほんとにおこがましいと思うんですけど(笑)。

―― すみません、そこをあえて(笑)。

平田:そうですね、インパクトがあるタイトルなので、もしかしたらタイトルを見て「観にいきづらいな」と思う方もいるかもしれないんですが、本当に前向きな気持ちにしてくれる映画です。タイトルに負けずに、働く女性の方にはぜひ観ていただきたいです。

―― では最後に、女性に限らず、広くこの映画をご覧になる方へ向けて一言お願いします。

平田:百合亜の周りを取り巻く人物が、一見すごく変わったキャラクターの人たちが揃っているんです(笑)。でも、よく見てみると、どこにでもいるような人ばかりなんですよね。だから、どんな方が見ても「そういえば、こういう友達いるかも」と共感してもらえるかもしれません。いろいろなキャラクターを客観的に見ることで「人間ってこんなもんだよな、これでいいんだよな」と、自分のことを肯定していただけたら、映画の最後で、百合亜が前向きに進んでいく気持ちと一緒に、観終わったあとすがすがしい気持になってもらえると思います。ほんとに見どころはたくさんあるので、ご覧になったみなさんそれぞれに好きなシーンを見つけてほしいです。

(2012年9月26日/アミューズにて収録)

作品スチール

R-18文学賞 vol.1 自縄自縛の私

  • 監督:竹中直人
  • 出演:平田薫 安藤政信 綾部祐二 津田寛治 ほか

2013年2月2日(土)より新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー

『R-18文学賞 vol.1 自縄自縛の私』の詳しい作品情報はこちら!

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