『晴れのち晴れ、ときどき晴れ』宮﨑香蓮さんインタビュー
生まれ育った町に16年ぶりに戻ってきた緒方定虎、通称トラ。アクションスターになるという目標は叶えられずいまは無職の37歳。そんなトラの前に、娘だという少女・美羽(みわ)が現われた! 母親を亡くし身寄りのない美羽はトラの実家に住むことになるが、トラはなかなか美羽に父親らしく接することができない……。
瀬戸内海を臨む岡山県牛窓が舞台の『晴れのち晴れ、ときどき晴れ』は、人気グループ・EXILEのパフォーマー・MATSUこと松本利夫さんを主演に迎えて送る、お調子者だけど憎めない男・トラと周囲の人々が織りなすハートウォーミング・ストーリー。
ドラマなどで注目度上昇中の女優・宮﨑香蓮さんは、この作品でトラの娘・美羽を演じました。初対面の“父親”と少しずつ親子の関係を築いていく美羽の微妙な心理を表現するとともに、映画のクライマックスではMATSUさんたち共演者と岡山で盛んなお祭り“うらじゃ”の踊りも披露し、多彩な表情を見せています。
映画デビューから5年、着実に女優としてのキャリアを重ね、現在は大学生としての顔も持つ宮﨑さんに、お話をうかがいました。
宮﨑香蓮(みやざき・かれん)さんプロフィール
1993年生まれ、長崎県出身。2006年開催の第11回全日本国民的美少女コンテストで演技部門賞を受賞したのをきっかけに芸能活動を開始。2008年公開の『チェスト!』(雑賀俊郎監督)で映画デビュー。歴史研究家・詩人として知られる故・宮﨑康平さんは祖父にあたり、康平さん夫妻をモデルにした映画『まぼろしの邪馬台国』(2008年/堤幸彦監督)では祖母・和子さんの少女時代を演じた。2010年『育子からの手紙』(村橋明郎監督)で映画初主演をつとめる。ほかの出演作にドラマ「バッテリー」(2008年・NHK)「GTO」(2012年・関西テレビ,フジテレビ」「夜行観覧車」(2013年・TBS)「35歳の高校生」(2013年・日本テレビ)、舞台「2LDK」(2013年)など。
2013年、日経トレンディが選ぶ「今年の顔」に選出される。
「いろんな人が共感できる内容じゃないかなと思いました」
―― 『晴れのち晴れ、ときどき晴れ』に出演が決まったときのお気持ちを教えてください。
宮﨑:「映画が決まったよ」と言われて、とにかく映画が大好きなので、映画に出られるということがすごく嬉しかったですね。それから台本をいただいて読んだんですけど、思春期の女の子が誰でも一度は持つような親への反発だったりが書かれていて、それは私も経験したことがあるんですね(笑)。なので、いろんな人が共感できる内容じゃないかなと思いました。
―― 今回演じられた篠崎美羽という女の子は、宮﨑さんから見てどんな子ですか?
宮﨑:メッチャ強い子だなって思いますね。お母さんが亡くなって、それだけでも悲しみにくれているはずなのに、そこから行動を起こして父親に会いにいくというところでまず強いし、いままで会ったことのない父親の実家に行って、そこに住ませてもらうという、いい意味での図々しさとかは、ほんとに美羽が強いからできた行動だと思います。
―― 宮﨑さんご自身と美羽が似ている部分ってありますか?
宮﨑:なんだろう……? 負けず嫌いなところですかね。私も負けず嫌いですし、美羽も、特に映画の前半では負けず嫌いというか自分の意志を曲げたくないっていう気持ちがあるから、そういうところは似ているかもしれないですね。あとは、映画の後半でお父さんのトラが落ち込んで、美羽が「しょうがないなあ」って見つめるシーンがあるんですけど、私も落ち込んでいる人がいたら声をかけずに「どうしよう」って見つめておくタイプなので、そういう細かいところは似ていたかなって思います(笑)。
―― 似てるのとはちょっと違いますけど、美羽は牛窓に来る前は長崎に住んでいたという設定で、宮﨑さんも長崎のご出身なんですよね。
宮﨑:そうなんです。あれはどうしてだったんですかね?(笑) 最初に台本をいただいたときにはもう「長崎から来た」ってなっていたので、偶然そうだったのか、それとも私にあわせてくださったのかわからないんですけど、あわせてくださっていたなら嬉しいですね。
―― 逆に、美羽と宮﨑さんで「ここは違う」と思うところはありますか?
宮﨑:どこだろうなあ……私は父親の実家とはいえ、会ったことのない人の家に上がりこんで「ここに泊めさせろ」とは言えないですね(笑)。美羽も必死だったからしょうがないんですけど、そういう勢いというか行動力は私は持ってないです。行動力ないので(笑)。
―― そういう、自分にない部分ってうらやましく思ったりはします?
宮﨑:自分の意見をはっきり言えるってのはうらやましいなって思いますね。私は周りを気にして「言うのやめとこっかな」って思うことがたまにあるので、そういうことを考えずに……美羽も考えているのかもしれないですけど(笑)、ズバッと意見をはっきり言うところは憧れますね。
「トラと美羽の、お互いにぎこちない微妙な距離感が好きですね」
―― 今回の作品は、美羽とお父さんのトラとの関係がストーリーの軸になっていきますが、美羽とトラの関係はどう思いましたか?
宮﨑:お父さんなんだけど、お父さんにしては破天荒すぎるし、フレンドリーすぎるし、ほんとにトラは友達とお父さんの中間みたいな立ち位置なんですよね。その分、美羽がすっごくしっかりしているので、普段はどっちかというと美羽がトラの世話を焼いているみたいな立場が逆転したような関係なんですけど、いざとなったらトラは美羽の助けとなって活躍するというのは、お父さんとして理想的だなって思いました。
―― そのお父さん役が松本利夫さんで、松本さんはまだ30代ですけど、宮﨑さんから見て松本さんは“お父さん”という感じはします?(笑)
宮﨑:いや、お兄ちゃんみたいです(笑)。お兄ちゃんみたいな先輩みたいな感じで、お父さんっていう感じではなかったですね(笑)。
―― よかった(笑)。では、松本さんと共演されての印象を教えてください。
『晴れのち晴れ、ときどき晴れ』より。宮﨑香蓮さん演じる美羽(左)は、MATSUさん演じる父親・トラの同級生に!
宮﨑:MATSUさんは、最初はどんな方かわからなかったのでちょっと怖かったんですけど(笑)、だんだん打ち解けていきました。トラさんは周りからいじられるキャラなんですけど、MATSUさんは逆にいじるのが好きな方なんですね(笑)。いつも共演のキャストのみなさんと楽しく遊んだりしていました。それから、MATSUさんがひとりで演舞をやるシーンがあって、その練習で足腰を鍛えるトレーニングをやっていらしたんです。私もそのトレーニングをMATSUさんから教えてもらったのを覚えています(笑)。
―― ちょうどお話が出ましたけど、今回は松本さんが演舞やアクションをやっているのを間近でご覧になることも多かったと思うのですけど、ご覧になっていかがでした?
宮﨑:カッコよかったですね、迫力があって。MATSUさんすごく練習をされていたので、気迫に圧倒されました。
―― 松本さんとのシーンで印象深いシーンがあれば教えてください。
宮﨑:美羽が危ない目にあったのをトラが助けてくれて、美羽がトラに謝って、トラは美羽を殴るかと思ったら頭を撫でてあげるというシーンがあって、そこは映画全体の中でもすごく好きなシーンです。ふたりが初めて親子として向きあえた瞬間でもあるし、美羽が変わるきっかけになった瞬間でもあるし、でも、親子といえどもまだお互いにぎこちないから頭を撫でるだけっていう、微妙な距離感がすごく好きですね。
―― やはり、美羽とトラの距離感は演じるときにかなり意識されていましたか?
宮﨑:そうですね、前半は比較的やりやすかったんです。もう、距離感もなにもなくてフルシカトの体勢だったので(笑)。けど、だんだん美羽も変わっていくというか、トラに対して複雑な想いが出ていくにつれて「ここは寄り添っていいのかな?」とか、距離感は難しくなりました。
―― 撮影はストーリーどおりの順撮りだったんでしょうか?
宮﨑:そんなにバラバラの順番ではなかったです。だから、気持ちが変わっていくのも自然にできたと思います。
―― 今回の映画では松本さん以外にもベテランの方々が出演されていますが、みなさんと共演されていかがでしたか?
宮﨑:私はほかの方々と絡むシーンがけっこう少なかったんですけど、休憩時間とかにはほんとによく相手をしていただきました。みなさん落ち着いていて、お芝居をしているときもすごく楽しそうでキラキラしているんですね。素敵な大人の方たちに囲まれてお芝居ができて、自分は幸せだなって思いました。
「嬉しさがエネルギーになって頑張れたという感じでした」
―― 今回は、岡山の牛窓でのロケ撮影ですね。牛窓の印象はいかがでしたか?
宮﨑:ほんとに海の町だなって思いました。高台から見る海の景色もすごくきれいで癒されていましたし、町のみなさんがほんとに協力してくださって、差し入れをしてくださったり、何百人もの方がエキストラとして参加してくださって、ほんとにあたたかい町だなと思いました。
―― クライマックスは、ほんとに町をあげて協力してくださったのが映像からも伝わってきますね。
宮﨑:圧巻のシーンですね。エキストラの方々も一般の方たちなんですけど、外で長い間立っているので、だんだん疲れてこられるんですよね。それでも頑張ってくださっていたし、スタッフの方々もエキストラの方々全員に指示が行きわたるようにしたり、大変だったみたいです。
―― あれだけ町全体が協力してくださっている中での撮影もあまりないと思うのですが、その中で演じられてどんな感じでしたか?
宮﨑:やっぱり、いつもとは違う感情でやっていたところはありますね。絶対に成功させたいと思ったし、ほんとに、ただただ嬉しくて、その嬉しさがエネルギーになって、頑張れたという感じでした。
―― そして、今回は映画の中で“うらじゃ”を踊られていますね。
宮﨑:はい、私、最初ヘタクソで「どうしよう?」と思ったんです(笑)。振りはわりあい早く覚えられたんですけど、力強く踊れなくて「フニャフニャしてる」って言われて(笑)。それを、みんなと合わせられるように頑張って練習したんですけど、いざやってみるとすごく楽しくて、撮影のときは会場が一気にひとつになったなあって思いました。
―― 練習期間はどのくらいあったのですか?
宮﨑:顔合わせが撮影に入る2週間くらい前で、それからクランクインするまでは家でDVDを見て練習して、撮影中は、うらじゃのシーンの撮影が最後のほうだったので、それまでほぼ毎日、撮影と並行してうらじゃの練習をしてという感じでした。
―― それだけ練習をされてると、映画のためではあるけれど、ほんとにチームとして取り組むみたいな感じにもなってくるんじゃないでしょうか?
宮﨑:なりましたね。最初は掛け声が付いていなかったんですけど、掛け声を付けたほうがいいんじゃないかという話になって、みんなで案を出して「ここはこういう掛け声にしようか」と話しあったり、ほんとに、みんなで団結して考えたことだったんです。
―― うらじゃではけっこう年齢の離れた俳優さんも参加されていますが、そういう方々と一緒にチームとして踊るというのはどんな感じでしたか?
宮﨑:不思議でしたね(笑)。でも、なんか年齢とかは関係ないんだなって思ったんです。年上の方に敬語を使うとかは当たり前にしているんですけど、年齢が違っても全然変わらずに接していくことができるんだなって思いました。
―― 完成した映画で実際に踊っている場面をご覧になっていかがでした?
宮﨑:うーん、楽しそうに踊っているなって思いましたね(笑)。
―― では、けっこう出来映えには満足?
宮﨑:いえ、どうしても隣にEXILEさんがいらっしゃるので比べてしまいまして……(笑)。「ああ、自分はダンスの才能がないなあ」って思いました(笑)。
―― いや、さすがにMATSUさんと比べてはいけないんじゃないかと思います(笑)。あと、最後のほうで高いところに登るシーンがありましたけど、あれは実際に登られたんですか?
宮﨑:はい、登りました。私、高いところ大好きなんで大丈夫なんです。超気持ちよかったです(笑)。
「役ごとに変わっていける女優さんになりたいんです」
―― 今回の映画はシリアスな部分もあるし、けっこうコミカルな部分もあって、お芝居の幅が大きかったと思うのですが、そういう部分は演じられていかがでしたか?
宮﨑:やっているときは、あんまりコミカルにやっているという意識はなくて、のちのち観てみて、笑える部分もあるし、けっこうコミカルなんだって気づいた部分もあったんです。だけど、振り返ってみると、たしかにコミカルな部分はけっこう調節しながらやっていましたね。「この動きはちょっと派手すぎますかね?」というふうに相談しながらやっていました。
―― そういうお芝居では監督から「こういうふうに」というお話はあるのでしょうか?
宮﨑:最初はないんです。まずは段取りでやってみて「違う」と言われることもありましたし「もっと抑えて」と言われることもありましたし、判断は監督にお任せしていました。
―― 撮影全体をとおして、監督からお話しされたことで印象に残っていることはありますか?
宮﨑:「顔の表情とセリフの言い方の感情は違っていてもいいんだよ」ということを教えていただいたんです。「悲しいセリフを言っているときに悲しい顔をしている必要はなくて、わざと笑っていてもいいんだし、そういうところを考えてごらん」と言われたのがすごく印象に残っていますね。それを教えていただいたシーンでは、やっぱり美羽のセリフの言い方と顔の表情が違っているんです。そのギャップが美羽の感情を表しているんだって思いました。
―― 今回は美羽というヒロインを演じられましたが、今後はどんな役を演じてみたいですか?
宮﨑:カッコいい役ですね。「バリバリ仕事してます!」みたいな役をやりたいです。あとは、アクションをやりたいです。
―― 「アクションをやりたい」というのは今回の映画のMATSUさんに刺激を受けたわけではなくて?(笑)
宮﨑:ではないです(笑)。単純に映画を観てカッコいいなって憧れるんです。最近の映画では『脳男』(2013年/瀧本智行監督)で、みなさんがアクションをやっていたのがカッコいいなと思いましたし、自分が日常生活ではぜんぜんスーパーマンではないので、スーパーウーマンを経験してみたいです。
―― バリバリ仕事をしているような役というのも、憧れるきっかけの作品ってあるんですか?
宮﨑:はい、『プラダを着た悪魔』(2006年・米/デイヴィッド・フランケル監督)のアン・ハサウェイが、最初はドジっ子なんですけど、だんだん奇麗になっていくのがすごいカッコいいなって思います。
―― 少し前に(2013年9月9日)、ブログで7年後にどんな女優さんになっていたいかというお話を書いていらっしゃいましたね。すごくしっかりした考えをお持ちだなと思いました。
宮﨑:ほんとですか? ちょっと恥ずかしいです(笑)。
―― そのときに「振り幅の広い役者になる」と書かれていましたが、宮﨑さんの目標とする女優像というのは、どんな女優さんですか?
宮﨑:やっぱり、変わっていける女優さんになりたいんです。役ごとに変わっていって「え、あの役って宮﨑香蓮だったんだ」って言われるのはすごく嬉しいことだと最近思っていて、毎回毎回、振り幅を広く「あの役とあの役って同じ人がやってるんだ!」って言われるくらい変わりたいなって思います。
―― 宮﨑さんはお仕事を始められてから高校、大学と進学して、いまも大学に通われながらお仕事をされていますよね。お仕事とプライベートの面の両方を大切になさってらっしゃるなと思います。
宮﨑:ありがとうございます。幸せなことに、高校生時代は事務所にお願いして、地元に残って学校を優先させつつ、少ないながらもお仕事をさせていただいていたので、すごくありがたかったですし、いまもお仕事という世界と大学の学校生活というふたつの世界を持っているので、それはすごく贅沢なことだと思うんです。両立というにはもっと勉強のほうを頑張らなくてはいけないんですけど(笑)。でも、ふたつの世界を持っているということは自分にとって幸せなことだなって思います。
―― では最後に、宮﨑さんから見た『晴れのち晴れ、ときどき晴れ』の見どころを教えてください。
宮﨑:迷惑をかけられたりかけたりというのは当たり前だし、人に頼ることは悪いことじゃないんですよね。だから、たまには勇気を出して人に頼ってみてもいいんだし「みんなそういう人間同士のかかわりあいで生きていくんだよ」ということを感じてもらえると嬉しいなって思います。
―― 映画をご覧になる方へのメッセージもお願いします。
宮﨑:この映画は、子供目線でも大人目線でも、いろいろ個々に感じることとか共感できることがあると思いますし、友情とか、親子の絆とか、いろいろなことが詰まっているので、どれかひとつを選びとって、共感してもらったり、考えてもらえたら嬉しいので、ぜひ家族で劇場に来てください。
(2013年9月29日/ネイキッドにて収録)
晴れのち晴れ、ときどき晴れ
- 監督:内片輝
- 出演:松本利夫(MATSU from EXILE) 宮﨑香蓮 白石美帆 ほか
2013年11月23日(土)より全国ロードショー 11月16日(土)より岡山先行公開