『1/11 じゅういちぶんのいち』片岡翔監督インタビュー
自分の限界を感じ、小さなころから続けていたサッカーを諦めてしまった高校生・安藤ソラ。だが、サッカーへの情熱を取り戻したソラは、サッカー部のなかった高校に新たにサッカー部を作り、懸命に部員集めに励む。そのひたむきさの陰には、15歳にして女子サッカー日本代表の11番を背負う若きエース・若宮四季の存在があった……。
自主制作のショートフィルムが高く評価され注目を集めてきた新鋭・片岡翔監督の長編デビュー作となる『1/11 じゅういちぶんのいち』は、中村尚儁さんによる同名人気コミック(「ジャンプSQ.」連載)の映画化作品。主人公・安藤ソラ役の池岡亮介さんやヒロイン・若宮四季役の竹富聖花さんをはじめとする期待の若手キャストの共演で、高校生の青春ストーリーが描かれていきます。
脚本も担当した片岡監督は、1話ごとにメインとなる登場人物が変わっていく原作コミックの特徴を巧みに活かし、登場人物のひとりひとりが魅力的に輝くピュアな青春映画を完成させました。
巧みな構成と繊細な演出により、長編デビュー作にして傑作を生み出した片岡監督。その作品作りに迫ってみました。
片岡翔(かたおか・しょう)監督プロフィール
1982年生まれ、北海道出身。2004年に東京でNekome Filmを設立し、ショートフィルムを中心に映像制作を開始。短編映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル」で2009年より3年連続で観客賞を受賞し、2011年の『SiRoKuMa』は「STOP!温暖化部門」で優秀賞、J-WAVEアワード、観客賞の3賞を独占する。また『くらげくん』(2010年)はPFFアワード2010準グランプリをはじめ国内外の映画祭で7つのグランプリを含む13賞を獲得。以降もショートフィルムを制作するほか『Miss Boys!』(「決戦は甲子園!?編」2011年・「友情のゆくえ編」2012年/佐藤佐吉監督)、『きいろいゾウ』(2013年/廣木隆一監督)では脚本を担当している。
「どうやったら観ているお客さんの感情が途切れないように盛り上げることができるか」
―― 『1/11 じゅういちぶんのいち』は、プロデューサーからお話があって映画化を前提に原作を読まれたそうですが、最初に原作を読まれたときの印象からお聞かせいただけますか?
片岡:一言で言うと、まず感動しました。細かいことを言うと、高校生たちの青春の物語で、どんな人にも気持ちが理解できるようなわかりやすくて熱い物語なんですが、構成がすごく面白かったんですね。テーマは普遍的なんですけど、時間軸が移動したりとか、各話で主人公が変わったりという見せ方に斬新さがあって、そこのバランス感が秀逸だなと思いました。それと、青春の熱い物語ではあるんですけど、中村先生の絵のタッチがすごくさわやかなので、その熱さも決して暑苦しくはなくて、ある意味で現代的ですし、すごく洗練されているなという印象を持ちました。
―― 原作は1話ごとにメインの登場人物が変わっていくという、1本の長編映画にするにはかなり難しいスタイルの作品ではないかと思うのですが、映画化するにあたっては、どのような過程を経て完成した作品のようなかたちになっていったのでしょうか?
片岡:一番最初にお話があったときは、短編を3本作るという企画だったんです。3本の短編を1本ずつ上映して最後に3本をまとめてひとつのかたちにするという完全なオムニバス形式だったんですけど、途中から1本の長編映画にしようということになったんです。それで、その時点で短編を2本書いていたのに、もう1本増やしてミックスさせていった感じなんです。そのときに、それぞれの物語で時間軸が違っていたのを同じにしようと試みまして、ソラのパートだけはどうしても数ヶ月前の物語になるので独立させて、ほかの物語は同じ時間軸にしたんです。そうやってミックスさせて、群像劇になるんですけど、原作では1話ごとに主人公が変わっていって、その主人公の物語がその話の中で完結しているんですね。なので、それを1本の映画にしたときに、どうやったらそれぞれの物語が完結していく中で観ているお客さんの感情が途切れないように盛り上げることができるかというのは苦労しまして、何回も何回も書き直しをしました。
―― 映画は、中盤過ぎまではむしろ主人公である安藤ソラよりもほかの登場人物が中心となって進んでいきますよね。かなり思い切ったやり方なのではないかと思いました。
『1/11 じゅういちぶんのいち』より。池岡亮介さんが演じる主人公・安藤ソラ
片岡:あまり思い切ったつもりはなかったです。物語の核として見せ場となるのは、やっぱりソラと四季のパートなんですね。原作ではそれが一番最初に来ているんですけど、映画としてはやっぱり最後に持っていくべきだろうというのが強くあって、そこは絶対に外せなかったので、そんなに冒険をしたというつもりではないんです。でも、見せ方で冒険したところはあって、普通の群像劇というのはキャラクターがいろいろ描かれていって、最後になにかが起きてそれぞれが解決していくというのが普通のパターンなんですよね。でも、この作品は順番に解決していくので、その見せ方が「どうなのかな?」という冒険心はありました。
―― 当初はオムニバス形式で企画されていたというお話でしたが、実際の作品は、メインとなる登場人物が変わっていきつつも、ひとつの長編作品としての流れを感じました。オムニバス的にならないように意識されたのはどういう部分でしょうか?
片岡:やっぱり、序盤はソラという人物を1本立てて、そこから絡んで派生していくキャラクターという構成にしたのと、構成は脚本段階でも編集段階でも何度も組み換えして、いろいろなパターンを試したんです。脚本段階で見せ方の順番は何回も書きなおして、編集段階では、物語の核となる構成は脚本の段階で決まっていたので変えていないんですけど、細かいシーンの見せ方を入れ替えたりとか、脚本とは物語の入り方を変えたりとか、そういういじくりは編集の段階でもいろいろ試したんです。尺も、あまり長くなってダレることがないように、できるだけ短くということは意識したかもしれません。
―― この作品はちょっとミステリー的な感じもあるなと思ったんですね。ソラの背景が描かれない分、映画が進んでいくに従って「なんでソラはこんなひたむきなんだろう?」という気持ちが湧いてきて、それが“謎解き”ではないですけど、ソラの物語が語られる後半に向けてグッと観客を引っ張っていく感じがしました。
片岡:そう感じていただけたのはすごくありがたいです。謎解きとまでの意識はなかったんですけど、それぞれのエピソードがある中で、どうやって冒頭からお客さんの心を引っ張っていくかを考えたときに、なにかひとつ“芯”ではないですけど、そういうものが必要だと思っていたんです。それはやはり主人公のソラであるべきだし、あまりソラの内面を出し過ぎないようにして「なにかあるのかな?」と感じ取ってもらえる演出というのは心がけていました。それがご覧になった方みなさんに伝わっているか不安もあるんですけど、伝わっていたなら嬉しいですね。
「脚本を書いているときは、どのキャラクターもそれぞれに愛情を持って書いているんです」
―― ソラを演じた池岡亮介さんについて、印象を聞かせてください。
片岡:まず、ルックスがすごいさわやかで、イケメンで、原作にあっているなというのが第一印象ですね。それで、お会いして話すと、すごく真面目な子で、一生懸命に仕事に対して取り組む姿勢が感じられたんです。そういうのは取りつくろっているとわかるものなんですけど、それがほんとに伝わってきて、ぼくも新人監督ですし、彼も主演が初めてで、一緒に作り上げていきたいなと思える存在でした。それから、彼は運動神経がすごくいいんです。最初はやっぱり「主演にはサッカー経験者を探さないとね」という話をしていたんですけど、彼はサッカー経験がなくても1日練習をしたら動きとかボールの蹴り方とかだいぶ様になってくるくらい運動神経がよくて、それはすごくありがたかったですね。
―― ソラは、映画が進行する中で位置づけが変わっていくように見えたのですが、そうやって変化していく役を演じるのは池岡さんにとって難しかったのではないでしょうか?
片岡:そこまで苦労はなかったかなと思います。ぼくとしては、ソラは前半では前向きでほんとに好青年だけど、後半ではそれと対照的にしてほしいというのが明確にありまして、そういう話をしたんです。彼もそれはすんなりと理解していましたし、主演のプレッシャーというのはあったと思いますけど、スッと世界に入ってくれたと思っています。
―― 次にヒロインの四季についてお尋ねしたのですが、四季はどのようなキャラクターとして描こうと考えていらしたのでしょうか?
『1/11 じゅういちぶんのいち』より。竹富聖花さんが演じるヒロイン・若宮四季
片岡:やはり、サッカーに対する愛情がほんとに深くて、目標に対する信念を強く持っていて、原作はかなり口下手でシャイなキャラクターなんですけども、映画ではあまりシャイな感じは出さずに持っていこうというのはありました。あとは、ソラに対する想いがすごいありつつも隠しているというキャラクターなんで、そこは意識しましたね。「この子はどのくらい表情に表わすのだろうか?」とか、そういうことはけっこう考えました。
―― 竹富聖花さんは、その四季という役をどのように演じられていましたか?
片岡:竹富さんは、わりとケロッとしている方で、天才肌なのかもしれないですけど、ぼくから見るとそんなに悩んでいる印象はなかったですね。最初のディスカッション以外では、細かい指示はしましたけど、そこまで演じ方について指示を出さないでもスッと演じてもらったのがすごくいいなと思ったんです。なので、ぼくは全然苦労しなかったですね。
―― 四季は、普通の高校生が多い登場人物の中で特別な存在ではありますよね。その特別さを出すために意識された部分はありますか?
片岡:それはありましたね。原作を知らない方も観てくださると思うので、そこまで強調しないようにはしつつ意識はしていまして、1度ラストまで観た方が2回目を観たときに「ああ、だからなんだ」と楽しんでもらえたらいいなと思って、いろいろと考えていました。
―― 作品を拝見して、ソラや四季だけでなく、どの登場人物も魅力的で愛しく見えたんですね。それはメインの登場人物だけではなく、本来はちょっと嫌な役の高校の同級生なんかにも愛しさを感じたのですが、それぞれを魅力的に見せる工夫のようなものはあったのでしょうか?
片岡:そうですね、お芝居をできるだけお芝居っぽくないようにしてもらうというのは全体としてありまして、やっぱり、まだ経験も少なかったりお芝居の技術もまだまだな子もいたんですけど、それは無理に型にはめようとしないで自分らしさを出してもらったりとか、そういうことは心がけました。あと、やっぱり脚本を書いているときは、どのキャラクターもそれぞれに愛情を持って書いているので、それが出ていたのならば嬉しいですね。やっぱり、登場人物はみんなまだ高校生ですし、一概にそんなに悪い子とは言えないですし、映画で描いていないところでなにかがあるかもしれないですし、そういう想いは持ちながら作っていました。
「顔の表情とか画で見せる、映画ならではの見せ方を意識しました」
―― いま「映画で描いていないところでなにかがあるかもしれない」というお話がありましたが、ほんとにこの映画は“余白”と言いますか、映画の中で描かれたことで完結するのではなくて、登場人物の感情にしろ、行動にしろ、観た人の中でさらに広がっていくような余地を大事にされているような印象を受けました。
片岡:ありがとうございます。ぼくはずっと自主映画で短編ばかりを撮っていたんですけれども、余白とか考える余地というのはつねに考えながらやっていまして、10分とか15分の作品でも「なにか心に残るものを」という想いでやってきていたんです。今回の『1/11 じゅういちぶんのいち』は、どちらかと言うとわかりやすい内容で、子どもたちが観ても楽しんでもらえる内容を心がけていたんですけど、やっぱり映画好きな人にも楽しんでほしいなという想いもあったんです。なので、脚本上で狙っていたわけではないんですけど、演出なり撮り方なりで、ちょっとでもそういう感じを出せたらいいなというのは、頭の片隅にはありました。
―― こういう感動作だと、登場人物の感情などを大きく見せて、観ている方の気持ちを盛り上げていくというやり方もあると思うのですが『1/11 じゅういちぶんのいち』は、そういうやり方とは違う表現ですね。
片岡:そうですね、特にソラについては、生身の人間で原作通りにやるとほんとに熱血少年になって違和感があるかなと思ったんです。なので、熱いんだけどそんなに激しくなく、胸に秘めた熱さというのはすごく意識しました。さっきもお話したように、全体として自然なお芝居をという意識はあったんですけど、特にソラについては、何度も何度も「もっと抑えて」と言い続けていました。「ちょっと抑えすぎたかな?」くらいに思っていたりもするんですけど、それがこの作品だったり、ぼくの味になっていればいいなと思っているんです。全体として、あまり明るくワイワイするのではなくて、キラキラはしていてほしいんだけどアイドル映画にはしたくないというのもありましたし、ちょっと暗い映画になるなとは思っていたんですけど、そういう抑えた方向でやってみようという意識は大きくありました。
―― 今回の作品で、監督が一番大事にされたことはどんなことでしょう?
片岡:やはり、原作者の中村尚儁さんが作品に込めている想いというのを一番大事にしました。物語を生み出したのは中村さんなので、中村さんがなにをこの作品で伝えたかったのかということを考えまして。それは、人の想いの強さや、それがつながっていくさまであったり、夢を持つ気持ちの大切さだったり。それを観客に伝えることが一番大切なことだと思いながら作りました。
―― そういう、ある種ストレートなメッセージを伝える上で意識されたことはあるのでしょうか?
片岡:具体的なことを言うと、できるだけセリフよりも顔の表情とか画で見せる、映画ならではの見せ方ということは意識しましたし、ナレーションも使わないようにしたりとかですね。やはり一番は、どうすれば押し付けがましくなく、かつお客さんが飽きないで観ていられるかということで、それは脚本を書くときに、ひじょうに苦労しながら時間をかけてやりました。
―― 感情を伝えるという面で、音楽の使い方もかなり気を配られているように感じました。
片岡:音楽のタイミングはかなりこだわりました。音楽の渡邉(崇)さんがとても才能のある方で、時間のない中どんどんいい曲を作ってくださって、ひじょうにありがたかったです。曲に対するイメージを伝えると、すぐにそれが反映されて返ってくる。気を配ったのは音楽が入るタイミングですね。盛り上がるときに音楽が入るところもあるんですけど、逆に大事なところは音楽を抜いたりとか、そういう意識でやっていました。とはいえ、アート映画を作っているわけではないので、わかりやすさも必要ですし、そのバランスや音楽の量も含めて、けっこう悩みながらやりました。
―― ちょっと映画から離れた話になりますが、篠森仁菜役の上野優華さんが歌う主題歌「Dear my hero」のミュージックビデオも監督されているんですよね。配信されている前半部分(※)を拝見しましたが、映画のスピンオフ的な感じになっていますね。
片岡:そうですね、ほぼ仁菜というキャラクターとして撮っていますし、そんなにはっきりとした物語があるわけではないですけど、スピンオフ的に見えると思います。後半のほうが見せ場があるので、ぜひ全編観ていただければと思っています(笑)。
―― 主題歌について監督からご意見は出されたのでしょうか?
片岡:ええ、けっこう出させてもらいました。最初はぼくの意見を入れてくださるとは思ってなかったんですけど、主題歌を担当されたキングレコードさんが最初の時点から「どういう曲調がいいでしょうか」とかを聞いてきてくださったので、ぼくも遠慮なく、具体的な曲名も挙げたりしつつお願いしたんです。やっぱり、時間がなかったので主題歌作りもかなり大変だったと思うんですけど、歌詞も映画のために内容に合わせて書いてくださいましたし、すごく素敵な曲を作ってくださったなと思っています。
―― では最後になりますが、映画『1/11 じゅういちぶんのいち』をご覧になる方にメッセージをお願いします。
片岡:映画好きの方にも映画をあまり観ない方にも楽しんでもらえるように意識して作りましたので、老若男女たくさんの方に観ていただきたいです。そして、夢を持たない子どもたちや、希望を失いかけている大人たちがこの映画を観て、ほんの少しでも勇気を伝えることができたら、とても幸せです。
- ※:YouTubeのキングレコード公式チャンネルで「Dear my hero」Short ver.が配信中。ミュージックビデオ全編は2014年4月23日リリースのマキシシングルのDVDに収録される
(2014年3月13日/東京テアトル本社にて収録)
1/11 じゅういちぶんのいち
- 脚本・監督:片岡翔
- 原作:中村尚儁
- 出演:池岡亮介 竹富聖花 工藤阿須加 阿久津愼太郎 上野優華 ほか
2014年4月5日(土)よりシネ・リーブル池袋、TOHOシネマズ川崎ほか全国公開