『劇場版 神戸在住』藤本泉さんインタビュー
父親の転勤で東京から神戸へと引っ越し、大学の美術科に入学した19歳の辰木桂。明るく気さくな大学の同級生たちと育む友情や、桂に希望を与えたイラストの作者である車椅子のイラストレイター・日和(ひなた)洋次に寄せる淡い想い。神戸での新たな生活は、桂の中に新たな感情を芽生えさせていく――。
出演作の公開が続く注目の若手女優・藤本泉さんが主演をつとめる『劇場版 神戸在住』は、木村紺さんによるコミック「神戸在住」が原作。兵庫県出身の白羽弥仁(しらは・みつひと)監督がメガホンをとり、かつて震災に見舞われた街・神戸で女子大生・辰木桂が経験していくさまざまな出来事がオール神戸ロケにより描かれていきます。
藤本さんは、繊細さゆえに周囲にうまく馴染めない桂の戸惑いを巧みに表現し、辰木桂というひとりの女性をしっかりとスクリーンの中に息づかせています。
藤本さんが『劇場版 神戸在住』で得たものは? そして藤本さんにとっての女優というお仕事は? お話をうかがいました。
藤本泉(ふじもと・いずみ)さんプロフィール
1991年生まれ、埼玉県出身。テレビドラマ「ハンマーセッション!」(2010年・TBS)「デカ 黒川鈴木」(2012年・読売テレビ、日本テレビ)「薄桜記」(2012年・NHK−BS)などで女優としてのキャリアを重ね、2013年公開の『つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語』(行定勲監督)で劇場用映画初出演。『新大久保物語』(2013年/藤原健一監督)ではオーディションで1200人の中から選ばれヒロインを演じる。2014年は『坂本君は見た目だけが真面目』(大工原正樹監督)『神様のカルテ2』(深川栄洋監督)『DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 少女たちは、今、その背中に何を想う?』(ナレーション:高橋栄樹監督)『小川町セレナーデ』(原桂之介監督)『紙の月』(吉田大八監督)『アオハライド』(三木孝浩監督)と出演作の公開が続く。
「ほんとに、主人公の桂のような気持ちで現場に入っていきました」
―― 最初に、今回『劇場版 神戸在住』の主演が決まったときのお気持ちを聞かせてください。
藤本:私の親戚が関西に住んでいて、両親も昔、神戸に住んでいたことがあるんです。なので神戸に行ったこともありましたし、話も聞いていたので、このお話をいただいたときにはご縁を感じました。最初は震災のお話かと思っていたので「私、震災のことを知らない」と、ちょっと戸惑いもあったんですけど、詳しくお話を聞いたら、私が演じる主人公の辰木桂は震災の直後に生まれた震災を知らない女の子ということだったので、私に近い女の子ですし、等身大で演じることができるんじゃないかなと思いました。
―― 藤本さんは、阪神・淡路大震災が起きたときはまだ小さかったころですよね。
藤本:そうですね、3歳になってちょっとくらいですね。(※藤本さんは1991年10月生まれ)
―― 藤本さんご自身は関東のご出身なんですよね。まだ小さいころで、離れたところの出来事だと、覚えていることも少ないですよね。
藤本:はい、だから阪神・淡路大震災は、教科書に載っている出来事として学校で学びました。過去のことではあるんですけど、実際に20年前ここで震災があったこと、そして現在の美しい街があるんだということを今回の撮影で感じました。今回はオール神戸ロケだったのでいろいろな場所を巡って撮影しましたが、街に震災の慰霊碑があったりして、私はそういうものがあるということも知らなかったんです。教科書で見たり話を聞いたりして知っているようでいても、実は知らないことがたくさんあるんだなと思いました。
―― 今回の『劇場版 神戸在住』という作品は震災を背景にしつつも現在が舞台のお話ですが、脚本を読まれたときの印象はいかがでしたか?
藤本:この映画は震災というテーマが背景にありますが、もっと広く、いろいろな人に通じるような物語だという印象を受けました。いま神戸の街で生きている震災を知らない女の子たちの話なんです。辰木桂という内気な女の子が神戸にやってきて、そこで大切な人に出会い、つらい経験をします。それが桂にとって“震災”なんだという解釈を私はしました。
―― 映画では辰木桂は東京から神戸に引っ越して関西の人たちの中に入っていくわけですけど、今回は白羽弥仁監督をはじめスタッフと出演者も関西の方が多くて、藤本さんも桂と同じように関西の方々の中に飛び込んでいった感じですね。
藤本:そうなんです。なので「関西の人って普通に喋っていても笑いをとるんだね」という桂のセリフが映画の中であるんですけど、私もそういう気持ちでした(笑)。みなさん関西弁で喋っている中で私だけ関東弁で喋っていましたし、もちろん関西について知らないこともたくさんありましたし、撮影のスタッフさんもほとんどが関西の方なので、ほんとに桂のような気持ちで現場に入っていきました。
―― 関西の雰囲気に触れてみていかがでしたか?
藤本:やっぱり、みなさんパワフルで面白いというイメージですね(笑)。実際に現場でも関西弁が飛び交っていてとても楽しかったですし、すごく思い出深い撮影になりました。
―― 映画の中では、桂はなかなか関西に慣れずに戸惑うみたいなところもありますが、藤本さんご自身は戸惑いみたいなものはありませんでしたか?
藤本:私は、親戚もいますし祖母も関西人なので、桂ほどには違和感みたいなのは感じませんでしたね(笑)。
「桂の繊細さというのが、私から見るととっても新鮮でした」
―― 冒頭の大学のオリエンテーションのシーンなどで、桂が周りに臆病になっているところを藤本さんがすごくうまく表現していらっしゃるなと感じました。そういう部分を表現する上で気をつけられたところがあれば教えてください。
藤本:まず「原作の雰囲気は壊したくないな」という想いは前提にありましたが、台本を読んだときに映画の桂は原作よりももっと内気で繊細だと感じたんですね。なので、どうやって周りにいる女の子たちと親しくなって、この街に馴染んでいくのかというのはずっと考えていました。気をつけたのは、桂の醸し出す雰囲気とか視線とか、手のモジモジ感とか(笑)、そういうところですね。
―― 藤本さんご自身は、桂みたいに新しい環境になかなか慣れないタイプですか? それともどんどん馴染めちゃうタイプですか?
藤本:私はどんどん慣れちゃうほうだと思います(笑)。桂は普通の子よりもそういうのが苦手な子なので、たとえばオリエンテーションのシーンもそうですけど、私からすると「なんでこんなに馴染めないんだろう?」と思うところはあります。
―― では、桂と藤本さんご自身はずいぶん違うタイプですね。
『劇場版 神戸在住』より。藤本泉さん演じる辰木桂(右)と、大学の友人たち
藤本:はい、全然タイプは違いますね(笑)。
―― そうすると「桂のこういうところはわからないな」というようなところもあったんじゃないでしょうか?
藤本:新鮮でした。「この子はこういうときにこういう感情になって、こういう子なんだ」って。考え方とか動きとか、桂の繊細さというのが私から見るととっても新しかったです。
―― その「繊細さ」を表現するために意識されたのはどういうことでしょうか?
藤本:そうですね……繊細だからこそ、神戸に来て日和さんと初めて出会うシーンは桂にとってはほんとに大きなことだったと思うんです。初めて日和さんのギャラリーに行ったときは普通よりも鼓動も激しくなっていただろうし、日和さんと出会ったからこそ、そのあとの桂の気持ちの動きも人よりも大きかったと思うんです。そういう感じが出ればいいなと思っていました。
―― ちょうどお話に出ましたけど、この映画では桂と日和さんとの関係が大きな要素で、恋ではあるんだけど普通の恋愛とはちょっと違う感じですよね。桂と日和さんの距離感はどのように考えていらっしゃいましたか?
藤本:やっぱり、ただの恋愛じゃないという想いはありました。セリフにも出てきますけど、桂にとっての日和さんは「人生の道しるべ」で、繊細な桂にとっては本当に大きな存在だったと思うんですね。神戸に越してきてしばらくは日和さんと会うのが唯一の楽しみだったでしょうし、それはただの恋愛感情ではなく、ある意味、神戸で生きていく生きがいだったんじゃないかと思います。だから、そこをただの恋愛話で終わらせたくないという気持ちはありましたし、監督もただの恋愛にはしたくないという想いはあったように感じています。桂は日和さんとの出会いで少しずつ心の紐を解いていくというか、解放と同時に成長もあったんだと思うんです。演じる上でそれを感じてもらえればと思っていました。
―― もうひとつ、桂と大学の同級生3人との関係も大事な部分ですが、同級生役の共演者のみなさんと藤本さんは実際にも同年代なんですよね。共演されていかがでしたか?
藤本:本当に3人とはすごく仲良くなって撮影の合間合間でもとっても盛りあがりましたし、関西弁が炸裂する中で楽しく一緒に過ごしていました(笑)。演じる上でも、実際に4人が親しくなっていたからこそ、よりいいシーンができたなって思うんです。このメンバーで撮影ができて本当によかったなって思えました。
「いい作品に出会えることは、とてもありがたいことで嬉しいことだと思っています」
―― 藤本さんは、ここ1年ちょっとでかなりのペースで映画にご出演になっていますね。
藤本:私は映画が好きなので、お話をいただきいい作品に出会えることは、とてもありがたいことで嬉しいことだと思っています。ただ、やっぱり難しいですよね。今回、辰木桂という役を演じるときにもたくさん迷いましたし、お芝居って頭で考えればいいというものでもないと思うんです。だから、これからももっといろいろな作品に携わって、もっともっと成長していけたらいいなと思っています。
―― 今回の『劇場版 神戸在住』では19歳の大学生の役ですが、この1年間の公開作でも『アオハライド』が高校生役で『坂本君は見た目だけが真面目』では中学校の先生役で、学生から社会人までと、演じる役の幅もけっこう広いですよね。
藤本:そうですね、今年23歳になりましたが、きっと一番幅が広いと思うんです。高校生役や大学生役は「知っているからできる」ということもありますし、学生を卒業していろいろなことを知り少しずつわかってきた年齢なので、社会人の役もできたような気がします。これからも、いろいろな役に挑戦していきたいですね。
―― ちょっと面白いなと思ったのが『新大久保物語』でも『坂本君~』でも『小川町セレナーデ』でも、藤本さんが演じた役は設定は全然違いますけど「こうだ」と決めたらひたすら突き進んでいくタイプの役が多いなって(笑)。
藤本:あはは(笑)。はい、そうですね、多いですね(笑)。
―― どうでしょう、藤本さんご自身はそういう役と似たタイプなんでしょうか?(笑)
藤本:うーん、似てるんじゃないかな(笑)。私もけっこうひとつのことにこだわっちゃうというか、なんか突き進みたくなっちゃうタイプなので(笑)。たまたまそういう役を演じることが多かったんですけど、やっぱり性格が似ているので入りやすいのかな(笑)。共感しやすいというのはあると思いますね。
―― それから、比較的小規模な作品から大きな規模の作品まで、規模の面でもいろいろな作品にご出演になっていますよね。いろいろな現場を経験されていかがですか?
藤本:そうですね、現場それぞれに色もありますし、空気もありますし、小さい規模のものはスタッフさんとの距離も近くてとっても近くで熱を感じられるのもいいことだと思いますし、大きいものは「こんなにたくさんの人が携わっているんだ」ということを感じながらの緊張感はありますし、これからもきっといろいろな規模の作品に出会っていきますけど、規模に関係なく、いい作品を一緒に作っていけたらいいなと思います。
―― 先ほども「いろいろな役に挑戦したい」というお話がありましたが、これから演じてみたい役はどんな役でしょうか?
藤本:役はほんとにいろいろやってみたいですね。まさか今年1年で高校生から大人まで、それに『小川町セレナーデ』ではオカマのふりをする女の子の役だったんですけど、そこまでいろいろな役をやることになるとは思いませんでしたし(笑)。いただいた役は全部やってみたいですけど、二面性のある役というのはまだやったことがないんですね、ちょっと小悪魔的なというか(笑)。きっと裏表のある役を演じるのも楽しいんじゃないかと思いますし、やってみたいです。
―― そんな藤本さんにとって、今回の『劇場版 神戸在住』はどんな作品になりましたか?
藤本:桂のように内気な子を演じるのは初めてだったので最初は戸惑いましたが、この作品は震災というテーマを前提に前を向いていまを生きる女の子の話なので、この作品に出演したことで「いまを生きる」ということについて考えるようになりました。過去に、阪神・淡路大震災があって、そして現在があるんですよね。普段は生きていると目の前のことでいっぱいいっぱいになりますし、そんなに「昔、ここではこんなことがあって……」と過去のことに想いをはせる機会があるわけではないですけど、そういう普段は気づかないことを思い出してもらうのも映画の役割であり、役者という仕事のつとめだと思うんです。この作品はそういうことを思い出してもらえる作品だと思いますし、桂を演じたことで私自身も成長させてもらえたんじゃないかなと思います。
―― 最後に、公開を前にしてのお気持ちと、映画の見どころをお願いします。
藤本:この作品は、震災を経験した方も、経験していない若い世代の方にも、みなさんに観ていただきたい作品です。みなさんがどう感じられるかはそれぞれだと思うのですけど、この作品が、なにかみなさんの背中をそっと押すようなものになればいいなと願っています。
「透明感」という表現がピッタリの取材時の藤本泉さん。透明だからこそ作品ごとに異なった色に染まり、まったく違ったキャラクターを見せてくれるのかもしれません。これからも藤本さんの活躍に注目です。
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(2014年11月19日/アイエス・フィールドにて収録)
劇場版 神戸在住
- 監督:白羽弥仁
- 原作:木村紺「神戸在住」(講談社刊)
- 出演:藤本泉 菅原永二 浦浜アリサ 松永渚 柳田小百合 竹下景子 ほか
2015年1月17日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開