『秋の理由』趣里さんインタビュー
宮本は小さな出版社を営む編集者。友人の村岡は作家。宮本が編集した「秋の理由」以降は作品を発表していない村岡は、精神的な不調に陥り声を失っているが、宮本は村岡が新作を書き上げることを信じている。そんな中、宮本は「秋の理由」の中から出てきたような若い女性・ミクと知り合う――。
デビュー以来、映画やドラマ、舞台で活躍する若手女優・趣里さんがヒロインのミクを演じる『秋の理由』は、詩人としても知られる福間健二監督の新作。編集者と作家、60代を迎えたふたりの男を主人公に、彼らと彼らの周囲の人々の人間模様が描かれていきます。
伊藤洋三郎さんと佐野和宏さんがダブル主演をつとめ、共演に寺島しのぶさんと、実力派俳優が揃った『秋の理由』で、趣里さんはさまざまな作品で見せてきた個性を存分に発揮、『秋の理由』という作品にその存在感を刻みつけています。
福間健二監督の作り出す独特な世界の中で、趣里さんはなにを感じ、ミクを演じたのでしょうか?
趣里(しゅり)さんプロフィール
1990年生まれ、東京都出身。2011年にテレビドラマ「3年B組金八先生ファイナル」(TBS)の生徒役で女優デビューし、以降ドラマや舞台、映画で活躍。映画初出演は『シグナル~月曜日のルカ~』(2012年/谷口正晃監督)。主な映画出演作に『東京無印女子物語』(2012年/大九明子監督)、『ただいま、ジャクリーン』(2013年/大九明子監督)、『恋につきもの』(オムニバス作品の表題作・主演:2014年/一見正隆監督)、『東京の日』(主演:2015年/池田千尋監督)、『過激派オペラ』(2016年/江本純子監督)など。主演をつとめた『おとぎ話みたい』(2013年/山戸結希監督)でMOOSIC LAB 2013最優秀女優賞を受賞。
11月にはBunkamuraシアターコクーンにて舞台「メトロポリス」(演出:串田和美)に出演予定。
「福間監督の世界にスッと導かれる感じがしたんです」
―― 最初に『秋の理由』に出演が決まったときのお気持ちから聞かせてください。
趣里:すごく嬉しかったです。今回はプロデューサーの方が推薦してくださって、福間監督が私の出ている映画をご覧になって決めていただいたらしいんです。台本を読ませていただいたら言葉がすごく美しくて、そのあとで監督の詩集も読ませていただいたんですけど、詩集もすごく素敵で、自分がこれを声で表現できるんだという嬉しさがありました。
―― いまもお話にありましたけど『秋の理由』は劇中に詩が使われていたり、詩のような言い回しのセリフもあったりと、独特の世界がありますよね。そういう部分はどうお感じになりました?
『秋の理由』より。趣里さんが演じるミク
趣里:台本を読ませていただいたときからそうだったんですけど、今回は福間監督の世界にスッと導かれる感じがしたんです。監督には衣裳合わせのときに初めてお会いしたんですけど、そのときにはもうこの映画の世界に入っているような不思議な感覚になっていたんです。なので、役作りもそんなに意識することなく、自然にできました。
―― 以前、趣里さんがポエトリーリーディングをやられている映像を拝見していて、趣里さんご自身が今回のような詩的な世界には共感しやすいのかなと思ったのですが、実際はいかがでしょうか?
趣里:そうですね、ご覧いただいたのは『おとぎ話みたい』(2013年/山戸結希監督)のイベントでポエトリーリーディングをやったのを『おとぎ話みたい』の予告編として使ったものなんですけど、『おとぎ話みたい』も監督のセリフがとっても哲学的で詩的な感じで、それをすごく楽しんでできたので、もしかしたら私は喋り言葉よりもそっちのほうが合っているのかもしれませんね(笑)。浮世離れしているというか、そういうところがあるのかもしれません(笑)。
―― これまで、お仕事以外で詩に触れられる機会というのはあったのでしょうか?
趣里:小学校のころに谷川俊太郎さんの詩をすごく読んだのは覚えていて、いまも家に本があります。ただ、だんだんとそういう機会も減っていきますし、人並みと言いますか、特にそこまで熱心に読んでいたわけではないと思います。この映画で福間監督の詩集をいただいてからは、すごく読ませていただいています。
「距離感とか感情とかを決めすぎずに、その場での空気感を感じながら」
―― 先ほど、役作りはそんなに意識せずにできたというお話がありましたが、今回演じられたミクという役はけっこう謎も多い役ですね。映画の中で説明されていない部分について、趣里さんはどのようにお考えになっていましたか?
趣里:一応、自分の中で考えてはいました。でも、監督がミクのことを「空から舞い降りてきたみたいなイメージ」だとおっしゃっていたので、あまり生々しくやるのも違うと思いまして、あくまで伊藤(洋三郎=宮本役)さんや佐野(和宏=村岡役)さんとのやりとりを意識しながら演じていました。
―― 福間監督と趣里さんの間で、ミクの過去などについてご相談などはされたのでしょうか?
趣里:過去にどういうことがあったというような具体的なお話はしなかったですね。お話ししたのは、ミクが小説の中に出てくる子なのか、違うのかみたいなところでした。ミクって現実にいるかどうかもわからないんですよね。たぶん、人それぞれにいろいろな見方ができるのかなというところにいますね、ミクは。
―― ミクは宮本や村岡とのシーンが多いですが、ミクと宮本、村岡の距離感についてはどのように考えて演じていらっしゃったのでしょうか?
『秋の理由』より。佐野和宏さん演じる作家・村岡と出会うミク
趣里:ミクはまず宮本さんと出会って、村岡さんにも会えるわけですけど、その出会いが不思議なんですよね。だんだんと心を開いていっているので、絶妙な距離感ですよね。宮本さんの家に行ったりしますから親しいのは親しいんですけど、そこにいろいろな感情があるなというのは思っていました。演じるときにはあまり距離感とか感情とかを決めすぎずに、その場での空気感を感じながらと思っていました。
―― ミクと、宮本と村岡では年齢に差がありますけど、演じる上で「年齢差のある関係」みたいなことは意識されていましたか?
趣里:年齢というのはそんなに意識していなかったですね。ミクは村岡さんの小説にすごく影響を受けていて、たぶん自分のこれからの人生をどうしようかと考えているときだと思うんですね。だから、年齢差というよりも、自分が影響を受けた人に会えた喜びというか、そういう気持ちはすごく意識していました。
―― ミクとしてではなく趣里さんご自身としては、ベテランの伊藤洋三郎さんや佐野和宏さんと共演されていかがでしたか?
趣里:おふたりともとっても優しくて、現場の雰囲気もとてつもなくよかったんです。監督とスタッフのみなさんとおふたりがとてもいい雰囲気を作ってくださっていて、いい方というのはほんとに周りの雰囲気もよくしていくんだなと感動していました。伊藤さんはお若いですよね(※撮影時60歳)。私、現場でも「若いですよね」ってずっと言っていました(笑)。感覚もとってもお若いので、お話していても楽しかったです。そういうところで、さっきお話しした宮本さんとミクのいい感じの距離感というのは作れたのかなと思って、とても感謝しています。
「なるべく自然体だけど向かっていく方向は明確にと思っています」
―― 趣里さんがご出演になった作品を拝見すると、今回の『秋の理由』もそうなのですが、作品ごとに趣里さんがまとっている空気がすごく変わっているような印象を受けます。趣里さんご自身は、作品ごとに「変わろう」というようなことは意識していらっしゃるのでしょうか?
趣里:そういっていただけるのは嬉しいです。自分では特に「変わろう」と考えてはいないんですけど、監督の求めるものにできるだけ近づきたいという想いはあるので、それは意識しているかもしれません。やっぱり、自分の中から出てくるものは自分のものなんですけど、それをどういう方向に持っていくかというのは自分だけでなくて、監督や相手役の方がいらっしゃってのものなので、それによって変わっていると感じていただけているのかもしれませんね、自分ではわからないんですけど(笑)。自分で「変えてやろう」みたいに意識してしまうと変な芝居になってしまうかなと思うので、特に意識はせず、なるべく自然体だけど向かっていく方向は明確にというのは思っています。
―― 作品ごとにいろいろな役を演じることで、趣里さんがお気づきになることというのはありますか?
趣里:それはいっぱいありますね。たとえば、お芝居していて「こんな言い方するんだ私」みたいなこともありますし、役を通して「こういう自分がいたんだな」というのも思います。それから、舞台のときには、長くやっているとその間にいろいろ見えてくるものもあったり役も深まったりするので「最初からここまでホンが読めていればよかった」みたいなことを思ったりもしますね(笑)。やっぱり、お客様に楽しんでもらえる喜びというのは毎回毎回気づくことで、新鮮に感じることですね。だから当たり前だと思ってはいけないと思いますし、あとは、共演者のみなさんやスタッフのみなさんを見ていて勉強になることもたくさんあります。それはやるたびに思います。
―― 今回の『秋の理由』で気づかれたことがあれば、それはどんなことでしょう?
趣里:ミクってけっこうズバッとものを言うんです。私はもともとそういうのは言えない性格なので、自分でセリフを言うことで「私は絶対に言えないな、この子はすごいな」と思いながらやっていました。でも、自分の意見をちゃんと言っていくというのは大事なことなので、言ったほうがいいところでは言えるように、ちょっとずつでも変えていかないと、と思いました。
―― 趣里さんがご出演になっているシーンでもそれ以外のシーンでもいいのですが、『秋の理由』でお好きなシーンはどこでしょうか?
趣里:そうですね……。寺島(しのぶ)さんが演じられた美咲さん(=村岡の妻)と村岡さんが夜に部屋で喧嘩するシーンですね。寺島さんとはこの映画の中では同じシーンがなかったので現場ではまったくお会いしていないんですけど、映画を観ると寺島さんが出てくるとすごく空気とか匂いを感じるんです。喧嘩のシーンもすごく生々しくて、寺島さんは怒ったら本当にこういうふうに感情を出されるのかなと思うくらいで、観ていて「ああ、すごい」ってなりました。私はそのシーンは台本で読んでいただけで、どんなふうに撮影がおこなわれたかも知らなかったので、そのあとの残された村岡さんの表情も、観ていて「わあ……」って思いました。
―― では最後になりますが、『秋の理由』をご覧になる方に向けてメッセージをお願いいたします。
趣里:この映画は、観る方によって印象が全然違う映画だと思うんです。すごく語るのが難しいのですけど、登場人物の立場もそれぞれ違うので、たとえば友情であったり、夫婦の関係であったり、恋愛であったり、見方によっていろいろな要素が入っている映画だと思いますので、どこかに共感できるところを見つけていただきたいと思います。しかも監督の言葉がとても美しいので、好きなフレーズも見つけていただけるのではないかと思います。みなさんがどんな感想をお持ちになるのかすごく興味があるので、みなさんの感想を知りたいなと思っています。
それから、私自身がそうだったんですけど、秋って気づいたら始まっていて、気づいたら終わっていて、見逃しがちな季節だと思うんです。昔はドングリを拾ったりした覚えはあるんですけど、大人になるとそういう機会もなくなっていきますし、なのでこの映画の撮影をしていた去年はすごく秋を感じました。日本の四季は切ないけど美しいなと思ったので、みなさんにもそれを感じていただきたいと思います。
作品ごとに違った表情を見せる趣里さん。『秋の理由』で趣里さんが見せてくれる表情を、ぜひスクリーンでたしかめてください。
- ヘアメイク&スタイリスト:山崎惠子
- 衣装協力:イマージュ(セシール) Raffia ザ・スタイリストストア
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(2016年9月5日/東京都内にて収録)