宮本守(伊藤洋三郎)は、「黙示書房」という小さな出版社を経営している編集者。友人である村岡正夫(佐野和宏)は作家で、村岡の代表作「秋の理由」を担当したのは宮本だ。村岡は、もう永いこと新作を発表していない。それでも宮本は村岡の復活を信じており、経営が苦しい中で黙示書房を続けているのも村岡の新作を出版したいという想いからだ。だが、村岡は精神的な重圧のためか声が出なくなって3年以上が経っており、村岡の妻・美咲(寺島しのぶ)は、病気の村岡を支える生活に疲れを感じていた。
ある日、宮本はひとりの若い女性と奇妙な出会いを果たす。その女性の名前は「未来」と書いて「ミク」(趣里)。本が好きだというミクは、黙示書房の事務所で「秋の理由」を見つけると「私この本持ってる。もう何回も読んだよ」と宮本に告げる。「秋の理由」を編集したのが宮本で、著者の村岡も友人だと知って興味を示すミク。宮本は村岡にもミクのことを話して聞かせるが、村岡は不調から脱する気配が見えない。
やがて、資金繰りがつかなくなり宮本は黙示書房の事務所を引き払わざるを得なくなる。一方で宮本は、美咲に寄せる自分の想いを確かなものにしていく。美咲は宮本の気持ちを知りながらも、その想いに応えようとはしない。
新作が書けない村岡は焦燥の中で精神の不安定さを増していき、宮本と村岡との関係も、村岡と美咲の関係も、変化をきたそうとしていた。
現実と夢が混ざり合うような秋の季節の中で、宮本と村岡、ふたりの男はなにを見るのか……。
秋の理由
監督:福間健二
出演:伊藤洋三郎 佐野和宏 趣里 寺島しのぶ ほか
2016年10月29日(土)より 新宿K's cinemaほかにて公開
2016年/カラー/DCP/16:9/5.1ch/88分
故・松田優作との出会いをきっかけに俳優の道を進み、人気シリーズ「あぶない刑事」や石井隆監督作品など数多くの作品に出演、長澤雅彦監督作『恋』で主演をつとめた伊藤洋三郎。伝説のカルト映画『追悼のざわめき』の主演俳優にして「ピンク四天王」のひとりに数えられる映画監督でもあり、喉頭ガンで声を失いつつも俳優・監督の双方で復活を果たした佐野和宏。詩人としても知られる映画監督・福間健二が、このふたりのベテラン俳優を主演に迎えて送る新作が『秋の理由』だ。
『秋の理由』の主人公は、小さな出版社を営む編集者・宮本と、その友人で新作を発表しなくなった作家・村岡。ふたりの男を中心に、彼らを取り巻く人々の物語が描かれていく。
伊藤洋三郎が編集者の宮本を、佐野和宏が作家の村岡をそれぞれ演じるほか、ヒロインとなる不思議な若い女性・ミク役で『おとぎ話みたい』『東京の日』などで注目される若手女優・趣里(しゅり)、村岡の妻・美咲役で『ヴァイブレータ』『キャタピラー』などで国際的な評価も高い寺島しのぶが共演。宮本と周囲の人々との距離感を繊細に演じてみせた伊藤洋三郎、作家の苦悩をまさに全身で表現した佐野和宏、ベテランの中でその存在感を刻みつける趣里、感情そのものをかたちにするかのような寺島しのぶ、実力派俳優たちの見せる演技は圧巻だ。
劇中には詩の一節や詩を思わせるようなセリフが織り込まれ、美しい映像と硬質な言葉の響きは秋の空気のような透明な感覚を作品にもたらしていく。
60歳を越えた男たちの、友情や恋愛。『秋の理由』は、現実と文学が交錯するようなそれぞれの秋を描き出す。
- 伊藤洋三郎
- 佐野和宏
- 趣里
- 寺島しのぶ
- 安藤朋子
- 木村文洋
- 吉野晶
- 小原早織
- 正木佐和
- 安部智凛
- 佐藤楓恋
- 岡本優里
- 佐藤寿保
- 瀬々敬久
- サトウトシキ
- いまおかしんじ
- 監督:福間健二
- 脚本:福間健二/高田亮
- 脚本協力:福間恵子
- プロデューサー:福間恵子/小林良二
- 撮影:鈴木一博
- 音響設計:小川武
- 編集:秦岳志
- 音楽・宣伝美術:清岡秀哉
- 記録:田中小鈴
- ヘアメイク:浅野加奈
- 衣裳:中井綾子/吉田由紀
- 制作担当:酒井識人
- 助監督:森山茂雄
- 製作:tough mama/渋谷プロダクション
- 配給・宣伝:渋谷プロダクション