山田幸一はワケありの3人が集まった「便利屋ロッキー」の若き社長。依頼人であるシングルマザー・佐々木知美とその息子・浩太の事情を知った幸一は、親子のために一肌脱ぐことを決意する!
初代ミスター・ジャパンの鈴木貴之さんが映画初主演をつとめる『便利屋エレジー』は、ある親子の幸せのために奮闘する便利屋3人組の姿を描いたハートウォーミング・ストーリー。新鋭・土田準平監督がメガホンをとったこの作品で、鈴木さんは哀しい過去を持ちながら淡々と人のために生きようとする主人公・山田幸一をナチュラルに演じています。
新たなタイプのヒーローともいえる主人公像を作り上げた鈴木さんに、映画公開を前にお話をうかがいました。
鈴木貴之(すずき・たかゆき)さんプロフィール
1990年生まれ、京都府出身。2013年に開催された第1回「ミスター・ジャパン」に出場し、初代ミスター・ジャパンの栄冠に輝く。ミスター・ジャパン選出を機にモデル・俳優として活動を開始。俳優としての出演作にドラマ「ごめんね青春!」(2014年・TBS)、「匿名探偵2」(2014年・テレビ朝日)、「ダメな私に恋してください」(2016年・TBS)、「世にも奇妙な物語 '16 秋の特別編」(2016年・フジテレビ)、映画『HIGH&LOW THE MOVIE』(2016年/久保茂昭監督)、『...and LOVE』(2017年/松田圭太監督)など。
「自然体で行ければいいなと思っていました」
―― 『便利屋エレジー』は映画初主演作になりますね。まず映画初主演が決まったときのお気持ちからおうかがいできますか?
鈴木:はい、主演というのをお聞きする前に台本をいただいたら、台本の一番最初にぼくの名前があって「え、これって主演っていうことなのかな?」というところが最初だったんです。単純にすごくビックリしたのと、でもワクワクした感じでした。このお仕事を始めさせてもらって3年目、4年目に差し掛かっているところで、いままでやらせていただいたことをぶつけたいなという気持ちも強かったです。
―― 今回はハートウォーミングなヒューマンドラマという、これまで鈴木さんがご出演になってきた作品とはちょっと違うタイプの作品だと思いますが、作品の内容についてはどうお感じになりましたか?
鈴木:そうですね、ぼくは身体を使ったアクションをやるような作品が多かった中で、今回の『便利屋エレジー』のように人の心情というものを描いた作品はやりたいなとずっと思っていたので、お話いただいてすごく嬉しかったです。それから、アクションのような激しいものではないので、どういうふうにキャラクターを描いていったら伝わりやすいのかなということが、自分にとっての課題になるのかなと思いながら挑みました。
―― 「挑む」というお話もありましたが、鈴木さんが演じられた山田幸一という役は感情を激しく出さないキャラクターで、鈴木さんご自身にとって挑戦的な部分もあったのではないでしょうか?
鈴木:そうなんですよね。幸一は社長ですけど、ぼくの中での“リーダー像”というのとはたぶん違っていて、便利屋も自分が細々と続けていければいいみたいに始めたのが、蓋を開けてみるとふたりの従業員がついてきてくれたというくらいで、グイグイ引っ張っていくタイプではないと思っていたんです。なので、ぼくが学生時代にスポーツをやっていたときのキャプテンのようなリーダー像とは違うリーダー像を作っていかなくてはならないんだろうなと思ったんです。じゃあなんでふたりの従業員がついてきてくれているんだろうと考えたら、たぶん彼ら自身がよりどころがない中で、幸一は単純にすごく優しいというか、いろんなことに対して批判しないだろうし、許すだろうしというところが幸一の人間性かなと思ったんです。映画では激しい感情をバーンと出すようなところはないですけれど、たぶん幸一自身の中ではすごく感情が動いていて、たとえば感じたときにすぐ口に出す人もいれば、出さない人もいるじゃないですか。それは我慢しているわけではなく、ディスカッションをしているようなときにも自分の意見はあまり出さず、ほかの人がなんでそういう行動や考えに至ったのかを理解しようとするタイプの人間なんだろうなと思ったので、ちょっと一歩引いているというか、そういう感じのキャラクターだろうと捉えていました。
―― 幸一は過去を背負っていたりとミステリアスな人物にもなりそうな設定なのが、あくまで物静かで普通の人物として演じられているのが印象的でした。ミステリアスにならないように鈴木さんが意識されたところはあるのでしょうか?
鈴木:ミステリアスな人って、たぶん自分の素性を隠したりとか、聞かれても話さなかったりっていうタイプの人だと思うんです。だけど、幸一は聞かれたら自分の過去も話すし、自分からあえて言わないタイプなだけで、隠そうとしていることもないんですよね。「みんな誰しも過去に暗い部分はあるよね」というのをわかっている人たちが集まった場所が便利屋ロッキーだと思うので、自然体で行ければいいなと思っていました。
―― 幸一の人間像について、監督と相談されたりはなさったのでしょうか?
鈴木:いまお話したような、ぼくが台本を読んで感じた“山田幸一像”というのを「こういう人間だと思うんです」とお伝えしたら、監督とも一致していたんです。なので、じゃあ現場でそういうキャラクターとして作っていきましょうという感じでした。
―― こういうタイプのキャラクターを演じる上で、難しさというのはありませんでしたか?
鈴木:ぼく自身は「伝えたいことがあったら口に出さなければわからないんじゃないか」というタイプの人間なので、幸一を演じるときに「これで周りに伝わっているかな?」という不安はちょっとあったんです。ただ、困っている人がいるときどう行動するかという便利屋ロッキーの指針とか、浩太とどういうふうに接していくかとか、最終的な決断は幸一が下しているので、観ている方にも伝わるだろうと思っていました。
「幸一は困っている人がいたら助ける。ほんとにシンプルなんです」
―― 今回は、便利屋ロッキー従業員の鈴木由美子役のダレノガレ明美さんと、同じく従業員の佐藤努役の寺井文孝さんをはじめ、個性的なキャストの方々が揃っていらっしゃいますが、共演されての印象はいかがでしょう?
鈴木:ほんとに、ダレノガレさんと寺井さん、便利屋ロッキーのメンバーで動きながらずっと撮影していたので、短い期間だったんですけど「濃かったなあ」と思うくらいコミュニケーションも取れましたし、ロッキーの事務所の中で撮っているシーンは居心地もよかったです(笑)。ダレノガレさんと寺井さんがそれぞれ演じる役がワチャワチャしていて、それを見ながらあたふたしている幸一というのが自分のあり方なのかなというふうに思いましたし、おふたりと共演させていただいて幸一のポジションを見つけられた部分もあったので、すごくよかったと思っています。
―― 映画の中では、佐藤や鈴木がわりと突っ走るところを抑える幸一みたいな構図がありますが、実際の現場ではいかがだったのでしょうか?(笑)
鈴木:いや全然、突っ走るような方たちではなかったです(笑)。もう、素敵な方たちです。ダレノガレさんは明るいですし、映画が初挑戦という中でも自分を出されるのがお上手でしたし、現場も明るくしていただきました。寺井さんは、キャストの中では年上の方なので落ち着いた空気もありましたし、幸一と佐藤の関係性が面白くならないと難しい部分があったので、トラックに幸一と佐藤のふたりで乗っているシーンなんかでは「こういう感じで行きましょう」みたいなお話もしながらやらせていただきました。
―― 今回はヒロイン的な存在として、永尾まりやさんが演じられた佐々木知美というキャラクターがいますが、幸一は知美のことをすごく気にかけているけど恋愛関係にはならないのがこの映画のさわやかな部分かなと思いました。演じる上で知美との距離感はどのように考えていらっしゃったのでしょうか?
『便利屋エレジー』より。鈴木貴之さんが演じる便利屋ロッキー社長・山田幸一は、浩太少年の願いをかなえようとする。
鈴木:そうですね、幸一を演じる上で大事だなと思っていたのは、幸一は「目の前に困っている人がいたら助ける」と、ほんとにシンプルなんですね。人を助けることが自分の過去に向き合う贖罪になるということで便利屋を始めて、だから社長社長もしてないし、そういうところに従業員のふたりもついてきてくれているんだと思うんです。なので、彼女とも「お仕事の依頼を受けている方」という関係性で、もしかしたら普通はあれほど親身に考えてくれたら好きになったりする可能性もあるのかもしれませんけど、そういう部分はあんまりないんだろうなと思っていました。
―― 幸一は、知美の子どもの浩太とのシーンも多かったと思いますが、子役の方との共演はいかがでしたか?
鈴木:撮影の最初のほうに監督と決めていたのは、幸一は子どもに対して苦手意識があるということで、託児所のシーンでもあまり子どもになつかれないというキャラクターの作りだったんです。なので、空き時間とかの浩太役の(岡本)拓真くんとの距離の詰め方が難しくって、そこで近づきすぎてしまうと幸一と浩太の関係も違うことになっちゃうと思っていたんです。ただ、拓真くんはすごく人懐っこくてかわいらしい子なので、よそよそしい感じを作らなくちゃいけないのが難しかったですね(笑)。撮影の後半になると、幸一が浩太を助けると決めてからのシーンが多かったので、そこからあとの空き時間は楽しかったですね、ずっと喋ったりもできましたし(笑)。
―― 今回の監督の土田準平監督はお若い監督さんですが、お仕事をされてどんな印象でしたか?
鈴木:ぼくも初めての大役というか主役をさせていただきますし、監督も劇場作品の監督が2本目というお話もされていたので、どっちも若手同士というか(笑)。なので、すごく意見交流もできましたし、聞きたいことも聞けましたし、任せるところもお任せできましたし、ぼくが「どうですかね?」と聞いたら「こうです」と答えてくださったり「どうでしたか?」と言ったら「よかったです」と、ちゃんと言ってくれる方なので、すごく信頼してできました。
―― 撮影中に、鈴木さんが印象に残っているエピソードなどがあれば教えてください。
鈴木:夜、事務所のあるビルの屋上でみんなで花火をしてというシーンがあるんですが、この作品自体がわりと短い期間で撮っていたので、時間もない中でけっこうピリピリした感じがあったんですね。そのときにいきなり石焼き芋のトラックが近くに来て、音が入ってしまうので撮影がストップしちゃったんですよ。お仕事でやっていらっしゃるので止めてもらうわけにもいきませんし、スタッフの方が聞きに行ってくれたら、別の場所に移動するまで30分くらいかかるということだったので「じゃあ、ちょっと休憩にしましょう」ということで、みんなで石焼き芋を食べたのがけっこう印象的ですね(笑)。それまではけっこう詰め詰めでやっていたのでみんながホッとするような時間もない中で、あの時間だけはみんなホッコリできたかなという、素敵な時間だったと思います。
「すごく“ものづくり”という感覚を身近に感じる作品だったんです」
―― 石焼き芋の話がでたからというわけではないですが(笑)、映画の中では幸一が料理をするシーンがけっこうありますね。鈴木さんご自身はお料理はなさるんですか?
鈴木:はい、けっこうします。昔、アルバイトをしていたこともありますし、料理をしたり包丁を使ったりするのは問題ないですと最初にお伝えしていました(笑)。
―― 料理以外の点で、鈴木さんご自身と幸一の共通点というのはありますか?
鈴木:そうですね……。ぼくもどちらかというと、周りに協力とか助けを求められると助けるタイプなんです。そういうところは、幸一の「過去と向き合うため」という便利屋の仕事を始めたきっかけとは違いますけど、助けるタイプというところは似ているところかなと思います。
―― 逆に、鈴木さんと幸一とでぜんぜん違うところというとどんなところでしょう?
鈴木:子どもに対する接し方は全然違うと思います。ぼくは子どもが大好きなので(笑)。そこは幸一と違う部分かなと思いますね。
―― 今回、作品を通して鈴木さんにとって刺激になったことがあれば教えてください。
鈴木:やっぱり、どういう映画もそうなんですけど、共演者のみなさんが真剣に作品に取り組まれているので、その部分はいつもすごく刺激を受けますよね。それから、今回はけっこう少数のスタッフさん、キャストさんの中で作り上げていった作品だったので、すごく“ものづくり”という感覚を身近に感じる作品だったんです。そういう面で「ああ、やっぱりこういうのが好きだなあ」という意味で刺激を受けたというのもありました。
―― 『便利屋エレジー』は、ひとつの大きなテーマとして“家族”というものがあって、幅広い方々に見ていただける作品になっていると思いますが、そのテーマの部分について鈴木さんはどうお考えになっていらっしゃいますか?
鈴木:そうですね、SNSであったりとか、いまは明らかに人とのつながり方が変わっている時代じゃないですか。そういう中ですごくアナログな作品といいますか「目の前に困っている人がいるから助ける」というような作品なので、年齢を重ねている方からしたら懐かしい“人とのつながり”を感じていいただければ嬉しいですし、若い方たちには「こういうふうに人と人がつながっていって、それがすごく大切で」と感じてもらえたら嬉しいですね。
―― 作品を拝見して「便利屋ロッキーシリーズ」のようなかたちで、続編やシリーズ化もできそうだなと思ったのですが、もし続編などがあったとしたら、鈴木さんはどんなストーリーを演じてみたいですか?
鈴木:すごく幸一を中心に考えてしまいますけど、幸一が便利屋を始めたのは、自分自身の人間的な部分の成長のためだと思うんです。なので、今回の作品ではそこまで描ききれていない幸一の心情の変化とかを描きたいですし、それこそキャラクターの強い人たちが揃っていますから、それぞれのスピンオフがあっても面白いでしょうし、いろいろ広めていければ嬉しいなと思います。
―― やはり鈴木さんご自身もシリーズ化は実現させたいですか?
鈴木:したいですね。もうぼくたちサイドからすると「ご覧になって楽しんでください」とお願いするしかないんですけど、観ていただいたみなさんが楽しんでくださって、その盛り上がりがいい方向につながっていけばいいと思っています。自分のキャリアの中でも主演をやらせていただいたのは初めてで、そういう意味でもすごく大事な役にもなりましたし、その中で自分ができたこと、できなかったことが見えるきっかけにもなりました。まだまだ幸一としてすべてを演じ切れたわけではないので、引き続き演じることができればと思っています。
ひとつひとつの質問に丁寧に答えてくださる鈴木貴之さんの表情は、劇中の山田幸一の誠実さと重なるように感じられます。鈴木さんだからこそ表現できた山田幸一というキャラクターの魅力を、ぜひ映画で堪能してください。
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(2017年6月8日/アイエス・フィールドにて収録)
便利屋エレジー
- 監督:土田準平
- 出演:鈴木貴之 ダレノガレ明美 寺井文孝 永尾まりや 大倉士門 ほか
2017年6月24日(土)より池袋シネマ・ロサにて1週間限定レイトショー