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小原徳子さん・鶴田法男監督インタビュー

 多くの作品に出演し、主演作『いずれあなたが知る話』で脚本家デビューも果たした女優・小原徳子さん。その芸能活動20周年を記念した特集上映「小原徳子映画祭」が、3月20日より24日まで横浜のシネマノヴェチェントで開催されます。
 小原さんの自薦による長編6本・短編7本の上映作品は、1作品ごとに着実に映画ファンからの支持と監督たちからの信頼を集め「映画俳優」としての評価を固めてきた小原さんの軌跡を辿るラインナップとなっています。
 映画祭を前に「女優・小原徳子」の過去・現在・未来について、小原さんご自身と、上映作品のひとつ『Z-ゼット- 果てなき希望』の鶴田法男監督に、たっぷりと話していただきました。

小原徳子(こはら・のりこ)さんプロフィール

1988年生まれ、長野県出身。15歳のときに「木嶋のりこ」の名前でデビュー、グラビアを中心に活動しつつ映画や舞台など演技のフィールドでも活躍。2014年には『ちょっとかわいいアイアンメイデン』(吉田浩太監督)『Z-ゼット-果てなき希望』(鶴田法男監督)と主演映画が2本公開される。2018年に「小原徳子」に改名。2023年には主演もつとめた『いずれあなたが知る話』(2023年/古澤健監督)で脚本家デビューを果たす。2024年は『渇愛の果て、』(2023年/有田あん監督)『THIS MAN』(2024年/天野友二朗監督)などが公開予定

鶴田法男(つるた・のりお)監督プロフィール

1960年生まれ、東京都出身。1990年に自ら企画したオリジナルビデオ作品「ほんとにあった怖い話」で監督デビューして以降、オリジナルビデオで数々のホラー作品を監督。その後のホラー作品に大きな影響を与えたことから“Jホラーの父”と呼ばれる。劇場用監督作に『リング0〜バースデイ〜』(1999年)『おろち』(2008年)『POV〜呪われたフィルム〜』(2012年)『Z-ゼット-果てなき希望』(2014年)など。2019年には中国に招かれ『戦慄のリンク』を監督(日本公開2022年)。近年は「恐怖コレクター」シリーズなど小説家としても活躍中

「この作品でこれを学んだな」というのが、すべて鮮明に出てきました(小原)

―― まず小原さんにお話をうかがいます。今回「小原徳子映画祭」と題して特集上映が開催されるわけですが、ご自分の名前が付いた映画祭が開催されるというのは、どんなお気持ちですか?

小原:ほんとに、夢のようだと思っています。以前から、いろいろな俳優の方々の特集上映や映画祭が開催されているのを見て、いつか自分もできたらなって憧れはあったんです。今回は、私が初めて脚本をやらせていただいた『いずれあなたが知る話』(2023年/古澤健監督)が去年公開されたときのつながりで配給のほうから提案をしていただけて、まだ実感が湧かないくらい幸せですね。

―― 映画祭で上映される作品は小原さんの自薦ですね。上映作を選ぶのは出演作を振り返る機会にもなったのではないかと思いますが、振り返ってみていかがでした?

インタビュー写真

小原徳子さん

小原:やっぱり、俳優として作品に携わるごとに自分の武器をひとつひとつ身に着けていったんだなと、すごく感じました。私はずっとお芝居をやりたかったんですけど、最初はグラビアアイドルとして活動を始めたので、お芝居や映画というものについて、無知なところも、勉強不足なところも、すごくあったんです。そんな私が、いろいろな現場で監督や共演者の方々と出会って「映画俳優ってこういうものなんだ」とか「役作りってこういうふうにしていくんだ」とか「現場ではこういうふうにいるものなんだな」というふうに「この作品でこれを学んだな」というのが、すべて鮮明に出てきました。

―― 上映される作品は主演作でないものも多いですが、どのような点で上映作を選ばれたのでしょう?

小原:ひとつひとつ、私の中でターニングポイントがあったんです。たとえば『ユリ子のアロマ』(2010年/吉田浩太監督)では、主演の江口のりこさんと染谷将太さんと、本読みのときから現場を一緒にさせていただいて、おふたりがほかの共演者との会話の中で自分のキャラクターを蓄積していくところを間近で見たのが、いまでもすごく糧になっているんです。『DEVOTE』(2015年/田島基博監督)というモノクロの作品はセリフがまったくなくて、言葉がない中で表情とか体の動きだったりでお芝居をするという現場だったので、映画でなにか感情を伝えるのはセリフばかりになってしまうとダメで、セリフじゃないところで伝えられるものに本当の真実があるんじゃないかなということを、すごく感じたんです。ひとつひとつ挙げていくときりがないんですけど(笑)、それぞれの作品にそういう想いがあります。もちろん、上映される作品だけがそうだということではなくて、上映するのが難しい作品もありましたし、今回はこの13本に絞らせていただきました。

―― 個人的な印象なのですが、小原さんは初期のころのアイドル的なイメージから、映画を中心に活動される俳優さんへと、自然にイメージが変わっていったように感じいています。小原さんご自身は、どこかでご自分のスタンスが変わったという感覚はありますか?

小原:そうですね……。『Z-ゼット-果てなき希望』(2014年/鶴田法男監督:以下『Z』)が公開されたのと『ちょっとかわいいアイアンメイデン』(2014年/吉田浩太監督)が公開されたのが同じ年で、自分の主演作が同時期に2本公開されて、ご覧になる方の人数も大幅に増えましたし、業界の中での注目度合いもすごく変わったんです。そこを皮切りに、私の中ではひとつ決意が固まったと言うか、私はやっぱりお芝居が一番やりたいと思ってこの業界に入ったし、その中でも映画というジャンルで一生生きていきたいと強く感じたのが、その年だったんです。そのときに劇場に足を運んでくださったお客様のリアクションだったりで決意が固まったというのを覚えています。

私の心の「映画が好き!」という部分がすごく掻き立てられていました(小原)

―― それでは、今回の上映作で、小原さんのひとつの転機にもなった『Z』について、鶴田監督にも加わっていただいてお話を伺い痛いと思います。監督は、小原さんとお仕事をされたのは『Z』が初めてですね。

インタビュー写真

鶴田法男監督

鶴田:ええ、初めてです。実は、申し訳ないんですけど、ぼくはそのころ彼女のことをあまりよく知らなかったんですよ(笑)。ただ、今回も上映される彼女主演の『我が名は理玖』(2018年)をのちに監督する川松尚良監督が、助監督として『Z』に入っていて、川松くんから大推薦があったんです。

小原:嬉しい!

鶴田:川松くんは『ちょっとかわいいアイアンメイデン』にも助監督で入っていて「すごくよかった」という強力なプッシュがあったので、ぼくも会う前からいい役者なのかなとは思っていたし、オーディションで会って話をしたら、役者をやりたいという意欲をすごく感じたし、それで決めたんですよね。

―― 小原さんは『Z』にはどんな気持ちで臨まれていいましたか?

小原:私は『Z』で主人公のひとりの「あかり」を演じているんですけど、最初に川松監督を通してオーディションのお話をいただいたときは「別の役で」みたいなニュアンスもあったんです。でも、事前に台本を読んで、どうしてもあかりがやりたいなって思ってオーディションを受けていました。オーディションのときは、やっぱり鶴田監督は誰もが知る巨匠ですから「お会いできるんだ!」というミーハー心もありましたし「ここで認めてもらえるかどうかで私の人生は変わるかもしれない」みたいな気持ちもあって、私の心の「映画が好き!」という部分がすごく掻き立てられていましたね(笑)。もちろん、すごく緊張もしていたんですけど、オーディションの場所が応接室みたいな柔らかい感じの部屋で、鶴田監督も近い距離で優しく話してくださったので、緊張もほどけて、お芝居を見せるときには自分自身が楽になれる空気になっていたんです。そのときは映画の冒頭のほうの海辺のシーンをやったんですけど、楽しんでできましたし、カットがかかったときに鶴田監督が笑顔だったので「よかった、笑顔だ!」って嬉しかったし、安心したのを覚えています(笑)。

鶴田:ぼくが覚えているのが、その海辺のシーンの本番のときで、彼女が演じるあかりが親友の恵にビデオを撮ってもらっているという設定のシーンで、恵役の田中美晴が実際にカメラを回して埠頭の先のほうで芝居をしてたんだけど、ちょうど小原くんのうしろを漁船が通って(笑)。

小原:そうでした!(笑)

『Z-ゼット-果てなき希望』写真

『Z-ゼット-果てなき希望』より。小原徳子(当時・木嶋のりこ)さん演じるあかり(中央)と、川本まゆさん演じる戸田凛子(右)、田中美晴さん演じる恵

鶴田:漁船の人もこっちを見てたんで、ぼくがちょっと目配せしたら、小原くんも気がついて、船のほうを見て「おじさーん!」とか言って手を降って、向こうも手を振り返してくれて、完成した作品でもそれをそのまま採用してるんです(笑)。それが撮影の初日だったんだけど、初日からいろいろとアドリブが入っていて、撮影全体を通しても台本に沿ってはいるけどみんなそれにとらわれずにやっていく感じで、すごく面白くできたんですよね。

―― 小原さんは、その海辺のシーンのほかに特に印象に残っているシーンというとどこでしょう?

小原:病院のシーンですね。『Z』のキャストのメンバーとは、いまでも定期的に会っているくらい仲がいいですけど、病院の撮影がすごく長かったので、撮影を重ねていく中で結束力が生まれていったのを覚えています。映画の中で、あかりのお姉ちゃんが出産しそうになって、お医者さんもいない中でみんなが一致団結するというシーンがあるんですけど、そのシーンは、私自身いろいろな希望を感じたというか、物語の中でもそれが希望になるし、作品を作る上でも、みんなで子どもを包み込むようにそのシーンを完成させるみたいな、すごくひとつになれたシーンだった気がしていて、印象に残っています。

鶴田:やっぱり、この撮影は合宿状態だったから、みんなが本当に結束してやっている感じがあって、ぼくもすごく楽しかったです。もう10年経ったからぶっちゃけた話をしちゃうと、この映画はすごく予算がなくて(笑)。だから非常にアナーキーな撮り方をしなくてはいけなくて、それで役者さんにビデオカメラを回してもらってその映像を採用しちゃうという撮り方もしていたんですけど、結果的にみんなが一致団結しないとできなかったから、それまでのぼくのメジャー作品とは全然違う、家族的な感じで作れたんですよ。だから、ぼくも『Z』に出演したメンバーやスタッフとは、彼女も含めていまだに親しくさせてもらっていて、こんなことってなかなかないので本当にありがたいと思っています。

彼女のワンショットを撮ったときに「これは名作になったな」って思いました(鶴田)

※このパートでは『Z-ゼット-果てなき希望』の終盤のストーリーについて触れています。未見の方はご注意ください

―― 『Z』で小原さんが演じたあかりは、姉の産んだ子どもの母親代わりのようになる、母性を感じる役ですね。小原さんはそういう役は初めてだったと思いますが、当時は役についてどう考えていましたか?

インタビュー写真

2014年7月26日『Z-ゼット-果てなき希望』初日舞台あいさつでの小原徳子さん(当時は木嶋のりこ)。劇中衣裳での舞台あいさつでした

小原:たぶん、そのときは私自身は母性というものをそこまで意識してはいなくて、最後のほうのシーンは「とにかくこの子を守らなくてはいけない」っていう想いだけで演じていたような気がするんです。でも、屋上で希望(のぞみ)という名前のその子を見つめるラストのシーンでは「守らなきゃって思っていたけど、私はこの子がいるから生きていけるのかもしれない」みたいな、台本を読んでいたときにはなかった気持ちが芽生えてきたのを覚えています。それは本当に撮影の中で生まれてきた気持ちで、もしかしたら、それが私の母性の始まりだったのかもしれないですね(笑)。

鶴田:その屋上のシーンでは、最後にあかりが一言「希望(のぞみ)」っ言うんだけど、そのワンショットを撮ったときに「これは名作になったな」って思いましたよ。そのシーンの前には、川本まゆ演じるもうひとりの主人公・戸田凛子とあかりとの別れがあるんだけど、そこのふたりのやり取りもすごくよかったし、その次には恵とあかりの別れがあって、そこのふたりの表情もよかったし。ほぼ初めて会ったメンバーだったけど、やっぱり、何週間か一緒にやっているとお互いにいろいろわかってくるから、後半は明らかにテンションが違ってきていたんですよ。彼女も完璧にあかりになっていたから、ぼくはそれを撮ればいいだけだった。本当に素晴らしい成長ぶりでした。

―― あかりが、ゾンビに噛まれてしまった恋人の翔太と病室で会話して、そのあと病室から出てきて、なにも言わずに顔を洗うというシーンも印象的でした。

鶴田:あそこは、彼女がすごくいい芝居をしていたから、ぼくは「どうしよう」って思って、カットをかけられなかったんですよ。だから、編集段階でもけっこう長く使っているんです。彼女が完璧に役に入り込んでいて、見事な芝居でした。

小原:ありがとうございます。でも、私その前の病室のワンカット目がNGだったの覚えてます(笑)。

鶴田:そうだっけ?(笑)

小原:そうだったんです。私はとにかくあかりの気持ちで彼に向かっていたんですけど、カットかかって「ちょっと大人すぎる」って(笑)。

鶴田:ああ、そうか(笑)。翔太が最後に「裸が見たい」って言うんだけど、そのときの反応がね、申し訳ないけど、ちょっと堂々としてたっていうか(笑)。高校生だからもうちょっと恥じらいが欲しいなって(笑)。

小原:私はあかりの気持ちでいたんですけど、やっぱり自分より下の年齢の役なので(笑)。「高校生だから、もうちょっとピュアに」って言われて「あ、年齢落とそう」って、そこで調整したのを覚えてます(笑)。

―― そういう思い出深い作品が10年ぶりにスクリーンで上映されるお気持ちを聞かせてください。

インタビュー写真

小原徳子さんと鶴田法男監督

小原:やっぱり『Z』って、私の中ですごく特別な映画なんです。私が出演した映画では、ベッドシーンがあったり、脱いだりしている作品もけっこうあるんですけど、『Z』はそういうシーンはなくて、オーディションで鶴田監督とお話をしてお芝居を見ていただいて、お芝居で認めていただけたという実感がすごくあるんです。「あかり役です」って決まったときに泣いてしまった感動も覚えていますし、私の中では、躓きそうになったときに自信を付けてくれる大事な作品なんです。それが今回、10年経って私が新たにいろいろ挑戦していきたいと思っている中でスクリーンで上映できるのは嬉しいですし、これを機に、また10年がんばっていきたいなと思っています。

鶴田:映画祭のコメントにも書いたんですけど、このころはまだ映画版の『アイアムアヒーロー』(2016年/佐藤信介監督)も「君と世界が終わる日に」(ドラマ版2021年〜2023年、劇場版2024年/菅原伸太郎監督)もなくて、当時の日本のゾンビ映画って、コメディタッチになるか、すごくひねったものになるかだったんですよ。『Z』はそういう中で日本製ゾンビ映画を真正面からしっかりやろうと取り組んだ作品で、黒沢清監督が当時「日本映画に、このジャンルのベンチマークがようやく登場した。」とコメントしてくれたし、ぼくもけっこう自信作なんです。ただ、公開時期がアメリカ版の『GODZILLA』(2014年・米/ギャレス・エドワーズ監督)と思いっきり被ってたので、みんなそっちに気が行ってたし、2年後には『アイアムアヒーロー』が公開されて、なんか影が薄くなっちゃったんですよね(笑)。でも、相当に面白くできたと思っているし、なんといっても相原コージさんの原作に原発事故への批判と「それでもがんばって生きていきましょう」というメッセージがしっかり込められていて、ぼくはそこに感心したから低予算でもやろうと思ったし、その批判やメッセージは映画でも受け継いでいると思っています。だから、正直もっと評価してもらいたいという気持ちはあって(笑)、今回、小原くんのおかげでスクリーンで上映できるのをありがたく思っています。いま観ると、コロナ禍を予見していたような部分もあって、10年経っていても古さはないと思いますし、いまこそ、ぜひ観ていただきたいです。

脚本に限らず「作りたい」という欲はずっとあったんです(小原)

―― 小原さんは『いずれあなたが知る話』で脚本家デビューされましたが、脚本を書こうと思ったきっかけはなんだったのですか?

『いずれあなたが知る話』ポスター

小原徳子さん主演・脚本『いずれあたなが知る話』ポスター

小原:脚本はずっと興味はありまして、高校生のころから趣味で書いたりはしていましたし、高校生のときは演劇部だったので、コンクールに出るときの脚本を書いたこととかはあったんです。なので、映画の脚本もいつか書きたいなとずっと思っていて、ちょうどコロナ禍のタイミングで役者仲間で映画を作ろうみたいな話になったときに「よかったら脚本書いてみない?」って言ってもらって、これはチャンスかもしれないと思って挑戦してみたんです。だから、ちょうどいいタイミングが重なったというか、やっとチャンスがやって来たという感覚ではあります。

―― コロナ禍に入ったころに、おひとりで撮った短編をツイッターにアップされたりしていましたよね(https://twitter.com/norikokohara/status/1251451491681841152)。

小原:やっぱり、脚本に限らず「作りたい」という欲はずっとあったんですよね。ただ、ずっと俳優しかしてこなかったので、そっちの目線でしか映画というものを見られていなかったんです。それで、ちゃんと作ることを学んでみたいと思って、いま。映画美学校の脚本コースに通っているんです。これからも、脚本の勉強もしっかりと深めていって、脚本と俳優と、どちらもがんばっていきたいです。

―― 監督は小原さんの脚本家としての活動をご覧になっていかがですか?

鶴田:最近は、エリザベス・バンクス、グレタ・ガーウィグ、オリビア・ワイルドとか、アメリカ映画界で女優さんから転身される人が目立っていますよね。脚本家はあまり例がないかもしれないけど、いずれにせよ小原くんが将来は巨匠になるだろうから、そしたらぼくを使ってほしいって、いまからお願いしてるんですよ(笑)。あとは、アメリカ映画の『サンセット大通り』(1950年・米/ビリー・ワイルダー監督)で、グロリア・スワンソンというサイレント時代の大女優が豪邸に住む大女優役をやっていて、その執事をエリッヒ・フォン・シュトロハイムという映画監督が演じているんですよ。ぼくは子どものときにその映画を観て、ちょっと憧れていたんで、小原くんはいずれ大スターになって豪邸を構えるだろうから、執事で雇ってもらえたら、憧れが実現できるなって(笑)。20年くらいしたら執事にしてくれって、いまからお願いしているんですよ(笑)。

小原:いや……がんばります(笑)。

―― 小原さんは、ご自分で脚本を書かれるようになって、俳優として演じるときに以前と変わったことってありますか?

小原:ありますね。私はもともと自分のセリフに対してあまり意見を言ったりするタイプではなかったんですけど、より一層、たとえば言いにくい言い回しのセリフだったとしても、その言い方で書いた意味とか、それまでの流れがあってそのセリフを言う意味というのを、俯瞰的に見られるようになったと感じます。

インタビュー写真

小原徳子さんと鶴田法男監督

鶴田:やっぱり、役者をやっていると、自分のセリフと自分に関わりのあるト書きのところが気になっちゃって、まずはそこをきっちり覚えようとすると思うんだよね。でも、あるセリフには、いくつか前のシーンで別の人が言っているセリフがあったり、別の人がとっている行動があったりして、そこが連関して自分のセリフになっているみたいなことがあるから、脚本を書くとそういうことに気づくと思う。

小原:気がつきます! あと、このシーンの並びで来た自分の出演シーンだからこそ、ここはそんなにテンションをこうしたらダメだとか、自分が出演していないシーンがあるからこそ、ここはこうなんだというのが見えますね。

鶴田:ただ、現場で全体像が見えているのは監督だけだったりするから、実はいくつか前のシーンで芝居が変わっていることもあったりして、そうすると連関するセリフの意味合いも変わってくることがあって、そのときに台本に沿ったかたちでイメージしていると「それは違う」みたいなことになって、そこで混乱することもあったりするんだよね。

小原:そうですね、たしかに。

鶴田:晩年の宇津井健さんが言っていたのが「自分は来た球を打つだけです」というようなことで、なにも考えずに現場に行って言われたようにやるだけだって。もちろん宇津井さんくらいベテランになると、その場で言われたことも全部こなせるんだろうし、もう宇津井さんがいれば映画になっちゃうから。だから「小原徳子がいれば映画が成立する」となればいいし、そこを目指してほしいですね。

ぜひ小原徳子の魅力をスクリーンで体感していただきたいと思います(鶴田)

―― 監督から見て、小原さんの俳優としての魅力といのはどういうところでしょう?

鶴田:やっぱり、演技力はまだまだだと思うんですけど、とにかく生き様が役者なんですよ。

小原:嬉しいです!

鶴田:ぼくは、人の魅力って生き様で、「私はこれでやっていくんだ」っていう気合いが自ずと外に出てきてオーラを発している人が魅力的なんだと思うんです。彼女はいま、そのオーラを最大限に発しつつあると思うので、これからが楽しみですよね。いまこの人を一生懸命応援しておけば、ぼくは老後の心配はないと思っているので(笑)。

小原:フフ(笑)。

―― 小原さんが今後、俳優としても脚本家としても、やってみたいことはどんなことですか?

小原:私はとにかく映画館がすごく好きなんです。映画館で映画を観るのって、今後二度と会うことがないかもしれない人たちと同じ時間を共通するわけじゃないですか。その大事な空間を持続させていくことに、どれだけ私が協力できるかなって。それは作り手になったからこそ感じることなんですけど、映画館に足を運んでくれる人を増やしたいというのが、いま私が一番やりたいことではあるので、それには俳優としても、脚本家としても、力を付けなくてはいけないなと思っています。俳優としては、私はいままでまっすぐひたむきに生きてきたので、ちょっと余裕を持って、遊び心を持っていくというのが目標のひとつです。脚本家としては、まだまだ勉強中の身なので、もっと勉強を重ねて、鶴田監督が「これだったら監督してもいいかな」って、首を縦に振ってもらえるような面白い脚本を書けるようになりたいです。

―― 鶴田監督は、今後の小原さんにどんなことを期待されていますか?

インタビュー写真

「小原徳子映画祭」チラシと『Z-ゼット-果てなき希望』パンフレットを手に小原徳子さんと鶴田法男監督

鶴田:結局、大事なのは人間力だったりするんですよね。極端な話をすると「小原徳子の名前があるんだったら、その企画に1億円出しましょう」ということになればいいわけじゃないですか。だから人間力を付けていただいて、脚本作でも、出演作でも、小原徳子の名前に1億出すとか2億出すとかになってほしいし、その可能性を秘めている人だと思うので、そこに向かってがんばってほしいですね。

小原:はい!(笑)

―― 最後に「小原徳子映画祭」に興味を持たれている方々へメッセージをお願いします。

鶴田:実は、ぼくも今回上映される作品を全部観ているわけではないので、毎日行けるかはわからないですけど、この機会に観られるだけ観たいと思っています。それから、ぼくはいままで小原徳子の作品を観てきて、彼女の「俳優力」というようなものが如実にレベルアップしてきていると思っているんです。スクリーンで観るとそれがはっきりわかると思いますので、ぜひ小原徳子の魅力をスクリーンで体感していただきたいと思いますし、ぜひ小原徳子のファンになっていただきたいです。

小原:今回は、長編6本と短編が7本上映されるんです。いまは長い映像を観る集中力がないという方も多いと思うんですけど、そういう方にも、まず短編を観て楽しんでいただいいて「このあと長編も観てみようかな」というような感じで楽しんでいただけるラインナップにはなっていると思います。私も映画祭のときにはいつも会場にいますし、私に話しかけに来るというきっかけでもいいので、ぜひ、一緒にスクリーンで映画を観るという時間を体験しに来ていただきたいですね。

インタビュー写真

作品ごとにさまざまな表情を見せる小原徳子さん。「小原徳子映画祭」で、ぜひその多彩さを感じてください

※画像をクリックすると拡大表示されます。

(2024年2月27日収録)

『小原徳子映画祭」ポスター

小原徳子映画祭

2024年3月20日(水・祝)より24日(日)までシネマノヴェチェントにて開催


  • 『いずれあなたが知る話』(2023年/古澤健監督)
  • 『幸福な囚人』(2019年/天野友二朗監督)
  • 『時時巡りエブリデイ』(2017年/塩出太志監督)
  • 『DEVOTE』(2015年/田島基博監督)
  • 『Z-ゼット-果てなき希望』(2014年/鶴田法男監督)
  • 『ユリ子のアロマ』(2010年/吉田浩太監督)
  • 『我が名は理玖』(2018年/川松尚良監督)
  • 『指の輪のなかで』(2018年/緒方一智監督)
  • 『殺し屋VSカフェ店員』(2020年/塩出太志監督)
  • 『ある惑星』(2020年/塩出太志監督)
  • 『プラス・ワン』(2019年/樋口幸之助監督)
  • 『燃やせないゴミの日』(2019年/緒方一智監督)
  • 『光のなかで、』(2019年/有田あん監督)

詳しい上映スケジュールなどは、シネマノヴェチェント内の「小原徳子映画祭」のページをご覧ください

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