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「鳥も通わぬ」と謳われた孤島「八丈島」。かつてこの島に流人として島流しにされ、いつか再び江戸に帰る日を夢見て、必死に生きた女たちがいた。その女たちの体を貪りながら、ささやかに生きる喜びを得ようともがいていた男たちがいた。そして、愛する女のために、成功した人間は誰もいないと言われる”抜け舟”に、命を賭けて挑んだ男がいた――。
初監督作品『少女〜an adolescent』('01)で、ヴェネチア国際映画祭などいきなり世界へと飛び出し、鮮烈なデビューを飾った奥田瑛二監督。日本映画界からの大型新人の誕生に、世界中の映画関係者が興奮冷めやらぬ中、早くも監督第2作目となる映画『るにん』を製作。江戸時代末期に、幕府によって1862人が流罪となって島にやって来たという八丈島にまつわる史実をベースにした歴史大作だ。流人たちは島内を自由に生活することが許されていたが、自給自足が基本。しかも台風の通り道として知られる自然環境厳しい八丈島は、飢饉に見舞われることも度々。食欲、性欲など、人間が持つあらゆる欲が離島という狭い世界に無惨にも封じ込まれていく中、人はどのようにしてわずかな光を見出して生きていったのか。実際に、延べ63日間の合宿生活を八丈島で営み、自然と闘いながらこの作品に心身共に捧げたスタッフ・キャストたちの手によって、壮大な人間ドラマが描き出されていく。
主演の花魁・豊菊役には、奥田監督が同業者としての厳しい目線で「今、本物の女優と呼べる人はこの人しかいない!」と惚れ込んだ女優・松坂慶子。島に生きる男たちの“慰め者”として、母のような大きな愛で彼らの寂しさや空しさを受け止めていく。その堂々たる貫禄と変わらぬ妖艶さは見る者の心に強く残り、2005年4月に米国で開催された「第7回 the Method Fest 映画祭」ではグランプリ、また松坂に対しては、最高の演技者に贈られる審査員特別賞が授与されている。その豊菊の“最後の恋の相手”として、運命を共にしていく喜三郎役には、バレエダンサーであり、本作品が映画初出演となる西島千博が大抜擢された。その他、豊菊同様、火付けの罪でわずか15歳にして島流しに処された花鳥役に新人・伊藤麻里也が体当たりの演技を見せ、愛する人を追って豊菊と共に抜け舟に挑む島娘・お千代役に、奥田監督の前作『少女』で主演を務め、各国の主演女優賞を手にした小沢まゆが再び華を添える。また、実在した元武士・近藤富蔵役に作家の島田雅彦が、豊菊を慕う流人のひとりになすびが扮するなど、幅広い交友関係を持つ奥田監督ならではのは、異色キャストの名演も見どころのひとつだ。
スタッフも、長年、映画に魂を注いできた奥田監督の人脈を生かして、日本映画界を代表するメンバーとのコラボレーションが実現。美術監修に、日本映画美術界の巨匠・木村威夫。衣装デザインに世界で活躍するデザイナー、鳥居ユキ。音楽に、オペラ方面での活動が高く評価されている三枝成彰が担当し、佐藤しのぶが挿入歌で美声を響かせている。そして脚本の成島出と撮影の石井浩一は、『少女』に続いての奥田組参加となる。
尚、本作品は2004年の東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、今後も世界各国の映画祭での上映が決定している。
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ひとつ、そしてまたひとつ。竹籠に入れられた罪人が崖から海へと突き飛ばされる。八丈島での死刑執行の儀式、通称“ぶっころがし”。この壮絶な光景をただ呆然と眺めている女がいた。江戸・吉原に火付けをした罪で流人となった花魁・豊菊(松坂慶子)だ。豊菊は島役人・稲葉重三郎(根津甚八)に流人仲間の罪を密告し、飢饉の激しいこの島で生きるために男たちに体を売って生き延びてきた。それもただひたすら“御赦免状”を貰い、再び江戸へ帰るため。しかし、待てど暮らせど御赦免状は届かない。稲葉が豊菊の体をただ弄んでいたことを知ると、豊菊は稲葉の股間を刀で斬り付けた。逆に稲葉の怒りを買った豊菊は、折檻を受けてしまう。
心身共にボロボロになった豊菊を介抱したのは、博打の罪で流人となって送られてきたばかりの喜三郎(西島千博)。日頃、男たちの“慰め者”として姉御肌を効かせていた豊菊が、「こんな汚れた体で、こんな島の土になりたくない」と嘆き悲しむ姿を見て、喜三郎は優しく豊菊を抱擁しながら誓う。「俺が江戸に帰してやる」。
翌日から喜三郎は、海を見渡せる崖に座り、潮の流れを観察する日々が続いた。八丈島の風土・文化を研究している元・武士の流人・近藤富蔵(島田雅彦)によると、7月になれば黒潮の海を上手く舟で抜けられる時があるという。
そんな喜三郎の企みを察して、豊菊同様、吉原の火付けの罪で流人となったばかりの花鳥(伊藤麻里也)がすり寄ってきた。自分が島流しになったために苦労を掛けているであろう両親に遭い、ただひと言、謝りたいという。色仕掛けで喜三郎に迫り、「私も連れていって」とせがむ花鳥だったが、豊菊を愛する喜三郎は毅然と突っぱねてしまう。
男たちの慰め者であり、自分より遙かに年を得た豊菊に、女として負けたと、自暴自棄になった花鳥は、島の男たちをけしかけて“抜け舟”を決行する。だが、瞬く間に役人に見つかって連れ戻され、“ぶっころがし”の刑に処されてしまう。
命を張って必至に江戸へ戻ろうとした花鳥たちの姿を見て、豊菊は遂に抜け舟を決意する。まだ夜が明けぬ中、豊菊、喜三郎たちを乗せた和船は、八丈島を静かに離れていったのだが――。
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