ドイツ生まれの“バウムクーヘン”は、木(Baum)の輪(Kuchen)という意味を持ち、結婚式などのお祝い事に欠かせないラッキー・チャームだ。映画『バウムクーヘン』は、そんな“幸福の象徴”をめぐって4つの世界がグルグルまわる、現代のおとぎばなし。物語の中心は、川野辺家のおかしな3兄弟の“しあわせ”さがし。
そんな3兄弟の小さいけれど偉大な長男・太郎を演じるのは、1960年代から舞台を中心に活躍、豊田利晃監督『青い車』(2001)以降、スクリーンでも存在感を見せているマメ山田。次男には『リアリズムの宿』(2004)など、山下敦弘監督作の常連として知られる個性派・山本浩司。三男・ヒロトを長崎俊一監督『闇打つ心臓』(2006)で若き主人公を演じた本多章一が演じている。
この映画のもう一方の主役といえるのが、兄弟の恋人たちとして登場する女優陣。女優だけでなくファッションブランド「archi」を展開、仕事と育児を両立させ、ライフスタイルも注目の一色紗英。人気モデルから女優へ進出、中野裕之監督『Stereo Future episode2002』(2001)などでヒロインを演じ、CMでも活躍中の桃生亜希子。安藤尋監督『blue』(2003)でスクリーンデビュー、『LOVE MY LIFE』(2006)では鮮烈な初主演を果たした国際的カリスマモデルの今宿麻美。そんな彼女たち三者三様の、恋に仕事に悩む姿は本作の魅力のひとつだ。
そして、諏訪太朗、光石研、木野花、峰岸徹、斉藤洋介といった豪華な実力派ベテラン陣も、とびきりの妙演、怪演で楽しませてくれる。その俳優たちの魅力をスタイリッシュな映像で見せるのは、ミュージックビデオやCFでも活躍する柿本ケンサク。『スリーピングフラワー』(2005)、『colors』(2006)とコンスタントに長編を監督、注目の若手監督である。
そんな柿本が主題歌に選んだのはTOKYO No.1 SOUL SETの名曲「Jr.」。ボーカルBIKKEの語りかけるような歌声が映画館に響きわたるとき、世界はぐるぐると回りだす。
川野辺家の世界
江ノ島で理髪店を営む長男の太郎(マメ山田)、次男でサラリーマンの次郎(山本浩司)、三男でニートのヒロト(本多章一)、川野辺家の3兄弟にはそれぞれ素敵な恋人がいる。世界中を旅して回る風来坊の沙希(一色紗英)、次郎の勤め先の秘書課のさゆり(桃生亜希子)、ヒロトの幼馴染みでバウムクーヘン職人の真奈美(今宿麻美)。彼らは本当の“幸せ”を探して、それぞれ恋の障害を乗り越えていく……。
バーの世界
そのころ、薄暗いバーのカウンターでは、ジジイ(マメ山田)とマスター(山本浩司)が川野辺家の恋の噂話に花を咲かせていた。そこへ泥酔したひかり(桃生亜希子)が入ってくる。ひかりは自分の愚痴を静かに聞いてくれるバーテン(本多章一)に心惹かれていく……。
ユミの世界
そんなバーでの人間模様を描いた小説「バウムクーヘンの恋」を読んでいたのは、古書店で働く少女・ユミ(今宿麻美)。彼女は花屋の青年との出会いをきっかけに、閉ざしていた心の扉を開いていく……。
小説家の世界
そんなユミの物語を書いていたのは、小説家のマサトシ(本多章一)。新作が書けずに苦悩していたが、ともに暮らす姪の小夏との交流をとおして、新しい小説の種が芽生えはじめる……。