尊皇攘夷の機運が勢いを増していた1862年12月、品川の芸姑楼には、酒を呑み談じ合う長州の志士、山尾庸三(松田龍平)、志道聞多(北村有起哉)、伊藤俊輔(三浦アキフミ)らの顔があった。高杉晋作(寺島進)は「幕府がいかに無力無能であるかを示すため」建設中であるイギリス公使館の焼き討ちを宣言する。山尾らの手によって、公使館は炎に包まれた。「こねーなことで幕府を困らせてなんになるんか」。俊輔はそっと山尾に疑問を投げかける。聞多も「むなしーのー」と呟いた。
雪深い信州松代の佐久間象山宅。象山(泉谷しげる)の唱える進歩的開国論について尋ねる聞多と俊輔がいた。象山は「敵を知り、己を知れば百戦、危うからず」という孫子の発した故事を引き、「敵」である西欧に人材を派遣し、技術を修得させることの必要性を説く。心動かされた聞多は、海外へと目を開かされる。
聞多の意思は、藩主の毛利敬親(榎木孝明)に届く。諸藩士の海外渡航は幕府によって禁じられており、見つかれば密航者は死罪である。しかし「異国の学問や技術を修得し“生きたる機械”となって帰って来い」と藩はイギリスへの密航を黙認する。胸の高鳴りを抑え切れない聞多だった。
聞多は、山尾にイギリス行きを打ち明け、同行を頼み込む。死罪も覚悟という聞多の情熱に打たれ、山尾はかつて函館でともに学んだ野村弥吉(山下徹大)とともに密航の覚悟を固める。渡航の準備を進める3人は、長州藩から渡された手元金では到底渡航に足りないことに気付く。聞多から相談を受けた俊輔は、妙案を授ける代わりに自分もイギリスに連れていけと身を乗り出す。さらに、噂を聞きつけた遠藤謹助(前田倫良)も「命がけで異国を見たい」と聞多に食らいついた。
兵学者・村田蔵六(原田大二郎)に腹を切る覚悟まで見せ、聞多は金策に成功した。密航前夜、日本最後の夜とばかりに飲み騒ぐ聞多たちに、静かな山尾が激しい言葉を吐く。「我々は真の攘夷のため、死を賭して異国へ行こうとせちょる。その覚悟とせて、侍、捨てるべきじゃ」。山尾は、自ら侍の象徴である髷(まげ)を切り落とす。その覚悟に胸を突かれ、4人も次々と続くのだった。
のちに日本を動かすことになる5人の男たちが、このとき、日本の将来のために若き命を捧げる覚悟で、見知らぬ異国へとそれぞれ思いを馳せたのだった――。
長州ファイブ
監督:五十嵐匠
出演:松田龍平 山下徹大 北村有起哉 三浦アキフミ 前田倫良 ほか
2月10日(土)よりシネマート六本木 ほかにて公開
2006年/日本/カラー/ヨーロピアンヴィスタ/ドルビー/119分
ペリー率いる黒船の浦賀来航から10年後、外国を打ち払おうとする攘夷の風が吹き荒れる幕末期の1963年、遥かなる異国・イギリスに命がけで密航した5人の若者たちがいた。5人の名は伊藤俊輔(のちの伊藤博文)、志道聞多(のちの井上肇)、野村弥吉(のちの井上勝)、遠藤謹助、山尾庸三。いずれも後年、日本の歴史に偉大な足跡を残す5人である。新しい時代を切り開く気概だけを胸にロンドンの地に降り立ったこの長州藩の志士たちを、のちにイギリス人たちは敬意を込めて「長州ファイブ」と呼んだ――。
見つかれば死罪という密航までをして、イギリスに渡った彼らの情熱の源はなんなのか? 幕末の歴史に秘められた5人の若き日々の真実が、140年余りのときを経て、今、ここに明かされる。
監督は『地雷を踏んだらサヨウナラ』(1999年)、『アダン』(2005年)など、内面のなにものかに突き動かされ疾走していく実在の人物を描き続ける五十嵐匠。
「生きたる機械」となって日本の将来のために尽くす覚悟でイギリスの先進技術を修得し、人のあり方にも深い洞察を向けた主人公・山尾庸三には『御法度』(1999年)以来、7年ぶりにサムライを演じる松田龍平。のちに「日本工学の父」と呼ばれることになる山尾の若き時代を、凛とした、そして陰影に富んだ演技で体現する。
そして、酒と鉄道をこよなく愛し、のちに日本鉄道の父・井上勝となる熱血漢・野村弥吉に『蝉しぐれ』(2005年)の山下徹大。「見る前に跳べ」の行動派で、のちに初代外務大臣・井上肇となる行動派・志道聞多を『日本の黒い夏 冤罪』(2001年)の北村有起哉。現実主義で率直な伊藤俊輔(のちの内閣総理大臣・伊藤博文)に『ウォーターボーイズ』の三浦アキフミ。後年、大坂造幣局長となる繊細でロマンチストの遠藤謹助に、本作が映画デビューとなる新星・前田倫良。さらに、原田大二郎、榎木孝明、寺島進、泉谷しげるといった個性豊かな実力派演技陣が脇を固める。
山口県萩市を皮切りに、下関、ロンドン、リーマニアと、4ヶ月におよぶ撮影を敢行し、幕末の日本や19世紀のロンドンの街の空気までもリアルに再現している。
幕末の混乱期に信じるもののため命がけで挑戦し続けた5人の青春群像は、価値観が多様化した「混乱の時代」でありながら閉塞感が漂う今という時代に風を起こすに違いない。/p>
- 山尾庸三:松田龍平
- 野村弥吉(のちの井上勝):山下徹大
- 志道聞多(のちの井上肇):北村有起哉
- 伊藤俊輔(のちの伊藤博文):三浦アキフミ
- 遠藤謹助:前田倫良
- 村田蔵六(大村益次郎):原田大二郎
- 毛利敬親:榎木孝明(特別出演)
- 高杉晋作:寺島進
- 佐久間象山:泉谷しげる
- 監督・脚本:五十嵐匠
- 製作総指揮:前田登
- 製作顧問:岡本要
- エグゼクティブプロデューサー:水野清
- ラインプロデューサー:藤原慎二
- 撮影:寺沼範雄(J.S.C)
- 照明:山川英明
- 録音:堀内戦治
- 美術:池谷仙克
- 編集:川島章正
- スクリプター:宮下こずゑ
- 監督補:桑原昌英
- 音楽:安川午朗
- CGプロデューサー:河上憲雄
- 製作:映画「長州ファイブ」製作委員会/グローカル・ピクチャーズ
- 配給:リベロ