昭和のはじめ、新潟県の貧しい村に生まれたふみ子は、貧しさからの栄養不足で光を奪われてしまう。夫亡きあと、女手ひとつでふみ子を育てる母のチヨ(藤谷美紀)は絶望し、一度はふみ子を抱いて海へと向かうが、キラキラと光る波を感じ「海ってきれいだね」と呟いたふみ子の笑顔に自殺を思いとどまるのだった。
昭和10年、8歳になったふみ子(鈴木理子)のもとに、滝壺薬師の住職・慈光(高野長英)のはからいで盲学校の若い教師・高野りん(高松あい)がやってくる。りんは目が見えなくても読める点字の存在を教え、ふみ子に盲学校への進学を勧める。しかし、貧しい家にふみ子を進学させる余裕はない。本家の大旦那・善吉(中村敦夫)に慈光が直談判するものの、善吉は進学より働くべきだと言う。それでもなんとかふみ子を学校に進ませようと奮起するチヨだったが、その矢先に病に倒れてしまう。ふみ子は母のために盲学校への進学をあきらめ、善吉の紹介で高田のあんま屋・笹山タカ(高橋恵子)の元へ弟子入りすることになる。
盲目で生きることの厳しさを知るタカは、弟子たちにも容赦なく、一番年下のふみ子にも厳しい修行を課す。必死に修行に励む日々の中、同じ弟子仲間のサダ(尾崎千瑛)は、なにかとふみ子の世話を焼いてくれる。そして芸者の〆香(遠野凪子)や、お麩屋のおじさん(山田吾一)……。ふみ子はたくさんの温かい人々に出会い、支えられ、一人前のあんまへと成長していく。
そんなある日、ふみ子は偶然に高野りんと再会する。まだ学ぶことをあきらめていなかったふみ子は、りんの父(あおい輝彦)のところにあんまとして通いながら、タカには内緒でりんに点字を習い始める。やがてふみ子は、ヘレン・ケラーの自伝を読めるようにまでなるが、そんなふみ子に思いがけない試練が待っていた……。
ふみ子の海
監督:近藤明男
出演:鈴木理子 藤谷美紀 遠野凪子 高橋恵子 ほか
2007年10月13日(土)よりシネスイッチ銀座ほかにて全国順次ロードショー
2006年/カラー/ビスタサイズ/ステレオ/105分
昭和のはじめ、貧しさゆえに光を失った少女・ふみ子。しかし、瞳から光を失っても、彼女の心の光は消えなかった。厳しいあんまの修行に励みながらも、学問への夢を失わないふみ子は、やがて点字を修得する。しかし、そんな彼女をさらなる試練が待っていた――。
『ふみ子の海』は、新潟県の高田盲学校で教鞭をとり、生涯を視覚障害者教育に捧げた粟津キヨさんの少女時代をもとに描いた感動の物語である。原作は、1991年児童福祉文化賞を受賞した児童文学作家・市川信夫氏による同名小説。自らも高田盲学校で長く教師をつとめた市川氏が、先輩の粟津さんの明るさと力強さに感銘したことからこの作品は生まれた。
ヒロイン・ふみ子役には、8歳のときからテレビ、CMなどで活躍する鈴木理子がオーディションで選ばれた。映画初主演となる本作では、撮影当時10歳とは思えない堂々たる演技を披露している。彼女を支えて、日本映画界の実力派たちが集結した。あんまの師匠・タカ役には、いまやベテランの高橋恵子が厳しさの中に哀しさを秘めた熱演を見せる。ふみ子の母役には映画、テレビ、舞台で活躍する藤谷美紀。ふみ子を応援する芸者・〆香には『海は見ていた』などの遠野凪子。ふみ子に慈愛に眼差しを注ぐ住職に名優・高橋長英。本家の大旦那・善吉役で重厚な存在感が光る中村敦夫が友情出演。そして、ふみ子に学ぶ喜びを教える盲学校の教師を高松あいがフレッシュに好演している。さらに、遠藤憲一、山田吾一、平田満、水野久美、友情出演のあおい輝彦、宮路オサムらベテラン勢が作品に深みを与えている。
シナリオは『旅の贈りもの0:00発』の篠原高志、監督は1985年の『想い出を売る店』以来、久々にメガホンをとる近藤明男。情感あふれる音楽は『深紅』やテレビドラマ「14才の母」などの沢田完が手掛けている。
豪雪地帯の上越が舞台の本作は、全編にわたり上越市を中心とした新潟各地で撮影がおこなわれた。江戸時代から続く重厚感あふれる町屋や、当地独特の雁木通りなどが、映画の舞台となる昭和初期のノスタルジックをそのまま伝えている。また、上越市が全面協力により多くの市民がエキストラとして出演。そんな地元の協力が映画全体を温かく包んでいる。
ハンディを持ちながらも、いつも凛々しく前向きに生きるふみ子。そんなふみ子の生き方は、現代を生きる私たちに「ほんとうに大切なもの」を教え、限りない勇気と希望を与えてくれる。
- 淡路ふみ子:鈴木理子(子役)
- 淡路チヨ:藤谷美紀
- 〆香:遠野凪子
- 上田:遠藤憲一
- 麩屋:山田吾一
- 高野りん:高松あい
- サダ:尾崎千瑛(子役)
- 高野:あおい輝彦(友情出演)
- 善吉:中村敦夫(友情出演)
- 酩酊男:宮路オサム(友情出演)
- 古川:平田満
- シゲ:水野久美
- 慈光:高野長英
- 笹山タカ:高橋恵子
- 監督:近藤明男
- 原作:市川信夫「ふみ子の海」(理論社刊)
- 脚本:篠原高志
- 音楽:沢田完
- エグゼクティブプロデューサー:本間信行
- 撮影:会田正裕
- 照明:大久保武志
- 録音:遠藤和夫
- 美術:竹内公一/増本知尋
- 装飾:神田明良
- 衣裳:萬木利昭
- 後援:新潟県/上越市/柏崎市
- 支援:文化庁
- 製作:C.A.L
- 配給:パンドラ/シネマ・ディスト
- 宣伝:プランニングOM/ライスタウンカンパニー