ある雨の日。康雄(大杉漣)の営む小さなおもちゃ屋に、ひとりの保険外交員が現われる。それは、8年前に康雄と別れた妻――正確には、夫と幼い息子の毅を置いて、蒸発同然に家を出ていった前妻の擁子(内田量子)だった。最近、康雄の店の地域を担当することになったという擁子は、偶然に顔を合わす前にあいさつをしに来たと告げる。そして棚の隅にあった売れ残りのおもちゃを買って出ていった。
以来、擁子はたびたび康雄の店を訪れる。そしていつも同じように、売れ残りのおもちゃを買っていくのだった。擁子と別れたと、康雄は秀子(渡辺真起子)と再婚し、成長した毅(今井悠貴)は継母の秀子に実の母親以上になついている。つつましくも幸せに満ちた平穏な生活を過ごしている康雄は、元妻の不可思議な行動に心を騒がす。
一方の擁子は、新しい恋人・進藤(榊英雄)との生活に割り切れないものを感じていた。深い愛情で包み込んでくれる進藤の求婚を素直に受け入れられない自分がいる。擁子の中には残してきた毅の面影が今でも強く刻まれている。そしてわが子への思慕が、もう元には戻れないとわかっていながら彼女を康雄の店へと向かわせているのだった。そんなただならぬ事情を薄々さっしつつ、擁子をひとりの客として迎える秀子。そして進藤もまた、過去に引きづられている擁子の行動に気づき、康雄の存在を知る。
そんな中、康雄は壊れたラジコン飛行機を夜を徹して修理する。毅とともに河原に行き、直した飛行機を大空へと舞い上がらせる康雄。その心の中には、ある決意が秘められていた――。
棚の隅
監督:門井肇
出演:大杉漣 内田量子 渡辺真起子 今井悠貴 榊英雄 ほか
3月17日(土)よりシネマアートン下北沢にてロードショー
2006年/日本/81分
もう若くはない、ひとりの男がいた。小さなおもちゃ屋を妻と切り盛りし、前妻との子供と3人で過ごす。ささやかながらも幸せな毎日。そんな彼の前に、自分と子供を置いて去った前妻が突然現われる。言葉も視線も交わさず、ただ売れ残ったおもちゃを買っていく彼女。しかし、その日を境に、男の平穏な日常は緩やかに揺らぎ始めるのだった――。
男と女の愛憎や機微を静謐なタッチで描き続け、「もどり川」「恋文」など映画化された作品も多い直木賞作家・連城三紀彦。その短編小説を原作に、家族や夫婦の哀歓を丹念に見つめる「大人の映画」が誕生した。愛していながら別れた妻と、継子を実の息子のように優しく包み込む現在の妻。そんなふたりの女性の間で揺れ動く男の苦悩と葛藤。人生の転機を迎え、いくつかの決断を経て新しい道を歩み始める男の姿が情感豊かに映し出され、見る者を真の感動へと誘っていく。
主人公・康雄を演じるのは、大杉漣。北野武や黒沢清といった名だたる監督の作品をはじめ、出演作は300本以上。今や日本映画界に欠かせない名優となった彼が、仕事を愛し、家族を愛す、平凡で誠実な男をリアルに体現。まさに代表作と呼ぶにふさわしい名演を見せている。康雄の別れた妻・擁子には、テレビと舞台を中心に活動を続け、本作が映画女優としてのデビュー作となる内田量子。複雑な女性の心理を鮮やかに演じきる。ほかにも『M/OTHER』『ゼブラーマン』の渡辺真起子、『ALIVE アライブ』の榊英雄、『LOVE MY LIFE』の今宿麻美、『Shall we ダンス?』の徳井優といった実力派が顔を揃えた。
監督は『ささやかなこころみ』で水戸短編映画際グランプリを受賞、本作で初の劇場映画のメガホンをとる門井肇。撮影に『ヴァイブレーター』『NANA』の鈴木一博、照明に『小さき勇者たち〜ガメラ』『やわらかい生活』の上妻敏厚、編集に『バッシング』の金子尚樹など、日本映画を代表する一流のスタッフが集結。そして橘いずみとして「永遠のパズル」などのヒット曲を送り出し、本作の出演者でもある榊英雄との結婚を気にアーティスト名を改めた榊いずみが主題歌「つまらない世界」を書き下ろし、新たな出発、家族の絆という映画のテーマを見事に表現している。
- 康雄:大杉漣
- 擁子:内田量子(新人)
- 毅:今井悠貴(子役)
- 問屋:徳井優
- なるみ:今宿麻美
- 信ちゃん:江道信
- 進藤:榊英雄
- 秀子:渡辺真起子
- 原作:連城三紀彦
- 企画統括:小池和洋
- 脚本:浅野有生子
- 協力プロデューサー:赤間俊秀
- 撮影:鈴木一博
- 照明:上妻敏厚
- 美術:井上心平
- 録音:高田伸也
- 音楽:延近輝之
- 助監督:原桂之介
- 編集:金子尚樹
- 監督:門井肇
- 主題歌:「つまらない世界」榊いずみ(橘いずみ改め)
- 製作:リトルバード/株式会社エイディーエム/有限会社アトゥー/tvk/テレ玉/チバテレビ/三重テレビ/KBS京都/サンテレビ
- 配給:リトルバード