モデルの山根美智子(宮光真理子)は、長身で美形ながら自分にまったく自信が持てず、うまく笑えない。それに、ここ最近は首の痛みがひどい。病院に行っても原因不明。そんなある日、首の痛みのためか、仕事のストレスのためか、撮影中にたくさんのストロボを浴びながら倒れてしまう。まるで世界に責め立てられるような錯覚を起こしながら意識を失った美智子は病院に運ばれていた。実は彼女には秘密があった。美智子は、夜になると首が“ろくろ首”のように伸びる体質になっていたのだった。
美智子と同じ病室に入院中の中学生・佐伯まな(市川春樹)は、美智子の首が伸びるのを目撃してしまうが、部屋を離れようとはせず、美智子はまなとトモダチとなる。しかし、一見、素直そうに見えるまなは、幼さゆえの残酷さを秘め、歪んだ性格の持ち主だった。孤独を抱えるまなだったが、父親に対してだけはかわいい娘であり続けようとする一面もあった。そんな彼女の顔の部品が“のっぺら坊”のように徐々に消え始めていた。
フリーターの岩崎みひろ(伴杏里)はネイルアートに夢中だった。フツーの女の子より少しかわいく、少し明るく。目立ち過ぎないが、気には留められたい。うまく生きているつもりだった。そんなみひろがただひとつ執着している爪が、日を追うごとに加速して伸び始めた。切っても切っても伸び続ける爪は、遂に凶器のように触れるものを傷つけてしまう。周りに相談してもにまともに取り合ってもらえないみひろは、まるで“かまいたち”のように人々や物を傷つけてしまう。警察にも追われ、行き場を失ったみひろは走り出す。
美智子は病院を脱走し、車を盗みアクセルを踏んだ。一方、まなは失った顔で泣きながら雨の街をさまよっていた。今、女たちは走り出した。行き先もなければ逃げ場もないこの世界で。そんな3人が遂に交わるとき、なにかが起こる!? 運命のクロスロードはどこだ?
妖怪奇談
監督:亀井亨
出演:伴杏里 宮光真理子 市川春樹 ほか
2007年1月13日(土)よりUPLINK Xにてイブニング・ロードショー
2006年/日本/カラー/ステレオ/ビスタサイズ/86分
“女”は醜悪なほどに美しい。
妬み、蔑み、驕り、悲観し、騙し、欺き、不用意に人を傷つけ、用意周到に相手を打ちのめす。
だからこそ、ズボラなこの世界を切り裂くのは“女”である。進化するのは間違いなく“女”だ。
本作『妖怪奇談』に登場する“妖怪”とは、神の使いや怨念の具現ではなく、女性の心に輝く闇が彼女たち自身を変化させていく、いや、進化させていった新しい人間の姿なのだ。
その妖怪、すなわち女たちを演じるのは、『リリイ・シュシュのすべて』『約三十の嘘』の伴杏里。レミオロメン「粉雪」のビデオクリップ出演が記憶に新しい宮光真理子。平成生まれの新星・市川春樹。三者三様の彼女たちではあるが、3人とも共通して“平均的だけどどこか少しかけている”という難しい役どころを見事に演じ、“すぐ隣にいる妖怪”という日常の違和感を巧みに醸し出している。
その彼女たちが妖怪に変化していく恐怖や人間の傲慢さをコミカルに、ときに切なく、そして誠実さをもって切り取ったのは『心中エレジー』『楽園〜流されて〜』で海外での評価も高い亀井亨監督。さらに、『日本沈没』の怪優・手塚とおる、「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!」の“キスおばちゃん”こと浅見千代子、綾野剛、いか八朗、桃生亜希子という脇を固める個性派キャスト陣の独特の存在感が、“ヒト”と“妖怪”のボーダーラインをどこまでも曖昧にしていく。
“ヒト”と“妖怪”の違いはなにか? “ヒト”はなにを恐れている? “妖怪”はどこへ向かっている? 答えは、本作の中にある。
“妖怪奇談”はまぎれもなく“女”の物語である。
恐れてはいけない。学ぶべきである。醜悪であり、美しい女たちの進化論。
“妖怪”の新しい定義がここにある。
- 伴杏里
- 宮光真理子
- 市川春樹
- 桃生亜希子
- いか八朗
- 桜井聖
- 浅見千代子
- 谷川みゆき
- 綾野剛
- 手塚とおる
- 原案・製作:松井建始
- ストーリー・製作:永森裕二
- プロデューサー:黒須功
- 撮影:中尾正人
- 照明:田宮健彦
- 録音:塩原政勝
- 美術:佐藤正晃
- 衣裳:荒木真由美
- ヘアメイク:河野顕子
- 特殊メイク・造形:有限会社自由廊/JIRO
- VFX:八木達生/山下直樹/高橋建(BIO-TIDE)
- キャスティング:オガワシンジ
- 助監督:松尾崇
- 制作担当:小屋敷清志
- 主題歌:「山茶花」桑田沙織
- 脚本・監督・編集:亀井亨
- 制作協力:黒須映像工業/アミューズメントメディア総合学院
- 製作:AMGエンタテインメント株式会社/株式会社バイオタイド
- 配給:バイオタイド