
劇団“毛皮族”を主宰し、小説やコラムの執筆でもその才能を発揮するカリスマ女優にしてクリエイターの江本純子。NODA・MAPや大人計画、宝塚歌劇団など多くの劇団の映像プランナーや舞台演出を手掛け、『赤線』『カインの末裔』などインディペンデント映画を精力的に発表する映像作家・奥秀太郎。ジャンルを越えて“毒”を撒き散らすジャパニーズ・カルチャーの異端児ふたりがタッグを組み、映画『ドモ又の死』が誕生した。ふたりが挑むのは「アーティストはなぜジャンキーになるのか」というテーマだ。
映画の題材に選ばれたのは、白樺派を代表する作家・有島武郎の同名戯曲。更正施設に収容されたジャンキーの女性たちの等身大の日常の中に、劇中劇として戯曲が投入されるという“入れ子構造”は、スクリーンの中で“リアル”と“ごっこ”のせめぎあいを生み出し、生きる現実感を持てない女子たちのヒリヒリした皮膚感覚を浮かび上がらす。
映画初主演となる江本純子はじめ、10人の女性がこの映画に集結した。『ラブ&ポップ』でデビュー後、多くの作品で幅広い役を演じる三輪明日美、作家としての活躍も活発な『式日』の藤谷文子、『天然コケッコー』の柳英里紗、『アヒルと鴨のコインロッカー』の野村恵里、毛皮族の高野ゆらこ、本作の音楽も担当するミュージシャンのつるうちはな。エネルギッシュな演技を見せる若手女優陣の脇を固めるのは。『かもめ食堂』の片桐はいり、『笑う蛙』『休暇』の大塚寧々。さらに「ポーの一族」などで知られる少女漫画のパイオニア・萩尾望都も加わった豪華なキャスティングは、圧巻の一言だ。

ドラッグ中毒者のための更生施設、ハマー・ナナの家。そこに暮らすのは、反骨的で無愛想な戸部=ドモ又(江本純子)、優等生だけれど泣き虫のとも子(三輪明日美)、男言葉で話すリーダー的存在の花田(藤谷文子)、常に心虚ろな澤本(野村恵里)、お調子者の瀬古(高野ゆらこ)、花田にくっついて歩く青島(つるうちはな)の6人。彼女たちは、お互いを必要としながらも、ときに傷つけ合いながら共同生活をおくり、油絵やドライフラワー作りといったプログラムをこなしている。しかし、入院中の院長先生(萩尾望都)に代わって施設を支配するスパルタ主義の教官(片桐はいり)によって、更生カリキュラムは迷走してゆく。スポンサーである九頭龍(大塚寧々)はそんな施設の行方に疑問を抱き、援助を打ち切ろうとするが、ドモ又に憧れる娘のユカ(柳英里紗)の反発に、戸惑いを隠せずにいる。
ある日、彼女たちに与えられた新たなプログラム、それは芸術家の青年たちの苦悩を描いた戯曲「ドモ又の死」を演じるということ。若くして死ぬことこそ、自らの芸術を世間に認めさせる最良の手段である。そう信じて、仲間のうちの誰かひとりに死を装わせようとする5人の貧乏画家と、モデルに雇われたひとりの女の物語。クリスマスの発表会に向けて稽古の日々を送るうち、やがて演じることに没頭していくドモ又たち。
だが、発表会の直前に、ひとつの悲劇が訪れる……。